デジモンイモゲンチャー第〇話  ・ゲオルグ・D・クルーガー登場シーンより抜粋 「う…っ、おおおおおお!?」 「ク、クロウーーー!?」 デジタルワールドて着々と子供たちが集結する中、突如現れた刺客 その煤けた赤髪の巨人のような大男がクロウの闘気を纏った拳を仁王立つまま片手で受け止め、彼の身体を比喩ではなく"振り回し"投げ放った 「ぐへぇ!? なにしやがんだジジイ…!」 「うっそだろクロウを片手でぶん投げやがった…」 「何者だ…」 駆け寄った三上竜馬、三下慎平、そして容易く地べたに転がされた鉄塚クロウを見下ろしながら男は重く鋭い声色で口を開く 「俺様は"FE社戦闘部門・五行の『火』"───《ゲオルグ・D・クルーガー》」 「FE社…!?なんで製薬会社の人間がデジタルワールドなんかに!」 「知りたければこの俺様を叩きのめして口でも割らせるんだな……なかなかイイパンチだったぞ小僧。だが俺様に言わせればまだまだヌルい…さぁ立てィ!せいぜい殺しがいがあるよう俺様直々に鍛えなおしてやろう」 「ナメやがってぇ…言われなくてもなァ!ルドモン!」 「おう!」 挑発に逆上したクロウがルドモンをシールドに変形させ再び飛び掛かる クロンデジゾイドの盾から繰り出されるバッシュを物ともせず両腕で食い止め、ゲオルグが不気味に笑う 「ほう、デジモンを武具として戦うのか…面白いテイマーだな貴様。名を名乗れ」 「ぐおお!? て、鉄塚クロウだ…この野郎!」 シールド越しになお重くのしかかる拳圧に食いしばった歯から絞り出すように名乗る。到底人間とは思えないフィジカルの暴力に食い下がるも、クロウは明らかに押されていた その場から一歩も動かずにクロウの攻撃を受け、弾き、殴り返す それは殺し合いなどと程遠く、まるで稽古のように見えた 「ふざけやがって…ほえ面かきやがれ、今だターゲットモン!」 「あいよォ!!」 だが同時にゲオルグの意識はクロウに集中しすぎていた ターゲットモンが隙を突いた崖上からの強襲…ゲオルグの背へ渾身の不意打ちを振りかざす 「なんだァテメエ?」 「げっ!?」 両肩のエンジンから吐き出した炎で加速し、ターゲットモンの拳を食い止めるレンチ 潰れた双眸を歪ませ牙をむく《盲目のソルガルモン》が低く唸る 「"オレ様の得物"を横取りしようたぁいい度胸してんじゃあねえかエテ公…」 「え…得物?自分のパートナーをか!?」 「文句あっかよォオオオオ!!」 「うぅわわわ!」 「マッハモン、ターゲットモンを助けろ!」 ソルガルモンが武器を投げ捨て、怒りに任せ拳を赤熱化―――上空で爆発が巻き起こりターゲットモンとソルガルモンが墜落 その様子を木陰に身を潜めていた彼女は見届け、墜落現場に突き刺さった…"得物"を見据え、プラグインを起動 「─――カードスラッシュ」 ソルガルモンの武器が縮小化され人間が携行可能なまでになった それを握りしめ、巨漢と必死に殴り合うクロウを見据え…視線で合図を送った 「!」 「よそ見をするかァ小童!」 「うるせえええ!」 ゲオルグの拳へ盾を突き出し…それを傾ける いなされた力が一瞬ゲオルグの姿勢に揺らぎを与え…そこ目掛け少女が疾駆 「はああああっ!」 「ふんッ!!」 「なっ…!?」 颯乃の剣戟はゲオルグの鋭く首元を狙ったものだった 旅の中で鍛錬を積み得た、おそらく当たれば成熟期デジモンですら怯むほどの一刀 だがその一撃を突き立てた親指で食い止め、刃を握り颯乃の身体がまたしても片腕の斥力で宙へと舞い上がる 「―――ソルガルモンの武器を使ったか。そしてオンナといえどその剣捌き賞賛に値する…だが」 「あぶねえ!」 「踏み込みが甘いッッ!!」 はじき出された颯乃の背を地面スレスレでクロウがキャッチし怪我を免れた 「トライホーン・アタック!!」 そのタイミングで竜馬は必殺の手札を切った あまりに人間離れした所業に"人間へデジモンの技を繰り出す躊躇"が削がれたのが幸いだったのかもしれない 「フッ…甘いわァ!!!」 「なぁっ!?」 ゲオルグが動いた。大地を踏み割り発動寸前のトリケラモンの両角めがけ突進 驚き竦んだトリケラモンの角を握りしめ跳躍したゲオルグの肘撃ちが、背中の竜馬へ… 「竜馬ー!?」 「……グハッ」 「「「「!?」」」」 喀血。ゲオルグの掌の力が弱まったのを感じたトリケラモンが我に返り巨体を旋回させ振り払う 男は口元を抑え何度かせき込むそぶりをみせたものの地面に片膝すらつくことなく着地し、体勢を立て直した竜馬、クロウ、颯乃たちがにらみを利かせる 「チッ…時間切れか。終わりだソルガルモン」 「なっ、ふっざけんじゃ無…!」 「終わりだ」 「―――グアアアアアッ!?」 ゲオルグのデジヴァイスから発せられた力場にソルガルモンが頭を押さえ悶絶…分解され、颯乃の握っていた武器共々デジヴァイスへと閉じ込められてしまった わけもわからず硬直する4人を尻目に、ゲオルグは未だ笑みを浮かべながら口角の血を拭う 「久々に楽しめたぞ小童ども。今日は俺様の負けだ…なにせあそこから動くつもりは無かったからな。"よくやった"貴様ら」 ゲオルグが指す一点、クロウと脚を止めたまま殴り合った足跡を満足げに見やり、賞賛を吐き捨てて高笑いする 「次合う時までにどれほど腕を上げているか楽しみだ……そして実ったその時」 「最後に貴様らを狩るのは、俺様だ……ッハッハッハッハッハ!!」 「……はぁぁぁ〜! 殺されるかと思った…!」 「…大丈夫か、クロウ、颯乃」 「おう竜馬。颯乃もサンキューな」 「あ、ああ。だが……私たちの完敗だな……」 颯乃の言葉を誰も否定することができなかった ・ゲオルグおじいちゃん FE社の刺客として早い段階から出現しイモゲンチャーチームに立ちはだかるエネミー だが目的や当人の意志に純然な殺意は少なく(現状)彼らとの戦いを"愉しんでいる" そして素養を見込んでゆくゆくは将来強敵として戦いたいというワガママゆえの辻稽古となっている お愉しみを育てて育てて育てたうえで全力で狩る、それが彼の美学である 肉の焼き加減でソルガルモンとケンカする ・ソルガルモンは血の気が多く戦闘中であろうと隙あらばゲオルグの命を狙おうとする 逆に自分以外がゲオルグを奪命させようとした場合はたとえ味方であっても躊躇なく殴りかかる狂犬 つづかない