「バトルモード承認(アクティベート)!メモリーゲージ起動(スタートアップ)!」 「セキュリティシールド展開(エクステンド)!」 「戦闘開始(デジタルゲートオーブン)!」 D-STORAGEを掲げ、いつも通りのバトル開始宣言をする。 そしていつも通りにバトルフィールドが展開していく。 一つ、決定的に違うことがある。 目の前にいる対戦相手が、プレイヤーでもなければNPCでもないことだ。 「オォォォォォォォォォォォォォ!!!!」 ─メタルティラノモン 完全体 ウイルス種 サイボーグ型─ 俺を追いかけ回していたメタルティラノモンが咆哮を上げ、右腕を構える。 『ギガデストロイヤーⅡ』の発射体制だ、この距離では当然回避は間に合わないし、あんなものを食らえば俺は跡形もなく消し飛ぶだろう。 発射されようという寸前でバトルフィールドの形成が完了し、見慣れたデジモンカードゲームのプレイエリアが現れる。 目の前のメタルティラノモンは時間が止まっているかのように右腕を構えたままの姿勢で停止している。 その理由は多分、今がプレイヤー1である俺のターンで、相手プレイヤーであるメタルティラノモンは動けない、ということだろう。 「冗談だろ…マジでデジモンと相手にカードで戦えっていうのか…」 呟く俺にセキュリティエリアにあるカードから声がする 「フム…つまりそういうことだろう、私はこの戦いのルールを知らない、お手並み拝見といこう。」 「…あぁ!もう!やってやるよ!どの道どこにも逃げ場はない!」 セキュリティエリアに居るということは相手のアタックを受ければ消滅するが、この声の主はそのことは知らないだろう。 現在の盤面を見渡す。 これはリベレイター内におけるNPCとのシチュエーションバトルに非常に似ている。 シチュエーションバトルとは簡単に言えば詰将棋のような物だ、盤面に既にカードが展開され、様々な条件下が追加された状態でバトルがスタートする、このバトルの条件はこうだ。 相手のバトルエリアには既にデジモンが登場し、俺の側にメモリが与えられている。 相手バトルエリアの登場デジモンはただ一体、そしてセキュリティは俺側が残り1枚(さっきの声もここから聞こえている)、相手が0枚、つまりは相手のデジモンカードを消滅させ、こちらがアタックを通せば俺の勝ちということになる。 ─Lv5 メタルティラノモン 完全体 ウイルス種 サイボーグ型 (赤) DP10000 登場コスト7 進化コストLV4(赤)から3 進化元効果 なし 「…メタルティラノモンが自分自身のカードを登場させてるってところか」 問題はシチュエーションアビリティの欄だ、この欄には様々は特殊ルールが設定され、カードに特殊な効果を付与する、勿論その大半はプレイヤーが不利になる条件だ。 通常であればこのメタルティラノモンは効果を持っていないが、シチュエーションアビリティにより特殊に効果を付与されている。 <<シチュエーションアビリティ>> <ブロッカー> <再起動> 『お互いのターン』このデジモンが相手のバトルエリアのデジモンとのバトルに勝利した場合、このデジモンをアクティブにする。 「なんだこのめちゃくちゃな効果は!?」 このシチュエーションアビリティはつまりこういうことだ。 メタルティラノモンはこちらのアタックを<ブロッカー>で防ぎ、バトルに勝利すれば再びアクティブに戻り、何度でもアタックを防ぐことができる、こちらがメタルティラノモンを消滅させるにはDP10000を超えるデジモンでアタックするか、デジモンを消滅させる効果を発動しなければならない。さらには<再起動>で相手のターンにメタルティラノモンが俺にアタックしレスト状態になっても、次に俺にターンを渡したときにはアクティブに戻り、また俺のアタックを防ぐ。 「…」 こんなシチュエーションバトルは俺のいたエリアの難易度設定では絶対にありえない。 エメラルドコーストのシチュエーションバトルは初心者向けの難易度設定がされている。 このような一手間違えるだけで即座に「詰み」になるような設定は絶対にされるはずがない。 「ここ場所は一体何処なんだ…?」 デジモンリベレイターの設定ではデジモンは基本的にカードに封印された状態だ、だからカードから出て活動しているデジモンは全てプレイヤーがパートナーとして登録したデジモンということになる。 今のようにプレイヤーを追いかけ回し、しかも直接攻撃してくることなどありえないし、なにより。 「感覚があまりにもリアルすぎる」 デジモンリベレイターはフルダイブ型とはいえあくまでもゲームだ、しかしメタルティラノモンから逃げ回ってたときの息切れと疲労感、そして転んだときに感じた「痛み」 全てが仮想現実のものとは思えない。 「ここがデジモンリベレイターで無いのならなぜD-STORAGEを使えるんだ?」 目の前の状況と、あまりにも「いつもの通り」動作するD-STORAGEが全く噛み合っていない。 「ふむ…ニンゲン、そろそろ考えはまとまったかな?」 セキュリティエリアから再び声がする、このデッキの中にいて喋るということは恐らく現在俺のパートナーデジモンとして登録されているということだろう、それも勝手に。 「もうちょっと考えさせてくれ。」 これが「普通の」シチュエーションバトルであればいい、勝てるまで何度でも挑戦するだけだ、しかし 「次は無いだろうな」 メタルティラノモンの構えた右腕をもう一度見上げる、今にでも『ギガデストロイヤーⅡ』を発射しそうだ。 このバトルに敗北し、バトルフィールドが消滅した途端に動き出し俺を跡形もなく消し飛ばすだろう。 「さて」 こちらの勝利条件を改めて確認しよう このターンでメタルティラノモンを消滅させなければ、次の相手のターンで俺のセキュリティにアタック、今の俺の手札に<ブロッカー>を持つデジモンは居ないため防ぐことは出来ない。 これで俺のセキュリティは0枚になる。 そして本来相手側のプレイエリアには相手の手札枚数とデッキ枚数が表示されているが、今は一切のカードが置かれていないように見える、これをカードが無いものだと考えたいが、もし次の相手のターンで他のデジモンが登場し、かつ<速攻>を持っていたならその時点で俺の負けだ。 これを無いものとして俺の猶予は1ターン、このターンと次の俺のターンでメタルティラノモンを消滅させ、相手プレイヤー(この場合はメタルティラノモン自身だろうか)へアタックを通す。 これが俺の勝利条件だ。 手札と盤面をもう一度確認する 「勝ち筋はある…そろそろ始めるか」 俺のメモリーゲージは7、相手がメタルティラノモンを登場させこちらにターンが回ったというところか。 「手札から テイマー「八神太一」をバトルエリアに登場!」 ─メモリー7→3 今発動できる効果は特にない、このカードは後で必要になる。 「手札から デジモン「グレイモン」をバトルエリアに登場!」 ─メモリー4→-1 「グレイモン」のカードがバトルエリアに登場し、その上に重なるように「グレイモン」の巨体が姿を表す。 ─Lv4 グレイモン 成熟期 ウイルス種 恐竜型 (黒) DP4000 登場コスト4 進化コストLV3(黒)から2 進化元効果 『相手のターン終了時』このターンに相手のデジモンが一度もアタックしていないなら、<<1ドロー>> メモリーゲージが相手側に渡る、解決する効果もないため俺のターンはこれで終了だ 「ほう…グレイモンか、コイツをメタルティラノモンと戦わせるのだな?」 セキュリティエリアからの声が言う 「いや、ルール上登場させたターンでは攻撃はできない、それにDPはグレイモンがはるかに下だ、勝ち目はない。」 「ならばどうやってメタルティラノモンの攻撃を凌ぐのだ、あのメモリーゲージとやらはヤツの側に傾いたぞ、こちらの行動はコレで終わりということではないのか?」 「理解が早くて助かる、アイツの攻撃はセキュリティで受ける。」 「………まさかとは思うがセキュリティとは私がいるこの場所のことか?」 「ああ、そうだ。」 「き…貴様っ…!」 言い終わると同時にメタルティラノモンのセキュリティへのアタックが発生、『ギガデストロイヤーⅡ』の爆風で俺のセキュリティは吹き飛ばされ、それでも防ぎきれない熱波が俺を襲う。 「ぐおっあぁ!熱っっっっっつ!!!!」 全身で熱波を浴びながらもなんとかトラッシュに目をやる、現状の最大の問題は俺のトラッシュにカードが1枚もないことだ、「勝ち筋」にはトラッシュに「ある」デジモンが必要になる。 そして先ほど破壊され、オープンになったセキュリティに一瞬見えたあの姿 「アグモンだ…」 最大の問題は解決した。 「俺の勝ちだ。」 シチュエーションアビリティのバトル勝利時にアクティブに戻る効果は「バトルエリア」のデジモンだ、セキュリティは含まれていない。 メタルティラノモンはレスト状態のまま沈黙し、メモリーが俺の側へと傾く、その後のフェイズを全てスキップのだろう、スキップ時のルールでメモリーが俺側に3追加される。 ─メモリー -1→2 俺のターンだ 「「八神太一」の効果発動!メモリーが2以下のとき3にする!」 ─メモリー 2→3 「「グレイモン」を手札の「スカルグレイモン」へコスト3で進化!」 バトルエリアのグレイモンのカードの上にスカルグレイモンのカードが重なり、その姿が 変貌していく。 肉体は巨大化していくが、その全身の肉は徐々に腐り落ち骨だけの姿へと変わる。 ─Lv5 スカルグレイモン 完全体 ウイルス種 アンデッド型 (紫) DP7000 登場コスト7 進化コストLV4(紫)から3 進化 名称に「グレイモン」を含むLv4からコスト3 「「スカルグレイモン」の進化時効果を発動!手札を1枚破棄してお互いの最もLVの低いデジモンを1体消滅させる!」 バトルエリアにはお互いにデジモンは1体しか居ない、つまり 「『オブリビオンバード!』」 スカルグレイモンの背中の生体ミサイルが発射され、自身ごとメタルティラノモンを消し飛ばす。 「オォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」 断末魔を上げて爆風の中に2体のデジモンが消えていく。 これで相手のバトルエリアは空だ。 「まだだ!「スカルグレイモン」の消滅時効果発動!俺のトラッシュから名称に「アグモン」を含むデジモンをコストを支払わずに登場できる!」 トラッシュにあるカードは先ほどセキュリティから吹き飛ばされた1枚だけだ 「トラッシュから「ニセアグモン博士」をバトルエリアに登場させる!」 ─Lv3 ニセアグモン博士 成長期 ウイルス種 恐竜型 (紫) DP1000 登場コスト3 進化コストLV2(紫)から0 声の主がようやく姿を表す 「よう、やっとご対面だな」 「何がご対面だ、ニンゲン、先程はよくもやってくれたな」 「あの状況でできることは他にないんだから仕方ないだろ、それよりトドメだ」 「ほう、登場したターンにはアタックを行えないのだろう?どうやって私は攻撃する?」 「問題ない、スカルグレイモンの消滅時効化には続きがある」 ─『消滅時』自分のトラッシュから名称に「アグモン」を含むデジモン1枚をコストを支払わずに登場できる。名称に「八神太一」を含む自分のテイマーがいるなら。ターン終了まで、そのデジモンは<<速攻>>を得る。 そして俺のバトルエリアにはテイマー「八神太一」が存在している 「今のお前には<<速攻>>のアビリティが付いている。」 「ほう、つまり?」 「お前は登場したターンでもアタックができる!行け!やっちまえ!」 「なるほどな、『ニセハカセボー!』」 相手のセキュリティは0枚、プレイヤーへのダイレクトアタックだ。 本来相手プレイヤーがいるであろう空間を、ニセアグモン博士が手に持った指示棒で殴りつける。 ─PLAYER1 WIN 視界へと表示されたシステムメッセージと共に、展開したバトルフィールドが消滅していく。 「助かった…のか?」 目の前に居たメタルティラノモンの巨体はもうない、代わりにその場にはカードが1枚残されている。 「これは…「メタルティラノモン」のカード?倒したからカードになったってことか?」 「ふむ…これは私をこの姿に変えたのと同じ力かな?」 D-STORAGEの中から声がする、バトルが終了し、デッキの中に戻ったのだろう。 「デジモンをカードに封印するのは俺の力じゃない、このD-STORAGEの機能だ、あ、そういえば。」 パートナーに登録されているということはこの「ニセアグモン博士」を呼び出せるんじゃないか? D-STORAGEを操作し、視界に表示されたウィンドウからパートナー呼び出しボタンをタップする。 ─D-STORAGEのライブラリよりパートナー登録されたデジモンを呼び出します……… お決まりのシステムメッセージと共にニセアグモン博士が実体化していく。 「ほほう、これは私を自由にその中から出し入れができるということかな?」 「まぁそんなところだ、それよりも。お前に聞きたいことが山ほどある、ここは一体何処だ?どうしてデジモンがカードから出て自由に行動して、あげくプレイヤーを襲う?なんで俺のデッキの中身が別物に入れ替わってる?」 「フフフ、まるで知的好奇心を刺激されたときの私を見ているようだ…そう一度に聞かれても一辺には答えられないぞ?」 「っ…お、おう悪い…それはそうだな。」 「何よりも先にするべきことがあるだろう、私達は初対面同士なのだから、まずは自己紹介から始めようじゃあないか」 「私は「アグモン博士」だ、気軽に「アグモン」と呼んでも構わない。」 「……ん?」 カードをもう一度見直す 「「ニセアグモン博士」って書いてあるが?」 「アグモン博士だ」 食い気味に言われた。 「ニセ…」 「アグモン博士だ」 語気が強まった。 「わかったよ…「アグモン」でいいか?」 「あぁ、気軽に呼んでくれ。」 「さて、ニンゲン、次は君の番だ、ぜひ聞かせてくれ、急に空から落ちてきたが君は何処から来たのだ?そのD-STORAGEというデバイスは一体?デジモンをカードへと変えてしまうこの力は?ついでに君の名前は?」 「お前も質問攻めしてるじゃねーか!」 しかも名前はついでかよ。 「フフフ、冗談だ、3割ほどは。」 「どっちが3割かは聞かないでおく…」 さて、名前か。 自分の今の姿を見る、今の自分はリベレイターでのアバターの姿だ、本名である必要はないだろう。 なら… 「俺は─」 「俺はジョン・ドゥ(名無しの死体)だ。」 ——これは〝デジモン〟と〝世界〟を飛び越える物語だ。 Settei.txt プレイヤーネーム ジョン・ドゥ デジモンリベレイタープレイ中に突如デジタルワールドへと転移してしまう。 運悪く近くに居たメタルティラノモンに追いかけ回されながらもなんとか撃退、 その際に自分のデッキが全くの別物に変わっていること、そして自分が本物のデジタルワールドへと転移してしまっていることに気がづく。 変化したデッキと、デッキ内の勝手にパートナーに登録されているニセアグモン博士と共に、自分を追いかけてくる謎の追手を撃退しつつ、元の世界への帰還手段を探している。 リベレイターにログインする前からトラッシュを多用する紫のデッキを使っていたため、プレイヤーネームをジョン・ドゥ(身元不明の遺体の意)にしている。 本名は不明(名乗ろうとしない) 外見 アバター用スキンアイテム「マミーモン」を着用しているため、服の下を口元以外全身包帯で覆われた外見をしている。 パートナー ニセアグモン博士 たまたまジョン・ドゥの転移地点に居合わせた結果、彼の持つD-STORAGE内にカードへと変化した状態で閉じ込められてしまう。 この状態ではD-STORAGEのパートナー呼び出し機能を使わないと自由に活動できない。カードの外へと出ること、異世界から転移してきたジョン・ドゥへの知的好奇心、そしてその研究成果を元に本物のアグモン博士を見返すため彼と行動をともにしている。 カード名にもしっかりと「ニセアグモン博士」と記述されているが、頑なに「アグモン博士」または「アグモン」と呼ぶように主張している。 必殺技は頭の帽子を投げつける『ニセハカセボウ』、指示棒で殴りつける『ニセハカセボー』そして懐から取り出した謎の液体を調合し投げつける『ケミカルボム』。 Lv3 ニセアグモン博士 成長期 ウイルス種 恐竜型 (紫) DP1000 登場コスト3 進化コストLV2(紫)から0 このカードが名称に「アグモン」または「グレイモン」を含むデジモンに進化するとき色条件を無視して進化できる 進化元効果 このカードが名称に「アグモン」または「グレイモン」を含むデジモンに進化するとき支払う進化コスト-1 D-STORAGE 本来はデジモンリベレイター内において各種システムメニューやバトルフィールドの展開、パートナーデジモンの呼び出しなどゲーム内のあらゆる機能が搭載されたツール。 しかしデジタルワールドへの転移時に同じ機能を持った全くの別物へと変化しており、デジタルワールドにおいてデジモンが進化するために必要なエネルギーをコストという形で無限に供給し、さらに周囲と隔離されたカードバトル用のフィールドを展開する未知の存在へと変貌している。 デジタルワールド内にバトルフィールドという未知の空間を展開する機能、デジモンを進化させるコストというエネルギー、撃破され本来デジタマへ帰るはずのデジモンのデータをトラッシュへと留める謎の力、そしてデジモンをカードへと封じ込める力。 D-STORAGEが備える機能のせいでイモゲンチャー内の各敵勢力から追われることになる。