二次元裏@ふたば

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691141 B24/04/17(水)18:50:41No.1179335727そうだねx1 20:06頃消えます
 欠けた銀月が夜空に浮いている。
 街は昏く、昼間の喧騒は遠く。人々が営みをしばし忘れ、静寂に身を委ねて寝入る丑三つ時。
 仮面を被った少女は、路地の裏を駆けていた。

「近いぞ、カエデ」

 少女、宮本楓に一匹のデジモンが声をかけた。
 白い肌と黄色い瞳。蜥蜴のような姿をした少女の相棒は、鼻腔をひくつかせ闇の奥から漂ってくる導を手繰っていた。

「動く気配は無いな。……もしや、ワタシたちに気づいているのやもしれん。用心しろよ、カエデ」

 楓は静かに頷いた。
 狐の面の紐を締め、腰に下げた刀の鯉口を切る。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/04/17(水)18:51:10No.1179335856+
「やるぞ、ブシアグモン」

「……ああ」

 楓は相棒、ブシアグモンと頷き合う。
 まだ未成年の学徒である少女は、夜な夜な人間の世界に蔓延る悪を誅する為戦っていた。
 人々が安心して生きていけるように。
 優しき人が悪意によって傷つかぬように。
 余人のために、自分は剣をとる。──そう、言い聞かせながら。
 楓は路地の最奥へと足を踏み入れる。

「そこまでだ、悪党ども!」

 ブシアグモンが叫ぶ。
 月の光が闇を照らす。じわりと滲むように広がった楓達の視界には、一人の男と一体のデジモンか佇んでいた。
224/04/17(水)18:51:30No.1179335964+
「……何者だ、お前たちは?」

 男が静かに楓達へ視線を向けた。
 血走り濁った瞳だ。立ちは長いロングコートと赤い擦り切れそうなマフラー。やつれた顔は青白く病的だが、心胆を寒からしめる威圧を放っている。

 楓はその足元に広がっている赤黒い水溜りを見た。
 人の形をしたナニかが、動くこと無く転がっている。男が殺した事は一目瞭然だった。
 ──成程。それは良くないことだ。
 私達が、斬らねばならぬ悪だ。
 楓は刃の切っ先を男の喉元に向けた。

「……名乗るほどの者じゃない。ただ真っ当きを成す為、貴殿らを斬りに来た」
324/04/17(水)18:51:52No.1179336084+
 楓は心を落ち着かせるよう、淡々と言葉を吐いた。
 ちりちりと空気が焦げる。互いの双眸がぶつかると、今にも発火しそうなほどの熱い殺意が渦巻き滾る。

「ヤツの組織の鉄砲玉。ではなさそうか」

「あの姿に覚えはない。そこのデジモンも見たのは初めてだ」

 男の問に答えたのは人形の大きなデジモンだった。
 鉄の仮面と赤いマフラー。右手の巨大な装甲は差し込む月の光を反射して鈍く輝いている。

「……一度だけ言う。今すぐ引き返せ。ここから離れろ。さもなくば君達も、──殺す事になる」
424/04/17(水)18:52:30No.1179336310+
 男は低い声で言った。
 向けられたのがもし、迷い込んできただけの一般人であったなら。腰を抜かすか、慌てて逃げ出していたであろう。しかし少女達は、その殺意の籠もった質問に闘志を含めて返した。

「それは出来ぬ相談だな」

「貴殿らは人を害した。それはこの世界であってはならぬこと。即ち悪だ。悪は、斬らねばならない」

 楓とブシアグモンの声を聞いた男は瞑目した。
 そして静かに目を開くと。

「……ならば、仕方ない。やるぞ、ジャスティモン」
 
「……ああ、任せろ」

 傍らのデジモンと共に握った拳を楓達に向けた。貫くような鋭い殺意が楓とブシアグモンに突き刺さる。先程の言葉は脅しではないと、楓の肌が粟立つ。
524/04/17(水)18:53:01No.1179336486+
「────ッ!?」

 刹那。男の姿が楓の視界から消えた。
 瞬きする間に男は、楓の懐へと飛び込んできて、その拳を胸の中心に撃ち込もうとしている。
 楓は身を後ろに反らし、男の拳打を躱した。紙一重だった。幾度の稽古や打ち合いで身に着けた反射神経がなければ、今頃は痛打に意識を失って倒れていただろう。

「……くっ!」

 飛び退くように動いた楓は身体を前に突き出し、上段に構えた刀を男に向けて振り下ろす。
 その一刀を男は難なく避け、ムチのようにしならせた足を楓の顔に打ち込んでくる。

「……ぐ、うっ……!?」

 咄嗟に楓は手首を返して刃を立て、男のつま先を剣の腹で受けた。
 両の腕が痺れて思わず刀を落としそうになる。それを堪えた楓は再び飛び退き、男との距離を開けた。拳打の間合いでは斬り伏せる事は不可能だ。と、数合の打ち合いで悟ったからだ。
624/04/17(水)18:53:26No.1179336637+
「カエデ! 無事か!?」

「ああ。なんとか、な」

 ブシアグモンが楓の元に戻ってきた。
 男のパートナー、おそらく究極体のデジモンを相手にして尚も壮健である相棒の姿を見て、楓は短く息を吐いた。

「これは中々、手強い相手だ」

「ああ。だからこそ、ワタシたちが倒すんだ」

 楓とブシアグモンは視線を交わした。
 一人と一匹が同じ呼吸で飛び出す。楓は刀を振り上げ、──男の傍らのデジモンへと斬り掛かった。
724/04/17(水)18:53:58No.1179336824+
「────!?」

 鉄の仮面のデジモン、ジャスティモンが息を呑んだ。
 楓の一刀を見て虚を突かれている。

「やああああっ!!」

 裂帛の気合いを込め、楓は大上段から袈裟に刀を振り下ろす。ジャスティモンは右手の巨大なブリッツアームで刃を受け止める。が、躊躇の一瞬反応が遅れ、肩口を僅かに楓の刃が斬り込んだ。

「……っ!!」

 薄暗闇に火花が散った。
 ジャスティモンがブリッツアームを払うように動かす。
 楓は後ろに跳躍し再び間合いを開ける。その刀には光るデータのエネルギーが宿っていた。
824/04/17(水)18:54:20No.1179336945+
「……成程。ジャスティモンに斬り掛かったのは、デジソウルを奪う為か。無謀な事をする。鍛えているようだが、デジモンを相手に人間が生身で挑むなど。およそ正気の沙汰じゃない」

「そちらこそ。ブシアグモンの攻撃を捌き切っておいて何を言う。ここまで戦れる人間を私はあまり知らないぞ」

 少女と男は互いに呆れたような口調で言葉をかわす。
 その相棒達は困惑した様子で視線を向け合っていた。
 人間の膂力をゆうに超える力を持つデジモン相手に、一歩も引かないテイマー達。どちらも異常には変わりない。と、彼らの顔は語っている。
 そんなデジモン達を気にせず、テイマー二人は問答を進めた。
924/04/17(水)18:54:40No.1179337060+
「死合う前に、尋ねたいことがある」

「……なんだ?」 

「キミは何故、戦うんだ? 身を晒しデジモンと斬り合ってまで。成し遂げたい正義が、あるのか?」

 男は楓を静かに見つめている。
 殺意はあるが、それ以上に真意を図ろうとする純粋な瞳だ。
 その眼差しには応えなくてはならない。と、楓は私情を語り出した。

「私は、正道を。尊き人の道を、歩きたいだけだ。優しき誰かが、悪意によって傷つけられる。そんな悲劇を無くしたい。デジモンも人間も、等しく平等に過ごせる世界を作りたい。そう、──それだけだ」

 一言一句、言い含めるように。楓は言った。
 偽らざる本心を、確かめる。その面持ちはどこか寂しく、虚ろに見えた。
1024/04/17(水)18:55:01No.1179337166+
「そう、か。キミは……。戻る事が、できないのか。──ならばこちらも出し惜しみはナシだ。ジャスティモン、やるぞ」

「了解した」

 男は懐から小さな機械を取り出した。
 古ぼけたデジヴァイスを握る右腕に光が集まり、煌々と輝くデジソウルが生まれる。

「──迎え撃つ。いくぞ、ブシアグモン」

「……あ、ああ。そうだな。行こう、カエデ」

 少女は刀を鞘に収めた。
 腰を落とし、鍔に指をかけ、一息で斬り裂く居合の構えだ。
1124/04/17(水)18:55:22No.1179337284+
「では、行くぞ」

「受けて立とう」

 過熱するエネルギーが少女達から噴き上がる。
 殺意を込めた視線がぶつかる。どちらかが斃れるまで止まらない。
 そんな強者との戦いに、死合いの気配に楓の頬が緩んだ──

 ──瞬間、サイレンの音が夜の静寂に響き渡った。
1224/04/17(水)18:55:45No.1179337397+
「……中々、お早いお着きだな今夜は」

 男から殺意が霧散した。
 デジソウルを握り潰すように消し去り、デジヴァイスを懐にしまっている。
 楓は責めるような声色で問う。

「……逃げるのか?」

「そうだ。キミと殺り合うのは構わんが、あいつ等に見つかるのは面倒だ。キミ達も早く退散した方がいい。正義の味方を敵に回すと、厄介な事になるぞ」
 
「待っ……!?」

 楓の静止の声も虚しく、男とデジモンは高いビルの外壁を蹴って、夜の闇の中へ消えて行った。
 残されたのは血溜まりと、静寂を斬り裂きながら近づいてくるサイレンの音。
 楓は深く息を吐いた。そしてこちらを見上げるブシアグモンに声を掛ける。
1324/04/17(水)18:56:08No.1179337526+
「私達も行こう」

「……追わなくていいのか?」

「ああ。今から飛び出しても追い付けないだろう。それに」

 楓はビルの隙間から差し込む光を見上げた。
 銀月は変わらず輝いている。澄み渡るようなきれいな夜空だ。

「──近い内にまた、会える。そんな気がするんだ」

 少女は笑う。
 ああ、きっと。あの男を斬れば私は。
 ──あの頂に、近づけるやも知れん。
1424/04/17(水)18:56:33No.1179337665+
少女の燻りは大きくなっていく。
 内なる炎の熱に身を焦がし、焼き切れてしまったその跡に。
 果たして、続く道はあるのだろうか?

 少女の隣でブシアグモンは、仮面の下にある端正な横顔を見て、一抹の不安を胸に抱えていた。
1524/04/17(水)18:58:23No.1179338293そうだねx2
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キャラクターお借りしましたごめんなさぁい!
解釈違い&設定ミスあったらごめんね「」ミ〜!
木野さんのデジヴァイス捏造しちゃったけど違ったら無視してね〜
1624/04/17(水)19:00:32No.1179339063+
ハードだな…
正義さん出てくるとすぐに殺伐とするよね
1724/04/17(水)19:06:00No.1179341014そうだねx2
だいぶサムライレムナントだよこれ!
1824/04/17(水)19:06:03No.1179341038+
リアルワールドもなかなか物騒になってきたな…
1924/04/17(水)19:07:18No.1179341523+
ここだけなんか時空が明治剣客浪漫
2024/04/17(水)19:08:12No.1179341890+
>リアルワールドもなかなか物騒になってきたな…
(お台場に上陸するリヴァイアモン(究極体))
2124/04/17(水)19:17:13No.1179345186そうだねx2
>ハードだな…
>正義さん出てくるとすぐに殺伐とするよね
人のキャラだけどなんかすっごい手に馴染むからついつい怪文書書いてしまう…解釈違いとかあったらマジでごめんね…
>だいぶサムライレムナントだよこれ!
許せ
一歩我らが征くことを
2224/04/17(水)19:37:55No.1179353595+
シリアス組とおちゃらけ組の温度差がやばいなこれ…
2324/04/17(水)19:46:43No.1179357417+
>シリアス組とおちゃらけ組の温度差がやばいなこれ…
好きでちゃらけてるわけじゃないって!!


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