イベント:「隔絶電脳異界セフィロ・サーチャー」 第10節 進行度1/1 ステージ:デジタルワールド 草原エリア 巨人の心臓を打ち抜いた流星はその輝きを空に還す。 力を使い果たした駿馬と騎手は、高高度から墜落する。 ダーくん 「あいつら…やりやがったぜッ!」 海風人手 「ああ!……って、なんか落ちて来てないか!?」 デジマスター 「ヤバイ…!ブリッツグレイモン!クーレスガルルモン!」 クーレスガルルモン(黒) 「承知!」 ブリッツグレイモン(黒) 「ったく、世話が焼けるぜ!」 2体は空へと飛翔し、二人を抱きとめる。 ゆっくりと舞い降りて、一同の元へと帰還する。 武福川駆 「あはは…倒せたのはよかったんだけど、途中で力尽きたみたいで…」 シマユニモン 「面目ない…。」 ダーくん 「そんなことよりよォ!やったな駆ッ!」 ナイトモン 「ああ、見事だった」 ハムお姉さん 「すごかったですねー!あの大技!まさしく流星となって敵に体当たりするなんて お姉さんドキドキしちゃいました!」 ■■■■ 「感動しているところ悪いんですけど、メッセンジャー? デリーパーはどうなりましたか?」 ハムお姉さん 「おっと、そうでした。デリーパーは頭脳体を失い連鎖崩壊を始めました。 彼らが吸収していたデータ塊は次元の狭間に漂い、完全に静止しています。 あとはイグドラシルたちの仕事ですね。 それぞれのデジタルワールドに還元して、復旧しないといけませんから。」 武福川駆 「ってことは俺たちの出番はここまでってことだな」 海風人手 「俺たち、世界を救った英雄ってことか?なんかいまいち実感がわかねえな」 ハムお姉さん 「そうだ、伝えるの忘れてました。佐辺優子さん、海風人手さん、武福川駆さん。それとデジマスターさん。 皆さんはこことは違うデジタルワールドからお越しになられたので、元のデジタルワールドに転送を…とか思ったんですけど、 現実世界では失踪者として捜索願が出てるので、一度帰還してほしいんですよね。」 ダーくん 「ッ!い、いやあ俺たちは遠慮するぜッ!」 ダークスーパースターモンは焦る。 人手の状態をなんとなく察していた彼は、彼女が元の世界に 戻れないかもしれないという漠然とした不安を抱いていた。 海風人手 「なんでだよ。」 ダーくん 「い、いや。その…妹!そうだ、俺たちは人手の妹を探しているんだろッ!? まだまだ帰るわけにはいかねえんじゃねえのッ!?」 海風人手 「それは…そうだけど。」 ダーくん 「それによッ!あの石を探してる途中だったんだぜッ!早く見つけようじゃねえかッ!」 海風人手 「えぇ〜!あれまだ探すつもりかよぉ〜。」 武福川駆 「あーっと、俺たちも現実世界に帰るのは待ったかな。 俺も仲間と旅してるし、早く合流したいんだ。」 武福川駆 「そうだな、今頃俺たちを探しているかもしれない。」 佐辺優子 「私は…戻りたい気持ちもあるのだが、神隠しの報告がまだだからな…。」 ナイトモン 「主、よろしいのですか?現実世界への帰還は主の…。」 佐辺優子 「一度引き受けたのなら、最後まで責務を全うすべきだ。 後ろ髪惹かれる思いであることは否定できないがな…。」 ナイトモン 「主…。」 デジマスター 「俺は一度帰ろうかな。いい加減、このサーバーを物理的にどうにかしたい。 正直背負って動くの大変だからなあ。」 ブリッツグレイモン(黒) 「お!ケンジのいる世界か!俺も行きたい行きたい!!」 クーレスガルルモン(黒) 「あの、実は私も少し興味が…。」 ハムお姉さん 「なるほどなるほど。了解しました。 デジタルワールドに残るつもりの方々はこちらをお受け取りください。」 そういうと、残留組のデジヴァイスが光りだす。 デジヴァイスを所有していない人手の前には、小型の古い折り畳み携帯が現れる。 ハムお姉さん 「ふふふ、実はですね。デジタル庁はすでに現実世界への帰還用ゲートの開発に成功しているのです!! 皆様がそれぞれの用事を終わらせたときは、今お送りしました連絡先にご連絡ください。 キョーイチローさんが責任をもって皆さんを回収するでしょう! 皆さん時間軸のズレは少ないですし、世界軸も同一だから助かりましたよー。 もし一人でも違う世界だったら手続きが面倒ですからね!」 武福川駆 「まじかよ…今の技術ってそこまで進んでたのか…。」 海風人手 「アタシのガラケーかよ…。」 佐辺優子 「あの、世界軸とはいったい。」 デジマスター 「ああ、実は現実世界もデジタルワールド同様、無数に存在するんだよ。 ほら、聞き覚えがないかい?並行世界ってやつ。 一つの現実世界から複数のデジタルワールドに飛ばされるように、 複数の現実世界から一つのデジタルワールドに飛ばされることもある。 まあ後者はかなりのレアケースだからそうそう起きることはないんだけど…。」 ハムお姉さん 「今回は多くのデジタルワールドを跨った事件ですから、そういう可能性もあったということです。 現実世界では既に死んだ者が同じ現実世界の過去に帰還したり、違う現実世界に戻って同一人物が複数いることになったり、 そういう事が起きると色々な齟齬が生まれてヤバいので。 皆さんは全員同じ現実世界から来てるから大丈夫ですけど。」 ダーくん 「………。」 ダークスーパースターモンは思わず拳を握りしめる。 ハムお姉さん 「まっ、怖いこと言っちゃいましたけど、割と起きてることなんですよね。 死人が現実世界に行っちゃったり、同一人物が同一世界に存在しちゃうことって。 ねー?鏡見くんは心当たりあるんじゃないんですかー?」 ハムお姉さんはニヤニヤしながら■■の方を見る 一同 「えっ。」 ■■■■ 「ノ、ノーコメントで。」 ■■■■は思わず目を泳がせる。 どうやらシコルスキー博士の件はハムお姉さんに筒抜けのようだ。 ハムお姉さん 「知りませんでした?結構事例あるんですよ? 現実世界で亡くなった方が魂だけデジタルワールドに来て、それから現実世界に行っちゃうとか。 まあその場合はデジモンと同じ理屈でリアライズされているだけなので、生き返りとはちょっと違うんですけど。 世界って意外と懐が広いんですよねー…。 なので、なんか後ろ暗いことがあっても気にせず戻ってきてくださいな。 きっと…、皆さんのご家族は帰りを待ってますから……。」 ハムお姉さんはふとダークスーパースターモンの方を見る。 どうやら彼女には彼の考えがお見通しのようだ。 ハムお姉さん 「では、キョーイチローにゲート解放してもらいましょう。 準備に少し時間があるので、また後程。では!」 そういうとハムお姉さんの通信は切れた。 武福川駆 「さて、ここでお別れか。」 海風人手 「まあお別れっていっても、やること終わらせて現実世界に戻ればまた会えるけどな。」 佐辺優子 「ああ、そうだな。我々は同じ世界に生きているんだ。会おうと思えばまた会えるさ。」 海風人手 「へへっ、なんかガラじゃないかもしれないけどさ、みんなと会えてよかったよ。 最初は変な場所に飛ばされて、何度も何度も戦わされて、すっげー最悪だったけど。 でも全部終わった今なら、案外悪くなかったなって思ってるよ。」 ダーくん 「俺もだぜ人手ッ!こいつらは全員、人手に勝るとも劣らないほどのキラメキを秘めた熱い奴らだったぜッ! また会うことがあったらよろしく頼むぜッ!」 武福川駆 「そっか、デジタルワールドにいた人はいきなり飛ばされてきてたんだよな。 ソウルリッパーとか言うやつに死ぬまで出られないって言われたときはホント精神的にやばかったけど、 現実世界から助けにきた3人を見てすっげー安心したんですよ。 俺が生きて帰れるのも皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。」 シマユニモン 「俺からも礼を言う。駆と二人だけじゃこの戦いは切り抜けられなかった。 ここにいる全員がいたから俺たちは世界も救えたし生き残ることができた。 本当にありがとう。みんな。」 佐辺優子 「私たちもみんなと会えて多くのことを学べたよ。 それに、現実世界に帰還するという大目標に大きく近づけた。 何から何までみんなのおかげだ。私は、みんなに出会えたことを誇りに思うよ。」 ナイトモン 「皆様の協力のおかげで主を守り切ることができました。きっと私だけでは この戦いを切り抜けることも、主を守り切ることもできなかったでしょう。 私も、皆様の出会いを誇りに思います。」 トブキャットモン <ぬは特に言うことないんぬ。会う機会はいくらでもあるんぬ。  積もる話はその時のお楽しみに取っておくんぬ> 筑波梨李 「ト、トブキャットモンのくせにかっこいいこと言うんぬ…! でもトブキャットモンに賛成なんぬ。これが今生の別れじゃないんぬ。 今度はゆっくりお話ししたいんぬ。 だから、デジタルワールドに戻る人たちも、みんなも必ず生きて帰ってきてほしいんぬ。 絶対なんぬ。」 優子と駆と人手は筑波の言葉に力強く頷く。 デジマスター 「こ、こういう雰囲気はあんまり慣れてないから…何を言おうか迷っちゃうな…。」 ブリッツグレイモン(黒) 「おいおい相棒、子供たちがいい感じの雰囲気にしてくれたのに台無しだぜ。」 クーレスガルルモン(黒) 「まったくですな。」 一同がどっと笑いだす。 デジマスター 「しょ、しょうがないだろ! ま、まあなんだ。なんだか偉そうに君たちを助けに来た!とか言ったけど あんまり活躍できなかった気がするから…ちょっとだけ気が引けるよ。」 海風人手 「なーにいってんだよ!アンタがいなかったらヤバかったんだぜ? それにさっきシマユニモンが言ってたろ? 全員がいたから解決できたって。誰一人欠けても駄目だったんだよ。」 皆が強くうなずく。 デジマスター 「そ、そうかな。そう言ってもらえるとありがたい。 あんまり気の利いた事思いつかないけど、俺も、みんなと会えてよかったよ。 本当に、心の底から、良かったって思ってるよ。」 九根針尾 「ははは、こういうのって最後に回された方は困っちゃうよな! 正直俺も言いたい事全部みんなが言っちまって言うことがねえ!」 再び一同に笑いが溢れる。 九根針尾 「まあなんだ、オレはみんなと違って大人だからな、 同じ目線で何かを悩んだり考えたりはできないけど 相談に乗るくらいならできるよ。 もし色々と行き詰ったことがあったら俺たち大人を頼ってくれ 全力で助けに行くからさ。……こんなもんでいいかな。」 最後に、 一同が■■■■を見つめる。 ■■■■ 「………ノ、ノーコメントで。」 一同がずっこける 筑波梨李 「天丼なんぬ」 海風人手 「お前なぁ!」 三度、一同に笑いが巻き起こる。 そして、元居たデジタルワールドに3人が帰還し、 デジマスターこと黒鉄堅治と筑波梨李もゲートを通り現実世界へと帰還した。 世界の終わりは過ぎ去った。 だが、デリーパーの残した爪痕は大きく、深い。 現実世界やデジタルワールドはこれから復興作業が始まるだろう。 今までの日常に戻るには、もう少し掛かりそうだ。 世界を救いハッピーエンドを迎えても、私たちには"その後"が続いていく。 それは今回のようなめでたしめでたしばかりではない。 辛いことや悲しいことも多く待ち受けているだろう。 それでも、今日の出来事が、その長い道行を支える思い出となるはずだ。 目標へと向かう意思、信頼と忠節、輝きを追い求める心。 普通を貴ぶ気持ち、助け合う優しさ、抗い続ける闘志、あきらめない心。 それらは長く続く"その後"を照らしていくだろう。 イベント:「隔絶電脳異界セフィロ・サーチャー」 第■節 進行度■/■ ステージ:デジタルワールド 草原エリア 元居たデジタルワールドに3人が帰還し、デジマスターこと黒鉄堅治と筑波梨李もゲートを通り現実世界へと帰還した。 最後、その場に残った二人は…… 九根針尾 「ところで鏡見くん、まだ人間に戻らないのかい?」 ■■■■ 「ん、ああこれですか。それなんですけど――。」 九根針尾 「――えっ、戻れない?ほんとに?」 ■■■■ 「はい。いつもの感じで戻れないみたいなんですよね…。」 ハムお姉さん 「そのうち戻るんじゃないですかぁ?」 突如、デジヴァイスから声が響く。 九根針尾 「うおっ、…なんだ君か。」 ハムお姉さん 「ふふふ、そうです、ハムお姉さんです! 鏡見くん、私がなんで通信してきたかわかりますか?」 ■■■■ 「分かっていますとも。結構目ざといですよね、貴方。」 ハムお姉さん 「あなたが分かりやすいだけなんじゃないです?」 九根針尾 「???何の話をしているんだ?」 ハムお姉さん 「この事件の、こちらでの処理の話ですよ。彼にも残ってもらってお手伝いしてもらおうかと。」 九根針尾 「む、そうなのか?それなら先に戻っていよう。 デジ庁からの依頼だったからな、俺は今回の報告書を上げなければならない。 …できれば、"記憶力の良い"君がいてくれたら楽なんだが。」 ■■■■ 「あはは、申し訳ございません。数日ほどこちらに滞在する予定なので 特務室の方々に話を通しておいてもらえると助かります。」 九根針尾 「承知した。あまり無理はするなよ。じゃあな。」 ハムお姉さん 「よく話が通りましたね。止められそうなものなのに。」 ■■■■ 「特務室案件で何度か一緒にお手伝いしたことがあって、 そういう時は大体数日こちらに滞在することがほとんどでしたから。 今回もそこら辺の事情を汲んだのでしょう。 あの方も、結構察しが良くて助かります。」 メッセンジャー 「――貴方、体を張りすぎです。 デリーパーに囚われたデータをすべて飲み干すだなんて。 何が巨人の存在強度に負荷を掛ける、ですか。ただリアルタイムで構成データを吸い出して体内で超圧縮しただけじゃないですか。」 ■■■■ 「この姿になる時に約束しましたからね。 必ず元の場所に帰すと。」 メッセンジャー 「それはイグドラシルたちの領分です。貴方が体を張る必要は――。」 ■■■■ 「それだと"元には戻りません"。でも私ならできる。それだけです。」 彼らはただのデータ塊へと貶められた。たとえイグドラシルがそれをもとの世界に還元しても データ塊として、世界を構成する最小単位として還元されるだけである。 彼らは生きていた、最後の最後まで生きていたいと叫んでいた。 その叫び(ねがい)が、鏡見の持つスピリットに焼き付いていた。 命だったものたちを、ただのエッセンスとして世界に溶き落とすことは、彼にはできない。 イグドラシルには命を慈しむ機能(ちから)はあるが、命を貴ぶ機能(こころ)はない。 亡くなった命を顧みることはない。亡くなった命を悼む機能(やさしさ)がない。 すべてを記憶していた彼は、すべてを記録してしまう彼は、それを許すことができない。 メッセンジャー 「…それをたった数日で終わらせると?ずいぶん大きく出ましたね。」 ■■■■ 「並行世界の接続は実証・再現できました。それに、僕の中に残って手伝ってくれると名乗り上げてくれた方もいましたし。 あとは形を復元して振り分けるだけ。ボク、"記憶力"だけは良いんですよ。」 メッセンジャー 「……その異常な記憶力は記憶じゃなく、■■■■■■■■■に繋がってるから。 私個人としては、そういうのはすべて封印して普通に生きた方がいいと思いますけどね。 今回みたいに、余計なものを背負わずに済みますから。」 ■■■■ 「おや、メッセンジャーにしては人の心があるんですね。 てっきりイグドラシルみたいな性格してるのかと思いましたが。」 メッセンジャー 「あんなわからんちん共と一緒にしないでください。 ……まあでも、無理だと思ったらすぐにでも言ってくださいよ。 あんなんでもシステム管理を司ってるんですから。」 ■■■■ 「ありがとうございます。頭の片隅に置いておきます。」 メッセンジャー 「はぁ〜。私、今(かこ)の貴方より今の貴方の方が好きなんですけどね〜。 あんな典型的なオタッキーキャラって逆に貴重ですから。」 ■■■■ 「余計なお世話です。」 イベント:「隔絶電脳異界セフィロ・サーチャー」 第■節 進行度■/■ ステージ:現実世界 デジタル庁 デジモン対策特務室の一室。 己に課したタスクをすべてこなし、現実世界へと帰還した ウィザードガンダモンが出頭してからの一幕。 宇佐美京一郎 「犠牲になったデジモンたちを、文字通りすべて蘇生復活させたと。 ……………君のやることはいつも斜め上で反応に困るよ。」 ウィザードガンダモン 「まあ復活させただけで元のデジタルワールドに全員戻すには ちょっとだけ時間がかかりますけどね。 少しだけ、イグドラシルたちにぶん投げました。」 彼が数日間戻らなかった理由を問いただしたデジモン対策特務室の一同は 信じがたい説明を受けて、宇佐美は頭を抱える。 宇佐美京一郎 「それで、いつ頃人間に戻れるんだい?」 ウィザードガンダモン 「そうですねぇ、現実世界の時間でだいたい200時間前後ってところですね。」 一同 「なそ  にん?」 ウィザードガンダモン 「特に問題はないでしょう。デジモンの姿でも日常生活に支障はありません。」 詩虎ヨリオ 「いやいやいやいやいや。その恰好で学校に行くつもりか?外出だってするだろう?」 ウィザードガンダモン 「学校には事情を説明して納得してもらうしかありませんね。」 芦原倫太郎 「納得してもらうって…」 ベルゼブモン 「ははっ!旦那はやっぱおもしれえな!」 テリアモン(黒) 「すごいねこの子。オレたちの常識が通じないよ。」 ウィザードガンダモン 「ほら、ボクって普段から学校でも浮いてたので。 デジモンになったくらいで何が変わるでもないでしょう。」 詩虎ヨリオ 「そういう話か!」 ベルゼブモン 「今の旦那は俺と違って人間に変装できないタイプの外見だからな、仕方ねえよな。 人間社会に溶け込める俺の変装術も流石に形無しだぜ。」 特務室一同 (あれでバレてないと思ってたのか…!?) 芦原倫太郎 「なあ、ウィザードガンダモン。きみ本当に"鏡見淡世"なの? 今まで仕事を手伝ってくれてた鏡見くんと口調とかテンションとか全然違うんだけど?」 ウィザードガンダモン 「皆さんが知る前の"鏡見淡世"なだけですよ。 運命の出会いを経験する前の、両親からネグレクトを受けていた、 この世の終わりみたいな顔をしていた頃のボク、といえば伝わりますか?」 芦原倫太郎 「え、あ、……………その、ごめん。」 唐突にヘビーなパーソナリティの一端を開示されて 一室にどんよりとした空気が漂う。 ウィザードガンダモン 「きっと正しい手順を踏んだ進化じゃないから、こういう不具合が生じたんでしょう。 皆さんにはご迷惑をおかけしますが、すこしだけ容赦してくださいな。」 宇佐美京一郎 「世の中にはまだまだデジモンに忌避を覚える人間が少なくない。 正直、無用なトラブルは避けるに越したことはないんだ。 その状況をあたりまえだと思わないでくれよ。」 ウィザードガンダモン 「ええ、もちろんです。」 テリアモン(黒) 「そうそう、こっちだって人員少なくてヒーヒー言ってるんだから。 余計な仕事ふやしてブラック直行とかオレいやだからねー?」 宇佐美京一郎 「……テリアモン。 とはいえ、鏡見くんにはいろいろと協力してもらっているからな。 それに、君の事情は皆ある程度把握している。 こちらも最大限支援はするつもりだよ。」 ウィザードガンダモン 「そういってもらえると助かります。 では、ボクはこれで。失礼しますね。」 ウィザードガンダモンが退室し、一同は顔を見合わせる。 芦原倫太郎 「学校にはどうやって説明すりゃいいんだ。 というか保護者への報告は…あの人にまた電話しないといけないのかよぉ…。」 テリアモン(黒) 「なあなあキョーイチロー。鏡見の家庭事情ってなにー?」 宇佐美京一郎 「センシティブな話題に首を突っ込むべきではないぞ。」 テリアモン(黒) 「なんだよー。みんなは訳知り顔でオレだけ仲間外れかよー。」 酒多酒々井 「あの子ね、両親から育児放棄されてるのよ。」 ウィザードガンダモンと入れ違いに入ってきた酒多が語る。 宇佐美京一郎 「ん、戻ったか。酒多くん。」 酒多酒々井 「はーい。酒多、ただいま戻りましたー。」 そう言って酒多は自分のデスクに荷物を置いて席に着き、 ペットボトルのジュースを飲み始める テリアモン(黒) 「なあシスイー。育児放棄ってどーゆーことー?」 宇佐美京一郎 「テリアモン。」 テリアモンは酒多のデスクに歩き出し、 酒多に抱きかかえられ膝に座らされる。 酒多酒々井 「テリアモンちゃんだけ仲間外れはひどいですよ。 この子だって私たちの仕事仲間なんですから。」 テリアモン(黒) 「そーだそーだ!」 宇佐美京一郎 「……はぁ。あの子、鏡見くんには弟がいるんだが、 いわゆる天才児ってやつで、10歳で海外の大学を卒業して 今はデジタルワールド研究の最前線を走ってる。 鏡見くんの両親は、5年ほど前にその弟と3人だけで海外に渡ってしまったんだ。」 テリアモン(黒) 「じゃあなに?アイツ、今一人?両親から見捨てられたってこと?」 宇佐美京一郎 「……まあ、そういうことになるな。 一応、別のところに住んでる保護者代わりがいたんだが、あんまり褒められた人間ではなくてな…。」 芦原倫太郎 「参っちゃいますよ…ほんと。」 テリアモン(黒) 「ろくでもない家庭に生まれたんだねー。かわいそー。」 宇佐美京一郎 「あまり他人の家庭を悪く言うものではないよ。」 テリアモン(黒) 「なーにいってんのさ。キョーイチローだって同じこと考えてるでしょ。」 宇佐美京一郎 「たとえそうだとしても、口に出さないのが大人なんだ。」 テリアモン(黒) 「でも、アイツはまだ子供だよ、キョーイチロー。 子供って大人の愛を受けて育つものなんでしょ? このままだとアイツ、本当に必要なものが与えられないまま、大人になっちゃう。 そんな残酷なことってある?」 酒多酒々井 「テリアモンの言うことは含蓄があるわねー。 もしかして家族にあこがれてる?」 テリアモン(黒) 「べっつにー。」 テリアモンは脱力し、酒多の膝上に倒れこんで耳をパタパタさせる。 宇佐美は溜息を吐いて、ウィザードガンダモンのための書類作りを進める。 セフィロ・サーチャーの一件で、デジモン対策特務室の仕事は山盛りに。 世界が救われても、仕事から救われることは永遠に来ないのだ。 場面は変わり 町の中を歩くウィザードガンダモン。 周りの人々は彼の姿を見て驚愕する。 ウィザードガンダモン (やっぱり、この姿だと注目されちゃうよね) ウィザードガンダモン (…………家族か。お父さんとお母さん、ボクの姿みたら驚くかな。  いや、なんとも思わないか。) ウィザードガンダモン (駄目だな。この姿になってから、どうも弱気になっちゃう。) 夜の帳が下り、肌寒い風がウィザードガンダモンの頬を撫でる。 乾燥した空気に包まれ、少しだけ昔の記憶に浸る。 弟が生まれるまでは、自分は両親からの愛を注いでもらったこと。 弟が生まれ、その天才性が発覚してから両親が見向きもしなくなったこと。 弟だけが周りに褒めそやされ、自分はいつもいない者扱いされていたこと。 弟と事あるごとに比較され、他人に蔑まれていたこと。 自分の価値を示すことができず、両親と弟を引き留めることができなかったこと。 目を背けていた気持ちが、リフレインする。 悲しくて、寂しい気持ちが、リフレインする。 怒りはない、恨みはない、悔しさはない。 ただただ、悲しくて、寂しい。 ――ああ。今のボクは、そこまで巻き戻ってしまったんだな。 ふと、空を見上げる。 仲間と肩を並べて戦い、世界の危機を救って、 天に輝く星のような、たくさんの命を掬ったけれど、 ほんの少し、涙がこぼれる。