デジモンイモゲンチャー第○話「暴走を止めろ!ペタルドラモン包囲網」 「だぁー!あんなにでけえと作戦もクソもねえよ!とりあえず俺が突っ込むから後頼む!」 「それじゃ食べられて終わりよバカ!」 立ち上がったクロウを良子がはたく。 「でも確かにクロウの言ってることもわかるっす。あんな、山みたいなペタルドラモンを退治するなんて勘弁して欲しいっすわ。  あんだけでかいのを見ると良子の足も細く見えブッ」 「……まったく三バカどもはまともに話ができないの!?」 (俺何も言っていないのにという顔) 何も言っていないから話できてないのでは?と思ったが琥白は口に出さなかった。 「でもジジモンたちが困ってるし、他のデジモン達も被害に遭ってるんだ。なんとかして止めなきゃ」 勇太が拳を握りしめる。 ペタルドラモン。 通常考えられないほどにまで巨大化したそのデジモンは、 その無軌道な進行経路上で行き会った他のデジモン達を食べ続け、デジタルワールドを荒らし回っている。 レジストシティの方向に来ていることに気づいたジジモンが勇太達に助けを求めたのだ。 「あいつ自体も『オナカガスイタ』って言ってるんだから何か食べさせればいいんじゃないか?」 「あんなでかい図体に食べさせるほどの食料なんてどこにもないっすよ」 クロウの案を三下が即座に切り捨てる。 「めざめちゃんも可哀想だよ。あんなのに追いかけられて……」 雪菜が心配そうにつぶやく。 「そっかその手があったか」 「おっ、何か思いついたのサンシタ!」 「みつしただっつってんだろ。とりあえず馬鈴さんに手伝ってもらわなきゃなあ」 「じゃあ私めざめちゃん探してくるよ、昨日合ったばかりだし近くにいるはず」 「照美ちゃん一人じゃ危ない、私も行くよ!」 駆け出す照美を颯乃が追いかける。 「話聞いてから行けよ……」 「あんたが早く言わないからでしょ。で、どうするの」 ぼやく三下を良子がせっつく。 「まあ馬鈴さんにも説明するからまとめればいいか、まあ根本的な話ではないんだが」 「お願いがあるの」 そのとき、見知らぬ少女の声がした。 みんな一斉にその方を向くとそこには、 何やら神聖な装飾を付け、周りを植物が覆った青いデジモンと褐色の肌をした少女がたたずんでいた。 「ペタルドラモンを…あの子を助けて欲しいの」 「助ける?」 「あれは人間…私の知ってる子なの」 「オナカガスキマシタ」 雨の中、足下の誰もいない集落を踏みつぶしながらフリオ/ペタルドラモンは首をかしげていた。 今回もまたもぬけの殻だった。 どうも最近、出会う前からデジモンに逃げられているようだ。 この身体では仕方ないかと、小山のような自分の身体を見てペタルドラモンは思う。 ずっと見つけられなければ、そのうち飢えで倒れてしまえるのではないかと期待したことも一度あった。 だが、そのときは飢えの極限で暴走した、してしまったのだ。 それだけでは、この身体を止めることはできない。それが結論だった。 データの足しにもならない集落に残った家や車、冷蔵庫や公衆電話を食べ尽くしたとき ふと、美味しそうな匂いが漂っているのに気がついた。 この匂いはあのジャガイモのようなデジモンの匂いだ。 ペタルドラモンは匂いの方角に向かい始めた。 「よし、こっちに気づいたみたいっす!馬鈴さんとジャガモン全速力で逃げてください!雨降ってるから気をつけて!」 「行けージャガモン!荷台がない分頑張れー」 三下の合図でめざめがジャガモンを急がせる。 今は荷台を安全なところに置いてきたため、ジャガモンに直接乗っている形だ。 「ターゲットモン、マッハモン、危険だけど行くっすよ」 「あんなでかいだけの鈍足、アチキたちが捕まるわけないでしょ!」 ターゲットモンと三下を乗せたマッハモンがペタルドラモンの方へ向かう。 三下の考えは、ジャガモンを囮にしてペタルドラモンを誘導することだった。 めざめたちに手伝ってもらえば、彼女らを狙っているペタルドラモンを 好きなところにおびき寄せることができると考えたのだ。 大きすぎるペタルドラモンと下手な場所で戦えばどんな二次災害が起こるかもわからない。 こちらで用意した戦場までの誘導は必須だった。 「つっても俺達の仕事はただのお膳立てなんだけどな」 「舌かむから独り言はやめとくことね!」 「わかってるよ。……あとはあの嬢ちゃん頼りだ」 「馬鈴さん!ちょっと右に逸れてるので左へ!そろそろ目的地なんで!」 「りょーかい!ジャガモンお願い!」 めざめに指示を送って三下はまたペタルドラモンの方へ戻る。 ペタルドラモンの山のような身体がこちらに向かっていることは確認できている。 また、近くのデジモンは勇太たちが手分けして 戦場から離れたところへ誘導しているため他の方向へ行くこともなかった。 「後はここらで待ち伏せっすね。……しっかしすげえもん作ったなあ、あの小さいの」 三下は戦場予定地を見てつぶやく。 ペタルドラモンはジャガモンの匂いが近づいていることに興奮していた。 やっと久々の獲物が、それも狙っていた極上の獲物にありつける。 フリオとしての意識はいつもと何か違うと感じていたが、 もうペタルドラモンの食欲は到底抑えられなかった。 ペタルドラモンは立ち止まる。 獲物を追っていたはずが、そこには自分も踏み越えることなど到底出来ないような湖が広がっていたのだ。 思わず立ち止まるペタルドラモン。 その視界の先には、湖の反対側の方向へジャガモンが宙を浮かんで行っているのが見えた。 「トリケラモン!」「おう!」 ペタルドラモンが立ち止まった瞬間を狙った、竜馬の指示が飛んだ。 トリケラモン必殺のトライホーンアタック14連撃。 しかもトリケラモンはその技巧で、ペタルドラモンの腹部の同じ箇所に下からすくい上げるように14連撃を当て続けた。 その山をも穿つ威力に、わずかにだがペタルドラモンが――飛んだ。 「マジかよ……」 三下のつぶやきを後ろに、姿勢を崩したまま宙を浮かんだペタルドラモンは湖へと転がり落ちていった。 湖は深さもかなりあるらしく、ペタルドラモンのしっぽがわずかに水面を超えるぐらいだった。 「待ってたわ」 湖の端に立つ褐色の少女、エストレヤがペタルドラモンに向かって言う。 「あなたはここで止める」 その後ろには、ジャガモンを運び終わったトラロックモンが浮かんでいた。 ――時はさかのぼって作戦会議の場。 良子が現れた少女、エストレヤに聞く。 「あれが人間なの?」 「そう。あの子の『オナカガスキマシタ』って言葉、聞き覚えがある」 エストレヤは淡々と話す。 「どうしてあんなことになってるかわからないけど……戻せるなら、もどしてあげたい。もうパパ関係の犠牲者とかうんざり」 「パパ関係?」 「こっちの話」 「つったってあんなの倒すだけでも大変なのに殺さないようにってどうすんだよ」 ため息をつく三下。 「うん、だから私がこの子とどうにかする、それを手伝って欲しい」 エストレヤは遠くを指差して言う。 「あっちに大きな、あの子よりも大きな盆地があるの。そこに誘い込んでくれたら、私が抑え込む」 「抑え込むったって……」 「私にはトラロックモンが見つけてくれたこれがある」 彼女は手に持った物体、"木のヒューマンスピリット"を掲げた。 湖に沈んだペタルドラモン。 木でできた身体であっても、その巨体と足では上手く浮くことが出来ず顔を水上に上げ続けることができない。 無数の根を湖底に這わせて浮き上がろうとするが、 「トラロックモン!」 トラロックモンの操る雨が水流を生み出し体勢を崩していく。 「このために雨降らせ続けて湖一つ作っちゃうんだもんなあ……究極体おっかねえ」 三下がつぶやく。 トラロックモンは鮮やかに中空を舞い、そのリズムに合わせて雷が鳴り響く。 何度も崩されながらも頭を水上に上げ、ようやく敵を見定めたペタルドラモンが無数の根を伸ばして襲いかかるが トラロックモンも生やしたツルを伸ばしてそれを弾く。 しびれを切らしたペタルドラモンが身体をうねらせて無理矢理顔を上げ たてがみのような葉を回転させ飛ばす必殺技『リーフサイクロン』を放つが トラロックモンも流れるような舞の中、いつの間にか握った雨と雷の刃『ネトティリズトリ』で切り刻む。 状況は拮抗していた。 「トラロックモン、お願い!」 エストレヤの言葉に合わせてトラロックモンから無数のツルが伸び、 ペタルドラモンの足を、首を、そして口を雁字搦めにする。 そして一本のツルがエストレヤの手から"木のヒューマンスピリット"を受け取り、ペタルドラモンの口に投げ入れた。 スピリットが口の中に入った瞬間、ペタルドラモンの動きが停止する。 「あなたに人間性がまだ残っているのなら……そっちになりなさい!」 ペタルドラモンとアルボルモン。 共に木のスピリットによる姿だが、旺盛な食欲の持ち主である前者と逆に、後者は食料を必要としない。 スライドエボリューションができれば、食欲のままに暴走することはなくなる。 しかし。 ペタルドラモンはほんの少しの時間動きを止めたが、再び動き出した。 一斉に襲いかかる根をさばくトラロックモン。 しかし時間差で伸びた根が今度はエストレヤに向かっていた。 「ダメなの……?」 ツルが間に合わず、迫る根を目にしてエストレヤがつぶやく。 「させるかよ!」 ティアルドモンが根を弾き、エストレヤの前にクロウが立つ。 「女の子一人戦わせるなんて男の風上にもおけねえことできるかよ!トラロックモン!こっちはまかせろ!」 「湖の反対側には竜馬さんが陣取ったっす、他のみんなも避難誘導が終わったら集まってくる!  秘策が効かなくても、体力尽きるまで抑え込めばいいんすよ」 三下の言葉に、エストレヤ切れかけた集中力を入れ直す。 「ありがとう。トラロックモン、お願い!」 トラロックモンはうなずき、さらに舞いは激しさを増していく。 『あれは……ボスのお嬢さん……』 ペタルドラモンの意識の奥で、フリオは今自分と戦っている少女のことを思い出す。 忙しいボスと一緒にすぐに他の学校へ行ってしまったが、一緒に学校に通っていたことがある。 自分の人間時代を知る少女。自分の短い幸せな過去の中にいた少女。 その姿に、あきらめていた人間に戻りたいという気持ちがわいてくる。 しかし、そもそも今の姿にどうしてなったのかもわからないのだ。 『お嬢さんに……怪物の姿なんか見せたくない……』 身体を動かせない中で、戻りたい、戻りたいと繰り返し願う。 そのとき、身体の中のどこかから暖かな光を感じた。 ペタルドラモンの身体の中。 先ほど飲み込んだ"木のヒューマンスピリット"が転がって行く先には これまでペタルドラモンが食べてきたものの残骸が転がっていた。 屋根の残骸やデジモンの武器、木々や岩。 その中で一つ、たまたま砕かれていない公衆電話があった。 転がっていくスピリットがそこに入った瞬間、公衆電話が光を放つ。 ディースキャナー。数あるデジヴァイスのうちの一種だが、それは携帯電話から変化したという。 トラロックモンの前に雨と雷のエネルギーが集まっていく。 必殺技『ナウイキアウィトル』の構えだ。 そのとき、ペタルドラモンの身体が光り輝き、その光が徐々に縮んでいく。 「これって……」 その姿を、エストレヤは気が抜けたように座り込みながら見つめる。 光は、湖の真ん中で一瞬白い人型、アルボルモンの姿をかたどった後、さらに縮んだ。 トラロックモンがツルを伸ばしてそれを捕まえると、 そこには気を失ったままディースキャナーを握りしめる、褐色の肌の少年があった。