「……ってえ訳でなんか麺類みたいなデジモンがここいらでも目撃情報が増えてるってゆう話やで。シンドゥーラモンの姐サンも気ィ掛けておくれやす」関西弁っぽい言葉づかいのホークモンが告げた。 「敵か味方か……はたまたどちらでもないのか。ウチも気いつけとくけどすみれにも伝えとくわぁ」関西弁のシンドゥーラモンはスマホを操作している。早速すみれに連絡しているようだ。 「ほな姐サン、ワイはこれで」飛び立とうとするホークモン。 「また頼むわ、おおきになーシュリモンちゃん」 「……ワイはホークモンですって。せんど間違いよるんです?」 「あらそうだったわねゴメンゴメン」言ってお互いに笑う二体のデジモンだが声に反してその眼差しからは笑顔のニュアンスはまるで感じられない。 会話していた警察署の屋上から地上まで降りる途中で、近づいてくるオートバイが見えた。独特な爆音と真っ黒いボディーの大型バイクにまたがる緑のロングコート姿は見知った相手だ。 「あらアカネやないの〜。なんかあったん?」現れたのはフリーのジャーナリストをしているというアカネだ。すみれのご近所さんでもある。 「あっシンドゥーラモンさんこんにちわー。なにか新しいネタとかありません?」彼女はシンドゥーラモンの姿を見かけると必ずこう声を掛けてくる。 「新しいネタゆうてもそうポンポン出る訳あらへんやな……ああそうそう、浩一郎がまた向こう側で なんかやったらしくてな?すみれがぼやいとったわ〜……」そして大概はこのような噂話がしばらく続くのがお決まりのパターンだった。取り留めもないような話題から、一般人に話していいのか危惧されるような話題まで、多彩な噂が尽きぬ泉のごとく湧き出てくる。しかし、先程聞いた麺類デジモンの話題は一言も出てこない。 「そういえばアカネのほうは最近面白い話とかなんか無いん?」 「えー一応わたしの飯の種なんですけど……じゃあこれ内緒で、誰にも言わないで欲しいんですけど」その前置きが守られたことは今までに一度もない。「最近、西城会、ほらあの広域指定暴力団の、あそこの複数の事務所の近くでやばいデジモンを見たって噂がネットで出てるっぽくてですねえ……」こちらもこちらで本当かどうか怪しいような話題がすらすらと出てくる。だが不思議なことに今までにそれが誤情報だったということはあまりなく、数少ない誤報の場合も張り込みや出動が空振りになった程度で特に損害を被ったわけでもない。 その一方で誰にも教えていないような張り込みや捜査で現場にアカネが突然現れ、大きな音を出したりうっかり物を壊して捜査対象に感づかれて逃げられたことは少なくなく、電脳犯罪捜査課としては何をしでかすか予想がつかないという意味で要注意人物としてマークしていた。 「……あっもうこんな時間。次の『取材』があるんだった。それじゃあまたねーシンドゥーラモンさん」メットを被りバイクにまたがるアカネ。 「ほななーアカネ、レイヴモンにもよろしゅーなー」 「……誰ですか、それ。あのホークモンのことを言ってるんだったら、前にも言いましたけどあの子はわたしの『パートナー』じゃありませんよ。」シンドゥーラモンの言葉に、メットのバイザーだけ上げてそう返した。 「そうやったそうやった、ウチ何勘違いしとったんやろなーアッハッハ」そう言って笑うシンドゥーラモンを尻目にアカネは黒い網目模様のカウリングに白く「Ninja H2R」と大きく記されたバイクを発進させた。