千丈の堤も蟻の一穴から、とは言ったもので。 私は今人生で最大のピンチに陥ってます。 どうもみなさんこんばんわ、名張茜です。 いや人生最大のピンチっていうのはちょっと違うかもしれませんね。 隠れ里が襲われた時とか、飛騨の山奥で頭が二つあるオーガモンに襲われた時とか…… まあ、それ以上かどうかはともかく、ピンチです。 なぜこうなったかと言うと…… 一週間前 夜の浅草花やしき、暴れているのは……珍しい、デジモンイレイザーの関係者みたいね。 敵の姿が確認できないけどディンさんが色井くんの制止を振り切って駆け込んでいったから間違いない。 あっ突入命令が出た……ディンさんが突っ込んだからなし崩し的にもう命令出したことにしたのね。 国際問題になるから仕方ないけど、あの人の命令違反もみ消しも毎度毎度大変そうね。 デジモンイレイザー関係者は一人を除いてリアルワールド側の営利団体と繋がり薄いから情報取りにくいのよね。 あっ敵が飛び出してきた。あれは……なんかヴリトラモンっぽいけどちょっと違うわね。 デジモンイレイザー関係でハイブリッド体が出てくるってことは……ジョーカーモンかしら。 あれのテイマーはまだ情報がほとんど無い。目撃情報はあるけど撮影されたデータが無いから特定には至ってないのよね。 推定小学生の女の子、しかも5年前のデジモン事変のせいで書類上の年齢が当てにならない。 しかし今までの目撃情報からすると、テイマーはジョーカーモンを連れてこの様子を見に来ているかもしれない。 探してみる価値はあると思った。何よりあの程度の相手ならディンさんと色井くんだけで十分なはず。 カリスモンもいるってことは源乃ちゃんもどこかで配置に就いてるはず。 ちょうど配置情報のとこだけ無線聞き逃したのよね。 今日は旦那様も生配信で私の支援できないし…… 東京に引っ越してきて新居に配信部屋とスタジオ作ったら配信頻度がまあ上がる上がる。 今日もA◯EXのコラボでさー、なんて言ってたけど。あの戦い方はちょっとねー。 ワ◯トソンで引きこもりとかゲームでまでリアルと同じことやって楽しいの? やっぱりミ◯おじで分身出すほうが楽しいに決まってるじゃない。 ◯PEXなんかよりもっと私とS◯Xしろー!……っとと、危ない危ない、ボイチェンが反応するとこだった。 一旦切っとくか。どうせ屋上で遭遇するのなんて源乃ちゃんだけだし大丈夫でしょ。 そう思って花やしきの周囲のビル群の屋上を渡っていると……見つけた。 ジョーカーモンだ。赤い服を来た少女を抱きかかえてビルの上を跳び回ってる。 ……やりにくいわね。大人なら容赦なく諸共ぶった斬れるんだけど。 あんな子どもに痛い思いさせるのは嫌よね……。 んっ?無線から源乃ちゃんの配置変更指示。あっちもジョーカーモンの可能性に気づいたみたいね。 もうヴリトラモンモドキのほうはカタが付きそうだから支援要員を索敵に回すみたい。 ……ジョーカーモンのほうも私に気づいたみたい。逃さないわよ? とは言っても浅草は全体的に建物の背が低い。路上での追跡は目撃されるリスクが高すぎる。 デジモンの身体能力は高い、でもこっちだって―― 「シュリモン」私の影に潜むシュリモンが出てくる。 「ホテルの最上階。」私の短い指示で意図を把握する。シュリモンが左腕を目一杯伸ばす。 「カードスラッシュ、スパイダーボーラ」シュリモンの左手が粘着性を帯びる。 同時にシュリモンの腕が倍以上伸びて、先端が近くのホテルの最上階にくっつく。 低めの建物が多い浅草でホテルは貴重な高層建築。 シュリモンは右腕で私を抱えると伸ばした左腕を一気に縮める。 向こうはデジモンの身体能力で高く跳んで逃げを打つはず。 ならばこちらはその上を物理で行く。 100メートル以上の高さまで一気に上昇、そのまま勢いをつけてジョーカーモンに迫る。 距離とタイミングを見計らってシュリモンに指示を出す。 「今よシュリモン!」 「ほいな姐御!」壁から離した左腕でジョーカーモンを狙う。 プラグインは未解除。これなら万が一テイマーに当たってもくっつくだけで傷つかない。 先程のホテルより少し低いビルの屋上に着地したジョーカーモンに手裏剣が命中する。 よしっ、着狩り成功!……と思ったけど、やるわね。 命中の瞬間に鎌で受け止められてた。まあいいわ、武器は一つ封じたし。 こちらも彼らの至近距離に着地する。テイマーの少女はまだジョーカーモンに抱きかかえられている。 まだ年端もいかない少女だ。ずいぶんとメルヘンチックな服着てる。 騙されてる子どもか、破滅願望のある子か、それとも子供の姿をしてるだけなのか…… 全部有り得るのが怖いところよねえ。 ジョーカーモンはテイマーの少女を庇うような姿勢で対峙する。 シュリモンならジョーカーモン相手でもそう遅れは取らないはず。 そうなるとテイマー側の能力の差が問題だけど……見た目だけでは判断しきれないのよね。 数秒間の沈黙、それを破ったのは屋上へと出る階段のドアを開ける音だった。 バタン、という音とともに出てきたのは――源乃ちゃん!? しまった、このビル、源乃ちゃんの移動指示が出てたビルだわ! 判断が早かったのは向こうの方だった……いや、ミスで動揺した私の判断が鈍ったのね。 ジョーカーモンは跳躍、テイマーを抱えたままビルの谷間へと消える。 人に見られるリスクを負ってまで追いかけるか……いやダメだ。 そう私が逡巡してると、源乃ちゃんがジョーカーモンに向けて狙撃銃を向けているのに気づいた。 突然の遭遇でパニックになったのか、冷静な判断が出来ていない。 警官としての経験がまだ浅いから仕方ないけど…… 「やめろ!」私は男口調で強く制止する。「テイマーに当たったらどうする!」 「えっ、でも……えっ?」 「それに空中でデジモンに麻酔弾を当てたらテイマーの子どもが落ちて死ぬぞ!」 「ひゃっ……はい……」銃を下ろす源乃ちゃん。 見ると、ジョーカーモンはすでに着地したようだった。非常線も間近い。 「……逃したか。」 「姐御、姐御」 「そこな警官!」私は源乃ちゃんに話しかける。 「はっ、はい!?」 「確かに不審なデジモンを取り締まるのは貴官等の役目だ。」 「姐御、姐御ぉ!」 「しかし貴官等の最大の目的は人とデジモンを守ることだと覚えよ。」 「あーねーごー!」 「ちょっと何よシュリモン、今いいこと言ってるんだから」 「姐御、ボイチェン!」……あ。 「ボイチェン外れてる!」し…… 「あの……もしかして……」し…… 「……茜、さん……?」しまったあああああ!!! 「エイリアス!ショートカット!」私は即座に脱出した。 自分がデータ変換されて再リアライズする感触は一瞬で消え、私は帰還先に設定した座標に戻ってきた。 新居の3階、私達の寝室だ。キングサイズのダブルベッドに蔵之助の姿はない。 予定通り配信中のようだ。 「……あーーーーー。」私は頭を抱えてうずくまる。 「あー、姐御……?」アーマー進化を解除したホークモンが話しかけてくる。 「……バレたかしら?」 「……せやろなぁ。」うわあぁ、やっぱりいぃ!? 「どうしようどうしよう殺すしかないかしら口封じ口封じでもでもでもせっかくすみれさんにできた可愛い女の子の後輩だし人手不足だし殺したくないけどどうしようどうしようどうしよう!」 私はホークモンに掴みかかる。 「どうしたらいいと思うホークモぉン!」 「……姐御おちついて、な?」困惑しながらも翼で私の頭を撫でるホークモン。 「とりあえず今日はもう着替えて寝よか?」 「……うん。」 6日前 目が覚めたら朝の8時だった。……寝過ごしたわね。 寝付けるわけない!ってなった私は旦那様開発、非売品の睡眠プラグインを自分に使った。 その時にタイマー設定を忘れてたから上限の8時間までたっぷり寝てたらしい。 まあ本当は催眠プラグインで明らかにマズいから非売品にしたんだけど。 隣を見ると蔵之助が寝息をたててた。この寝顔の可愛さは5歳の頃から全然変わらない。 蔵之助なら俺の隣で寝てるぜ……なーんて。 あんなに可愛かったのに種族性別を問わない性欲魔神になるなんて思いもしなかったわあの頃は。 まあ400年に渡る品種改良の結果だからしょうがないけどね。 居間に出ると食堂に朝食が用意してあった。 レナモンが私と蔵之助の分まで作ってくれた。毎朝感謝です。 それを食べていると階段を上がって誰かが入ってきた。……私だ、いや違う。 「お目覚めでしたか、主殿。おはようございます。」私の姿にプラグインで擬装したレナモンだ。 「おはようレナモン、おちびちゃんたちは?」擬装解除して元の姿に戻ったレナモンに尋ねる。 まあ私の姿に擬装したってことから想像はついてるけど。 「若様と姫様なら先程私が保育園までお送りしました。」私には勿体ないくらい出来たデジモンだ。 「ありがとレナモン、感謝してるわ。うちの宿六は結局何時まで?」 「お館様なら4時前まで配信されていたようです。」やっぱ起こさなくて正解だったか。 それにしても……どうしよう。寝て起きて落ち着いたけど、事態がよろしくないのは変わってないし…… 「主殿……何かありましたか?」レナモンが私のほうを見てる。 一見無表情だけど付き合いが長くなってくると分かる。私の異変に気づいて、心から心配している顔だ。 「うん、まあね……バレたかも知んない」隠しても意味がないから正直に言う。 「悩んでいるということは、悩まれるような相手なのですね?」察しがいい。 やっぱり私には勿体ないくらいよく出来たデジモンだ。 「殺したり、記憶操作はしたくないような身近な方々……ということは電脳犯罪捜査課のどなたか、ですか。」 「……源乃ちゃん。まだ確定じゃないけど。」 「確かめる必要がありますね。」レナモンは右手を顎の下に添えて考えこんだ。 「……しょーがない、行ってくるか、新橋に。」私達の間では新橋と言えば電脳犯罪捜査課のオフィスのことを指す。 「私も同行いたしましょうか?」 「……いいえ、ホークモン、というかシュリモンにするわ。」余計な情報は無用な誤解に繋がりかねない。 常に隠れていられるシュリモンのほうがいいわね。 「みんなおっはよー!あと新ネタない?」新橋の電脳犯罪捜査課オフィスに、私はいつもの調子で顔を出す。 「おはよう、って名張さんもう11時ですよ?」色井くんが呆れ気味に言う。 「そうだぞアカネ、もう朝とは言えない時間だぞ。」 色井くんだけじゃなくてディンさんまで報告書を作ってるみた……始末書だコレ。 ちらっと見た文面からすると連帯責任で色井くんも書かされてるみたい。 ……ディンさんにはいい加減お目付け役と言うか監視役が必要じゃないかしら。 「……おっ、おはよう、ございます……茜、さん。」私に気付いた源乃ちゃんが挨拶したけど……様子が変! なんか目ェ逸らしてるし! 「おっはよー源乃ちゃーん!」平静を装って話しかける。キープスマイル、平常心平常心…… 「……あのね源乃ちゃん?」顔を近づけて耳元で小さな声で囁く。 「……見た?」 「………………はい。」はい確定! 「ごめんねみんなー!ちょっと源乃ちゃん借りるねー!」源乃ちゃんの手首を掴んで強引に連れ出す。 「えっ、あっ、あの?」 「あっおい茜、どこ行くんだよ!?」 「ごめんベアモン、ちょっとそこで待っててねー!」 ベアモンが抗議の声を上げる。ごめんねベアモン。 別の階の女子トイレに移動して、トイレの物置から『清掃中』の看板を出してドアの前に置く。 このビルは全体が防諜目的で防音と電磁波遮断が施されてる。 クロンデジゾイド複合材でデジモンの攻撃や干渉にも耐性がある。 だけど取調室は常時録音録画されているし、同じ階だと聴覚に優れるデジモンに聞かれる恐れがある。 別の階に移動すればその防音が有効になるけどね。 「……あのね源乃ちゃん。」 「あっ、あの、私、誰にも言いませんから!」私がなにか言うよりも先に、源乃ちゃんが口を開いた。 まあ秘密を盾に何かを要求するような子じゃないのは分かってるわ。 でも警察官だからきちんと報告するとか言い出す心配はあったけど…… 「あ、あ、茜さんが、その…………テイマ忍だ、ってことは。」 ………………ていまにん!? 「あっ、あの後……皆さんに、報告しようとしたら、その……明智さんに、止められて。」 明智くん……ナイスアシストするじゃないの、敵ながら。 「それで、明智さんに……動画、見せてもらって……謎の変質者な女忍者のテイマーがいて、その……」 風向き、変わってきたわね? 「テイマー忍者、テイマ忍って呼ばれてるって……教えて、もらって……」 前言撤回。いいイケメンは死んだイケメンだけって言葉に今だけ同意するわ。 「本人は、秘密にしたがってるみたいだから……察して、黙ってあげててほしい、って…………。」 やっぱ殺しときゃよかったあのクラックチーム野郎! 「あーけーちー!明智くん!明智くんはどこ!!」源乃ちゃんを置き去りにして私は電脳犯罪捜査課のオフィスに戻る。 「明智君なら遅番よ。病院に行くんだって。」すみれさんが答える。 「アイツこの頃調子悪いって言ってたもんなぁ。」 「そうね宗介、私も見た目以上に良くないって感じていたわ。」筧さんとアルケニモンさんがそう言う。 むがー!あの野郎ー!!でも病院行ってるのは多分本当だし怪我の原因ウチのおちびちゃんだから強く言えない! 紹介した非合法エージェント向けの闇医者から報告来てたし。 「……茜さん、……片付け、しておきました。」源乃ちゃんが戻ってきた。 ってそう言えば看板とか出しっぱなしだった。 「ごめんごめん忘れてた源乃ちゃん。ありがとうね?」 「……いえ、大丈夫、です……私、分かってますから。」源乃ちゃんはそう言って胸元で小さく右手の親指を立ててみせた。 その表情と鼻息はどう考えても (私がちゃんと片付けしました!) って意味じゃなくて (私は秘密はちゃんと守ります!だから茜さんは安心してください!) って言ってるのよ!違う違う、そうじゃ、そうじゃなくて! 午後四時過ぎ、新橋駅。登庁する明智のクソヤ……明智くんを待ち伏せする。 私の姿を見つけて……あっなんか微妙に笑ってる! 「おや、どうしましたか名張さん、こんなところで?」しらじらしい! 「ちょっと明智くん、テイマ忍ってどういうことよ?」食って掛かる私に、 「テイマ忍……ああ、昨夜二尾橋が見かけたとか言ってましたね。一昨日辺りからネットで噂になってるらしいですよ。」 しれっとそんな事を言う彼の顔には微笑みが浮かんでいる。 明智くんちゃんと笑顔できるじゃん……じゃなくて! 私が見たかったのはそう言う笑顔じゃなくて!そもそもそう言う話でもなくて! 「自分でそういう風説流布しといてよくそんなことが言えるわね……!」 「さあ、何のことです?」余裕綽々と言った感じがにじみ出てる。こんにゃろ…… 「だいたい大事さえ起こさなければ相互不干渉なんですよね?」 つまり私たちに対する報復ってことかこれは……致命的な段階ではないけど面倒くさいことになる。 上にバレたら問題視されるのは間違いない。 流石に笑顔をキープしきれず悔しさが顔に出た私をみて、明智く……明智は左手を口元に当てて必死に笑うのをこらえている。 そうそう、その顔が見たかったんですよ、って顔に書いてあるわよ! 「まあ、そのへんにしといてくれよ。」横合いが声がかかった。この声は! 「蔵之助!どうしてここに!?それにあんたたち!?」 声をした方を見ると、蔵之助に連れられて侘助と一華が歩いていた。最後尾にレナモンがいる。 「やあマイハニー、そして久しぶりだね明智秀人君。怪我の治りはどうだい?」 「ママー!」「ままー!」 「うっ!……おかげさまでね、今日包帯が取れたよ。あれが忍者の傷薬の効能ってヤツか?」 なんか急に表情が精彩を欠いてきたわね。 「そうかい、それはよかった。君が死んだら子どもたちもちょっと気分が悪いからね?」 「あけちおにいさん、てかげんできなくてごめんね?」 「ごえんね?」 明智くんの顔が引き攣ってる。ちょっと姿勢も後ろにのけぞって引き気味だ。 ……ああ、そっか。この子たちに痛めつけられたのがトラウマになってるんだ。 忍者じゃない人だとあの程度でもきついって感じるのね。 「テイマ忍の話、だったかな?」ああっ!愛する夫からそんな単語聞きたくなかっ…… よく考えたらもっとひどい内容の発言普通にしてるしそれどころか実行までしてるわねウチの宿六。 もしかして私の夫って……邪悪なのでは? 「事情はこちらも把握してるよ。まあ、君の暗躍も多少は目を瞑るって約束したし……」 そこでちらっと私を見る。何かしら? 「こっちもこれで覚悟ができた。まあ、そういうわけでこの件で君に報復とか無いから安心してよ。」 しないのね、仕返し。まあ蔵之助がそう決めたならそうするけど……。 「足止めして悪かったね。お仕事がんばってくれたまえ。」 そう言われると明智くんはそれではと軽く会釈して電脳犯罪捜査課のある方へ歩いていった。 5日前 午前、桜田門前。 今日の私はいつもとは違う格好だ。シュリモンも連れてない。 何も知らない人が見たら、少し背の低い男性警官のように見えるだろう。 即席肉体変位忍術による男装、旧陸軍の組織でも使われた由緒ある忍術だ。 警視庁の15階、そこの一角にあるのが警視庁公安部第13課、通称公安D課だ。 案内板に示された一角は、幾許かのデスクと数名の職員がいるだけで、その奥に窓のないドアがある。 公安D課の正規職員は10名にも満たない。 その多くが事務方で、実際の任務は非正規のエージェントが行うのがほとんどだ。 デジモン絡みがメインだけどテイマーはまだ多くないから仕方ないとは思う。 デジ対とかも似たような状況だし。 だからって外部の犯罪者を使って危険な任務までさせるのは正直どうかと思うけど…… 指紋と虹彩パターンの認証をクリアして奥のドアを開けると、そこが課長室だ。 窓の一切無いその部屋の三方の壁は色々と仕掛けが施してある……らしい。 おそらく課長の実家の忍術で仕込んであるんだろうけど、私には半分ぐらいしかわからない。 「失礼します。」変声プラグインは使っていない。普通の変声忍術だ。 このフロアでは迂闊にデジモンを連れ込んだりデジモン用プラグインを持ち込めない。 対デジモン用の強力な妨害システムが仕掛けられていると聞いた。 蔵之助が言うにはシャッガイシステムの小型化改良版だという。 通常は動作停止状態に置かれているが、非常時には庁舎全体を覆う範囲でデジモンのリアライズを阻害するらしい。 私のような非合法あるいは非正規なテイマーやデジモンを使って活動する以上は必須の設備なのだろう。 「来たか、茜君」でっぷりと腹の出た50過ぎぐらいに見えるおっさ……おじさまが座っていた。 「お久しぶりです、六角課長。」この人が公安D課の課長、六角警視だ。 こんな脂ぎって動きの鈍そうな風体だけど油断しちゃいけない。 この人は私なんかよりもよっぽど強くて、多分ズドモンぐらいなら余裕で相手できる。 「報告は聞いたよ。私はネットとかデジモンのことはあんまり詳しくないのだが……」 書類をとじたバインダーを見ながら課長は言う。 この課長室の内側ではデジモンからの攻撃対策として一切の電子的デバイスを使用しない。 電源すら独立していてスマホの電波も遮断される。 電話を始め各種伝達や操作するインターフェースは全て物理的な機械で行われているらしい。 もっともそれでは不便すぎるということで課長室以外の通常業務フロアは普通に他の警視庁フロアと同じ仕様になっている。 だいたいの業務はそこで行われ、課長室に呼び出されることは稀だ。 「君の存在をこれ以上秘匿することは不可能、というのがC別からのアドバイスだそうだ。」 C別……とうことは蔵之助がなにか手を回したということだ。 「一緒に送られてきた撹乱プランを見たが、またずいぶんと思い切った提案をするな、あの男は。」 そう言ってバインダーを机の上に放る。 「とは言え、かつて石川五右衛門や鼠小僧、鞍馬天狗といった我々の先達たちもやってきたことではある。」 撹乱プラン……?私は何も聞かされていないわよ!? 「何よりこちらから出す予算がゼロなのが素晴らしい。C別の予算の一部と、あとは彼のポケットマネーで行うそうじゃないか。」 ……はい? 「予算が掛からない以上、こちらとしては反対する道理もない。あとはC別だが……」 ちょっと待って、さっき羅列された名前と言ってる内容からは嫌な予感しかしないんですけど!? 「デジモン好きな連中が反対するはずがないな。まあ、頑張りたまえ、茜君。」 「ちょ、ちょっと待ってください!それ見せてください!」 私はそのバインダーをひったくるようにして読み始める。…………はあ!?!? 「なんだ、君は何も聞かされてないのかね?……まあ、あの男らしいと言えばらしいな。」 私の顔を見て課長はニヤニヤしてる。やっぱ性格悪いなこのおっさん! 「こぉらああ!くらのすけぇえ!出てこー……アレ?」 怒りでバイクをかっ飛ばして平和島の新居まで戻ってきた私が見たのは、工事用の防音シートに囲まれた我が家だった。 そっと中を除いて見ると……家の上に、何かが継ぎ足されてる。 「やあおかえり茜。」バカがにこやかに手ェ振ってやって来たわ。 「あんたこのプランは何なのよ!っていうかこの工事は何なの!」 忍者歩法で詰め寄る私。忍者歩法で逃げるバカ蔵。ふふふヴァカ之助め、歩法なら私のほうが上だ! 「まあまあ落ち着いて……順を追って説明するよ。」私に首根っこ掴まれてもまだ口を閉じない。 「アイツが情報を拡散してしまった以上、もうこちらとしては『忍者は実在しない、イイネ?』なんて話は通じないんだよ。」 「まあ……それは、そうね。」残念だが一度露見したものを無かったことにするのは不可能だ。 「だったらいっそのこと情報の洪水で押し流す。多すぎる情報で薄めて、真実をわかりにくくする。」 それは戦術の基本だ。隠れ身の術が破られたら分身の術ってやつよね。 「だからまず、茜には配信者になってもらう。」 「それの理屈がわからんつーとるんじゃあヴォケがぁ!」ゴンッ! 「痛っ、とにかく聞いてよ。間諜が自分から情報発信する配信者だなんて普通は思わないだろう?」 「当たり前じゃあ!そんなお喋りスパイがおったら仕事にならんわ!」 「だから噂の忍者が配信してたらそれをスパイだとは誰も本気では思わなくなる。そういう設定の配信者なんだな、って考える。」 ……ふむ? 「ただしデジモンの存在を誤魔化すのは難しい。幸い、今のところは明智くんが捏造したと思しき再現画像とかそういうのしか出回ってない。」 ……ふむふむ。 「そんなものはファクトチェックですぐに嘘だとバレる。そこでこちらから『真相』をお出しすれば……」 「世間はそれが真実だと思ってしまう……そこは理解できたわ。けどね……」 そこで私は先程六角課長から貰ったファイルを突きつける。 「そこからどうして私がサクヤモンのコスプレして配信者活動と諜報活動を行うって話になるのよぉお!!」 ゴンッ!ガンッ!ガキンッ! 「……ゲンコツみっつはひどくない?」 「お前のほうがひどいんじゃあ!!」 「本当に隠密行動が必要な時はちゃんと従来通りの忍装束でやってもらうってば。」 ドサッ。私が掴んでいて首根っこを手放すと尻から着地する。フフフ、この雑魚頭領め。 「当たり障りのない事件の時にコスプレで出ていって認知してもらうんだ。そうすれば、いざという時サクヤモンに進化しても見る人はコスプレした君だと思い込むって寸法さ。」 そう上手く行くかしら……。って、それだけじゃなくて! 「それとこの増築と何の関係があるのよ!」 「それはね、君が配信者でしたっていう『仕込み』に説得力を持たせるためなんだ。」 「……どういう理屈で?」 「配信者事務所を、立ち上げる。」やけにキラキラした目で言う。「そしてそこの所属タレントでした、って言い張る。」 「……蔵之助、前からやりたいって言ってたもんね。」 「ついでに配信者とテイマー専門の賃貸もやるよ。本当に所属タレントが入ってきた時に、彼らを名張衆としてスカウトするためには必要だからね。」 「まだ誰もスカウト出来てないけどね。」 「うぐっ!……ともかくこれは、C別のダミーカンパニーとしてもう許可が出てる話なんだ。」 「ってことは前々から準備はしてたってことなの?」今度は右手でフェイスハガー。 「痛い痛い痛いって!茜にそんなにされたら僕新しい扉が開いちゃうよ!」 「お前の扉はとっくに全部ガバガバやろがい!」ゴワシュッ! 「……ともかく増築はあと4日かはかかる。その間に、戦闘に耐えうるコスプレ衣装とかも作っとくよ。」 そう言って地下3階の工房に引っ込んでいった。 ……なんか急に碌でもないことになったわ。 飛んで1日前 衣装が完成した。 マトリクスエボリューションしてる時は別に鏡とか見ないから今まで気にしたこと無かったけど、この格好って…… 「やっぱり恥ずかしいわね。」 「言わないでください主殿。私も同じ姿だったのですから私も恥ずかしいということになります。」 ちょっと屈辱的な表情で部屋に入って来たレナモンが言う。 「胸の大きさが少し足りないかな?」胸元を覗き込みながら蔵之スケベが言う。 「やっぱり巨乳化プラグイン入れるか……」 「ダメよアレ妊娠授乳中の私のデータで作ってるじゃない。私が使ったら確実に母乳が出るわよ。」 しかも使うデジモンによっては複乳化するし! なんで弓矢の能力向上用のアルテミスのデータで巨乳・複乳プラグインができるのよ! 「改良版の方も君のデータ使ってるから理論上解決できないな……しょうがない、耐衝撃ゲルでパッド作って入れるか。」 「ママー、ただいま!」「たらいまー。」レナモンが帰ってきたっていうことはそうよね、子どもたちも帰ってきたってことよね。 「ママー、そのサクヤモンのあるきみこもーど?のふくきてるのなんでー?」 侘助っ……!この子、分かっててわざと訊いて……! 「ママはね、今度テイマ忍になるんだ。」 「ママ、テイマニンなのー?」「まま、ていまにん?」 「……若様、姫様、主殿は苦しみに耐えてテイマ忍となられるのです。」 レナモン……気を使ってくれるのは嬉しいんだけど、 「じゃあママ、テイマニンがんばって!」「ていまにんがんばえー。」 予想通り屈辱が倍になるからやめてほしかったなぁ……。 そして今日、夕暮れ時 というわけで私、最大のピンチです。 サクヤモン歩き巫女モードの姿は蔵之助の分析によると、くの一と歩き巫女、特に有名な望月千代女のパブリックイメージが強く出てるそうです。 ううっ……私のご先祖様はこんな格好で戦ってたとは思えないんだけどなあ。 戦闘能力は本当にあれぐらいあったみたいなんだけど。 忍者の真実を隠すために各種創作でバラ撒かれたイメージが、回り回って子孫に返ってくるとか……。 なんで2児の母になってからこんな格好しなきゃならないのか……ううう。 ってゆーか蔵之助だけずるい!なんであいつだけあんな鎧武者っぽいカッコイイ系なのよー! いや、デジタルワールドにいた時にあいつのアクィラモンがヤタガラモンに進化したの見たときに薄々分かってたけどさあ。 絶対雑賀になるじゃんアレって。 「可能なら適当に弱くて味方も多そうなタイミングでデビュー、同時に緊急告知動画も公開する。」 そういう蔵之助の顔はすごく満足げだ。そりゃ「私がこんなデジモンの格好してたら満足でしょうよ!」 「大丈夫安心して。その服ではやらないから。」いつの間にか声に出てた。 「ちゃんとプレイ用のヤツも作ってあるから!」サムズアップすんな! 「ともかく、事態が収束したら少し時間を置いて戻って。こちらの『ショートカット』を不特定多数に認知されるのはまだ早い。」 めんどくさいなあ……。 「おっと、警察に出動要請が……おや、デジ対の方にも緊急連絡が来た。」 ……はぁ、覚悟決めるしか、ないか。 「出てくれ茜。さあ、君のデビュー戦だ。気楽に行こう!」 あーもう、こうなりゃヤケよ!女は度胸、やってやろうじゃない! 『緊急展開カタパルトを使う。』地下2階の秘密ガレージ。 私のバイクにレナモンとタンデムし、エレベーターに入る。 『まだ今日組み上がったばかりでテストもしてないけど理論上は問題ないはずだ。』 インカムの向こうの夫は不安になることばかり言ってくれる。 『僕の生配信用のカメラドローンは先行して向かってる。計算だとほぼ同じタイミングに現着する。』 エレベーターが上昇し、これもまた今日完成したばかりの賃貸の屋上に出る。 『カタパルト展開、ローンチャ接続。』 バイクがカタパルトの発信位置まで動き、そこで前輪が固定される。 『カタパルトアーム旋回、方位020。』アームが旋回して北北東を向く。 『目標、東京ドームシティ。NV-01、射出!』 猛烈な加速が掛かり、バイクが宙に飛び出す。 平和島から水道橋までは遠い。このカタパルト射出でも一気にそこまでは飛んでいけない。 「真空斬り!」前方に向かって手刀で二発の真空斬りを放ち、少し前でぶつけて破裂させることで空気圧の急変動による一時的な足場を生み出す。 そこに後輪を着地させ、水切り石の要領で飛距離を伸ばす。 よし、なんとか届きそう! 神保町を過ぎた辺りで私は真空竜巻を二つ放つ。 並行に並んだそれらの間にバイクを挟ませることで減速し、着地の衝撃を和らげる。 私達の乗るバイクは東京ドームホテルの屋上ヘリポートに着地した。 東京ドームシティを真下に見下ろせる、絶好のロケーションだ。 「レナモン、大丈夫?」 「はい主殿、いつでも」さすがよく出来たデジモン、それでこそ私のパートナーね。 「まずはあなたを隠すわよ。カードスラッシュ、オーバーレイ!」 右腕の手甲の掌側に収納されてるプラグインカードを左手で抜き取る。 そのまま左腕の手甲の掌側に収納されてるディーアークの読み取り部だけを露出させる。 そのまま左手で滑らすようにカードスラッシュ、プラグインが発動する。 テクスチャの重ね張りでレナモンの姿が私の影の中に溶け込む。 そして園内を見渡すと……いたわ。フェアリモンが1体。 しかしその姿は私達が配信でよく見かけるそれとはかなり違っていた。 まず色が違う。なんか暗い!あとあちこち尖ってる!これどう見ても…… 「合成された偽造スピリットのニセフェアリモン、ってところかしら。」 カメラドローンがこっそりと近づいていくのも分かる。 『配信つけたよ。作戦開始だ、上手くやれよ。』蔵之助も始めたようね。 私は両腕の大きな手甲の手の甲側からワイヤー付きクナイを射出、一気にニセフェアリモンに迫る。 「とおっ!」着地、即座に両足で地面を蹴って前方に跳躍。相手はこちらに気づくのが遅れて反応できてない。 ということは、このニセフェアリモンの中身は戦い慣れてない一般人か。それなら! 「分身の術!」私は自力で展開できる三分身に分かれて接近する。 「真空斬り!」三方からの遠隔斬撃、この程度では倒せないだろう。 しかし捌き防ぐために足が止まり、こちらへの注意がどうしても弱まる。 「変位抜刀!」懐に潜り込む。短刀は背中側、敵の死角。抜く方向を悟らせない。 「霞斬り」分身を解除、1体になった私の左手が抜刀する。斬撃の瞬間、真空斬りを発生させる。 「鎌鼬!」入った、という感触があった。やはりあのフェアリモンとは比べるまでもない。 この偽物は――弱い。 大きく吹っ飛んだニセフェアリモンはそのまま園内のベンチに激突。 砕け散ったベンチの破片の上に男子高校生と思しき人物が倒れ伏す。 その傍らで偽造スピリットが音を立てて砕けて消滅した。 「ちょっとあれ人間よね!?どうなってるの!?」少し離れた場所から少女の声。 この距離では聞こえないと思ったのでしょうけど、忍者聴音術を舐めないでほしいわね。 「出て来るがいい、そこの悪党!」ボイスチェンジャーとスピーカーをオン。 私は事前に蔵之助から渡された脚本の、いくつか想定されたパターンに沿って大声で語りかける。 ……あっ男声じゃなくて女声なのね今度のボイチェン。 「貴様らの悪事、このテイマ忍モチヅキが粉砕する!」 もうちょっと台詞回しを女性的にしたほうがよかったかしら? スピーカーをオフにして蔵之助に話しかける。 「カメラ寄って。あのテイマーの情報を取るわ。」カメラドローンから小型の地上走行型ドローンが分離する。 それは音をほとんどたてずに物陰から少女の方に近づく。 サクヤモンのマスクを模した戦術バイザーに、そのドローンのカメラ画像が映る。 ……やはりこの前の少女、そしてジョーカーモンか。 「てっ、テイマ忍ですって!?……ジョーカーモンは知ってる?」 「いやボクも知らない。」 ……そういう会話するまだ幼い子供を攻撃するのはいい気分じゃないわね。 多分この子は警察よりもデジ対に任せたほうがいいような気がしてきたわ。 「蔵之助、デジ対の動きは?」 『もう少し遅れる。すまない、君の見せ場を作ろうとして妨害をしすぎた。』 どちらにせよ完全体以上は私単独では無理ね。 私はミニスカ状の袴から煙幕弾を放出する。たちまち周囲の視界が奪われる。 「何事っ!?」敵の驚く様子が聞こえる。忍者聴音術と、ドローンからの映像で私は敵の同行を把握できる。 「マトリクスエボリューション」相手に聞こえないように音を抑えつつ超進化を始める。 影から出てきたレナモンと私がデータ状態で融合し、サクヤモン・歩き巫女モードになる。 「フッ!」使い魔の白蛇を操作して煙を霧散させる。 「……あれはサクヤモン、なのか?」 「でもさっきまで人間だったわよあれ!」 煙の中から現れた私を見て、困惑する二人。 こちらの狙い通り、こっちが人かデジモンか判断できてないようね。 「聞けぃ!我が名はテイマ忍モチヅキ!悪しきデジモンを挫き善きデジモンを助ける、正義の忍者である!」 ご先祖様、いや血は繋がってないけど忍術系統的にはご先祖様、ごめんなさい。勝手に名前をお借りします。 「忍者……ということは人間……なの?」 「わからない!わからないけど……やるしかないよう、ダネ!ジョーカーモン超進化!」 あっジョーカーモンの進化先って確か…… 「ピエモン!ミサキにはこのボクが傷一つつけさせないヨ!」 なるほど、名前はミサキっていうのね。画像データと組み合わせて調べれば、多分すぐに正体が分かるわね。 ……しっかし、デジモンイレイザーの幹部だというのに、そういう絆の深そうな姿を見せられるとやりにくい、わね。 でもまたピエモンが相手なのかぁ。別個体なのは分かってるけど同種と連戦ってなんかこう……ねえ? ピエモンの攻撃は多彩な状態変化を伴う遠距離攻撃と不意をつく遠隔攻撃の組み合わせが特徴。 高威力広範囲の大量破壊型攻撃は不得手。ならば! 「分身の術!」こちらのお得意戦法で、速攻をかける! 「それはさっき見……」 「エイリアス!」 「なっ!……何人いるんだ?!」 「12人よ。」威力の高い真空斬り系はミサキを巻き込んで殺しかねない。私は11体から手裏剣をピエモンに向かって投げる。 「エンディングスペル!」一回の迎撃で4つの手裏剣を消し飛ばす。なるほど、この前のよりも手強いかもね? 「変位抜刀!」分身解除!私は一気にピエモンに肉薄する。「霞斬り!」 「……くっ!」トランプソードで私の斬撃を受け止めるピエモン。――いいえ、受け止めさせたのよ。 「聞け、ピエモン。」鍔迫り合いの状態のまま、小声で話しかける。 「なっ、何……」 「ここで貴様らを倒すつもりはない。ここは引け。」 「!!」このミサキとピエモンに対しては、力押しで倒してはいけないような気がする。 根拠は薄いけど……多分、私の母親としての勘が、強くそう告げている。 だけどこのままだとデジ対より先に警察が到着し、そうなるとディンさんが何をしでかすかわからない。 あの人はデジモンイレイザーに関するものに容赦がなさすぎる。 だから警察が到着する前に、彼らには逃げてもらわなければならない。 「はあっ!」私はトランプソードを切り払いつつ大きく距離を開ける。 私はスピーカーを再びオンにする。 「悪党どもよ!ここに貴様らの居場所は無いと知れ!即刻立ち去れ!」 短刀の切っ先を向け、大声で言い放つ。 「……ミサキ、ここは一旦引こう。」 「えっで……」なにか言いかけるミサキを無視して、ピエモンはジョーカーモンに戻りつつ彼女を抱きかかえそのまま南へ、神田川方面に向かって跳んで逃げた。 よかった、こちらの意図を汲んでくれて……。 振り返ると東京ドームの白い屋根が夕焼けの茜色に染まっていた。 1日後 午前10時、平和島の新居、兼―― 『というわけで本日は先程の生中継で写っていたテイマ忍、モチヅキさんをお呼びしました〜!』 『……皆の衆、ベルウッドちゃんねるの雛鳥さんたち、こんべる〜。』 『早速なんですがこんな質問が来ています。「テイマ忍さんは人間なんですか、デジモンなんですか?」えー、この質問はものすごくいっぱい来てるんですけどー。』 『忍者だ!私は人間とかデジモンとかではなく忍者だ!』 『はあ、忍者ですか。忍者ってそんなデジモンと戦えるほど強いんですか?』 『無論だ!忍者に不可能など無い!!』 『ほぇー、忍者ってすごいんですね〜。』 『お前も忍者にならないか?』 『右手上げてそのセリフはやめてください。ところで、このテイマ忍モチヅキさんなんですけど、実は今度設立される配信事務所からデビューが決定しています!詳細はこの……』 昨夜帰ってきてからのインタビュー配信のアーカイブを見返してるのね…… 「一応アーカイブに残して問題ないかチェックしてるんだよ。」あーはいはい。 「さて、これで晴れて君も僕の事務所の所属タレント、配信者ってわけだ。」 「たった二人の事務所で晴れても何も無いわよ。」コーヒーに口をつける私。 ……あっやっぱりコメントで『テイマ忍負けろ』って言われてる。 「それで?効果はあったんでしょうね?」 あれだけ恥ずかしい思いして効果なかったら容赦しないからね? 「上々だよ、思った以上の反響だ。」腹黒之助がニヤリとする。 「あの忍者機動戦闘の映像が偽物じゃないかって検証してる人たちがいるけど苦労してるみたいだよ。」 「……D課やC別は何か言ってた?」 「六角さんはいい目の保養だって言ってたよ。C別のみんなは概ね『サクヤモンすげー』だったね。」 そっちの方に悪い印象がないならいいのか、なぁ……? コーヒーの入ったマグカップを持ったまま、1階の事務所から外に出て上を見上げる。 入口の上に掛けられた看板には―― 『Nerve-Ally』読みはナーヴァリー、だって。そのまんまじゃん。 この後すみれさんや源乃ちゃん、色井くんや筧さん、ついでにあの明智のヤロウにどんな顔すればいいのか、とか。 今までの裏社会のデジモン関連団体の連中がどう反応するのか、とか。 侘助と一華の教育に悪影響がでなきゃいいけど、とか。 不安なことや頭の痛くなるようなことがいっぱいあるけど。 とりあえず、ま。 「新しい人生の門出に、乾杯!」新居兼事務所兼賃貸の8階建てを見上げながら、私はマグカップに残ったコーヒーを飲み干した。 解説 巨乳化プラグイン 狩猟と豊穣の女神アルテミスのデータで弓系武器による精度と威力の向上・スタミナ回復を図ったプラグイン 実際には豊穣神の力が乳房を大きくさせるという効果で発現した 仕方ないので巨乳化プラグインとして売り出したがケモノ度が高いと複乳化することが判明 具体的にはバステモンだと複乳化しドウモンだと巨乳化する 開発者の妻の妊娠授乳期の乳房のデータも加えられているため本人が使うと必ず母乳が出る 六角課長 本名・年齢非公開 どう見ても太って禿げた鈍重そうなおっさんだが茜よりも素早く9分身以上できる 反デジモン派・親デジモン派の両方の政治家と繋がりのある人物 公安D課の正式メンバーは情報分析に特化しており諜報活動や破壊工作は基本的に無関係な外部に丸投げしている 趣味はギター・鉄道旅行・酒 賃貸物件「ナーヴァリー平和島」 配信者もしくはデジモンとそのパートナー限定の賃貸物件 両方を兼ねている場合は敷金無料で家賃の割引あり 超高速回線(実は自衛隊用回線を一部流用)完備 全室完全防音 バス・トイレ・キッチン完備 2階に3D対応スタジオあり 「Nerve-Ally」所属タレントは完全無料で入居できる 京急平和島駅より徒歩10分・JR大森駅より徒歩20分 …あれここ大森西だ! AP◯X 蔵之助はゴールドV 茜はシルバーU お前FPSやめたほうがいいよ