デジタルワールドはアトラーカブテリオンの森。  穂村 拝とサンフラウモンのコンビは、賢木 夕立をめぐる戦いから一夜明けたその土地に来ていた。  昨日の時点で森の周辺の村には来ていたのだが、燃え盛る森や遠目からも見える程巨大な究極体の姿が見えて突入を断念。森の安全を守るために行動していた渡辺 豆蔵を見かけたのでそちらのお手伝いをしていたのだった。  森入りした今はエンシェントテイルモンたちが作った建築物の残骸を片づけるお手伝いの最中である。昨夜寝る前に燃えていた森は朝目が覚めたら前見た時よりも青々と茂っていたので目を疑ったが、それはそれとして戦闘の余波で散らばったもろもろを片づける必要があるためその協力をしてほしいとのことだった。頼まれたら断らない拝はもちろんサンフラウモンともどもそれに協力することにした。 「一時はどうなる事かとも思ったけど落ち着いてよかったな、サンフラウモン!」 「…………」 「夕立ちゃんも元気そうだし、丸く収まってよかった! 本当は、オレも助けに入れればよかったんだろうけどな」 「…………?」 「いやいや、サンフラウモンが悪いわけじゃねーよ! オレの勇気が足りなかったんだ」  拝とサンフラウモンの会話はいつも拝のひとりごとのようになる。サンフラウモンは何も言わず、何も顔に現れない。それでも拝は正確にサンフラウモンとコミュニケーションができるあたり、二人の絆は強く結ばれているのであろう。 「きっと、成熟期のオレたちでも森の中で出来ることはあったんだ。実際、真宵姉ちゃんは成熟期でも夕立ちゃんのそばに居たっていうしな。だから、オレに足りなかったのは勇気なんだ」 「…………!」 「慰めてくれてありがとな、サンフラウモン。でも、やっぱそれじゃ駄目なんだ。ほかの誰でもなく、オレ自身がオレの選択をそう思ってるんだ。だから、ちゃんと向き合わないと」  そういって拝は自分の手のひらを見つめる。子供らしい小さな手のひらだ。掴めるものは限られて、受け止められるものも多くはないそんな頼りない手のひら。それでも拝にとっては、サンフラウモン以外で頼れる唯一の道具であった。  だからこそ、この道具の限界についてはよく知っている。それ故、あの戦場でオレにできることはないと、そう諦めてしまった。諦めてしまえた。それが拝の心に影を落とす。  そして、その心の影は一つではない。 「それに、オレは天秤にかけたんだ。デジタルワールドで危なくなってる夕立ちゃんたちと、家で待ってる父ちゃんと母ちゃん。どっちも大切な人たちだ。そのうえで、オレは父ちゃんと母ちゃんを選んだ。デジタルワールドで目の前で困ってる友だちを命がけで助けるよりも、自分の身を大事にして父ちゃんと母ちゃんに会うことを選んだんだ。……それを悪いことだとは自分でも思わないさ。でも、『人を助けられる子になる』って決めてたのに、こういう時に自分の身を大事にしちゃうのって、どうなんだろうなって思っちゃってね」 「………………」  サンフラウモンは何も言わない。いえるはずもない。言葉にしないことが伝わるのは、サンフラウモンから拝への一方通行ではない。サンフラウモンだって、拝の言葉にならない言葉だって読み取れるのである。  高い空に狼煙が上がる。作業に入る際の説明だと昼ごはんの合図だったはずだ。先ほどまでの憂いを帯びた表情はどこにいったのやら、拝は満面の笑みでサンフラウモンに笑いかける。 「おっ、メシの時間だ! いこうぜ、サンフラウモン! ムゲンドラモンのおっちゃんのたこ焼きは絶品だからな! 早く確保しないと全部食い切られちまう!」  駆けだす拝を追いかけながらもサンフラウモンは願う。誰よりも優しいこの子に幸あれと。ボクにこの子のための力をくださいと。  その願いが叶うのは、もう少し先のこと。