(録音ならびに映像記録より抜粋) 96時間前・蔵之助のスマホの録音 「へえ……死者蘇生?それを巡って争いが?まあ僕には関係ない話だけど……馬鹿どもが潰しあう分には丁度いい。適当に様子見して、どこか頭一つ抜けそうならその時は叩くか。」 90時間前・蔵之助のスマホの録音 「はい、名張です。お久しぶりですメグルさ……はい?医療用プラグインありったけ売って欲しい?なんで!?……救援に行く?アトラーカブテリモンの森に?」 89時間前・蔵之助のスマホの録音 「よし、うちにある在庫全部積んだね?じゃあまずメグルさんと合流して橋を使わせてもらおう。途中で芦原さんを拾って……車が足りないな、四駆も出そう。」 同時刻・監視カメラの映像 四輪駆動車に忍び込む侘助と一華の姿が写っている 84時間前・四輪駆動車のドライブレコーダーの録画 「おい一華何見て……めもりちゃんねるじゃん。あっミサキおねーさんだ。……おい一華?ちょっと一華どこ行くんだよ!?……ミサキおねーさんとこ?」 83時間前・蔵之助のスマホの録音 「今なんて言いましたメグルさん!?侘助と、一華が!?こっちにいる?……侘助だけ?一華は……どっか行ったぁ!?」 72時間前・侘助のスマホに仕掛けられた盗聴アプリの録音 「折角の才能が活きておらんな小僧」 「俺に……才能が……?」 「なんだその顔は?」 「俺に才能なんか……あるものか!」 68時間前・蔵之助のスマホの録音 「ああ侘助は回収した。気を失ってるが無事だ……あちこち傷だらけだけど。……かなり格上の相手に手加減されましたって感じだね、これは。」 64時間前・蔵之助のスマホの録音 「侘助は意識が戻ったよ。けど一言も喋ろうとしないんだ。そっちは例のドゥフトモンの非正規チームに助力するんだね、わかった。くれぐれも一華を頼む。あと……ミサキちゃんのことも気にかけてやってくれないか。」 52時間前・蔵之助のスマホの録音 「……うん、わかった。僕たちは撤収準備をはじめるよ。メグルさんと茜と一華を拾って、リアルワールドに帰還するよ。芦原さんはもう少し残るって言ってた。」 51時間前・試作ライトバンのドライブレコーダーの録音 「ねえこの空き箱……スケベプラグインのやつ……」 28時間前・文化庁デジタル文化振興室の防犯カメラの録画 「あっケイコさんお疲れ様です。メグルさんに……はい?自宅謹慎?ナンデ?っていうか取置君!なんで君がここにいるんだ!君がメグルさんの代わりに謹慎すればいいじゃないか!」 現在 デジタルワールドの温泉宿・富士見温泉 中庭に設えられた野点の席に四体のデジモンが座布団に座り向かい合っていた。 片方の席には妙齢の女性の姿となったエンシェントアンドロモンと部下のハイアンドロモンが、もう片方の席にはレイヴモン・雑賀モードとサクヤモン・歩き巫女モードが正座していた。 「お初にお目にかかります。私は名張蔵之助と申します。こちらは妻の茜です。」 「ふむ?貴様は人間だと聞いておったがその姿はどう見てもデジモンではないのか?」 かの破壊大帝の質問に蔵之助と茜は両手を目の前の床につく。 「裏十闘士として名高きエンシェントアンドロモン様と相対するとなれば、こちらもそれにふさわしい姿とならねば無作法というもの。今は夫婦共々、マトリクスエボリューションにてパートナーと一体化しております」 「ふうむ、そういうものか?」妙齢の美女が顎に手を添えて首を傾げる。 「此度は私共から流出したプラグインが大層なご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした。」 そう言うと夫妻は両手をついたまま頭を床まで下げた。いわゆる土下座である。 「まあよい、頭を上げい。貴様らが悪意を以てワシを陥れんとした訳ではないことは聞いておる。」鉄の王、いや今は鉄の女王たるデジモンは軽く手を振る。 「それに貴様らはお詫びとしてワシになにか特別なものを献上すると言うではないか。それがどんなものかを確かめてからでも貴様らの処遇を決めても遅くはあるまい。」 「ありがたき幸せにございます。」夫妻は一度上げた頭を再び下げる。 「それで、何を用意したというのだ?」 女体化してもなお威厳を失わぬその相手に、蔵之助は一呼吸置いてから答える。 「……"天"のヒューマンスピリットを、差し上げたく思います。」 「貴様!"天"のヒューマンスピリットだと!戯言を抜かすな!」隣のハイアンドロモンが立ち上がりかける。 「待て!……確か先日の戦争で『エンシェントウィッチモン』が交戦しているのが確認されていたな?」野心強き腹心を制しつつ鋭い眼光が蔵之助を捉える。 「あれは私共の娘がスピリットエボリューションしたものでございます。ですが……」 「ですが何だ?早く言え!」一度言葉を区切る蔵之助に、恫喝するような声をハイアンドロモンが浴びせる。 「あの力の真価を引き出すのは私共には困難であります。そもそも、あの力は私共には過ぎたるもの。」 頭を下げたままだがその視線がしっかりと自分を捉えているのを鉄の女帝は感じていた。 「それゆえ、その力は同じ裏十闘士であるエンシェントアンドロモン様にお預けするのが最善と判断した次第であります。」 「ふうむ、筋は通っておるな?しかしよいのか?人間どもは自らの覇権のためにこのような力が欲しいのではないのか?」 その問いかけに蔵之助はわずかに面を上げる。 「私共が欲するのは覇権ではありません。」 「?」美女の片眉がピクリと動く。 「さりとて無条件であなたがたに膝を屈する気もありません。」 「……ほう?」少し興味が湧いたような声が出た。 「私共が欲するのは安定……そのための各勢力の『均衡』にございます。」 「ほう!」蔵之助の言葉に面白そうな声で膝を叩いた。 「なるほど、つまりそのためには自分が強大な力を保つ必要はないと抜かすか!」 「左様にございます。私共にとっては、この力を持て余すぐらいならばいっそ他の有力な勢力との繋がりを作るほうが有効、という訳でございます。」 さらに少し面を上げて蔵之助が言う。 「貴様の言うことは尤もかも知れん。しかし、貴様の言う『均衡』が崩れ、ワシがこのデジタルワールドの覇者となった暁には貴様はどうするつもりだ?」 それは質問というよりは挑発であったか。しかし蔵之助は淡々と応じた。 「エンシェントアンドロモン様はふたつ思い違いをしておいでです。」 そこで蔵之助ははっきりと面を上げて真正面か見据えた。 「まず私共は……少なくとも私が所属する勢力は、デジタルワールドで利益を得る目論見こそあれ、その支配には興味がありません。それでデジタルワールドが安定し、人とデジモンの交流が進むのならいっそ、と『私個人』は考えなくもございません。」 それを聞いて灰銀色の美女が興味深そうに口角を上げる。 「その場合、エンシェントアンドロモン様にはデジタルワールドでデジモン達を害する人間どもの対処を担っていただく必要がございますが……。」 「面倒事をこちらに押し付けようというつもりか。」 その言葉を蔵之助は直接には否定も肯定もしない。ただ唇の端を歪めて黙示するのみである。 「もうひとつ……私共の力は決してあなたがたに引けを取るものではありません。リアルワールドにまで支配の手を伸ばそうというのなら、その腕はたちまち刈り取られることでしょう。」 「貴様ッ!」とうとうハイアンドロモンが立ち上がった。だがしかしすぐに動けなくなる。 「……ッ!!」ハイアンドロモンの背後に、確かに今そこで正座していたはずの茜が立っていた。 その左手に握る短刀が、鞘に収められたままで首元に添えられていた。 「落ち着けハイアンドロモン!」帝王の一喝。 「其奴は相当な手練れだ。気づかなかった貴様が甘い。」 次の瞬間には茜はまた元の席に正座していた。ハイアンドロモンのセンサー系はその動きを捉えきれていない。 「……クッ!」悔しさを滲ませながら彼もまた元の席につく。 「まあよかろう。貴様らがくれると言うならば貰うまでよ。」今度はその赤い眼が黒い甲冑姿を見据える。 「"天"のヒューマンスピリット、ワシが頂こう。」 「……ありがとうございます。」夫妻は再び頭を下げた。 面を上げると蔵之助が光を放った。直後、普通に線の細そうな青年と小柄なデジモン――ホークモンが出現する。 「政治的な儀礼はここまでだ。ここからは実務的なビジネスの話をしようじゃないか。」 「……貴様、どういうつもりだ!?」突然の進化解除にハイアンドロモンが困惑の声を漏らす。 「本当の顔を隠したままだとビジネスパートナーには失礼だからね。改めてエンシェントアンドロモン様、僕が名張蔵之助だ。」 「……何が本当の顔だ。まだ隠しているであろう?」 「……驚いたね、見抜いてくるんだ。」 心底驚愕した顔になった蔵之助がさっと手元でなにかジェスチャーをすると、髪色が濃い茶色から白に近い銀髪になった。眼の色も緑から紅になっている。 「こんなナリだからね、被っちゃ悪いと思ったんだ。」 ハイアンドロモンは最早状況に翻弄されて言葉を失っている。 「まあそういうことにしておいてやろう。」一方でエンシェントアンドロモンは落ち着いている。 「"天"のヒューマンスピリットは今はこの温泉所にあるショコラトリーで景品になっている。」 「けっ、景品!?」驚くハイアンドロモンに対し、その上司は知っていたのか何も反応がない。 「チョコ使用料第1位に贈呈される……うちの娘は最初からあれを手放すつもりだったんだ。」 「それでは誰か他のヤツに掻っ攫われてしまうかもしれんではないか!」声を荒げるハイアンドロモン。 「だから、ショコラトリーの在庫の半分をそちらに譲渡する。」 「……半分、譲渡だと?」蔵之助の言葉をハイアンドロモンが反駁する。 「それで君たちが確実に1位だ。ああ心配しないで?利益はもう十分に出たからそれぐらいなら大丈夫さ。」 「……これ以上の利益は求めないというのか?」口を開いた破壊大帝に蔵之助は笑顔を向ける。 「利益が出たら次のために投資する、ビジネスの基本だろ?」 「なるほど投資、投資か……ワハハハハ!」赤い眼の美女が高らかに嗤う。 「おおかたついでに在庫処分もしてしまおうという腹づもりなのだろうが、ワシらを投資する対象として評価しているのは気に入った!」 意図を見抜かれて蔵之助は肩を竦める。 「よかろう、そのチョコレートも貰ってやる。」 「ありがとうございます。」三度目の、しかし今度は軽く頭を下げるだけの叩頭。 「とはいえ、それだけでも味気ないですので、なにかオマケを差し上げます。期待していてください。」 「いいだろう。……ところで貴様の妻は進化解除はしないのか?」 問われて蔵之助は申し訳無さそうに後頭部を掻く。 「すいません、一応テイマ忍の正体は不明っていう建前なんです。」 今度こそ本当に。耐えきれなくなったエンシェントアンドロモンは心の底から爆笑した。 2時間後・四輪駆動車のドライブレコーダーの録画 「いやもうあんなのは金輪際勘弁してほしいよ……しかしあの女体化プラグイン、何者かの手によってデジコアに刺さるように細工されていたね。」 「……誰がやったのかしら?」 「それはまだ確証がないから何とも……対策はしたからもう問題はないと思うけど。」 「そうね。じゃあリアルワールドに戻りましょう。メグルさんのお見舞いにも行かなくちゃだし。」 「そうだね……メグルさんが休むと人手不足になるから取置君を謹慎させられないって理屈は分かってるんだけど、なんか釈然としないなあ。」 「助ちゃんはサンワ君にホント当たりキツイわね。」 「言うなよそれ。自覚はあるんだ。」 副賞のチョコについてきたオマケ 封印プラグインC 無効化プラグインPを常時発動型に改造したものです これによりエンシェントアンドロモンのデジコアに刺さって抜けない女体化プラグインを無効化します 何者かの改造によって元の開発者でも解除できなくなったための処置です 封印のオンオフは随時かつ任意で可能で、いつでも好きな時に好きなだけ女体化が可能になります 剣戟プラグインEX 女体化プラグインの原型である剣戟強化プラグインを再調整したものです 武装のみにデータを絞りこむことで一応の成功を見ました 装備している剣の「本当の名前」を叫びながら振るう事でビームによる範囲攻撃を行います 攻撃範囲は使用者から一直線上の視界内もしくはシーン内です 攻撃力自体は変化しません 剣戟強化なのにビームが出る原因は不明です