パートナーが吹き飛ばされる姿を、なすすべもなくただ見ていた。 「どうして……邪魔をするんだ!」 戦闘の余波で髪留めが解けるが、どうだっていい。 戦況は決した。 数度に渡る失敗と毎夜酷くなっていく悪夢でコンディションの優れない颯乃に対し、 即席とはいえ同進化段階を含む数人……戦う前から結果は分かるようなものだが、もはや彼女はそれを判断する余裕すら失っていた。 パートナーが倒れた今、自分には味方はいない。 そう自覚した瞬間──みしり、と何かが罅割れた音が自分の中から聞こえた。 鼓動が早くなる/見知ったもの達の顔が見覚えのない貌に歪んでいく。 自身を慕っていた年下の男の子の言葉も── 「体も心も弱い颯乃さんなんて……価値がないですよ」 親友だった同い年の女の子の言葉も── 「そんなことのために暴力を振るうなんて、今まで友達面していたと思うと反吐が出る」 頼りに思っていた年上の男の子の言葉も── 「お前は敵だ──殺して止める」 今の颯乃には…剥き出しの憎悪にしか聞こえない。 ならば──強くなければならない。 救いのない夜も、諦めていく朝ももう見たくない。 眼前の全てを薙ぎ払い、障害を排除するためならば…… 「怒り、憎しみ、悲しみ、恐れ……負の感情は揺さぶりやすく、容易く精神を乱す」 呪の十闘士は水晶に映る標的を満足気に眺める。 「人の心というのは、こんなにも脆く──」 ──美しい。 ほくそ笑むデジモンの視界に映る壊れた少女は、思惑通りに自身の成果物に手を伸ばした。 「カードスラッシュ……!『究極進化プラグインD』!!」 倒れたパートナーに昏い光が集まっていく。 黒い感情で埋まっていく自身の心が心地よい。 対峙した敵──そう、敵だ──が驚いているようだが、顔が削れていてよく分からない。 光が散った後、そこに立つのは初めて見る姿。 何物をも拒絶するように全身に棘のついた緑の巨体に見合う巨大な骨刀を担ぎ、赤い目を光らせる。 葬列を纏ったような異様の両肩から、自身の怨嗟を主張するように幽兵が声を上げながら生成される。 望みまでも黒く塗りつぶされた頭蓋に響く命令のままに声を上げる。 「蹂躙しろ──タイタモン!!!」