「おや、珍しい客人ですね"エージェント・秋月"」 「…秋月でいい。何の要件だ"オーナー・ケイト"」 「いえ。現在の貴方の素性を鑑みれば、このような場所に堂々と足を運ばれるのは可能なのか?という疑問はありますが……デジモン研究者としての好奇心、それともあちらで参戦している子供達の授業参観といったところでしょうか?」 「前者だ」 「がんばれーシャコモーン!」「フックモンもまけるなー!」「メタルマメモンー!」 VR仮想アリーナ・オールマインド。眼下のフィールドで繰り広げられる人とデジモンの共闘を静かに見届ける男…秋月影太郎がメガネのレンズ越しに凛とした視線を送るそこに、この施設のオーナーたる隻眼の女性ケイトがいた 「つまりただの観戦だ」 「それは残念です。ぜひ貴方の今の辣腕もこのアリーナでお披露目いただければ、我々としても嬉しいのですが」 何やらアテが外れたらしい影太郎はその誘いにも戦意を見せなかった 「すぐに腐るデータが欲しいならいくらでもくれてやりたい…が、生憎目的の"ソレ"とはタイミングが合わなかったらしい」 「そうですか。オールマインドはいつでも貴方の協力を歓迎しますよ」 「……」 ケイトの浮かべるぬるりとした笑みに影太郎は少し押し黙った後、思い立つ 「…いずれキミにも見せるつもりの事だ。先んじて僕がここに来た理由を話しておく」 「ほう、宜しいのですか。ワタシのような素性も知れぬ者に貴方の研究成果の仔細を語っていただけるとは」 「研究成果などと大層なものじゃない。…ただの脛の傷の話さ」 自嘲気味に鼻で笑う 「キミらが何処まで嗅ぎ回ったか興味は無いが、おそらく知っているだろう…僕が目の前で誕生前のパートナーデジモンを殺され、選ばれし子供になれなかったことなど」 「ええ。存じています」 悪趣味な連中だな、と影太郎は眉間に軽く皺を寄せたがかまわず続ける 「僕はその復讐のために10年の歳月を費やしデジモンを研究し…兄から奪ったデジヴァイスのデータからついにゴルルドモンという人造デジモンを生み出した」 ───ゴルルドモン。かつて秋月影太郎が鉄塚クロウと相対した際に従えていた金色赤眼のルドモンの贋作。意思を持たず、言葉を持たず、ただ命令により戦うマシーン …されどその力はオリジナルをも超えうる究極体ゴルドブリウエルドラモンと形り、選ばれし子供達の繰り出す究極体デジモンを複数体圧倒し、このデジタルワールドを火の海へと染め上げようとした さらにその計画は、かつての兄の相棒…本物のルドモンを奪取したブリウエルドラモン…つまり《二体のLegend-Armsデジモン》の力をもって盤石となるはずだった 「ですがそれは、貴方の兄の意志を継いだ男の執念でまんまと打ち砕かれた」 「ふざけた男だ。それでも奴1人に負けた訳では無かった…が、今となってはどうでもいい」 ただ、と眉間の皺を深めた影太郎は付け加える 「ゴルドブリウエルドラモンのスペックは"結果的に"未完成だった」 ケイトの目に好奇心が色濃く宿る 「ほう。世界をひとつ焼きかねないあれほどの大火を持ってしてもまだ飽き足らなかったと?」 「いいや違うな。足らなかったのは…盾だ」 「盾?」 「このデジタルワールドの最高位に存在する超金属『クロンデジゾイト』───僕のゴルルドモンはそれを再現しその身に象らせていた。それは究極進化体ゴルドブリウエルドラモンにおいても同じだ」 人の手でクロンデジゾイトを忠実に再現してみせた…などと、とんでも無いことを簡単に言ってくれる ましてやそれが伝説の武具に変身するLegend-Armsの完全コピーだというのだから、この男を突き動かしつづけたイカレた執念と頭脳にケイトは内心賞賛を贈る他なかった 「"だがそれでも"、僕のゴルルドモンは奴らに勝てなかった。…"完全体のバースト進化"というイレギュラーに真っ向から粉砕された」 「なるほど…ライジルドモンバーストモード。同じクロンデジゾイトの盾を持つもの同士の激突に敗れたと」 「"同じ"ではなかったハズだった」 「…?」 影太郎が立ち上がり、ある一点を指差す 「僕のゴルルドモンが"金色"である理由はな…アレの力を欲し、モノにしようとしたからだ」 「───…マグナモン"X抗体"」 ケイトが見上げたランキングボードに映された男の傍らに佇む金色の闘士 …それのみが許された究極の超金属 「なるほど…貴方はクロンデジゾイトを超越する《ゴールドデジゾイド》を人の手で生み出さんとしたわけですか。そしてそれが叶わぬ今…されどその本物のゴールドデジゾイドと相対する機会がこのオールマインドに存在した、と」 「ああ。百聞は一見にしかず…というわけだ」 もっとも、金色である理由には…かつて壊された"金色のデジタマ"への感傷もあったのかもしれないが…それは口には出さなかった 鍛え上げることで強さを増すという例の無い「クロンデジゾイド」 マグナモンXの仮想超金属は、マグナモンと極度に一体化し、まるで筋肉のように成長もすれば退化もするようになった。古代の技術で造られた天然の状態に近い「クロンデジゾイド」(=奇跡のデジメンタル)が、生物と一体化するという本来の性質と、マグナモンの能力とによって、奇跡的な進化を遂げたものと考えられている マグナモンの筋肉「クロンデジゾイド」が張りつめた時、全身が黄金に輝く『ゴールドデジゾイド』状態へ一時的に変貌し、物理的防御だけでなく、データ分解系などの攻撃すら耐えうる絶対防御状態となり… ───ではもしそれが過去に影太郎のゴルドブリウエルドラモンの巨躯全てに宿ったとしたら? 「とんだ夢想…とは言い難いほどの成果を我々が見せつけられているのは少々鼻につきますが。もしもそれが成ったのであれば…今頃この世界はどう成っていたのでしょうね?」 「さぁな。もはや興味もない」 ケイトの好奇心に対し、ぶっきらぼうに再び椅子に背を預けながら影太郎は呟く 「今は世界のため…などと宣い戦わさせられているが、僕自身にはもうこの世界に未練も興味もない」 敗北し、過ちに気付かされた デジタマへと還り生まれ変わる事のできない人造デジモン…ゴルルドモンを目の前で失い、悲しみにもくれた 全ての罪を背負い地獄へと落ちるつもりだった …だが兄が寄越した『最後の償いの旅』は、秋月影太郎をBVという大きな渦に飲み込みながらこの世界に蠢く悪意へと、あの少年少女たちと共に立ち向かわせるものだった それでも構わなかった 「それでも……いつか僕が消えたこの世界でも、そこに"彼"の未来は続く。だからせめてそれを、この命全て喰い潰すまで守り続ける事が」 『彼』… かつて消えた守れなかった最初のパートナーに 兄が再び送り届けてくれた消えたはずの命…ゴルルドモンに そして彼が姿を変え側にいる…ズバモンへと誓う このデジヴァイスバーストはその証だ 「僕がいつからか踏み躙ってしまった"彼"との───僕のパートナーデジモンへの誠意であり絆であり…償いだ」 「…なるほど。今度こそ果たせると良いですね、その願い」 「安心しろ」 踵を返すケイトの背に、影太郎は告げる 「───邪魔をするなら斬り伏せる」 「…おもしろい」 「おいケイト。あのいけすかねぇイケメンと何くっちゃべってやがった」 「イグ…モチモン。大したことではありません、少々彼の研究に興味が湧いたもので」 「あァ?なんだそりゃ…」 「───アレは俺の客ではないのか?」 「VI.F。今日はまたいずれ…彼とは戦うでしょう」 「そうか。…退屈せずにやれそうだ」 ・秋月影太郎でアリーナの特定条件を満たすと強化イベントによりデュランダモンバーストモード限定技『ゴールドデジゾイドの薄刃』を得ることができる