「『鮫デジモンの出没する埠頭にサメ映画のDVD放り投げてみた(わら』ぁ?? どうせ数字目的の炎上系…うおでっっかチャンネル登録せな」 反射的にボタンに手が伸びる。また御参パイ先が増えてしまった。 「サイテーだぞレイゼン」 パートナーであるマリー(マリンデビモン)が非難の目を向けてくる。これは情報収集のためであってそんなことを言われる謂れはない…決して。 指定の待ち合わせ場所でスマホをいじっていた少年は隣に立つマリーに愚痴る。 「しっかしおっそいなー…同じ探偵さんて聞いてたけど待ち合わせに遅刻するなんてどーゆーこっ…」 「キミが刑部令善クンで合ってるかな?ドーモーはじめまして!芋と毛玉探偵社の伊本奏音です♪」 背後から声をかけられて文句の一つでも言ってやろうかと振り返った瞬間、思わず目を奪われた。 おそらく年上…大学生くらいだろうか、黒髪に赤のメッシュがよく映えている。 身に纏っているのは俗に言う地雷系ファッション、ハイソックスとスカートの合間の絶対領域が眩しい。 そして衣服に遮られながらもこれでもかと強調する豊かに実った…おっぱい。 心の中で御参パイを済ませ(ここまで0.01秒)この出会いに感謝しながら最高のキメ顔を作り言い放つ。 「伊本奏音さん…ときめくお名前です」 デジモンイモゲンチャー:RealDegital 3話 ツインスルゥースカプリチオ 「…今回の依頼はですねー」 流された。 「デジ対室長さんからの合同調査要請ですねー」 あのデジモンみたいな顔のおっちゃんが頭に浮かぶ。 今度たこ焼きを差し入れよう。 「『最近夜にデジモンのものと思われる被害がここら辺で多数報告されているので、その調査と可能であれば対処をお願いします』、だそうです」 「なーるほど、それでワイらが呼ばれたと」 縁があって数度デジ庁関連の依頼を受けたが、確かに少しばかり危険なものもあった。 戦闘になった場合荷が重い可能性があると判断されたのだろう、傍に控える小さなパートナー達に目線を向ける。 「キミらが奏音さんのパートナーなん?」 スマホに入れていた図鑑で確認する。 こっちの丸っこいのはポテモン。 「やだーお兄さん、そんなイヤらしい目線向けないでくださーい」 「向けてへんわ!デジモンに人間が欲情するわけないやろ!!」 「いやそれは…」 なんか言葉を濁してきたもこもこしたのは確か… 「心当たりあるんかメークインモン?」 「メークインじゃねえよ!」 おお期待を裏切らないツッコミ。メイクーモンだった。 確かに最近のこの辺りの治安だと成熟期2体では戦力として不安ではある。完全体のマリーと自分が呼ばれたのも頷ける。 「話続けるねー?」 「あ、すいまへん」 「ってわけで合同で解決するので、令善クンには…」 「まずは調査ですね、任せてください!」 いや、と前置きが入りスマホ経由でデータが送信されてきた。 いくつか開いてみると被害者一覧と状況や被害の程度、監視カメラの映像や現場に残った痕跡etc...事件に関する情報が事細かに記載されていた。 「あとこれがここ数日の被害、目撃情報からの潜伏先の候補」 「こんなに資料を…」 依頼を受けたのは今朝。 こちらもある程度は調べていたが、奏音さんの前調査はサッと目を通すだけでも質も量も高水準で怖いくらいだ。 追跡・尾行・調査の達人とはすみれ姐さんの評だが、おそらく評判通りの腕前だろう。 「下調べはてってーてきに!先輩探偵からのアドバイスですよぉ?」 「おお…勉強させてもらいます」 まだ駆け出しの自分にとってはありがたいアドバイスだ。 いつかこのレベルの探偵になれるだろうか。 「ふふーん、ちゃんと学んでくださいねー?」 「なんでお前が偉そうなんだ」 ポテモン達の会話は一旦置いといて資料に目を通しつつ奏音さんの推測を聞く。 「襲われた箇所と時間からおそらく犯人は夜行性の水棲デジモン、カメラで捉えられないからスピードタイプね。被害者は全員女性だけど年代はバラバラ、襲撃する場所も海沿いってくらいでイマイチ絞り切れないわね…」 「となると潜伏先を片っ端から探…」 被害者の情報を眺めていた令善がそこでふと考え込む。 「レイゼン?」 「ビビッとキタで…ワイにイイ考えがあります!」 *** 夜、暗い埠頭を歩く長い髪の人影が一つ。 その人影に声をかける異形が一つ。 「そこの流線型のお嬢さん…俺と泳がないか?」 ダイブモン! トップ水泳選手の泳ぎ方を研究したデータによって進化したデジモン。人魚のような姿をしているが、陸上においては二足歩行での活動が可能。泳ぎの速度は水棲型デジモンの中でもトップクラスで、四つの眼球は水中の獲物を決して見逃さない。 必殺技は全身の鋭いヒレで敵を斬る『フィレットブレード』と、圧縮した水を刃物のようにして飛ばす『リップルエッジ』! 声をかけられた人間は驚いたように駆け出していく。 「フフフ…つれないなぁ?」 ダイブモンはその後をまるで楽しむように追いかける。 追跡者の思惑通り、すぐに海際の行き止まりに追い詰められてしまう。 「さあ、2人だけのナイトクルーズといこうじゃないか…!」 ひたひたと迫るダイブモン!しかし── 「残念やったな」 人影が髪と服を投げ出すとそこには── 「お前さんの企みなんて、ワイらがスッパリお見通しやで!!」 カツラと女性物のコートで変装していた令善の姿が! 「男だと…騙したのか俺を!」 「こんくらい見抜けんくてナンパなんて100万光年早いわ!」 「レイゼン、光年は時間じゃないぞ」 ツッコミながら海から上がってきたマリーも横に並び立つ。 「そこのデジモンちゃーん、完全に包囲されてるから大人しく投降しなさーい」 「そうだぞざーこ♪あきらめろー♪」 「なんで煽るんだよ!」 奏音一行も現れ、逃げる場所はないように見えたが… 「バカが!海がガラ空きだぜ!」 マリー相手なら泳ぐ速度で振り切れると踏んだダイブモンは言うが早いか空いていた側面の海に飛び込んだ。 ──しかし。 「がああああああ!!」 苦悶の声を上げながら再び地上に戻ってきたダイブモンは全身を焼かれたかのように苦しんでいた。 「ギルティブラック…テンカイ済み」 「いやー、私の発案とはいえキレイににハマったねえ!」 「逃げられると思ったんですかぁ?頭お花畑なのぉ?」 「えげつないこと考えよるわー…」 あらかじめ周囲の海水に展開していた猛毒のスミに思いっきり飛び込んだ形になったのである。 「ナメやがって…ブッ殺す!『リップルエッジ』!!」 怒り心頭のダイブモンが水の刃を飛ばす! 「あぶなっ」「ギャーッ!」 毒で衰弱しているとはいえ完全体、コンテナも容易く切り裂く切断力は当たればタダではすまない。 「どうにかして動きを止めないと…」 (さて…どうすりゃええ…?) 考える。 隠れながら衰弱を待つ?却下、自分はともかく奏音さんを長く危険に晒したくない。 マリーなら力負けはしないと思うが近接戦闘はややリスクが高い…スキを作りたい。 クレーンでコンテナをぶつけるか?いや、あのパワー相手では目眩しくらいにしか… …目眩し? 「せや!」 思いついた『作戦』を実行に移すため、メッセージアプリで奏音さんに共有、OKの返信を確認して実行に移す。 「行くでマリー!」 「ああ!『ギルティブラック』!」 猛毒のスミを噴射するが、身をもってその威力を知っているダイブモンは大きく飛び退く…が。 「『バッシュドポテト』!」 身動きできないタイミングに合わせてポテモンが頭上から巨大な平らなポテトを落とす! 「ハ、成熟期の攻撃なんざ…熱ァ!!」 ダイブモンの言う通り打撃力は無いが、海棲型にはアツアツポテトの熱は堪えるものでたまらず体勢を崩す! 「今よ!ポテモン!メイクーモン!デジクロス!」 「「メイクイーンモン!!」」 「とっときの継承技でフィニッシュや、マリー!」 「ああ!」 回り込んだマリーとデジクロスしたメイクイーンモンが合流しダイブモンへ接近する。 しかし崩れた体勢でも迎撃の構えに移るダイブモン! 「舐めんなよ!『フィレット…」 「スイッチオン!」 視界が真っ白になったダイブモンは数瞬遅れて状況を把握する。 (コンテナ用の…照明!?) しかし、夜行性のダイブモンは分かっていても眩む視界をどうにもできず── 「『ガイアエレメントU』!」 「『シュバポテトクロー』!」 2体の技を真っ向から受けたダイブモンは… 「くそう…流線型の美女と…ランデブーしたかった…」 …デリートされデジタマへ還るのであった。 後日。 「よくやってくれたね、2人ともお疲れ様」 強面とは裏腹に優しくねぎらいの声をかけるのは依頼主であるデジタル庁デジモン対応特務室──通称デジ対の宇佐美所長。 「初の共同依頼とは思えない働きぶりだった、こちらは人手が足りないから民間の協力者はいくらいても助かるよ」 「ボーナスとかは出せないがナ」 所長の肩で寛いでいるテリアモンが茶々を入れる。 まぁデジ対の小さなオフィスを見るに苦労していると思うのでこちらも何も言わない。 それに今回はお金では買えない貴重な収穫もあった。 「じゃあ報酬はいつものとこにヨロシク?」 「ああ、またよろしく頼む」 無論探偵としての調査手法や心構えなどもあるが、やはり大切なのは人の縁。 デジ対のむさ苦しい砂漠(たまに来るすみれ姉さんは別組織なので除く)に咲いた一輪の花、奏音さん…このまま探偵業を続ければいずれ親密になり── 『令善クンなんて凄い探偵力なの!付き合って!』そして結ばれる2人…っつー寸法よ! そのために今やることは… 「奏音さん!この後よかったら一緒にお食事でも…」 話しかけた対象は…既に視界におらず。 「カノンならさっきやることあるって出てったゾ」 「ええっいつの間に!?」 いやしかし挫けない、障害が多いほど燃え上がるというもの。 「奏音さん、ワイは立派な電脳探偵になるでー!!!」 「ははは、若いねえ」 「キョーイチローもあのくらいの勢いがあったなら初恋が実ったのかもナ」 「……」 *** 「ところでレイゼン、なんでピンポイントでダイブモンを引き寄せられたんだ?女性のカノンに囮をやってもらった方が…」 「いや、奏音さんには任せられへんかったんや」 応じるパートナーに女性を守る頼もしい面を見てマリーは嬉しく 「被害者ン中にカワイコチャンがいるか探してたら全員貧乳なことに気ィついてな!」 「…サイテーだぞレイゼン」 おわり