「……やあ久しぶり、僕だよ。……雷電のじいさんも元気そうじゃないか。 この前も森で暴れまわってたんだって?……いやネタは割れてるんだよ。 じいさんが僕の息子をコテンパンに……誰って、忍者刀で二刀流してる子がいただろ? ……呆れた。僕の子だって知らないでブチのめしたのかい? いや、謝らなくていいよ。別にその事では怒ってないからね? ただあれから僕の息子が家出しちゃってね……いやだから謝らないでって! 僕としては息子のご機嫌取りに刀の一振り二振りプレゼントして帰ってきてもらおうかと思っててね。 だからさ……いい刀鍛冶を知ってたら紹介してほしいんだ。」 某所、とある工房。 「やあ、君が玉鋼君かい?はじめまして、僕は名張だ。」 「師匠から話はうかがっています。どうぞ中へ」 筋骨たくましいメガネの男に案内されて名張は工房の中へ入った。 工房の中は簡素な佇まいで、人を出迎えるのには心もとない最低限の調度品しかない。 「まずはこれを見てほしい。」そう言うと名張は肩に担いでいた長めのケースから包みを二つ取り出した。 そのうちの一つを開けると中から柄のない日本刀が出てきた。大きさ的に太刀のようだ。 「ほう、これは……」差し出されて玉鋼はそれを手に取って観察する。 「持ち主からちょっと拝借してきた。これの写しを作ってほしい。」 にこやかな顔の名張に対し、玉鋼は怪訝な顔をしている。 「あのこれって、八丁念仏団子刺しですよね?」 雑賀孫市の中でも特に名高い鈴木重朝が使ったと言われる刀の名を出す。 「写しを作ってほしいんだ。」 玉鋼の質問に、同じ言葉を繰り返す名張。 「水戸の徳川ミュージアムに収蔵されてるや」 「終わったらちゃんと持ち主に返すから。」 玉鋼の言葉を遮るようにして詰め寄ってくる名張。 「だからあんまり遅くならないように頼むよ。」 「…………はい。」玉鋼は折れた。 「ただ、普通に写しを作るんじゃないよ。」そう言って名張は残りの包みを開けた。 「……これは?」黒く輝くその金属塊は、玉鋼が今までに見たことがないものだった。 金属というよりもガラスのような光沢を持つそれは黒曜石のようにも見えた。 「ブラックデジゾイト……それをさらに精製したオブシダンデジゾイドだ。」 名張の目つきが真剣なものになる。 「これで刀を作ってほしい。ただ……この金属はまだ加工方法が確立されてない。」 「私も話は聞いています。師匠でもダメだったと。」 最初に紹介された刀鍛冶ではこのオブシダンデジゾイドを加工できず、もしかしたらデジモンをパートナーにしている弟子ならば、と紹介されたのが玉鋼だった。 「リアルワールドの物体による干渉を阻む特製があるみたいでね。君ならなんとかできるかも知れないって……」 名張の言葉を聞いてるのかいないのか、玉鋼はしばし顎に手を当て考え込んでいたが突然、 「ふんぬぁ!」いきなり輝く漆黒を殴りつけた。 「ちょっ!何やってんの!?」 「あいたたた……道具で駄目なら素手ならと思ったのですが、さすがにちょっと痛いですね。」 さして表情を変えないまま玉鋼が言う。 「まあ、デジソウルとかで殴ればもしかしたらかもだけど……っていうか痛いで済むんだ。」 なんでそんな発想をしたのか問いただす勇気は無かった。 「しかしリアルワールドの物質ではダメとなると……そうだ!おはかだモン!」 「……ふわぁ。なんですか鍛造さん?」 さっきから部屋の隅にあった石の墓標にしか見えない何かから声がした。 「来客の前で眠りこけるとは失礼ですよおはかだモン。」 墓石にしか見えないがどうやらデジモンであるらしい。 「お客さんがビックリするから黙ってろって言ったのは鍛造さんじゃないですか。」 「む?そういえばそうだったかも知れません。」 世間、というかデジタルワールド?は広いな……と名張は思った。 「まあいいからおはかだモン、ちょっとこっちに来なさい。」 「えーなんですか一体……」そういいながら喋る墓石は少しだけ宙に浮いて近寄ってきた。 「まずですね、こうしてしっかり抱えて。」玉鋼の両の剛腕がおはかだモンをがっしりと掴む。 「えっ、なに、ちょっと?」困惑するおはかだモン。 「せーの……そぉい!!」次の瞬間、玉鋼はおはかだモンを持ち上げると渾身の力を込めてオブシダンデジゾイドに向けて振り下ろした。 ガゴン、という大きな音が響き、土間の床に金属塊がめり込んだ。 「いやホントに何やってんの!?!」さすがの名張もこれにはツッコまずにはいられなかった。 「…………いっ、痛ったああああああぁ!何するんですか鍛造さん!!」 数瞬の間、言葉も発せずに悶絶していたおはかだモンはそう叫ぶと勢いよく鍛造に詰め寄った。 「いや、リアルワールドの物体で駄目ならデジタルワールドの物体、すなわちデジモンならいけるかと思いまして。」 表情を変えずにしれっと言い放つ玉鋼。 「だとしてもいきなりそれは酷くないですか!?」 表情などない墓標そのもののはずなのに、名張にはおはかだモンの怒りの顔が目に浮かんできた。 「あ、でも少し形が変わりましたよコレ。」言われてみるとわずかに凹んだように見えるような見えないような……。 「では次はこれを熱して熱いうちにおはかだモンで叩きましょう。」 「さすがにソレはやめようよ!?」全力で止める名張。 「む?ですが名張さん、おはかだモンでなくてはこれを叩いても加工できないのでは?」 「いまので十分ヒントになった!なったからちょっと待って!」そう言って名張は両腕を大きく前に突き出す。 「うちに別のデジゾイトがある!それで鎚を作るから!ついでに必要そうな道具も僕がなんとかしよう!」 こりゃ大赤字だな……けど仕方ないな、と名張は腹を括った。 「だから自分のパートナーでそういうことはやめてくれ!」 「はあ、名張さんがそう仰るなら。」そう言って玉鋼は抱えていたおはかだモンを床におろした。 その翌々日には重量のあるレッドデジゾイトで作られた鍛刀用の大鎚と小鎚が、翌週にはデジタルワールドの天然石から作った砥石各種が玉鋼の工房に届けられた。 何度か師匠や依頼主と相談や試行を重ね、翌月には注文通りのオブシダンデジゾイド製の八丁念仏の写しが完成した。 並行して通常の刀として作られた写しもほぼ同時期に完成し、揃って名張のもとに納められた。 そちらの刀を依頼主は団子刺しの名で呼んでいる。 普通に代金も支払ってもらったのでしばらく余裕のある食生活が……とおはかだモンは期待していたらしいが、玉鋼は新しい刀の材料や消耗品の購入に充てたようだ。 「またどっかからデジゾイド買い付けないとな……」 ディグモン使いの少女以外にも調達ルートが欲しいな、と考えながら名張は事務所の奥に飾られた二振りの太刀を見る。 まだ家出中の息子に次に会った時になんて言葉をかければいいのか、結論はまだ出ない。 ※玉鋼鍛造はアイテムを入手した! レッドデジゾイド製の大鎚と小鎚 硬く重いレッドデジゾイド製の鍛刀用の鎚セット。 これがあればデジゾイドで刃物を作ることが可能。 これでデジモンを殴った場合ダメージ判定のクリティカル値が筋力ボーナス分だけ下降する。 いや鍛刀用の道具で殴っちゃダメだよ!? デジタルワールド天然石製砥石 日本刀から包丁までほぼすべての刃物が研げる砥石セット。 これで職人が研いだ刃物は切れ味がよくなりクリティカル値が−1される。 この効果は他のクリティカル値下降効果と重複する。 デジタルワールドの天然石っていったい何なんだろう……