scene1 今にも落ちてきそうな星の下で 「あの、大丈夫ですか?」 巨躯の青年がアンキロモンの突進を目の前で受け止め、心配そうに声をかけてくれている その光景を前に、思わず俺は口に出してしまった 「ええ…人間ってデジモンの攻撃止められるんだぁ…」 仲間とはぐれ渓谷に迷い込んだ俺、映塚黒白はそこを縄張りとしていたらしいアンキロモンに見つかり追いかけられていた 何回はぐれているんだ俺は…別に方向音痴でもないのになにか呪われているんだろうか それはともかく、相棒のソーラーモンと共に必死で逃げ回っていたが、ついに追いつかれあわや…と言うところで救われた形だ 「いや、今そこ気にしてる場合じゃなかった!ソーラーモン足下!」 「オッケー、シャイニーリング」 巨躯の青年のパートナーデジモンであろうドラコモン…ドラコモンって赤かったっけ?がアンキロモンに突っ込んでいくのが横目で見えた なら俺達はそれが直撃するように相手の動きを止めればいい。ソーラーモンは俺の狙い通りに必殺技をアンキロモンの重心が崩れるよう足に当てる 倒れた。その直後ドラコモンがアンキロモンの頭部に尻尾を叩き付ける 「テイルスマッシュ!」 戦い終わって日が暮れて、とりあえず4人…二人と二体で渓谷から脱出した そのまま走っていると見覚えのある森が見えた。この焦げ跡は間違いない。ここまで来れば仲間との合流は難しくないだろう 俺は息を切らしながら、そういえば自己紹介どころかお礼もろくに言えてないことを思い出した 「あの、はぁひぃ。どうも、助かりました。ありがとうございます」 「いえ、無事で良かったです」 ちょっとつっけんどんな感じだ。……ん? 「あの、もしかして…年齢近かったり?」 「えっ、どうして?」 自慢じゃないが俺は見た目普通なので年齢を大きく間違われる事はあまりない。本当に自慢にならないな そんな俺に敬語を使う大人…は居ないとは限らないが大人ならその言葉には必ず保護者じみた声色になるはずだからだ であるならば、見た目詐欺の横行するこのデジタルワールドでは見た目基準よりその言葉や所作から判断した方が良い 人間じゃない可能性も検討してたけど人間だった時それ確認したら絶対傷つくから言わないでおこう 「そりゃあ…(行動とか声色とか所作とか)見ればわかるよ」 略したけど嘘は言っていない。ちゃんと言うと不気味がられるかもしれないし… 「そ、そっか。そっか…」 表情はそこまで大きく動いていないが肩は少し震えていた。さて、どういう感情なんだろう このまま移動すると夜になってしまい危険だ、と言うことになり野営することにした 一晩限りとはいえ気まずい一夜を過ごしたくはない、星も綺麗な夜だし 「しかし、やっぱりドラゴンタイプはかっこいいねぇ。うちの仲間には居ないタイプでさあ」 「クロシロー、ワタシのボディじゃ不満なんだな」 「お前、ワタシとか言ったことないだろ誰から覚えた…」 「オレに気安くさわんなー!」 ドラコモンに怒られてしまった 「コラ、ドラコモン」 目の前の巨躯の青年…同年代に青年もおかしいな。東日蓮也くんが軽くドラコモンを窘める 「いや、俺が気安くやり過ぎたな。ごめんよ」 蓮也くんは、多分よく年齢を間違えられるのだろう。自分が実年齢より上に見られたらどう思うだろうか、しかも近い年齢の相手に 俺なら、距離を取られているように、あるいは壁があるように感じてしまいそうな気がした だから、普段よりより気安く接することにした。意味があるかはわからないけど 「いや、大丈夫。映塚さんのソーラーモンもかっこいいよ」 「いいって黒白で。ほぼタメなんだからさ、気を遣わなくっていいよ」 「じゃあ…黒白さんで」 本人の気質なのかなぁ。あまり気安さを強要しすぎるのもね 蓮也くんの淹れてくれたココアを飲みつつ、気になったことを質問してみた 「いつもあんな事してんの?」 「あんな事と言うと?」 「デジモンの攻撃を受け止めたりとか、さ」 「うん、黒白さんが危なかったしどうにかできたの俺だけだから」 「その節はほんとうにどうも…蓮也くんはこう、恐がりなんだな」 「えっ」 怒るでもなく困惑…か。なるほど 「いや侮蔑するつもりじゃなくて…人が傷つくのが自分が傷つくより怖いんじゃないかなって」 「それは…」 「見ず知らずの俺を相手にすぐ身体張れるの、立派だし実際助かってる俺が言うなって話だけどね」 「いや、そんなことないよ。でも、どうして…」 わかった?的外れなことを?どっちと取るべきだろう 「蓮也くんどっちかと言うと、こう内向的なタイプじゃん?でも守るときにそれだけ積極的なのは何かしら強い感情があるかなって」 「ああ、苦手なんだ…自分を出したりするの。臆病で優柔不断だし」 少し自嘲したように笑う。そういう顔をさせたいわけじゃなかったんだよなあ 「うーん」 ココアを啜りつつ、思ったことを口にすることにした 「いやぁ、逆でしょ」 「逆?」 「人が傷つく事が怖いと思うことは優しさだし、迷うことなく俺のために身体張ってくれたじゃん?」 「黒白さん俺は」 「蓮也くんはさ、多分そう思うようになった体験がたくさんあったんだと思うよ。俺なんかの想像する範囲以上かもないしれくらい」 俺も年齢誤認しかけたしなんなら人間かもちょっと疑っちゃったからな… 「それでも他人のために動けるなら、自分の中で譲れない物は無自覚かもしれないけどもう有るんだよ」 蓮也くんは少し沈黙した後口を開いた 「俺はそう思っていいのかな」 「知らん」 「おい」 突っ込みを引き出せた。俺の勝ちだな。勝負してないけど 「俺はそう思うけど、あってる保証は無理だしね。ただ」 「ただ?」 「そう思う人間が一人くらい居たっていいじゃん?」 笑いながら言う 「それは…ありがたいかもね」 蓮也くんも笑った…気がした そうして翌朝 「それじゃ、また会えるといいな」 「きっとまた会えるでしょ」 「クロシロー、行くぞ」 「レンヤも早く帰ろうぜ」 こうして何事もなく別れた…日から数日、いや数ヶ月後?ダメだどうにも時間感覚が狂う ともあれ、久しぶりに蓮也くんと再会した 「蓮也くん、久しぶり。元気だったか」 「黒白さんこそ、お互い元気そうで良かった。ところでちょっと話したいことがあるんだけど」 「んん?」 「人間とデジモンの恋愛についてどう思う?」 「ええ…いきなりエグザモンくらいでかい一石投じられた気がするんだけど…」 折角は話してくれたんだし、引いて終わりにする気は無い 「ココアでも飲みながら、話しよっか」 scene2 厨二と中二のハンティング 「そこの少女、私が来たからにはもう安心だよ」 そのお姉さんは月光をバックにして現れた、ボクを襲おうとした何者かを撃退して 明らかに映える位置調整をしながら だからボク、末堂有無はこう答えた 「お姉さんは一体…」 「私はカノン、バウンティーハンターよ。こっちは相棒のディノビーモン」 隣に控えている異形のデジモン、ディノビーモンはやれやれと言った感じでため息をついてる ははーん、このお姉さんかっこ付けてるんだな?ボクはこういうノリは好き 何故かみんな大人になると恥ずかしがっちゃうけど このお姉さんもそうなっちゃうのかな?楽しんだ事に嘘はないと思うんだけどなぁ おっと、とにかく乗らなきゃ、このビッグウェーブに。ボクは懐に入れていたサングラスをかけた。夜じゃ暗くてなんも見えないや 「ボクはデジモンアドバイザー、こっちは相棒のツカイモンのツー君」 「ウチは強いよ!」 そっとサングラスを外し、こう持ちかけた 「今夜は一緒に狩りしない?ボクたちは役にたつよ」 今回のハンティング対象、すなわちボクを襲った奴はワルシードラモンを操るテイマーで強盗を繰り返しているらしい 完全体でやることそれ?と思わなくもないけど逆にどんな闇を抱えたらそうなるのか、ちょっと楽しみ 「カノン、それでどんなプランで追い込むつもりなの?」 「DAちゃん、私にはいくつかのプランがある」 デジモンアドバイザー、長いもんね 「今回はプランD05で行こうと思う」 「D05、具体的にはどんなん?」 ディノビーモンが沈痛な顔?をしてる。どゆこと? 「街の声を集めるの。そうすればルートは自ずと見えてくるわ」 うん、なるほど。ディノビーモンの言いたいことはわかった。まあ問題ないけど 「オッケー、SNSで被害状況と犯行半径とルート割出しね。二人でどう分担する?」 カノンが我が意を得たり、とにやりと笑う。 少しお話ししたけど、カノンの心に闇は感じない。まだそのタイミングではない… と判断したボクはこの夜をカノンと楽しむことに決めた 「私は南側を、DAちゃんは北側を頼めるかな?」 「オッケー、まっかせて」 「ウムーボクの出番はー?」 「ツーくん、もうちょっと待ってね」 本名言っちゃった。まぁいっか その後は、割とすんなりと上手くいった。相手が無分別なおかげで情報はすぐ集る ボクも頭いい方だと思ってるけどカノンは分析が段違いに早い。天才ってやつなのかな? 「挟み撃ちで行くよ、メインは私に任せて」 ディノビーモンも同調するように頷く。なんだかんだいいコンビっぽい 「ウムー、まだー」 「そろそろだよ。準備しといてね」 「うん、任せて!」 胸を張ろうとわたわたする。可愛いなあ 「ふ、ふざっけんじゃねえぞ!」「なんで逃げるんだよぉリクぅ!」 ベタなスキーマスクで顔を隠したテイマーとワルシードラモンがこちらに逃げてくる ディノビーモンとカノンの連携は凄かった。カノンのあれは…改造モデルガン?51NAVYっぽい 「ツーくん、いっくよ!」 「いくぞー!バッドメッセージ!」 ワルシードラモンに直撃する。でも微妙に効きが悪い…あ、興奮してるから! と気がついたときには目の前にワルシードラモンの頭が来ていた この後来る衝撃を考えてぎゅっと目をつぶると、衝撃が来た…けど、軽い? 慌てて目をあけるとカノンが傷を負っていた。割り込んで守ってくれたみたい 「ボクは大丈夫だけど…傷が!」 やっちゃった。ボクのために傷を負わせるなんて…反省しなきゃ 「こんなの傷のうちに入らないって!想定の範囲内ってやつだよ」 決めポーズで返される。嘘だ、絶対痛いはずだ。ちょっと顔も引きつってるし 本気なんだ、かっこつけることに。すっごい、いいなぁ 「ごめんなさい!すぐ動き止めるからまってね、ツーくん!」 ツーくんに与えるべき言葉を囁く。汚名挽回しなきゃ、返上でもいいけど 「まかせてぇ!バッドメッセージ・プラス!」 テイマーとワルシードラモンに1発ずつ当てる。今度は二人とももだえ始めた きっと頭の中で「上手くいくはずで上手くいくことあった?」「こんな事に力振るってる自分がださくない?」と駆け回ってるんだろうね 本当はもっとクリティカルな言葉を探りたかったけど迷惑かけちゃったしハント優先! 「今だよカノン!」 「ありがとDAちゃん。ディノビーモン、アタックα」 クールに決めようとしている。ぶれないなぁ 「……!」 ディノビーモンはちょっと言いたげな顔を一瞬したけど即戦士の顔でワルシードラモンを叩きつぶした すっごいつよい… カノンが賞金首を換金している。 ハンター協会の事はよく知らないし、お金が欲しいわけじゃないからお任せしちゃう 「分け前はフィフティフィフティでいい?」 「えっボクそんなに働いてないしそんなに要らないけど」 「いいから、もらっておいて」 多分、遠慮しても堂々巡りになっちゃうよねー 「じゃあ遠慮無くもらっちゃうね。助けてもらった借りは別の形で返すよ」 うん、そうしよっと 「別にいいんだけどな。じゃあその時はよろしくね」 「うん、よろしく!」 こうしてお互いに笑顔で握手して、狩りの夜は終わった 「って事があってね?」 俺の太ももに足を乗せながら妹が思い出話を語ってくる 「へー、確かにかっこいいね。どんな物でも最後まで貫き通せるならそりゃ立派だ」 「でしょ?またどっかで会いたいなあ」 「まぁリアルに戻ってからだろうね」 「そーだねー、デジタルワールドには流石に来てないかなあ?」 scene3 診断は口頭のみでするものではない 「ざぁこ💜ざぁこ💜こんな子供に治療されて恥ずかしくないんですかぁ~💜」 丁寧な作業で怪我をした部分に包帯を巻いていく少女に俺、映塚黒白は困惑する 「えぇ…いきなり煽られてる…でも正論だから言い返せない…」 事の始まりが本当に恥ずかしいだけに俺も納得するしかなかった もう何度目だこれ…と思う程度には道に迷い崖から転落した俺は、旅の医者ドクターC(ケンタルモン)先生に助けられ その助手…?教え子?の神崎璃奈ちゃんの治療を受けている。本当にあほな事情で普通に恥ずかしい 「あれぇ💜そんなに簡単に認めちゃっていいんですかぁ💜情けなぁい💜」 煽ることを楽しんでいるのか、子供がかまって欲しくて気を引く行動なのか 少なくとも見た目だけで判断するべきではないのだけは理解してる さて、それよりも今はもっと大事なことを言わなければならない 「あのぉ…お金ないんで肉体労働でいいかな?」 「金はある時払いでかまわんのだが?」とドクターCは言ってくれたがそもそも迷って出会った身だ。 次はいつ会えるかもわからないその間ずっと借金しっぱなし、と言うのはさすがに据わりが悪い その提案はありがたく辞退させていただいて、しばらくソーラーモンとともに手伝いをすることのした まあ医療知識なんてないのでもっぱら肉体労働オンリーだけれど 「ふーん…パートナーと上手くいってないのかぁ」 肉体労働と言っても偶にはこうやってドクターCと璃奈ちゃんの二人が助けたデジモンやパートナーと話をしたりもする 「確かに、向こうの彼はちょっと君に手荒いところはあるけど、それは君に怪我させて気まずいだけだよ」 なんでそんな事がわかるのか?と問われたので正直に見たままを返した 「確かに言葉だけ聞くと君を嫌ってるように聞こえるかもしれないけど、心配そうな目線とか、 何かを我慢してるような手の動きとかそういうの見たら推測はまあできなくもないよ」 それでも納得がしきれていないような顔をする。そりゃそうだ、推測で絶対じゃないもんな 「まぁ、そういう見方もできるって事かな?それでどうするかは怪我が治るまでゆっくり考えたらいいよ」 その言葉の後彼は何か考えるような目になった。…俺ができるのはこんなもんかなぁ? 「黒白さぁん💜なぁにやってたんですかぁ💜素人カウンセリングかなぁ💜」 「ええ…ちょっと話しただけだってぇ…それにそんな事したら璃奈ちゃんと先生に失礼じゃない」 「はぁ💜失礼ってなにがですかぁ💜」 「真面目に医学を学んでる人の前で素人の生兵法するの失礼でしょ。君の包帯の巻き方見なよ、俺には無理無理」 「クロシロー、どうせやってもぐちゃぐちゃになるぞ」 「はいはいそうですねっと。これだけじゃなくて先生の手伝いも真面目に勉強してなきゃあんなテキパキできないでしょ」 「そりゃ雑魚の黒白さん💜に比べたらそうですけど💜」 「なんで煽り口調?とは思ってるけど、患者が心配だったんでしょ?それはわかるから安心してくれ」 「ヴェ゙ッ!もういい、もういいです」 というと璃奈ちゃんは足早に去ってしまった。まぁ心配してただろう事は解消されただろう…多分 その夜、ドクターCに呼び出された。俺何かしたかな… 悪いことなんてしていないはずなのに医者や学校の先生に呼び出されると緊張するのはなぜだろう 「あ、はい先生。なんでしょう?」 俺の顔を見るなり先生はため息をつきながら話し始める 「まずは手伝いありがとう。治療費分はもう働いてくれたよ。それよりもだね君の体のことだが」 問い詰めるような口調だが目は優しい。何を言われるか大体想像はついてしまった 「不眠症を患っているね。それも精神的なものが原因で」 やっぱり本職の医者にはわかるものだなあ。とは言うものの… 「君の問題は病気そのものではない。医者にとってもっとも厄介な患者…つまり」 「治る気がない患者は治せない、ですよね?」 ドクターCは言葉を継がれたことに少し驚いたようだ。しかしすぐ気を取り直し言葉を続ける 「理解しているのか…では私が言いたいこともわかるね?」 「はい…でも、どうしても納得ができないんですよ」 「納得かい?」 「自分は悪くなかった、という納得がどうしても。だから今はこのままでいいんです、もう不眠症とも長い付き合いですしね」 「むう…医者としては承服しかねるが」 「ですよね。だからまぁその…もう治してもいいと俺が思える日が来たら改めて治療お願いします」 ドクターCはしばらく思量すると不承不承と行った感じで口を開いた 「仕方あるまい…その日が来るよう努力はするようにな。そしてその時はちゃんと来なさい」 俺がこんなんだから先生にも迷惑かけてしまって本当に申し訳ない 「はい、その時はよろしくお願いします」 そうして頭を下げる。扉の向こうから何か倒れた気がするが気のせいだろうか 借金も完済し、そうなると仲間の元に戻らなければいけない 何度目かわからないが、また心配かけて頭をさげなきゃいけないな… 「すいません、お世話になりました」 ドクターCと璃奈ちゃんに別れの挨拶をする 「黒白さんはざぁこ💜なんですからまぁたすぐ怪我とか病気しないでくださいね💜」 「ええ…いやでも本当にそれね。次は本当にできるだけないようにしないとね…」 「もしまた来ちゃったときはぁ…💜私ちゃんと治療できるようになってますから」 真剣な目だった。子供の…じゃなくて一人の人間としての 「それじゃあ、その時はよろしく…でいいのかな先生?」 「ああ、きっとすぐ一人前になるさ。…調子に乗らなければね」 「グヴェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙!」