「――……ん、ぅ……んん」  重金属汚染雲の隙間から差し込む朝日が、ステイシーの微睡みを緩やかに醒ます。気怠げに身を起こしたステイシーは、強烈な喉の渇きを覚えた。 「ぁ……あ゛ー……」  ガラガラのハスキーボイスと化した己の声に顔を顰める。原因は言うまでもない……と、そこでドアが開いた。 「ありゃ、オハヨ」  ナツルである。意外そうな顔をしているくせに、手には「枯山水」のボトルが2本。 「要る?」  ステイシーはこくんと頷いた。こんな掠れたみっともない声を、愛する夫に聞かせたくはない。するとナツルはボトルを放り投げようと……して、にんまりと意地悪な笑みを浮かべる。 「要る? 要らない? どっちかなァ?」  ステイシーはムッとした。 「…………い゛る゛」 「あは。ひっどい声」  ナツルは不機嫌そうなステイシーをクスクスからかい、今度こそボトルを投げ渡した。ステイシーは忙しなくボトルのキャップを緩め、一気に中身を飲み干す。 「……こんな声聞いたって嬉しくないでしょ」 「ボクはステイスならなァんでも喜んじゃうヘンタイなんだァ」 「ふん」  ナツルは自らも水を飲み、ベッドに腰掛ける。そして、そっぽを向くステイシーの顎に手をやって振り向かせると、やや強引に唇を奪った。 「ンンッ……ちゅぷ、ちゅ……ぢゅ、ぷ」  唇を閉じて抵抗したのも一瞬のこと。ステイシーの吊り上がった瞳はあっという間にとろんと垂れ、自ら腕を首に絡めてねっとり舌を絡める。ボトルをベッド横のテーブルに置き、そのままナツルに押し倒された。 「あんなにしたのに……」  ステイシーは下腹部に押し当てられる滾りの硬さと熱にぞくりとした。白くほっそりとした臍下にぐりぐりと押し付けられるそれは先走りを垂れ流していて、散々ほじくられ迸りを受け止め、非ニンジャなら確実に妊娠しているであろう子宮を押し潰される。ただそれだけでステイシーは達しかけ……いや、達した。腰を艶かしく蠢かせ、すぐにでも挿入してもらおうと少しずつ位置をずらす。 「ボクに呆れてるわりには、物欲しそうだね」 「うん。欲しいの……頂戴?」  ナツルは目を細め、微笑んだ。ジツも何も発動していないはずなのに、その瞳は恐ろしいほど美しい。双眸に映る自分の夢遊病者めいただらしない顔をまざまざと見せつけられ、ステイシーは羞恥と被虐を煽られ頭がおかしくなりそうだった。それか、もうとっくにニューロンは不可逆に破壊されているのかもしれない。だとしてもそれがどうしたというのか。こんなにも幸福で、満ち足りているなら構わなかった。 「おねだりの仕方ってものがあるんじゃない?」 「……意地悪」 ナツルはふふんと鼻を鳴らした。だが勘弁はしてくれそうにない。  ステイシーはやや躊躇った。昨日からずっと、いつもと違って責められるがままだ。そうなると、少しぐらいはこちらからも一泡吹かせてやりたい、そんな気持ちも鎌首をもたげる……だが結局のところ、最終的にはこうやって有無を言わさず従わせられる。もしかしたら自分は、そうやってわからされるのが気持ちよくて仕方ないから悪戯心を燃やすのではないだろうか。そんな益体もない考えがニューロンをよぎった。 「…………ナツ、の……太くて、硬い……ので、してほしい」 「んー?」 ステイシーは白い頬を赤く染めた。いつもならなんてことなく口にできるはずのことが、こうして改めて言わされるとなると妙に気恥ずかしいのだ。 「おちん、ぽ……ナツのおっきくてぶっといちんぽ、私の……からかってるくせにほんとはぐちょぐちょになってるおまんこに、ずぼずぼ突っ込んでほしいの……っ!!」 「ステイスは偉いね。それにお利口さんだ」 ナツルは愛犬にするように、頬にキスして、そよそよと髪を撫でた。ステイシーは少しだけの悔しさと、それが塵めいて感じられるぐらい巨大で濃密な喜びを同時に味わう。サイズ差を比較するなら惑星とアリぐらいはあるだろうか。ジツなんて使われてはいない。何度も何度も犯され、命令させられ、いつしかこうやって完全に立場が決まってしまった。心地よい被支配快楽がニューロンを痺れさせる。 「ね、ご褒美……」 「うん。慌てなくてもダイジョブダッテ」  ナツルはゆっくりと、形を感じさせるように腰を前に押し出した。襞の一枚一枚がぼってりと張り詰めた雁首にひっかかり、そのたびにぱちぱちとニューロンに火花が散る。ステイシーは宇宙一幸福だった。他の誰がなんと言おうと、彼女にとっては間違いなくそれが事実だ。だってこんなにも……素晴らしい。 「ぁ、あ――いく、イ、く」  ステイシーは口の端から涎を垂らし、LAN直結中のハッカーめいてがくがくと痙攣した。ナツルは垂れ落ちる透明な雫をべろんと犬めいて舐め取り、うわごとを呟く唇をしゃぶるように奪う。ついにポルチオにぬちゃりと鈴口がキスをして、ステイシーの意識は完全に白く染め上げられた。皮も肉も骨も解け合い、どろどろのスライムめいて一つになったような錯覚。 「動くね」 「ぅ、ん……んぅう、うぅっ!?」  腰が引かれ、さっきの倍の快楽がステイシーを襲う。離れていく亀頭の名残惜しさが気にならないのは、また必ずキスをくれるという信頼があるから。そして挿入した長さと半分のストロークで腰が止まり、今度は一気にどちゅん、と最奥まで。開ききった子宮口はあっけなく亀頭の先端にむしゃぶりつき、経産婦めいてほぐれた子宮が早く犯してほしそうに挿入をせがむ。人体の構造的にありえないはずの行為も、ニンジャならば不可能ではない。ましてやステイシーはナツルとのセックスに慣れきり、開発された身体だ。 「ステイスのまんこ、すごいよォ……ボクのチンポにぐちゅぐちゅしゃぶりついてる」 「言わないでぇ……」 「ダーメ。カワイイだからもっと言うね」 「ふぁ、あ……ぁ、いく、イっく!!」  絶頂に追い上げられた瞬間、小刻みなピストンが始まった。快楽の頂点に達したまま、意識が落下を許されずひたすらに突き上げられる。しかもただずっとテンションを張り続けるのではなく、ピンと張った縄を揺らすように少しだけ下降させられるのだ。視界が明滅するような絶頂の瞬間がコンマ秒ごとに訪れ、ステイシーのニューロンをぐちゃぐちゃにかき乱した。 「ぅあ、お、ほぉ゛お……っ!?」  けだものじみた濁った喘ぎ声が、カチグミ子女の唇から漏れ出す。両親がこんな痴態を見たらどう思うだろうか、そんな考えが意味もなくよぎり、ステイシーはあまりの羞恥心にニューロンの中で絶頂した。視界いっぱいを最愛の男の美貌が埋め尽くす。地球の何処を探したって、こんな絶景は見当たるまい。 「ナツ、ナツ、ぅ……イってるの、ずっとイッてるのぉ」 「ニューロンポート空きッぱなしィ……ステイス、カワイイだよ」 「ぅ、あ――イ、く、イクッ!!」 「出すよ……っ!!」  ぶびゅう、ぶりゅぶりゅ――ぶびゅびゅっ!!  下腹を通じて身体を音が貫く。びちゃびちゃと子宮内膜にゲルめいた精液がぶちまけられ、べっとりと張り付いて落ちないのがはっきりと感じられる。ニンジャ性的感覚。その熱が子をなすことは決して有り得ない、それがほんの少しだけ寂しく……だがステイシーは、一瞬だけ、むしろその方が嬉しいと思ってしまった。子をなしてしまったら、その間はこうして究極の快楽を貪ることが許されなくなってしまうのだから、それならいっそ――あまりにも冒涜的ではしたない己の思考に、ステイシーは泣きそうなほど恥ずかしくなり、下品な喘ぎ声を吠えるように叫んで絶頂を伝え続けた。