MATSURO/A    決戦前夜。デジモンとそのパートナーたちは、思い思いに過ごしていた。交流を行う者に作戦の相談をする者、食事や睡眠、休息取る者。  それぞれが明日への準備を進める中、東日蓮也はただ1人、アグニモンとなって彼の元に向かっていた。 「何をしに来た……!」  ヴリトラモン:ルインモード。並行世界における彼のパートナーが進化した存在。あの日、ドラコモンを蓮也が庇ったもしもの可能性。  それはアグニモンの姿を発見すると同時に、黒炎の翼を羽ばたかせて襲いかかっていた。そして彼もまた、拳を固めその姿を見据える。 「話をしに来た!」  黒炎を纏う鉤爪と赤炎を纏う拳が激突した。  厚い闇に閉ざされた夜を、2つの炎が切り裂く。片方が炎をぶつければ、すぐさまもう片方がすぐさま反撃に移る。振るわれた尾と回し蹴りがぶつかり、互いに後ずさった。  拳を交わしながらの説得を、ヴリトラモンの罪が阻んでいた。 「いまさら!どうすればいいんだ!デジモンも、人も、たくさん傷つけて!」  慟哭するように黒炎を撒きながら暴れるヴリトラモンに、アグニモンは自らが導き出した結論を押しつける。   「一緒に償う!」 「は……?」  一瞬呆けたヴリトラモンに、アグニモンの拳が直撃した。 「ぐぁ……バカにしてるのか!」  拳の衝撃にたたらを踏むが、すぐさま体勢を立て直し黒炎で反撃を行う。 「だいたい、なんでそんなにオレに構う!オレはお前のドラコモンじゃない!」 「っ……分かってる!」 「じゃあなんで!ここに来た!?」  尾撃を囮とした蹴りが無防備な脇腹に突き刺さった。そのまま連続して鉤爪を振るえば、その度にアグニモンの体が切り裂かれていく。 「オレを説得する必要なんてない!さっさと倒してスピリットを奪っていけばいい!」 「……こっちの!」  同時に振るわれた両腕を受け止め、叫ぶ。 「こっちの俺ならお前を止めた!暴れてるのが俺なら、ドラコモンだって必ず!」  両腕を捉えられたヴリトラモンはアグニモンを睨みつけ、その瞳越しに彼らと視線が合った。かつての相棒、見たことがない相棒、そして自分自身と。   「俺たち3人が、やりたいからやっている!」  互いに両腕が封じられた状態。彼は、ヴリトラモンの頭へと勢いよく頭をぶつけた。 「レンヤって凄いけどさ、時々バカになるよな」 「そういう言い方はどうかと思う」  変身が解けた2人は、白み始めた空の下語り合っていた。共に過ごした相棒ではなくとも、同じ傷を抱えた相手として。 「……行こっか、レンヤ」 「……そうだな。世界を救って、それから謝りに」 「本当にいいんだよな?」 「当たり前だろ」  拳を突き合わせてディーアークを掲げる。自分達の相棒なら、必ず同じことをしたと信じて。 『MATRIX EVOLUTION』 「ドラコモン進化――!」  夜明けの空、暁に照らされた地上に、もう一つの太陽が顕現した。