7月21日 11時30分 気温31度 湿度45% 晴天  暑いが湿度も低くうだるようなというわけではなかった、晴天ということもあり空の青さが一段と濃く見える。  入道雲は大きく陰影が濃い正しく夏の雲であった。  蝉の鳴き声は大きくうるさい。クマゼミ。ミンミンゼミ。気の早いアブラゼミの声も混じり大変うるさい。 「勇太の馬鹿ああああああああああああ!!!!!!!!」  蝉達の合唱に負けない怒号と容赦のない右ストレートが勇太の左頬を殴り抜けた。勇太はそのまま尻もちを着いた。  しかし、勇太はその殴られた事に対して批難の声、視線も向けていなかった。ただ殴った本人であるガニ股歩きで音を立てて去っていく光から目線を逸らしていた。  そのまま勇太は倒れ込み空を見上げた。倒れ込んだ屋上からは遮蔽物もなく青空が見える。入道雲の色が濃い、午後は雨が降るのかもしれない。 「何やったのさ。勇太?光があんな怒るなんてデジタルワールドぶりに見たよ。」 勇太の学校に隠れていたヴォ―ボモンが光の怒声を聞きつけてやってきた。 「…うん。今日さ…夏休みの終業式でさ。ほら…俺、光と同じクラスじゃん。」 「そりゃあ知ってるよ。」 「あ、うん。そりゃそうか。いつも付いて来てるしね。 それでさ…正弘とか篠原さん…クラスの奴にさ。その…光と俺が付き合ってるの?って。」 「付き合う?えっと…あぁ!勇太のお母さんとテレビで観た恋人ってユピテルモン様とユノモン様みたいな関係でしょ!知ってる!それがどうしたの?そうでしょ?」  ヴォ―ボモンがさも当然のように問いかける。勇太は気まずそうに目線を逸らした。 「その…俺違うって…言っ…た…。」 「えっほんと?えっ恋人ってよく分かんないけど僕と勇太がパートナーじゃないって言ってるもんじゃないの?えっそりゃあ光怒るよ?」 「いや。そうじゃなくてさ。…光とヴォ―ボモン達と帰ってきてさ…最初は俺もずっと一緒に居たいと思っけどそれでいいのかなって…光も表向きは先みたいな事言ったけど今は…本当は違うんじゃないかって。光自身もちょっとずつ世界が変わってるなら…俺から昔から離れて新しい世界で過ごした方がいいんじゃないかなって。」  勇太は力なく弱々しく答えた。 「勇太…。」  入道雲が太陽を隠し始め影が差してくる。夏の暑さは変わらない筈なのに汗が引くようなこの屋上だけ気温が真冬になったような寒気を勇太は感じた。 「知りたい?」  影から声が聞こえた。その声に勇太とヴォ―ボモンが声の方向を見る。そこには、大きな赤い瞳を持った影がいた。 「ね……知りたい?ねっ。気になるんでしょ?あの娘…鬼塚 光がどう思ってるの知りたいんでしょ?ねっ?ねっ?」  影が寄って来る。影の声はくぐもった機械的な一定の調子に雑音が混ざったものであった。体感している気温も近づく事に下がっている気がする。 「勇太!こいつデジモンだ!しかも、こいつ!」 「…分かってる。君はデジモンだね?迷子?」  勇太はデジモンが発する冷たい気配に気圧されるてるのを悟られないよう優しい声色で影のデジモンに話しかけた。ヴォ―ボモンもできるだけ力を抜いたがどうしても身体に強張りが出た。それ程にも生物的な威圧感とは別の異質さがあった。肉食獣のような熱いものではなく魚のような冷たいもの。怪異や幽霊と言われるものがこの冷たい感覚を発するのだと勇太は思った。 「ね?知りたいんでしょ?光がどう思ってるのか。」 勇太の問いかけに影のデジモンは答えずただ自分の問いかけだけをして近づいて来る。 「ね?知りたいんでしょ?怖いもんね?自分が知らない好きなひとの心なんて怖いもんね?ね?知りたいでしょ?」  赤い瞳が真っ直ぐと見据えている。雑音の多い声とは裏腹に影のデジモンの声を聞いてると周りの音が小さくなっていき、問いかけが頭に反響し思考が支配されていく。  蝉のうるさい鳴き声が小さくもう聞こえない。  そうだ…俺は怖いんだ。こちらの世界に帰ってきた時は思いあがっていたし、見下しが心にあったんだ。光と自分はずっと一緒にいれると。こんな事は相手が離れていく事がない前提…いや、どこかで出来ない。して欲しくなかったんじゃないか。時が経って自分とは違う。知らない光の生きる場所と時間ができていた。これは愛なのかそれとも依存なのか。言葉にする必要がないという思い上がりがいつしか知らない光に対しての恐怖に変わっていた。刷り込みのように自分の隣にいて欲しいと光は思っている。と、どこか傲慢に自負している。でも心の奥は?もう自分なんて必要とさていないのではないか。光はその容姿。理知。そしてその毅然とした何かに立ち向かえる誇り高い心。自分とは本来隣に立てるはずがない。今いてくれるのは過去のふたりだけの共通の過去があるだけだ。【知りたい。】光には新しい世界がある。友達も。【自分の望む答えが欲しい。】ただ、過去の時を一緒に過ごしただけで、本当の光が望む相手は…。【不安だ。】辛い過去を取り戻すくらいに幸せになってもらいたい。【望む答えが欲しい。】言葉にしてしまった時点で自分も光も気付くのではないか。【自分だけ知っていればどうにか出来るんじゃないか。】気付かされてしまうのではないか。 光の隣に本当にいるべきなのは…。【嫌だ】【不安だ】【知りたい。】 【ね?知りたいんでしょ?光がどう思ってるのか。】 「勇太!!」  ヴォ―ボモンの声で勇太は我に返った。影のデジモンは目と鼻の先にいた。 「これ以上の呼びかけは危険だ!」 「あ…ああ!!確保するから手加減して!」  ヴォ―ボモンは影のデジモンに横から蹴りを入れ勇太から引き離す。間髪入れず火球を飛ばし、影のデジモンに当てる。  勇太とヴォ―ボモンは反撃を警戒して身体を強張せる。 「「あれ?」」  強張った体から力が抜ける。影のデジモンはヴォ―ボモンの牽制で飛ばした火球で既に倒れ込んでしまっていた。 「なんか感じた雰囲気に比べて弱いね勇太。」 「そうだね…えっと、まぁいいか。宇佐美さんのとこ連れてくから押さえといて。」  ヴォ―ボモンは影のデジモンに乗っかり動けないようにした。影のデジモンはあまり抵抗する様子も何か企んでいるような素振りは見せていない。  やり過ぎただろうか。ヴォ―ボモンの言っている通りなら呼びかけは続けていたようだ。ただ意識は薄れていた。何かとても嫌な事を考えていた気がする。  勇太は暑さとは別に流れる汗を拭いスマホを手に取った。気付けば蝉のうるさい鳴き声が聞こえる。それに気づきようやく自分が意識をしっかり取り戻したと勇太は思った。  勇太はデジタル庁デジモン対応特務室の宇佐美 京一郎に連絡を取った。  4年前のデジタルワールドの異変の際に、警視庁電脳犯罪捜査科と一緒に勇太達を助けてくれてからの縁で現実世界に出てきたデジモンを発見した際に確保及び連絡。稀にアルバイトとして周辺調査を行っていた。この調査は勇太達以外にも多くの選ばれし子ども達が行っているらしい。 「いつもお世話様です。宇佐美さんの携帯でよろしいでしょうか。あっはい。日野です。えっ、わ…分かりました。」 数分事情を確認してから勇太は電話を切った。勇太の顔は険しいものであった。 「勇太?」 「ヴォ―ボモン、そいつ押さえてバッグに詰めたらデジタル庁すぐ行くよ。事情は宇佐美さんと…すみれさんが話してくれるから。」 「でも、あれいいの勇太?」  ヴォ―ボモンが指を指した方向には同じはたまた別のクラスの学生が入口から顔を覗かせていた。 「いや、爆発音みたいなのが聞こえたからついに愛想つかされて振られたのかと…。」  遠からずのところを見られたと思い勇太は殴られた後をさすりながら苦虫を噛み潰した顔をした。    東京都千代田区にあるデジタル庁対応特務室は過去の選ばれし子ども達デジモンとの共生を目的とした組織となっている。現実世界に迷い込んだデジモンの保護たデジタルワールドへの移動の自由化、国民皆パートナー化を推し進めている。  特にここの組織だけであればさほど大きな話にならないが、ここに警視庁電脳犯罪捜査科が関わるとなると事が大きくなる。つまるところのデジモンを使用したハッカー等の犯罪 やデジモン単体の現実世界への災害が起きている事となる。しかも、勇太達部外の選ばれし子ども達を呼び出すということは人手の足りないような状況、切羽詰まった状況になっているということになる。 「日野君、よく来てくれたね。」  対応特務室という大仰な名前にそぐわない狭い一室。そこには閑職であるいつもの対応特務室とは比べ物にならない人がすし詰めになっている。けたたましく電話が鳴り響きそれに対応する人間でまるで学園祭当日前夜の騒がしさであった。ひとを掻き分け大柄で厳つい見た目の男が出迎えてくれた。  男の名前は宇佐見 京一郎。対応特務室配属の職員、厳つい見た目に似合わず繊細で優しい男である。その威厳ある顔立ちは40代であるがまだ20代である。 「あっこれが連絡した確保したデジモンです。」  勇太はバックからヴォ―ボモンと一緒に引っ張り上げる。 ヴォ―ボモンがしっかり押さえつけてるのもあるが影のデジモンは大人しくしている。 「これが勇太君が捕獲したデジモン。デジラインで確認してたけどやっぱり。」  京一郎の横から妙齢の婦警が神妙な面持ちで影のデジモンを見る。警視庁電脳犯罪捜査科の鳥藤 すみれ。いつもの快活な表情ではなく深刻な面持ちであった。 「あら!勇太ちゃんいらっしゃい!飴ちゃん食べる?あら?そういえば光ちゃんは?」  すみれのパートナーデジモンであるシンドゥーラモンはいつもの調子のようだ。 「ええぇ…まあちょっと。」 「あら!?喧嘩ぁ!?夫婦喧嘩は犬も食わないわよ!でもそれも若い頃の特権よねぇ!!おばちゃんも昔は「シンドゥーラモンちょっと黙ってて!」  すみれは苦虫を噛み潰した顔でシンドゥーラモンをどかす。京一郎も咳払いをして話を戻した。 「とりあえずそいつはこちらで確保するよ。あっ葦原さんこいつお願いします!」 京一郎はドウモンと腕を組んでいるサングラスを掛けた男性に影のデジモンを渡す。 「とりあえずこっちの会議室来てそこで説明するから。」 ひとを掻き分け入った小さな会議室では10数人の男女大人も子供も人間がここでもすし詰めになっていた。明らかにキャパシティオーバーである。 勇太は端の方に小さく収まった。お堅そうな長髪の女学生に一瞥される。 「それではこれから皆さん。選ばれし子ども達に集まっていただいた理由を説明します。」  京一郎とすみれがPCをつけ説明を始める。京一郎の頭には肩車をするように女の子とシャコモンが泡を出している。 「皆さんに送らせていただいた画像…そこの赤髪の少年が確保した今連れて来たデジモン。それは名称をアイズモン。1類の極めて危険性の高いデジモンになります。」 「危険って…かなり弱かったわよ?」  短髪のYUKIと書かれたTシャツの少女が答える。 「一体、一体ならその通りです。こいつは、データを無尽蔵に喰って肥えた分だけ強力になります。強力に育った個体はデジタルワールドに街ひとつを想像して物質化するほどの力を持ちます。  ですが、基本デジタルワールドから出てこないし出てもデータが喰えずに貧弱です。」 「なら確保しましたし、大丈夫じゃ…。」  フーガモンの隣に居る茶髪の長いスカートのセーラー服の女性が質問する。 「…問題はここからです。ただのアイズモンが現実世界に出現したのなら如月さんが言った通り確保してしまえば問題はないです。 ただ、こいつは人工的に調整を加えられています。」 「調整…。」  レオモンのマスクを被った半裸の漢が呟く。 「まず前提として、こいつには別のデジモンがジョグレスされています。  このパソコンの画像を見てください。こいつがジョグレスさせられているシェイドモンです。」  そこには黒い影に赤い瞳のデジモンが表示されていた。 「…」 「…」 「…同じじゃないですか?」  ビクトリーな中華っぽい見た目のデジモンの隣にいる銀髪の少女が呟く。 「…こいつは人やデジモンに憑りついて負の感情を喰らってエネルギーにしている。この特性が加えられてデータや人間を通じて情報を蓄えられるようになっています。」  全員からの冷ややかな目線を無視して京一郎は続けた。 「我々も既に数体アイズモンを確保し、データを分析しています。 分析の結果、こいつは女王を中心とした蟲の様な生態をしていました。今回の主犯と一緒にいるであろう女王から3種に別れています。  ①ネット上に散らばって情報…主に今、確認できているものはSNSのインプレッションを喰って情報を蓄えています。  こいつらはワーム型のウィルスで感染…というかこちらがリアクションしなくても勝手にセキュリティを突破して個人情報を奪取し拡散しています。  その拡散した情報でインプレッションを稼ぎその情報を喰っていますね。」 「宇佐美ちゃんが猫カフェ行ってる画像もばら撒かれたたわね~あれは「シンドゥーラモン。」 「…に…②現実世界に出現し人間に憑りつく。シェイドモンの特性がここで出ていますが、こいらの瞳には催眠性の電磁波が出ます。何人かは体感していると思いますが、これを浴びると捕まった人間の不安感に付け込みその人間が望む情報を読み取り①のアイズモンを通じて与えます。その欲望を喰っているようです。」 「わざわざなんでそんな調整までしてるのんだよ。」 「サト君。おじさん話してるからしっ。」  黒色のリリモンの隣のいがぐり頭の少年が尋ねる。 「情報量としては人間のオーガニック的なものの方が多いみたいだね。とにかく①②でデジタル、リアルの両側面から情報を片っ端から喰っています。」 「そして③その情報を①とは別のデータ上のアイズモン達に送り強化しつつ様々なセキュリティを突破しています。そこを通じて①のアイズモンが情報を奪取しているようです。」 「我々が発生が確認したのが午前9時46分。面目ない事に対処が遅れました。アイズモンは本来1体が基本で周辺のデータを喰らう際に分裂するが調整されたアイズモンみたいに拡散することはない。今言った通りこいつは蟲みたいに爆発的に拡散している。現実世界では30分毎に2乗。デジタル上では1分毎に2乗の速さで増えて散らばっている。」 「は?」 「増殖速度はどうやら据え置きみたいだが、情報を喰う毎に③のセキュリティを突破する力が増しています。11時半頃から一部企業や著名人の個人情報がばら撒かれはじめて大騒ぎになり始めています。こちらの動画をご覧ください。」  動画は通行人が撮影したクロス新宿ビジョンであるがそこに映し出されていたのは巨大な渦巻き状の…ウンコだった。 『ユキちゃんウンチだよ!ウンチ!!』『大きな声出すんじゃないわよ恥ずかしい!!』 「下品ね…」  勇太の隣にいる紫髪の女性が呟いた。 「宇佐美君もうちょっとこう…あるでしょ!事は深刻なのよ!!」 「し…失礼しました。緊張を解そうかと…そしてアイズモン達は発見初期の段階から各省庁…原発、果ては各国のICBMにアタックをしています。」 「…マジで深刻だけどウンコからの落差が酷い。」  シャザモンを肩に乗せたピンク色の大きなリボンをした女性が頭を抱えて呟く。 「…そこで皆さん。選ばれし子ども達にはそれぞれの適正に合わせてネットもしくは現実世界のアイズモンの撃破をデジタル庁特務別室及び警視庁電脳犯罪捜査科から依頼します。①及び②のアイズモンは現状成長期から強くて成熟期です。位置も分析から割り出せています。  基本的に現在、現実世界のアイズモンは東京都内のみ。それ以上で確認できたのは日野君が発見した埼玉県が最長です。一部の危険なアイズモンは既に先発のこちらが選出した方々に対応してもらっています。  もちろん強制ではありません。上がうるさく片っ端から呼ばせていただきましたが皆さんはあくまで一般人。本来だったらこんなお願いすること自体が間違いですから…」 「質問だ。趣味じゃねえが主犯を袋にするんじゃ駄目なのか?」  緑髪リーゼントの学ランの男が質問する。 「主犯は推定ですが目途を着けています。正直アイズモンなんて足元に及ばない危険な人物です。使役しているデジモンも強力な究極体です。そちらは私達、警視庁電脳犯罪捜査科で対応します。」 「それに、アイズモン達はそれぞれの3種のコロニー毎に頭がいます。アイズモン達自体の構造がどこかしらが機能を停止すれば全体に波及すると考えています。そちらにも既にこちらが選出した方に対応をお願いしています。あくまで皆様にお願いしたいのは被害の拡大を防ぐ事です。」 「どうか我々に力を貸してください。」  京一郎とすみれは深々と頭を下げた。  最終的に8割程の選ばれし子ども達が残った。  ただ、離脱したの殆どが戦闘に不慣れであったり、成長期以下のデジモンがパートナーの者であった。  「こちらの外付けのデバイスをデジヴァイスに装着してください。そうすることでアイズモン達の位置がある程度でありますが把握できます。皆さんに対応してもらうのが青の印のアイズモンです。赤は戦闘力があり、基本的に警察と協力して人払いをしながら対応しています。近づけないとは思いますが絶対に戦闘を避けてください。」  特務別室の職員から子ども達は外付けのデバイスを受け取る。装着すると確かにデジヴァイスはマップを表示した。  勇太は現実世界のアイズモン達の撃破に参加する事になった。  「そういえば鬼塚さんと一緒だと思ったのですが、申し訳ありません。日野君から連絡を取ってもらえますか?」 京一郎が申し訳なさそうに頭を下げる。 「え、えぇ」  勇太は気まずいとも思ったが状況が状況だと諦めスマホを取り出し、一瞬躊躇をするが連絡先の鬼塚 光の文字を押す。 「あっ…光さっきはごめん。ただ今一大…」 『ね?知りたい?』 「うお!?」  アイズモンの声に勇太はとっさにスマホを投げ飛ばしてしまう。叩きつけられたスマホは画面にヒビが入ってしまった。 「あぁ…。嘘だろ。マジか…。」 「京一郎これって…。」  ヴォ―ボモンが京一郎を見る。 『『『『『ね?知りたい?』』』』』 「嘘だろ…。」  アイズモンの方向に勇太達が振り向くと特務室の電話からアイズモン達が湧き出ていた。数人の職員がアイズモンに憑りつかれたのか瞳を赤くしている。 『同僚の須藤 公子の羽振りがいいのは終業後にコンカフェでアルバイトをしている。』  「庁内放送から!?」 『あのひとの部屋はとても汚いからあなたを呼んでくれない。』 『あいつ、気取ってるけど未だに母親の事ママって呼んで…』  特務室の受話器から様々な秘密を暴露するアイズモン達の声がする。  「中継基地がやられたのか。日野君ここは私達がどうにかしますので行ってください。」  廊下からアイズモンがぞろぞろと湧いて出てくる。さながらゾンビ映画の様相であった。  「キョ―イチローこっち手伝ってヨ!」  京一郎のパートナーデジモンのテリアモンの悲痛な声が聞こえる。  『宇佐見 京一郎の初恋の相手は「ぬああああ!!!!!テリアモン進化あああああ!!!!」  京一郎の絶叫と共に特務室から進化の光で包まれる。  勇太は一瞬唖然とその様子を見ていたがすぐに切り替えし廊下の窓を開ける。  「行くよ!ヴォ―ボモン!」  「えぇ…あれやるのぉ…!?」  勇太は窓に足を掛け勢いよく5階の窓から飛び降りた。  「勇太早いよ!」  遅れてヴォ―ボモンが飛び出す。空中で勇太はヴォ―ボモンの足を掴み滑空する。  「勇太昔は軽かったのにぃ…!」  ヴォ―ボモンが愚痴をこぼしながらなんとかバランスを取って緩やかに旋回して降りていく。  勇太がデジタル庁を見ると同じように窓から飛び出しているデジモンと子ども達が見えた。その直後に京一郎とすみれの絶叫と共に爆音と雷の光が見えた。  街頭テレビに目を移すと大物俳優がパワハラをしている様子や未成年アイドルが番組の打ち上げなのかプロデューサーと言いつつタバコと酒をあおっている。映像などが流れている。更には…  『警視庁に内部データをアップロードしたドライブへのアクセスURLは…』  「京一郎さんがさっき言ってたことは誇張でもなんでもないこのままじゃ…」  地上に降りた勇太達を見る者は誰もいなかった。皆街頭テレビやスマホを見ている。  勇太のスマホのSNS通知音が連続でする。通知を見てみると拡散された情報に対してのリアクションが表示されている。 「きゃああああ!!」  声の方向に勇太達が目をやると女性の携帯からアイズモンが憑りつこうとしている。 「ヴォ―ボモン!」 「うん!」  アイズモンに向かったヴォ―ボモンが素早く距離を詰め蹴りを喰らわせてアイズモンを分解する。後から勇太が追い付き倒れている女性に駆け寄る。 「大丈夫ですか!?」 「な…なにあれ!?…それにあんた達も!?恐竜!?」  勇太はとりあえず尻もちを付いてる女性を起き上がらせて慌ててしどろもどろに弁明をする。 「え…えぇっと!…あの…ショ…ショー!!です!!V…AR的なあのデモというか!!ご迷惑をおかけしました!!!」  勇太は慌ててヴォ―ボモンを抱え上げその場から走り出した。後ろから女性の説明を求める大声が聞こえた。 「とりあえず今みたいになんとかしつつ数の多い新宿を目指そう!」 「分かった!」 「京一郎さんが言ってた通りアイズモンも弱い。成長期で十分だし目立つし進化はなしだよ!」 「えぇ!?このまま走るの!?」 「それまでおぶってあげるから…行くよ!」  勇太はヴォ―ボモンをおぶり走り出す。先ほどと打って変わり湿度が身体に纏わりつくのが実感できた。それを見上げると暗い。そろそろ雨が降り出す。  新宿に向かう道中ではそこかしこで問題が起きていた。 アイズモンの情報を元になのかカップルが浮気を問い詰め口論をし、電光掲示板に痴漢をしている奴はここ!と映し出され、自警団系のデジチューバーがそれを元に騒ぎを起こしている。  他の選ばれし子ども達となんどか合流したり見かけたりしたが、どちらかというと憑りついたアイズモンを引き剥がしたり撃破する以上にそれに追随している人間と揉めて苦労しているようであった。  勇太も例に漏れずヴォ―ボモンに詰め寄る配信者であろう人と引き離し、推しているホストが別の女と同棲してたと泣き崩れる女をなんとか慰めたり、推しているVデジチューバーに彼氏彼女がいた!と暴れ回る人となんとか宥めたりで新宿区に着く頃にはげっそりとした面持ちになっていた。 「ひとって色々あるねヴォ―ボモン…。」 「元気出してよ勇太…。まぁうん…。」  勇太を励ますヴォ―ボモンの声も覇気がない。戦っている方がまだ元気があるように見える。  「それにしても、全然納まる気配ないね…赤い点もずっとあ…あれ?」  デジヴァイスを確認すると先程までと別の個所に赤い点が見える。そして、数が増えているような気がする。  「あれ?勇太、なんだろうこの人だかりデジヴァイスにはアイズモンの位置は表示されてないし…。」  人だかりを掻き分けていくと道の真ん中に巨大な樹と檸檬のオブジェ?があった。材質はどうにも無機物のような粗さがある。3Dプリンターからそのまま外してバリが残ってるような感じであった。  轟音がする。音の方を勇太が見上げるとそこには電車とSL機関車が正面から衝突していた。SL機関車を見ると樹と檸檬と同じ質感をしている。 「強力に育った個体はデジタルワールドに街ひとつを想像して物質化するほどの力を持ちます。」  勇太の脳裏に京一郎の言葉が思い浮かぶ、デジヴァイスがけたたましい異音を発する。目をやると地図に赤い点が…すぐ目の前に出現していた。  きな臭い気配を勇太は感じ冷や汗が出てくる。それと同時にヴォ―ボモンが何かを嗅ぎ取って目を大きくする。 「…勇太!僕がみんなの前に出る!!進化させて!!!」 「なに言って…」 「この樹と檸檬から火薬と気化してるガソリンのの臭いがする!!!!」 「!…ヴォ―ボモン進化!!!」  勇太はデジヴァイスを掲げ叫ぶ。それと同時に5秒と表示された電子時計が檸檬から現れた。 「ラヴォ―ボモン!!!」  ラヴォ―ボモンの進化と同時に檸檬と樹が爆音と炎をまき散らし炸裂した。ラヴォ―ボモンの巨体が背後の人間を庇い爆炎を堰き止める。衝撃で電線が破裂し火花を発する。窓ガラスは振動し幾つかの物は衝撃に耐えきれず砕け散っている。数秒の後、爆風で少し後ずさりするもののラヴォ―ボモンは倒れず爆炎を受け止めきった。 「大丈夫!?」 「僕は大丈夫勇太。それより前を見て。」  勇太はラヴォ―ボモンの左肩に乗る。四足歩行からラヴォ―ボモンが立ち上がり前を見ると恰幅の良さそうで神経質そうな男に憑りついているアイズモンがいた。  そのアイズモンは今までの大きく翼を広げた悪魔の様な姿ではなく全身に目を持つ巨大な黒い獣の姿であった。  その巨体に引き寄せられるように今まで見て来たアイズモンが近寄り、獣のアイズモンの身体に触れたのち身体をくねらせながら中へ入って吸収される。その様子は卵子に群がり受精する精子のようであり、その光景に勇太は生理的嫌悪を覚え眉をひそめた。  全ての翼のようなアイズモンが獣のアイズモンに吸収されるその数秒間爆炎の衝撃と異様な光景へのショックもあるだろうがその場にいた誰もが動けずにいた。  ぴちぴちと液体音がする全ての吸収が終わった数瞬の後 「が゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」  獣のアイズモンのノイズと獣の低い咆哮が混じった爆音にその場にいた全員が動きだす。  皆パニックになり獣のアイズモンを背に逃げ出す。押しのけ合い、中には子供を弾き飛ばす者もいた。たかだが数十人の群衆であったがその醜悪な逃走劇はミクロな陰惨な地獄であった。  その中で勇太とラヴォ―ボモンのみが獣のアイズモンに向かい歩を進めた。  獣のアイズモンとラヴォ―ボモンが衝突し組み合う。その衝撃は地面のコンクリートが弾き飛ばし両足に小さなクレーターを作る。獣のアイズモンがラヴォ―ボモンの右肩に噛み付く。ラヴォ―ボモンは苦痛の咆哮を上げはしたががっちりと抑える。  「今だ勇太!」  勇太はラヴォ―ボモンから飛び降り、獣のアイズモンが取り付いている男に駆け寄る。飛び降りる数瞬、勇太はアイズモンを一瞥したがアイズモンの幾つかの目はラヴォ―ボモンも見ていたが、他は勇太を凝視していた。その瞳孔が開いたような四白眼の瞳達は勇太から目を離さず追いかけていた。  生物的な蛙を睨む蛇のような威圧感と纏わりつく寒気。しかし、勇太を追うその動きは機械的に一律でありひたすらに不気味であった。  勇太は瞬間その瞳に怯んだが恐怖を頭の隅に置き足に力を籠め邪念を踏みつぶし振り払うように駆け、目線を後ろの獣のアイズモンを見ず男だけに集中した。  男に近づこうとすると勇太が予想していた通りその無数の腕が勇太を捕まえようと向かってくる。  顔目がけて飛んでくる手を速度を落とさないように姿勢を低くしなんとか避ける。バランスを崩しつまずくが何とか前に右手を伸ばし支える。右手首に激痛が走り顔をしかめたがすぐに手首を返しその力で更に前に歩を進める。 「当たったらすみませえええええええんん!!!!」  勇太は男の右頭後ろの獣のアイズモンの根元に向かいデジヴァイスを握りしめ殴りかかる。  デジヴァイスが光を放つ。男の右頬を翳めはしたが殴り抜けた部分がデジヴァイスの光で影と男を引き剥がした。  それに併せて獣のアイズモンの力が弱くなる。ラヴォ―ボモンは獣のアイズモンを引き剥がし右手に力を溜める。  急速に高熱を帯び赤く変色しついに炎を纏った。 「燼滅手(バーニングフィスト)!!!!!!!」  獣のアイズモンの口に燃える右手を突っ込みそのまま右手のみで持ち上げる。ラヴォ―ボモンの咆哮と共にそのまま右手が炎を放ち獣のアイズモンを断末魔と共に焼き尽くした。  アイズモンに憑りつかれた男はそのまま倒れ込のを勇太は抱えて留め端に寝かせた。男はうわごとで不安だと抑圧繰り返していた。勇太はそれを見て爆発のあった地点を眺めた。 「勇太!大丈夫!?」 「ありがとう!助かったよラヴォ―ボモン。」  勇太にラヴォ―ボモンが重い音を立て駆け寄る。 「でも、なんでデジヴァイスは見てたはずなのに…」 「アイズモンはただの働き蟻じゃない…きっと進化する兵隊蟻みたいなものなんだろうね…。京一郎さん達と連絡が取れないから解析について確認しようがないけど甘かったのかそれとも…。」 「意図的に分かる情報と隠している情報があった…。」  勇太は先ほど光と連絡が取れなかった事に安堵した。状況があまりにもきな臭い。静かになった今だが分かるが遠くで爆音がしている。デジヴァイスに表示されている赤い点も数が増えていた。こんなところに光を呼んでしまえば危険に巻き込んでしまう。 「!…勇太アレ!」  ラヴォ―ボモンが指し示す方向に煙でよく見えないが人…女性がいる。 「光の匂いだ勇太!…デビドラモンも多分いる!」 「えっ?」  言ったそばからか勇太達は頭を抱えつつ光の方へ向かった。 「光!デビドラモン!」 「光!聞こえないの!?」  煙が舞い一瞬視界が遮られる。視界が晴れた時にはそこには誰の姿もなかった。 「確かにいたはずなのに…。」 「ほんとに光だった?」 「間違わないよ光もデビドラモン普段から嗅ぎ慣れている匂いだし間違わないよ。」 「…この先は暫くは瓦礫とかで一般道だ。急げば追いつけるはずだよ。」  勇太はラヴォ―ボモンに乗り追いかけた。 この先は勇太と光がデジタルワールドへ旅立った広場であった。  暑さと湿気がが絡みつきコンクリートから雨の匂いがする。首筋にも涼しい感覚があった。  雨が降り始めている。  獣のアイズモンとの戦闘によりいなくなっていった人も広場に近づくにつれて増え始めていた。  そして、同時にオブジェの数も増えていく一方だった。オブジェは一律に無機質な質感と3Dプリンターから無理矢理外したような粗さが残っている。形は全体的に暴力的なものを連想させるものであった。具体的なものでいえば子供の落書きのような形での強姦しているものや悪魔の姿をしたもの刃物、洪水など、どこか出力された者に根付いたもののように思える。  抽象的なものは形容し難い、よくいえば美術館で見るような抽象画、悪くいえば画面のバグでできたものか落書きとしか言えなかった。  「さっきみたいな爆発しそうな臭いはしないよ。」 「そっか。ただ、青だけどアイズモン自体の反応は結構ある。光に合流したら早めに片付けないと…やっぱり進化しているようにしか思えない。あ、ラヴォーボモン一回ヴォーボモンに戻ってくれる?人がチラホラ見えるし合ったら大変だよ。」  ラヴォーボモンは頷きヴォーボモンへ退化する。それを勇太はまた鞄へ入れ走り出した。呼吸が荒くなるのが走っているのとはまた別のものの所為だと勇太は薄々気付いた。嫌な予感がする。経験則からくる不安なのかこういった時の予感は大体的中する。  広場に着くとそこには光の姿が見えた。 「光!」  勇太は駆け寄りながらも周辺の違和感に気付いた。これだけの騒ぎなのに広場にいる人は動いていない。平時ならありうるかもしれないが、この状況では明らかにおかしい。アイズモンが関係していると考えてまず間違いないはずだ。  光は運動神経が良くない。勇太が100m走を12秒で走るのに対して光は20秒以上かかるし体力もない。勇太がヴォ―ボモンを担いでいたとしても先ほどの位置からここまで差が出る事はまずありえない。  ヴォ―ボモンもその違和感に気付いているのか勇太共々警戒をしているようであった。 「こんなとこでなにやってるの光?光も京一郎さん達の話うを…」  光は俯いていて表情が読み取れない。勇太が光の肩に手を置こうとした瞬間上空から勇太目がけ黒いの塊が殺す勢いで降ってきた。 「勇太危ない!」  間一髪でヴォ―ボモンが勇太を蹴り飛ばして回避させる。  だが、ヴォ―ボモンが代りに黒い物の下敷きとなった。 「デビドラモン!」  勇太がデビドラモンに気を取られた瞬間に光が顔を上げ勇太の胸倉を掴み持ちあがた。光にこんな力はまずありえない。顔を見ると左顔面を覆うようにアイズモンが侵食していた。デビドラモンも身体にアイズモンが寄生虫のようにそこかしこから身体を出している。 「クソっ!やっぱりかよ!?ヴォ―ボモン!広場には人がいる!空だ!!」  勇太のデジヴァイスが輝きを放つ。それに呼応してデビドラモンの下からも光が溢れ出した。 「ヴォ―ボモン進化!ラヴォ―ボモン!!ラヴォ―ボモン超進化!!ラヴォガリータモン!!!」  ラヴォガリータモンがデビドラモンを持ちあげながら高速で飛翔する。デビドラモンへの腹部への攻撃にもなり抵抗できずにいた。  それを光は目で追いつつ勇太を地面に叩きつけそのまま引きづるように投げ飛ばした。 「うぐ!?!??」  光は上空で戦うデビドラモンを見据えデジヴァイスを掲げた。 「デビドラモン進化。レディーデビモン。」  光の声にアイズモンのようなノイズが加わっていた。淡々と喋る光の声と合わさり不気味なものとなっている。光がアイズモンに深く侵食されている事がそこから伝わってきた。 「よくも…光を…!光を離せ!!!!」  光は勇太の方を振り向きにたりと笑いまた空を見上げた。  こちらに追撃をしてこない?勇太は光…アイズモンのその行動に違和感を覚えた。アイズモンが取り付いている今の光なら簡単に勇太を殺せる筈なのにそうしようとしない。いや、手が小刻みに震えアイズモンが伸びようとしてまた引き戻る事を繰り返している。 「拒絶されてる…?」  勇太は無意識に呟いていた。  ビルの隙間をレディーデビモンが空を駆ける。それを追うようにラヴォガリータモンが飛行する。  速度ではラヴォガリータモンが上だが、その巨体でビルの合間を縫うように進むとなると小柄で小回りの利くレディデビモンが有利であった。 「ダークネスウェーブ!!!」  加えてビルにいるであろう人間を庇いながらラヴォガリータモンと躊躇せず攻撃をするレディーデビモンでは勝敗は端から決していた。  そもそもが勇太が提案した上空での戦闘は、地上では動けないという消極的な理由による云わば避難であった。そこには元より打開策はなく勇太、ラヴォガリータモンが突破口と思っていたものはラヴォガリータモンが瞬間的な破壊力でレディーデビモンを上回るというスペックに頼ったものであった。  だが、それもラヴォガリータモンがレディーデビモンに旋回、距離を開く事を許した時点でがその小柄さを利用した戦法を取られるのは自明の理であった。  この勝負、一番最初のラヴォガリータモンがデビドラモンを打ち上げた際に決着を着けられなかったことで決していたのであった。  後は如何に消耗を抑え、このラヴォガリータモンが傷つくだけの掴まる事のない鬼ごっこを続けるかであった。  勇太が更に究極体へ進化させるには距離が遠すぎるし、犠牲者も出る。それをレディーデビモンは理解しているしその状況を人質にしている事は明確であった。  もし勝算があるとすれば…唯一は、勇太が以下にしてアイズモンを光から引き剥がせるかであった。  勇太が光に近づくとアイズモンはそれを阻止するように勇太を弾き飛ばした。勇太が光に触れられる程接近したのは最初に声をかけた時であった。  後は、近づこうとすれば弾き飛ばされる。だが、それ以上の追撃はない。あくまで弾き飛ばすだけであった。  規律的で弛緩した動作を繰り返す状況。勇太はこの状況に覚えがある。いじめっ子に立ち向かう際に体格差に弾き飛ばされる。関節技を入れられる。お互いが引くに引けない状況で一定の動作を繰り返す。継続する。物事が進展しないで苦しい時だけが続く、勇太が最も苦手で嫌いな状況であった。  こういう時に勇太がとる行動は痛みやストレスによる状況で考えがまとまらないのもあり、一つだけであった。  状況打破のための特攻じみた根性によるより苦しい状況へ相手の懐へ突っ込む事。この事で何度光を泣かせ、怒られたか。一瞬の走馬灯の様な思考の逡巡の後、それでも勇太は腹を括り前歩を進めた。  それに対応し弾き飛ばそうとアイズモンは腕を伸ばす。  ただ、今度は避けるのではないその腕を捕まえるためにだ。勇太はアイズモンの腕を脇腹で受けがっちりと腕で挟み込んだ。弾き飛ばされる筈の勢いが勇太の全身に伝わる。一瞬だけ意識がなくなった気がしたが、身体がアイズモンの腕のしなりで宙に浮いた後、地上に落ちる衝撃で意識を取り戻す。一瞬の弛緩があったがそれでももう一度力を握りしめる。  アイズモンの引き戻す動作で引き摺られつつも接近する。その数瞬の出来事はアイズモンにとっても予想外であったのか通常の引き戻す動作をしてしまい勇太が光に接近する事を許した。  引き摺られた勢いをそのままに勇太は跳躍し、一気に光との距離を詰めた。 「光ぃいいいいいいいい!!!!!!」  デジヴァイスが輝きを放つ、勇太はデジヴァイス握りしめアイズモンが光から出ている胸の部分へ殴り抜けるように掲げる。 『来ないで!!』  聞こえたのは光の声であったような気がする。デジヴァイスで途切れたかのように見えたアイズモンは即座に修復し、勇太の身体を網上に貫く。  貫いたアイズモンに触れて、侵食される感覚と一緒にアイズモンを勇太も掴める事が感覚として理解できた。 「これなら…!光を離せええええええ!!!!!!」  勇太は掴んだアイズモンを自分の身体へ手繰り寄せていく。  『どうしてそんな事するのよ!』『私に触れないで!』『あんたはどうせ自分だけが正しいと思ってるんでしょ!』『今までのは全部嘘だったの!?』  勇太にはまた、光の声が聞こえたきがした。それは拒絶の声であった。  手繰り寄せたアイズモンは全て光に戻り、勇太はそのまま弾き飛ばされた。 「くそっ!」 「時間だよ。始まるよ。」 「えっ?」  光、アイズモンが呟く。その瞬間に周辺にいた人々がデータ状に分解され渦を巻き始めた。 「レディーデビモン進化。」  空中で爆音が響く。勇太の目の前にラヴォガリータモンが落ちて来た。それと一緒にけたたましい叫び声と一緒に何かが降ってきた。耳を劈くような声に勇太は耳を抑えた。ビルのガラスが割れ飛散する。  降り立ったものは四足の足に翼と山羊の頭を持つデジモンガルフモンであった。 「またデビドラモンがこいつに…!」 「勇太ごめん…負けちゃった…。」 「いいんだ俺の方こそごめん…。」  勇太はラヴォガリータモンの頭を撫で庇うように前に出る。  分解された人々は渦状から形になっていく。 「デジタマ…?」  それは勇太と光がデジタルワールドへ旅立つとき目にしたものと同じであった。 「あ、がっあぁぁぁ!!!」  光の身体をより深くアイズモンが侵食していく。 「光!!!今行く!!!!!!」 「駄目だ!勇太!!!本当に死んじゃう!!!!!」  ガルフモンの周辺から荘厳な世界の終わりを告げるラッパのような音が響く。近づこうとする勇太の意識が一瞬で遠のきその場に倒れ込む。  薄れる視界でガルフモンの四足部分にある口が開きエネルギーが溜まっているようであった。 「死…ひ…か…」  ガルフモンの光線を掻き消す光が勇太の前に降り立った。 「りょう…まさん…」  薄れる意識で目の前に捉えたのは三上竜馬 鉄塚クロウ 三下慎平の3人であった。  「竜馬!いきなりチンチロモンになるんじゃねえ!ビックリするだろ!」「…」「いいから、デジヴァイス出せ!まだ寄生先の鬼塚から引き剥がせば…え?俺達であれやるの?」 「うおおおおおおおおお!!!」「突撃すんな!!!」「マトリックスエヴォリューション」「いきなりすんな!!!」  勇太の意識が落ちていく。 「勇太君と鬼塚さんって付き合ってるの?」 「まぁ、そんなところね。」  ほんとは婚約までいってるくらいだけどね、勇太にはずっと一緒って言ってもらったわけだし、責任は取ってもらわないと。 「でもさ…鬼塚さん昔…売りやってたって…」  また、その話?もう終わった事なのよ。 「あなたに私の何が分かるのよ!!!」  分からないよ。だって私ママじゃないもの。 「おばあちゃんもジジイもあの女と一緒よ!あんた達に私の何が分かるの!!私を傷つけないで!!他人の癖に!!!」  あの時、あそこに行けば何かあると思っていた…。 「あんた達と一緒にしないでよ!私は違うの!!」  結局自分が受け入れようとしなければ、他人だって受け入れてくれない。 「気持ち悪い…。」  自分や周りの子供とは違う腐りかけている肉の臭いと脂の臭いがする。あの男…雄と同じ臭い。生きるため、そもそも自分に価値なんて初めからないのだからこの行為だって周りが語るような重要で神聖な事ではない。私の周りにいる人間だってそうなのだから。それを確かめるように腐りかけの肉に身体を許した。自分に価値があるならこんなに傷つけられこうしている事もなかった。 「いい訳ね。自分がここにいる事を認めて欲しいからこういう事するのよ。」  死肉の中でも身体だけでも価値があると認められたかった。どこかで自分が求められるのが嬉しかった。  こんな奴らじゃない。 「おい!鬼塚さん困ってるだろやめろよ!」 「余計なお節介なのよ!何!?感謝されたい訳あんたのヒーローごっこに付き合う気はないのほっといて!!」  他のみんなの前でいい恰好したいだけなんでしょ。少しでも拒否すればあんただって…他の奴と一緒よ。嬉しかった。なんの関りもないメリットもない。別のクラスの男子。ただ、見かけただけで助けてくれた。でも、怖い。メリットのない相手にひとがどれだけ優しくできるの。そんなの親くらいじゃない。 「前も言ったよな!それ鬼塚さん泣いちゃうからやめろって!!」  泣いてない。見透かさないで。なんでこいつ私なんかに…。私の事見捨てないの? 「あっ…えっと鬼塚…さんだよねっ俺同じクラスの…「っ…誰あんた?なにナンパ?キモ…話しかけないで…」  見ないでよ…。もう学校にだって行っていない。ほんとに日野とは関りなんてないのになんで…。 「日…勇太!…誰か助けて!」 「ひっ!なにこの化物!!?やめて!離してこんなのの近くに寄せないで!!!!」  黒い身体。獰猛な性格。でも、伝わって来るのはこの化物が自分である事。デビドラモンを拒絶したのは恐怖以上に自分がここまで醜くなっていた事に。 「う゛う゛う゛う゛う゛…」  それなのにあんたはそうやって勇太に…他人に素直に甘える事ができるのね。自分がどれだけ醜い存在なのか。 「…いやよ…いや!!なんで私があのバカコンビのために行かなきゃいけないのよ!!絶対行かないわよ!!」  それでもここでは自分自身が必要とされているデビドラモンのおまけであるが。ヴォ―ボモンが進化できるようになたっら、また見捨てられるのかな?嫌だ…誰かにまた見捨てれるなんて…。  あいつだってそうだ。きっと自分が見捨てれるのが怖いだけなんだ。だから必死で自分がここにいていいと思い込ませるために。あんたにはあたしがいればいいじゃない。 「なんでもいい…ヒーローになれなくれも…それでも誰かが…泣いてるのに…助けを呼んでるのに何もしないなんて…!」  なんであんたは…。私は…私も。 「あ「ねえこれで私達と離れられてせいせいする?」  嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。 「へ?なんで?」 「なんでってあんただって進化できるようになったわけだし私なんかと一緒にいたくもないんでしょ…」  心臓が早鐘のように早くなる。自分は見捨てられる。当たり前の事実の前に死刑宣告を待つ被告人のように平静を保ちつつ倒れそうになる。 「そんなことないよ!鬼塚さんもデビドラモンもすっごい頼りにしてるし!それに俺達仲間だろ!ずっと一緒にいたいさ!一緒に帰ろうよ!…その鬼塚さんさへよければ…」  …あんたは、違うの。もしかして、私もあんたみたいに…いや、他人を受け入れていればおばあちゃんやジジイだって…本当は。でもこいつは、私を知らない。知ってしまえば。それでも受け入れてくれるの? 「分かんない…分かんないよ…俺…ガキだし今までそんな事なかったから…でも辛いのは…痛い事は分かったから…」  あんたは、勇太は…受け入れて。誰かが隣に居てくれるなら私はもう一度。 「俺は光が自分を信じられるまで絶対、一生でも傍にいて支える!!」  じゃあ、私が自信が持てるようになったら?  勇太に手を握ってもらいながら、少しずつ周りを受け入れていくと、周りも応えるように受け入れてくれた。  世界が少しずつ広がっているのが実感できた。  デジタルワールドから戻って、おばあちゃんやジジイに謝って…中学校はちょっと大変だったけど、勇太と同じ高校に行けて…友達もできた。私の過去を知っても受け入れてくれている。最初は嫌々だったけど勉強も楽しくなった。新しい事を知れるのがこんなに興奮する事なんて知らなかった。  徐々に勇太とは違う時間も増えてきた。 「俺は光が自分を信じられるまで絶対、一生でも傍にいて支える!!」  もう大丈夫。例え勇太と離れる事になっても前のように全てを投げ出すことはない。今ならおばあちゃんやジジイ、友達からの善意も愛も信じられる。降りかかった呪いも全部受け入れて産まれてきて良かったと思える。  じゃあ、勇太はもういらないの?  勇太も私の事いらないの? 「勇太君と鬼塚さんって付き合ってるの?」  … 「ずっと日野君付き合わせて、日野君の人生だってあるはずだよ。」  勇太はずっと私と… 「日野君に聞いたの、鬼塚さんと付き合っての?って、そしたら違うってさ。」  …そんなこと。 「じゃあさ…私と日野君付き合ってもいいよね?明日もう一回聞いてみてさ。違うっていうなら。いいでしょ。鬼塚さんはさ。三条でいいじゃん。あいつモテるしさ。鬼塚さんいいって。」  …勝手にすればいいじゃない。勇太はそんな事… 「…えっと…俺と光…その…えっと付き合ってないよ。」  …え?  じゃあ、勇太はもういらないの?  勇太も私の事いらないの? 「ひかり…!!!」  勇太が目を覚ますとそこはどこかのオフィスであった。避難したのか誰もいない。外では雨が強さを増していた。クーラーを着けるために窓を閉めているにも関わらず雨音がする。  悪夢を見ていた気がする。冷や汗で背中に水の感覚がある。アイズモンと繋がった時に光の感覚も… 「そうだ、光!!!痛っ…」  ぼやけた意識が痛みによって一気に覚醒する。 「ここは?あの時ガルフモンに向かって…ヴォ―ボモンに…竜馬さん達は…」 「勇太良かった!!目が覚めたんだ!!」 「おお!目が覚めたか!心配したぞ!勇太!」 「ほら水持ってきたぞ飲んどけ。」 「ヴォ―ボモン身体擦りつけないで痛い痛い。クロウさんもそんな勢いよく頭撫でないですください禿げちゃいますよ。」 「たく、相変わらず無茶するガキンチョだな。ウチの無口な馬鹿とは違った意味で危なっかしいぜ。」 「すみません…あっ!!それで光は!!???痛たた…」 「言ったそばから…いいから落ち着け一から説明してやる。」  勇太に水を飲ませ、落ち着かせたところで竜馬達は経緯の説明をはじめた。 「…光は諦めろ勇太。」 「は?」 「竜馬ぁ!お前はちょっと黙ってろ!!いいな!話をややこしくするな!」 「俺から説明しよう!!!こうガッとやって!!!ぐわあああ!!ってなってな俺達はガルフモンにデジヴァイスをこうピカーっとな」 「?…???」 「クロウお前もちょっと黙ってろ。いいな。」 「勇太。俺から説明すっからな。いいな質問は最後に聞く。それまでは口を挟むないいな。」 「…はい。」 「まず、俺達があそこにいたのはお前と同じで鳥藤さんと宇佐見さんに頼まれたからだ。お前と違うのは俺達は第一陣と赤色の兵隊蟻になるアイズモンを倒すよう頼まれてた。 ただ、11時を越えたあたりで鳥藤さん達との連絡が切れた。竜馬がひとッ飛びして状況を確認したら第2陣のお前達が出発してから幾つか状況が変わったそうだ。 1つ、現実世界にいるアイズモンは人に憑りつく働き蟻に当たるアイズモンと兵隊蟻に当たるアイズモンの2種じゃなくて働き蟻のアイズモンが一定の量欲望を喰うと進化するみたいだ。 進化するとなんか獣っぽい見た目になって一気に戦闘力が上がる。そんで憑りつかれた奴の欲望や不安感とか負の感情を物質化する。そうすっとまぁ大体危険なもんが出来上がるわけだ。 分かってる当人達はそんな破滅願望全開で世界ぶっ壊してやるぜなんて厨二病やってるわけじゃない。 意識の主導権はアイズモンが握ってるし、利用されてる感情だって多かれ少なかれ人間そういうのあんだろ?別に悪い事じゃねえさ。 そんで時間が経つと周囲のアイズモンを取り込んであのデジタマを作り上げる。 お前助ける前に1個孵化したのを潰したが出てきたのは小さいブラックホールだったしな。竜馬がどうにかしなきゃ今頃日本全部お陀仏だったろうよ。」 「デジタマになったひとは…。」 「あぁ大丈夫全員無事だった。よっぽどお出しした何かに殺させたかったんろうよ。 んで、各デジタマには元になってる人間がいる。そいつらがデジタマを守護する役目を負っている。実力はどんなに低くても究極体並みだな…。 ただ他のアイズモンと同じでデジヴァイスで切り離せばデジタマも孵った訳分かんねえ兵器も消えちまう。 んで、2つ目デジタル上に行った連中が呼び戻せない。ゲードが閉ざされてる。セキュリティを破るアイズモンを撃退が優先したせいか強力な連中がほとんど無効に行っちまってる。せめて晴人とアルファモンがこっちにいてくれたら状況は全然違ってたんだろうがな…。 言ってもしかたねえし現実世界にいる連中でどうにかしねえとな。 今確認できてるデジタマは1個潰したから全部で12個。楽しいったらありゃしねえな。」 「じゃあここにいる場合じゃ…。」 「ウチの最高戦力のそこの無口馬鹿がバカスカ、チンチロモンになるもんだからこっちもクールタイムが必要だったんだよ。」 「…」 「ごめ~ん。」 竜馬の不満そうな視線と外からトリケラモンの声が慎平に向けられた。 「それで…光は…。」 「…お前さんがぶっ倒れた後3人でデジヴァイスの光を鬼塚に当てたがアイズモンは剥ぎ取れなかった…多分何か拒絶の意識があるのかもしれん。」 「…だから竜馬さんが言うように諦めろって事ですか。」 「…デジヴァイスをありったけ掻き集める余裕も今の状況と人数じゃ無理だ。」 「覚えがあります…俺のせいで…俺があんな事言ったから…。俺を拒絶してるんだと思います…。」 「人様の心を利用するふてぇ野郎だが今の俺達じゃどうにもできねぇ…すまねぇ。」 「…1つだけ方法があります。アイズモンを俺に憑りつかれさせます。そうすれば…。」 「あそこまでアイズモンが強化されたら、移してたとしても多分…。」 「それでも、別にいいです!その後、俺を殺せば!!」 「勇太!!駄目だって!!!」 「…お前本気で言ってるのか?」 「じゃあ、どうすりゃいんですか!?光を殺せって言うんですか!!!???そんなの!!行こうヴォ―ボモン!!」  勇太がヴォ―ボモンを抱えて行こうとする。 「駄目だよ!!勇太!!勇太が死ぬなんて!!僕行かないよ!!」  ヴォ―ボモンが暴れて抱える勇太を振りほどく。 「…っ。なら俺ひとりだって行ってやっ…ごふっ!!!」  勇太が吐き捨てる前に殴られた。 「…えっクロウじゃなくて三下…。」  竜馬が意外そうな顔で勇太を殴り抜ける慎平を見て呟いた。  そのまま慎平は勇太の胸倉を掴んだ。 「てめぇ!って奴は!クソっ前からな!おめえのそういうとこが嫌いだったんだよ!!!みんなの為とか言っておいて自分の考えを相手に押し付けようとする!!自分だけは、さも誠実みたいな振舞いをしやがる!!しかもそれを自覚してねえから質が悪い!!今のヴォ―ボモンの声が聞こえなかった!!おめえが死んだら家族は!!お前を殺す奴の気持ちは!!そんなことして後に残る鬼塚の気持ちをちょっとでも考えたことが…今まであったか!!!???自分を勘定に入れない事でどんだけひとを傷つけるのか!!自分のやる事が正しいから他人に理解されなくてもいいと思ってんだろ!!」 「じゃあ!!!どうすりゃいいんだよ!!!めそめそ泣いて何もするなってことかよ!!!こっちはどっちがマシか考えてるのがそんなにいけない事か!!!」  勇太が慎平の顔を殴り抜ける。怯んだがすぐに慎平が殴り返し殴り合いが始まったしまった。 「ちったあ!迷えって言ってんだよ!!!同じ結論でもな!迷う迷わないじゃ全然違えんだよ!自分の本音も弱さも受け止められねえ奴が軽はずみに命捨てるとか言ってんじゃねえよ!!」  慎平が勇太の股間を思い切り蹴り上げ、勇太はその場に蹲って小刻みに震えた。 「…それ以上はいけない。」  竜馬とクロウターゲットモンが青い顔で慎平を静止した。 「…わけねえだろ…。」  勇太が小さく呟く。 「あ?なんだって?」 「死にたいわけないだろ!!光とだって離れたくない!!!キスだってしたことないし!俺まだ童貞なんですよ!!光とやってみたいし!恋人みたいな事…というか結婚したい!!!まだゴジラSPの続編だって観れてないしこれから夏休みなんですよ!!でも!でも… それ以上に、光には幸せになって欲しいんです…今まで光は良い事なんてなかったんだ…これから光ん家のおじいさん、おばあさんと幸せになれて…やっと光のお母さんとだって話すことができたんだ!恋人だって!今の光ならもっといいひとと一緒になれる…は、…駄目だ…思ったより…きつい。」 「それで…鬼塚はどう思うと思うんだよ…。」 「…。」  勇太はそれに何も言えなかった。 「じゃあどうすればいいんですか…」 「ふぅー、しょうがねえ俺が代りになる!」  慎平が自分を指を指す。 「「はぁ!?」」 「三下言ってる事が全然違うじゃねえか!」 「…そこはみんなで協力してなんかこう…いい感じに頑張るとかじゃないのか」 「えっ?俺股間蹴れてまでの結論がそれなんですか?なんかこう…奇策で乗り切る的な…」 「うるせえ!カスども!俺はなんかこう色々と考えた結果結論出してるからいいんだよ!」 「じゃあ!俺が勇太の代わりだ!俺だって後輩にいいとこ見せてえしな!」 「クロウいいから…この流れはただのコントになっちまう。気持ちだけ受け取っておく。…お前彼女持ちだし。」 「さっきから聞いてれば男ってのはほんとに馬鹿ね!」 「「アシフトイモン!」」 「良子さん…。」 「…」 「怒るよ三馬鹿。」 竜馬達はやってきた國代 良子に謝罪をする。 「アシ…良子なんでここに?」 「デジタマを2つ潰したところで、通りかかったらティラノモンが外にいるのが見えてね!サボってんだろうから様子見に来たのよ!」 「この状況でサボるわけないじゃないッスカ。」 「良子、心配してたのに照れてんの。」 「うっさい!アグモン!そんで、来てみれば犠牲になるとか俺が死ぬとか馬鹿じゃないの!」 「じゃあどうしろって言うんすっかこの状況?」 「簡単よ!いい勇太君。」  良子はかがんで勇太の顔を見る。 「自分が愛してるひとに拒絶されて、あんな目玉の化物にいいように利用されてるのよ。 だったら、光ちゃんの心を開くには一言だけでいいのよ。」 「えっ?」 「今まで勇太君はちゃんと光ちゃんに好きって言った事ある?」  勇太は首を振って応える。 「なら、後は君が自分の気持ちに素直になればいいだけよ。」 「なんか照れる話だが…じゃあ!俺達が一緒に行ってサポートを…!」 「馬鹿ね!あんた達は私と一緒に来るの!ほんとにデリカシーのない連中ね!」  竜馬が不服そうな顔を良子に向けた。  雨が一層強まり雷雨となっている。それに混じるように所々で爆発音が聞こえる。 「みなさん本当にありがとうございます!」  勇太とヴォ―ボモンは竜馬達に深々と頭を下げた。 「いいって事よ!なんもしてやれねえけど頑張れよ!」  クロウが勇太の頭を力強く撫でる。 「…頑張って。」  竜馬がいつもの調子で呟く。 「光ちゃんによろしく言っといて!あと結果教えてね。」  良子が付け加えるように呟く。 「…勇太さっきの事忘れんな、死ぬんじゃねえぞ。」 「はい!」  慎平が通りすがりに勇太の肩を叩く。 「行こう。ヴォ―ボモン…光を助けにちゃんと光と話しをしに…!」 「うん!勇太!!」 「ヴォ―ボモン!ワープ進化!!ヴォルケニックドラモン!!!」  ヴォルケニックドラモンの背に乗り勇太は光がいる新宿のデジタマへ飛び立つ、竜馬達はその背を見送った。 「あいつ大丈夫かな…また無茶すんじゃねえだろうな。」 「なんだ、一番どうでもいい風に見送って一番心配してんじゃねえのか?」 「うっせえな…なんかお前達に会う前の捻くれてた自分思い出すんだよあいつ見てると…方向性違うけど自分だけで完結しちまうとこ。」 「…大丈夫だろ多分。」 「私も青春したいなぁ…こんな馬鹿達しかいないと無理かぁ」 「…俺大学出たら結婚するから。」 「「「はぁ!?なんで今!?しかも初めて聞いたんだけど!?」」」 「今初めて言った。」 「竜馬さん達結構遠くまで運んだんだな。」  竜馬達が勇太を運んだのは新宿区から大田区であり約20km程の距離があった。この位の距離ならヴォルケニックドラモンなら1,2分で辿り着けるが今はその時間も勇太には惜しいと思えた。  大田区周辺にはアイズモンの反応はなかった。今ではデジタマに吸収されたのかその警護をしているのだろうか。  ただ、竜馬達との推測が正しく光が勇太を拒絶しているのであれば、デジタマに近づけば攻撃が始まってもおかしくはない。  渋谷区を通過する頃に黒い群れが上空に見えた。アイズモンではあったが形状を変形させて飛行型のデジモンの形状をしていた。数は数千に見える。 「見た目だけなら概ねクワガーモン、フライモンとか成熟期みたいだ勇太!」 「どっちみち、時間はかけられない竜馬さん達が言うならひとは避難しているらしい!遠慮せず行くよ!」 「分かった!!!」  ヴォルケニックドラモンの身体が発光し、その光が喉に集約されていく。口から大きく黒煙が吹き出る。一瞬口を閉じそして一気に解放する。 「「ヴォルケニック・フレア!!!!!!」」」 ヴォルケニックドラモンの灼熱の炎というよりも光線がアイズモンの群れに直撃する。連続した轟音と連鎖した爆炎が広がる。  爆散したアイズモンが地面へと落下していく。それは火の粉や火の雨のようであった。  しかし、アイズモンの群れは怯むことなく勇太達に向かってくる。 「勇太!しっかり掴まってて!」  アイズモンの群れとヴォルケニックドラモンが接触する。  ヴォルケニックドラモンは蛆に集られるようにアイズモンに囲まれ姿が見えなくなる。それは群体で作られる卵の様であった。卵から一瞬の点滅が起こる。 「「グランドブレイズ!!」」  卵が爆発により飛散する。その爆発の中をきりもみしながら急上昇して爆発を抜ける。  アイズモンの群れがそれを追い上昇する。アイズモンは気付かなかったがヴォルケニックドラモンの上昇した経路には黒色火薬が撒かれていた。アイズモンが通過する毎に各場場所に撒かれた黒色火薬が連鎖的に爆発を起こしていく。  ヴォルケニックドラモンは急上昇から旋回し下降する再び残りのアイズモンに目がけ光線を吐き出す。アイズモンが変化させたデジモンの技であろう球状の雷撃を放つがそれを掻き消しアイズモンの群れを完全に爆散させた。  ビルの全高付近まで下降し再びヴォルケニックドラモンは新宿区へ進み始める。 「絶対に光の所に行くことの邪魔はさせない…!」 「勇太!鼻血が大丈夫!?」 「だ…痛いけど動くのには支障ないよ。今はそれ以上に止まってられない…。」 「分かった…!掴まってて!!」  ヴォルケニックドラモンは速度を上げ新宿区へ向かった。  それからは、無駄と判断されたのかアイズモンの群れは現れず、新宿区の広場へ戻ることができた。  広場には巨大な触手状になったアイズモンが蠢いていた。  ヴォルケニックドラモンは降り際に触手を引き千切り踏みつける。 「光は…!光はどこだ!?」  勇太の呼び声に呼応するようにデジタマが脈動し蠢き始めた。羊膜を破るように何かが這い出てくる。 「こいつは…!」  そこから現れたのは光でもましてやガルフモンでもなかった。  勇太はこれを資料ではあるが見たことがある。 「ディアボロモン…それにアーマゲモン…。」  這い出てきたのはケンタウルス状のアーマゲモンからディアボロモンの上半身が生え、アイズモンの赤い瞳がそこらかしこに蠢いているデジモンであった。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」  ディアボロモンは背中から有機物のミサイルをそこらかしこに乱射した。ヴォルケニックドラモンはそれを低空飛行で躱し隙間を沿うようにその巨体を傾け器用に躱していく。  それに追随するように建物を破壊し最短距離でディアボロモンは無理矢理追ってくる。 「こいつ!ミサイルがデジタマにも当たってるぞ!お構いなしか!?」 「駄目だ勇太!最短距離を突っ切てくる分向こうの方がこちらを先回りできる!一気に決めよう!」 「分かった!光とガルフモンの前に片づけてやる!」  ヴォルケニックドラモンが光を放ち黒煙を吐く。 「「ヴォルケニック・フレ…!!!!?」」  一瞬だが勇太とヴォルケニックドラモンに感覚として光とデビドラモンを感じ取った。  ヴォルケニックドラモンは動作を中止し上空へ逃げようとしたがディアボロモンから生えてきた触手状のアイズモンにビルに叩きつけら抑え込まれた。 「まさか今のは…!」 「そこにいるの…?」  ディアボロモンの胸部が粘膜上の跡を残し広がるそこには無数の目に抑え付けられ項垂れ眠りについている光がいた。 「勇太…こいつガルフモンを元にして光を取り込んで今の形を形成してるんだ!いわば今このディアボロモンはガルフモンであり光自身なんだ!」 「そんなじゃあどうすれば…!」 「いいや!これはチャンスだ勇太!僕がチャンスを作る!だから…!だから思いをちゃんと伝えるんだ!」 「ヴォルケニックドラモン…!」 「慎平はああ言ったけど、それだけじゃない!僕はずっと見て来た勇太は優しいから…ひとを優先して…だから!僕もデビドラモンも光も!!勇太が好きなんだ!!だから勇太だって幸せになっていいんだ!!誰にも遠慮しないで!!ありたたっけの気持ちを!!だから!だから行くんだああああ!!!!勇太ぁああああ!!!!!」  ヴォルケニックドラモンの背中から爆発を起こしビルを破壊しその推進力を使いディアボロモンを引き摺りデジタマへぶつける。アイズモンの触手がヴォルケニックドラモンに突き刺さる。 「ヴォルケニックドラモン!」 「いいから行くんだ!勇太!!今ここで止まったらそれこそ僕は勇太を許さない!!」 「分かった。」  勇太はヴォルケニックドラモンからディアボロモンの腹部へ飛び移り光の元へ駆ける。  アイズモンの触手が勇太を目がけて伸びる。 「させるか!!」  ヴォルケニックドラモンの翼から炎が巻き上がり触手を焼き払う。しかし一本の触手が炎を搔い潜り勇太へ向かう。 「しまった!」  しかし、触手は勇太に触れる前にどこからか飛んできた光弾が斬りさいた。勇太はそれに振り向かず進み続ける。 「馬鹿だね。勇太。君はいつもどんくさくて脇が甘いずっと変わらないね。君は僕の手を離してその女のとこに行ったんだろ?なら最後くらいちゃんと決めな。」  影がビルの合間に消え霧散した。 「光!!」  勇太がディアボロモンの胸の前に行き叫ぶ。その呼びかけに応えるようにディアボロモンの攻撃が止む。  街頭テレビに勇太達の映像、電光掲示板に声が流れる。  雷が止み、雨足が弱くなる。付近に静寂が流れた。  勇太は静かに息を吸って整える。 「光は別に応えなくていい…ただ聞いてくれればいい。」 「…」 「俺は…今までずっと自分が正しいと思ってたんだと思う。勝手に光の幸せを考えて、勝手に自分だけで決めて…。 あの時、光が泣いてた顔がずっと頭が離れないんだ。 俺は…光とデジタルワールドへ行って一緒に冒険をして、深く繋がれたと思った…俺はずっと驕ってたんだ。俺は光にとって特別だ!唯一だ!って…!でもこっちに帰ってきて光には光の世界があるんだって色んな事で思い知ったんだ。 俺は馬鹿だから…そしたら急に光が遠くにいる存在に思えて…光にはもっと相応しい世界がある!過去に縋って俺なんかが纏わりついちゃいけないんじゃないかって…! 怖かったんだ…言葉にしないでいれば一緒にいられるんだって!結局募ったのは勝手な劣等感だけだったのに…いつの間にかそんな事忘れて光を思っての事だと綺麗事にしてしまって… 慎平さんに言われてやっと気付けたんだ…自分の気持ちに。 俺は今でも自信を持って光もそう思ってるとは言えない。 でも…じゃあ誰かが…他の誰かが光の隣にいるって考えたら…嫌だって!自分の気持ちは殺したくない!あんな事言って光を傷つけて!!遅いってのも都合がいいってのも良く分かってる!それでも!!」  ディアボロモンの胸部が開きかける。 「それでも…光が…光が好きだ!!!光が欲しい!!!ずっと一緒にいたいんだ!!!」  勇太の告白と共にディアボロモンの胸部が完全に開く。 「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」  光の包み込む大きな手が現れる。中から光をアイズモンから守り勇太に手渡す。ディアボロモンの中からデュナスモンが現れる。 「勇太!受け取って!!!!」 デュナスモンの手に輝きが増す。光の体に纏わり憑いていたアイズモンを消し去る。 「勇太!!!」  そのままの勢いで光が勇太に抱きつく。 「遅いのよこの馬鹿!それにこんな危ない事して!」 「ごめん、でも…」 「いいわ許してあげる…それでも会いに来てくれて…思いを告げてくれてこんな気持ち…嬉しい気持ちにしてくれたから!」 「このデュナスモン!ふたりの邪魔はさせん!!!」  デュナスモンが光を取り込もうとするアイズモンを守り、そして突き放す。 「すまない勇太!ヴォルケニックドラモン!私がいながら光を…面目がない!」 「いいのよ!デュナスモン!この馬鹿が全部いけないんだもの!遅いったら…もう!」 「でも、もう絶対に離さない。」  勇太が光の手を強く握る。 「…うん!私も離さない。」 「「ずっと一緒。」」  ディアボロモンが光とデュナスモンを取り込もうと再び遅い掛かって来る。勇太と光はディアボロモンに向き直る。 「行くわよ!勇太!ここでケリを着けるのよ!」 「ああ!!」  ふたりは強く手を握り合い、もう片方の手でデジヴァイスを掲げる。デジヴァイスから太陽の紋章、月の紋章が光輝く。ヴォルケニックドラモンがラヴォガリータモン。デュナスモンがレディーデビモンもへ退化し再び進化の光に包まれる。 「ラヴォガリータモン究極進化!!アポロモン!!!」 「レディーデビモン究極進化!!ディアナモン!!!」  進化の光と共に炎に包まれた獣人の獅子と氷に包まれた鎧の乙女が現れる。 「アロー・オブ・アポロ!!!」 「アロー・オブ・アルテミス!!!」  ふたりのデジモンは双方が灼熱の矢と眩いばかりの氷の矢を放つ。ディアボロモンが光球が放たれるがそれを打ち破りディアボロモンに打ち込みデジタマに差し身動きを封じた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」  ディアボロモンの雄叫びと共にデジタマが孵っていく。  そこから孵ったのは機械仕掛けの女神の像であった。  歯車が動き始め重厚で不快なラッパのような音が響き渡る。  女神像がディアボロモンも取り込むと臭気と同時に大地が揺れ始め、再び雷が轟音を発し風が巻き起こる。  無機質の筈の女神像の下部が粘液を発し開きそこからディアボロモンとアポカリモンの顔が覗かせる。両口から熱球が集約されていく女神像の両脇からガイドレールが付けられ、ガイドレール内で雷が生じていた。  女神像は浮遊をはじめ地上に向けてガイドレールを向ける。 「あれぶち込まれたら東京というか地球が終わるわね…ていうかアレ勇太と観た映画でなんか観たことある形ね…ゼッ「あああ!なんかダメ!分かってるけどダメ!」 「うっさいわね。でも随分とまぁ演劇掛かった仕掛けね。あの女の趣味がよく分かるわね。ここで全部終わりってね。」 「怖い?」 「全然!隣に勇太がいてくれるもの。…行くわよ!勇太!!」 「ああ!!」  勇太と光のデジヴァイスが今まで以上に強い輝きを発した。 「「アポロモン!!!ディアナモン!!!ジョグレス進化!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」  アポロモンとディアナモンが勇太と光を肩に乗せそして光を放ち上空へ浮かび始める。 「「グレイス…ノヴァモン!!!!!!!!!!!!!」」  グレイスノヴァモンが勇太を光を肩に乗せ女神像へ急速に近づく、グレイスノヴァモンは拳を構え、掌にエネルギーを溜める。眩い程の光を放つ。  女神像が巨大な熱球を放つ。熱球の周りには雷が放たれている。 「「これで最後だ!!!エクリプス!!!!!フィンガアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!」」  熱球と光輝く掌がぶつかり合う。熱球の勢いにグレイスノヴァモンが押し戻される。 「ぐっ!!終わらせない!!俺達の明日は絶対に!!!!!」  デジヴァイスが一面を光で包む。 「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」  ディヴァイスの光がグレイスノヴァモンの掌に集約され力を増し火球すら取り込み女神像にあるディアボロモンの顔を殴りそのまま押し上げ成層圏を越え宇宙まで叩き上げそこで巨大な爆発と共に女神像を消滅させた。  同時に、他の箇所にあるデジタマから光柱があがった。  どうやら、他の子ども達もデジタマの破壊に成功したみたいであった。  地上に戻る頃には雨も上がっており満月の月光が優しく降り注いでいた。  グレイスノヴァモンへの進化が余ほど負担であったのだろうデビドラモンもギルモンへ退化していた。 「お疲れ様ヴォ―ボモン。」 「よくやったわねギルモン。それにごめんね。」 「ううん。光がなんだか嬉しそうでギルモンも嬉しい。」 「お腹減ったよ勇太ご飯~。」  勇太のアイフォンが鳴る。着信者を見るとすみれであった。どうやらネット上での戦闘もひと段落したみたいだ。 「勇太君に光も近くいるわね!大丈夫!今通信が回復したの!」 「全くもう全部終わったわよ。遅いわね。そうだすみれに焼肉奢ってもらうわよ!ヴォ―ボモン!これだけ苦労させられたんだものそんくらい当然よね!」 「お肉!!」 「ギルモンも!ギルモンも!」  いつもの光景だ。勇太は安心して苦笑いをした。  報告と光の一応の検査のため勇太達は結局デジタル庁へ戻る事になり解放されるのは深夜であった。  今回の騒動の仕掛け人は撃退は出来たものの結局は逃げられたらしい、しかし奇跡的にデジモンを活用した住民の避難が功を制したのか負傷者は多数いたものの今件についての死者は0であった。事件はこれで後味もほどほどによく終わると勇太は思っていた。  まず、違和感に気付いたのはデジタル庁についてからであった。いや…迎えに来てくれた職員の生暖かい視線から違和感はあった。  デジタル庁は戻った子ども達でごった返していた。そこらかしこから勇太達に対して視線を感じた。もしくはひそひそ話が聞こえる。ただそれは嫌味とは違う生暖かいものであった。嫌な予感がする勇太は直感的に察した。光の方を見ると顔を真っ赤にして俯いている。聞こうと思ったが聞いたら…何かまずい予感がし勇太はヴォ―ボモンとギルモンに目線をずらした。ふたりともなにひとつというか視線に気づか他のデジモンとずじゃれ合っていた。 「よぉおふたがた。」  声を掛けたのは慎平達であった凄くにやけてるという表現ぴったりと合う笑顔をしている。良子以外にも神田颯乃 霜桐雪奈の姿があったがふたりとも顔を赤くして目を逸らしている。良子はニヤニヤとこちらを眺めている。 「いやぁお熱いおふたがたですなぁ良子さん。」 「そうですなぁ三下さん。」 慎平と良子が勇太と光を挟むように肩を組んでくる。 クロウはよくやったと大らかな顔で笑い。竜馬は相変わらず何を考えているのか分からない無表情をしており勇太は混乱した。 「なんすか。え?ふたり揃って…。」 「おやおやもしかしてお気づきじゃない?いやぁ若いっていいわねえねえ光ちゃん?」  勇太は助けを求める視線を光に向ける。勇太は俯いた赤い顔から目線だけを勇太に向けて小さく答えた。 「…勇太の告白…街頭テレビで全部流れてたから…多分この感じだと都内全部。」  それを聞いて勇太は赤くなるのと青くなるの両立した器用な顔色に変わり叫んだ。 「んなああああああああああああああああ!????」  事が全て終わりすみれに送ってもらう手筈となったが事務処理で忙しいのか少し駐車場脇で待つ事となった。ヴォ―ボモンとギルモンは疲れたのか車の中で寝息を立てている。  勇太と光は満月の月光を浴びつつ夜風に当たっていた。 「流石に今日は疲れたな。でもまぁ色々あったけど光の体もどこも悪くなくて良かった良かった。」  光はあくび交じりで答える 「そうね~。にしてもいい月ね。ひとが戻ってないないせいか街の光もなくて月が綺麗だわ。」 「うん、とっても。こうやって光とこの月見れて今回の事件あってちょっとは良かったと思えるよ。」 「…ねぇ勇太。」  光が勇太の方を向き顎をあげる。 「?」 「…鈍いわねあんた。分かんないの。」  勇太の顔がみるみるうちに赤くなる。 「いや…付き合ってすぐにそういうのはどどうなの???」 「今回ので分かったけどあんたは非常時の事をノーカンにするじゃないだから…はっきりさせ…こんな言い訳させないでよ…。」 「…っ。」  今だけは満月のみがふたりを見ていた。