【チューモン出会い辺】 「夏って言うにはあんまりにも寒いね……」  源・浩一郎は夏休みに入り閑散とし始めた街を歩きながらそう言った、規制や旅行で友人は皆で払っているから、小学生という遊び盛りの自分を1人で過ごしている。別にそれを不満に思う事はなかった、浩一郎は自他ともに認めるマイペースな男だ、他人のフォローも出来なくはないがやろうと思えば1人好き勝手に生きることも別に嫌いではない。何より今旅行に頻繁に出る家でないことに少しばかり感謝している。おかげで今日は少しだけ遠出して本屋に行ける、と言っても大型の本屋で本以外にもいくつかメディアをそろえている、その中で目的はCDだ、贔屓にしているロックバンドが1年ぶりの新曲アルバムを発売するのだという、居てもたってもいられなくなって両親に頼み込んで小遣いを前借して買いに向かっている途中だった。父親から譲ってもらったヘッドホンとお年玉で買ったMDプレイヤーは今浩一郎の宝物だ、親の庇護下にあるなかで数少ない自分のものと言えるものだからだ。慣れた手つきでプレイヤーのボタンを操作する、トラックを選んで入れている楽曲の中で最も好きなものを再生した、やや悲し気な歌詞に清涼感のある曲調は自分が蝶になれるような気がした。  目当ての店は大きめの十字路を超えた先にある。通常ならば照り返す日光で汗まみれになりそうだがそんなこともない。今年は冷夏って奴なんだろうなと思いながら横断歩道の信号が青になるのを待つ。はやる気持ちがじれったい時間を永遠に感じさせた、ふと横を向く。 「我楽多屋?」  暇を持て余してよそ見した先にその店はあった、雑多な古物が店先に並んでいる。小さくふむと唸る。浩一郎の興味が少しばかり沸いた、本屋まであと少しだというのにどこかその店に心惹かれるものがある。財布を取りだして中身を見た、薄い紙幣、1000の字がかかれた紙幣が2枚ほどと小銭入れの部分に少々。本当にCDを買うギリギリの資金しか持ってはいない何か買えば絶対に目当てのものは購入できないだろう。それでも一度持った興味を浩一郎は捨てられない、自由人の性根が騒いだ気がする。あと数秒も待てば青に変わる信号に目を背け古物屋に足を運んだ。  古物屋の中は薄い埃の匂いがした、雑多な商品は浩一郎の好奇心をがっかりさせるものが大半だったが、それでも見るべきものはあった、どこかの古代発掘品であるとか由来のある骨とう品であるとか、しかしそれ以上に興味を引いたのはここには似つかわしくないほどの最新機器であるPCとその横にある小さな箱だった。箱はどこを見ても開けそうな場所のない長方形の四角型で上を向いている面には『開けたら無料で差し上げます(PC付き)』と書いてある。たまらず店主を呼んだ。 「すいませーん!」  まだ幼さの残る声を張り上げて店主を呼んだ、 「なにかねぇ」  老人らしい緩慢な動きで男が現れた、年嵩はすでに60から70程度に見える。深いしわの刻まれた肌は長年生きてきた貫録を感じさせる。浩一郎は指を差して問いを告げる。 「本当にアレ、開けれたら貰っていいの?」 「ああ、開けれたらなぁ」  男の言葉に浩一郎が鼻を鳴らす、ふぅん、ならちょっとくらい挑んでみてもいいだろう。今は時間で言えば13時くらい、門限にはまだ時間があるしちょっとくらい挑戦しても何の問題もない本当に駄目そうだったらとっとと本屋に向かえばいい。 「それじゃちょっとやってみるよ」  ああ、とだけ店主が答えたのをしり目に気合いを入れて箱に手をかける、どう見ても切れ目のない箱だ、普通に考えてれば空きそうではないが、ふと指をかけた部分に違和感を感じる。小さなでっぱりがそこにはあった、本当に些細な差でしかないから気づかなければ一生気づかなかったかもしれない。 「これは……」  そう言ってその出っ張り部分を指でなぞってみる、薄い段差が指に刺激を与える。それをなぞりはこの上から下まで綺麗に指をはわせ上げた、小さく何かが外れた音がする。 「ん?音?」  どこからなった音かはわからないが確かに音が届いた、あ、と間抜けな声を出す。指でなぞった部分が亀裂となっている、箱が割れていた、わ、と歓声を上げる。今自分がこの箱を開いてしまったらしい。 「おじさん!見てくれよ!開けたよ!」 「は?あれはもう100人近く開けられなかった……開いておる」 「だろっ!これであのパソコンも俺のってことでいいの!?」 「あ……ああ……」  どこか上ずったような声を男が上げていた、しかしそんなことはどうでもよく今はPCに興味が移っている。それなりにお金持ちの家の友人がPCを使ってインターネットという面白い遊びをしているところを見せてくれた。当然浩一郎がそれに引かれるのに時間はかからなかった。他に類を見ない新しい遊びが好奇心をくすぐるのは当然だ、だから両親に頼んでみるもすげなくダメと言われて終わったのは苦い記憶に他ならない、だがこのパソコンというものがあればきっとネットができるのだ、それが浩一郎の心を燃え上がらせる。もしネットができるなら何をしようか、そんなことばかりが脳裏に思い浮かぶ、まずはゲームをしようネットを使えば世界中の人とネットを介してゲームができる。あとは機材さえそろえばMDにパソコンで録音が可能であるという話も聞いた、そうすれば父のコンポを借りて録音する手間とはおさらばだ。そんなことを思うと滾りが止まらない、そこで思い出すそう言えばCDを買っていなかった。 「おじさん!ちょっと俺買い物があるから…父さんもあとで呼んでくるから誰にも売らないでよねっ!」  そう言って笑って見せる、 「あ……ああ、売りはせんとも」 「約束!じゃ、ちょっと言ってく……」  そこまで言って浩一郎の声が止まった、震えが手に走り驚愕で目を見開いた、開ききっていない箱の中にあるものが勝手に震えていたのだ。 「え……え……?」 「いかん!離れろ小僧!デジヴァイスが反応しておる!デジタルワールドにとばさ――」  そこまでは聞こえた、後は何を言われたか覚えていない、残りは何か妙な光に包まれたことだけが記憶の残滓だった。 〇  目を開くとそこは森だった、一瞬だけ瞬きをして周りを見ても浩一郎の周囲が変化することはなくただ鬱蒼とする森だけがそこにある。その土の部分に浩一郎が倒れ込んでいた。 「なにここ」  間抜けな声を上げたな、とだけ思った。 「は?僕さっきまで言たとこじゃないよね……え、え」  一気に混乱が沸き起こり、そして思わず叫んだ、 「とーーーーーーさーーーーーーーーーん!!かーーーーーーーさーーーーーーーーん」  その大声は森に響きすぐに消えた。それは浩一郎の心にすさまじい恐怖を呼び起こす、いきなりどこともわからぬ場所にいる。もしかしたら学級会でやっていた誘拐かもしれない、そして自分がいらなくなって森の中に捨てられたのかも、そんなネガティブな感情と思考ばかりが浮かんでくる。 「ぐすっ……」  泣きそうになるのをじっとこらえた、本当に泣けばもう何もできる気がしなかったからだ。 「とりあえずどうすればいいんだろう」  小さく自分に尋ねてみる。しかしそれは何の解決策にもならなかった。ただ無為に時間が過ぎていきそうになる。  音がする、葉がこすれ、枝が揺れる音。 「な、なんだよ……」  もしかしたらさっき自分が叫んだせいで動物を呼んだかもしれない、野犬とか狼とか、もしかしたら熊かも。そんなことばかりが浮かんできて、緊張に息をのむ。何かあったらすぐに逃げなければならない、見る。何が来てもいいように、そしていっそう大きな音がする。黒い影が見えた。 「ひっ……」  目をつぶり腕を×字に組んで前に出す、逃げるはずがそんなことができなかった、足がこわばって動くことができなかったからだ。  その黒い影は浩一郎の上に馬乗りになる、 「ぼ、僕は食べても美味しくなんて……」  そんなきっと獣には聞かないであろう言い訳を気づけば叫んでいて、 「喰わねーよ!」  それは人の声だった、ほんの少しの安堵と共に目を開く、  紫のでかいネズミがいる、しかもなんか目がでかい。 「ね……ネズミのっ……化け物だ――――!!」 「はぁっ!?なんだよいきなり!俺はチューモン様だぞ!!」 「……?」  何やらでかいネズミが声を上げている。しかも会話ができる。 「……俺って熱中症でぶっ倒れたのかな?」 「何言ってんだよ」  それはこちらのセリフだという言葉を飲み込んで、なんでもないと小さく言う。そして、 「その………何?」 「何って……なんだよ」  その言葉に色々な言葉が弾けては消えるが、何とか思考を整理して、 「ま、まずは君?お前は何……?」 「さっき言ったろ!チューモン様だ!」 「……あ、うん」 「なんだよその反応……選ばれし子供たちのくせにデジタルワールドを知らないの?」」 「あ、え……デジタルワールド……?」 「そうだ!ここはデジタルワールド……リアルワールドに住むお前たちから見た別の世界だ!」 「は……はぁ?」 「でもリアルワールドの人間がこっちに来るには何か資格が必要なんだってな!お前……デジヴァイス持ってるんだろ?」 「でじ……?」 「デジヴァイス!!」 「は……はぁ?そんなの僕は持ってない!」 「おかしいなぁ…そんなはず……はぁ!持ってるじゃないか嘘つき!」 「え……ええ!?」 「それだよ!握りしめてるやつ!」  浩一郎はチューモンにそう言われてやっと自分が何かを持っていることに気づいた、長方形の箱の中から出てきた何か、それは一見プラスチックの玩具にも見えるが、液晶と3つほどボタンを備え付けた何かの機器に見える。 「これ……箱の中にあった」 「へへ…いいじゃねーか!それがな、デジヴァイスって言うんだ!」 「ふ……ふーん?」 「それでな、それを使えば俺を進化させることができるんだぜ!早く進化させてくれ!」 「え、え、なんだよ進化って!?」 「本当に選ばれし子供なの!?何も知らないんだな!」 「知るわけないだろ……」 「いーかぁ、デジタルワールドには伝説があってなぁ、デジヴァイスを持つ子供と絆を結ぶとき、デジモンは進化をすることができるって!」 「そうなんだ」 「ま、デジモンだけで進化できないわけじゃないけどデジヴァイスで進化するとすげー進化ができるんだって!」 「はぁ……」 「なんか適当な返事だな、おい!」 「理解が追い付かないんだよ……」  そう言いながらデジヴァイスを眺める。小さな機械ではあるが大層な物らしい。 「んじゃ、本題でいいよな!進化!進化させてくれ!俺っちのことを!」 「どうすればいいの?」 「それを掲げてな」 「うん」  言われるがままにデジヴァイスを構え、 「チューモン進化って叫んでくれ!」 「ちゅっ……チューモン進化!!」  しかし何も起こらなかった。 「……」 「……」 「あれぇ?」 「何も起きないじゃん嘘つき……」 「おかしいなぁ確かにそういうものだって聞いたんだけど……」 「壊れてんじゃないの?」 「壊れてるならデジタルワールドに来れないだろ」 「そうなのかな……」  結局何かはわからないまま、あーだこーだと言い合いつつ時間が過ぎていく。 「まーいいや、とりあえずお前」 「浩一郎」 「んじゃ浩一郎俺っちのねぐらにくる?」 「いいの?」 「とーぜんだろ選ばれし子供と縁ができるなんて俺っちもラッキーだぜ!」  本当はこんな怪しい存在についていきたいと浩一郎は思わなかったが、それでも頼れる存在が目の前にしかいない以上それに乗っかる。 「んじゃ、こっちだぞ」  そう言って歩くチューモンの声に先導されて森の中を歩く。どこまで言っても歩きにくい木々が浩一郎の足を持たれさせそうになる。転ばないように慎重にしつつもチューモンの後をはぐれないようについ行く。その間に少しばかり昂った心が平静に盛り始めていた、それは周囲を観察するだけの余裕を生んだ。木々は自分の知るどれとも違った、針葉樹とも広葉樹とも授業で習ったそれとは違う。先ほどまでの心細さがどこかに吹っ飛ぶように好奇心が鎌首をもたげる。これは一体どんな植物なのだろうか。 「おい、こーいちろー、俺っちの後をはげるなよ」 「あ、うん」  言われて思考が引きもされる。 「へへ、俺っちのねぐらまでは後もう少しだからな!」 「ふぅん…それでチューモンってどこに住んでるの?」 「この森の先だ!近くにあ崖があってそこに洞窟があるんだ」 「へぇ……」 「ま、ぼろっちいけど住みやすい場所さ!」  そう言ってチューモンが楽しそうに声を上げる。 「にしてもなー、進化できないなてがっかりだ」 「え、あ、ゴメン」 「怒ってないからいいけどよー……」  そう言いながら大股で歩くチューモンの後ろでちょっとだけ浩一郎がしょげる。別に非難される筋合いもないのに思い切り怒られた気分だった。  光が見える。森の境目が見えてきたしい陽光が森の木々を抜けて浩一郎の目に届く。まぶしさに少しだけ目を細めて、そして開いた。  そこには見知らぬ世界が広がっている。  それは泣きそうになった心が澄み渡る気がした。 【アニメだったら主人公と合流編・多分アニメ2話】  耳をつんざく悲鳴が聞こえた。それは女の声だった。 「悲鳴!?」 「んだよー、それくらい別におかしくないだろ」 「いやおかしいよ!?」 「それより俺のこと早く進化させてくれよぉ」 「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!助けに行くよ!!」  そう言って浩一郎が駆け出し、遅れるようにチューモンがついていく。駆けだした先には浩一郎と似た背丈の少年と少女がいる。少年はいかにも活発そうな短パンに赤いシャツ、それにゴーグルをかけ、その後ろには明らかにサイズの合っていない服を着ている少女に浩一郎はその姿にひどく惹かれる様な気がしたが、それを今は振り払う。 「なんだぁっ!?」  そう叫んだのはデジモンだった、緑の肌の子供のようなデジモンだ。ゴブリモンだ。 「そいつぁ答えらんないね!それより2人を囲んで何のつもりかな?」 「はぁ?そいつらが俺等のシマに入り込んだのが悪いんだ!」 「ふーん……って、言ってるけどそうなの?」  いや、と少年が答えた。 「そいつらがドルモンの頭についてるのを宝石って言って引っぺがそうとしてきたんだ!」 「ふぅんっ……」  そう言って浩一郎がゴブリモン達に向き直る。 「あれだね同じリアルワールド出身みたいだし……悪いけど今回はこっちに化成させてもらうよ!」  そう言ってデジヴァイスを構える。 「なっ……おまえも選ばれし子供!?」 「チューモンっ!!!」 「合点!」  その言葉を聞いてゴブリモンたちが身構える。進化の瞬間だと思ったのだろう。しかしその瞬間は来なかった。 「チーズ爆弾(ボム)っ!!」  その掛け声とともに三角のチーズの形をした爆弾が投げ込まれる、それは一気に爆発、光を生み出し、 「ってわけでてったーーーいっ!!」  浩一郎が同じリアルワールドの……選ばれし子供と思われる2人の手を引いた。 「あっ!逃げる気か!?」  ゴブリモンの声を聞きながら、 「ははっ!逃げるが勝ちってねーっ!チューモン!素敵な奴をもっと!」 「いいぞっ!ほらほら!!」  手持ちにあったチーズ型の爆弾を投げ込む、戦うには低い火力も逃げるだけなら十分だった。 〇 「って、なんで逃げるんだよっ!?あれくらい俺とドルモンで勝てたって!」 「勝てたー!」 「モー……折角助けてくれたノニ、それはどうかと思うよヨータぁ……」 「そうよ陽太!」  どうも2人とそのパートナーたちは知り合いらしかった、子気味いいやり取りをしてまるで浩一郎は自分がいないような錯覚を覚えた。 「あー……」 「あ……ゴメンナサイ、助けてくれたのにお礼もまだでした!」 「……ま、それもそっか!ありがとね!」  そう言って二人が頭を下げてくる。  改めて見る。本当に少年の方は活発そうで、目がキっと輝いているように見えた、覚えがある。クラスの中人人物になるような闊達で豪放磊落なタイプの少年。 そしてもう一人、少女の方。同じ国の生まれ出ないのはわかる、透き通りそうな白い肌、それに太陽の光を編んで糸にしたかのような金の髪、顔は美少女と言っていいほどに整い、そして瞳には青い宝石をはめ込んだかのようだ。 「あ、別にいいよ」  何か気のいい言葉を返そうとしてそんな素気のない言葉を発してしまう。 「っと、そうだ、ぼ……俺は浩一郎、源・浩一郎って言うんだ、よろしく」 「俺は陽太!辰巳・陽太!よろしく浩一郎!」 「ハジメマシテ、シンシア、シンシア・シラトゥ、デス」  やっぱり少女の方は生まれが違うらしい発音の違う言葉でそう告げられる。 「ね、浩一郎ってクラスで見たことないけど別の学校?」  ぼんやりとシンシアのことを考えていた浩一郎に対して陽太が声をかけてきた。 「え、あ…双葉北小の5年だけど」 「あ……マジ年上…!?高遅漏さんだったの!?」 「え、年下なの?」 「私達は虹浦二小の4年デス!」 「はぁ……学区違いだったのね……まいいや、よろしく2人とも!」  それが浩一郎と陽太そしてシンシアとの出会いった。 【アニメだったら浩一郎成熟期進化・多分4話くらい(前話で星一と合流)】 「ふんっ!年上とあろう人間が情けない!」  そう叫んだのは戌井・星一だった。 「はは……面目ないね」  そう言って苦笑で浩一郎が返した。  浩一郎はこのパーティーの中で唯一進化をさせることがまだできていなかったからだ。それをどこかとげのある態度で星一が詰める。 「そのようにへらへらしてるから!」 「星一!浩一郎さんがヘラヘラってどこがだよ!」 「お前は馬鹿か!1人まだ進化をさせられてないんだぞ!」 「進化進化って……進化しなくたって戦えてるじゃん!」 「もー……2人トモー…喧嘩はやめてヨー……」  シンシアの小さな仲裁で陽太と星一が舌打ちをして互いにそっぽを向く。浩一郎はいたたまれなくなった。浩一郎は星一の態度を機にしていたりはしない、自分がまだ進化をさせることができてないというのは事実だし、小細工で立ちまわっているがそれが何時まで続けられるかだってわからない。早急に戦力としての力を得る必要があるのは課題だった。 「浩一郎さん、あいつの言ってること気にしなくていーですよ」  そう言ってどこか腹の立ったということを隠そうとしない態度で陽太が浩一郎に告げる。 「えらそーにしちゃってさ!結局あいつだって頼りにしてるんだし」 「まぁまぁ…事実だから」 「……言われっぱなしで嫌にならないんですか?」  陽太がそう問うてきた。 「あー…ちょっとは堪えるかも」 「やっぱり!」 「でもさ、星一なりに俺のこと励まそうとしてるんだと思うんだ」  不器用で常に上を目指す上昇志向の男が、自分に対して最大限の期待を込めているのはなんとなくわかる。ああいった友人がいた、もっと上に、そして周囲にだって自分ができるならお前たちにも、と期待をかけるような、それを知っているから浩一郎は星一のことをあまり悪く言えない。不器用でまっすぐな彼に対して、それとぶつかるような真似はしたくなかった。 「むぅ…」  納得いかなそうなのは陽太だった、どうにもな付いてくれてるらしく浩一郎を先輩として立ててくれている。戦闘の経験値センス共に彼の方が上だというのに、それでも自分を慕ってくれる後輩をまた無下にはできなかった。 「俺のことのために怒ってくれてるの嬉しいよ」 「うん…」 「だからさ、俺のことも信じてくれよ」 「え…」 「先輩って思ってくれてるんだったらさ、信じてよ」  そう言って浩一郎が陽太の目をまっすぐと見る。互いに視線をそらさない。 「……わかった」 「うん、大丈夫…すぐに俺も一緒に戦えるように…ま、戦うのはチューモンなんだけど、それでも…な」 「はい…」 「大丈夫、俺先輩だから心配しないでよ」 『すっ飛ばして戦闘シーン』 「ドルガモンっ!!」「ルガルモン!!」「レキスモン!?」  三者三様の悲鳴が響いた、 「ハイジョハイジョ…テキヲハイジョ」  無感情な機械の声が響き渡る。その眼には光がなく、そして首元には黒いリングがはめられている。 「糞っ……ダークリングさえ破壊できれば!」  星一が忌々し気に目の前の敵に視線を向ける。  金属の輝き、緑のボディと迷彩のボディ、両腕に重火器、東部には巨大な砲塔の付いたデジモンだ。 『タンクモン! 戦車の姿をしたサイボーグ型デジモン。タンクモンは「傭兵デジモン」の異名を持ち、自らの得となることであればワクチン属、ウィルス属のどちらにも荷担する。重量級のパワーと全身に付いた重火器で向かってくる敵を粉々に粉砕する。非常に争いごとが好きで、あちらこちらで起こる争いに赴いている。この一匹狼のデジモンの行くところ、常に争いが絶えない。必殺技は頭部の砲身から超強力なミサイルを発射する『ハイパーキャノン』(解説ボイス)』 「うぅっ…あいつの体硬すぎだよぉ……」  ドルモンから進化したドルガモンが情けない声を上げる。 「そ、そんな声出すなよっ!?」  そう言いながらも打開策を見だすことができない悔しさに歯噛みをする。タンクモンのボディがあまりにも硬く、ドルモンたちの爪が技が通らないのだ。その上にタンクモンの首元に仕掛けられたダークリングが凶暴性とそのボディの強度を底上げしてるらしい、同じ成熟期であれど手も足も歯も爪もどれもが通らないのだ。 「くそっ……」  そしてそれに悔しそうにただ見ているだけの浩一郎がいる。口から洩れるのは悪態だけだ、まだ浩一郎は進化をさせることができないそれがあまりにも悔しい。後輩の前に立ってやることもできない。 「畜生っ…」  両腕を握りしめる。何もできない自分が恨めしい。  その瞬間に手が光る。 「っ…!?」 「デジソウルっ!?」  そう叫んだのは星一だった、 「浩一郎さん…デジソウル…とうとう!!」 「センパーイッ!デジヴァイスにデジソウルチャージデスっ!!」  言われるがままにデジヴァイスを構えた、 「チューモンっ!!」 「あいよぉっ!!真打登場は……遅すぎるくらいが正解だぜ!」  その言葉に浩一郎が笑い……右手の光をデジヴァイスに押し付け叫ぶ。 「デジソウルッ……チャーーーーーーーージッ!!!」  光らなかったデジヴァイスの画面が光る。データの奔流がチューモンを包む。 「チューモンっ…進化ぁ!!!」  その言葉と同時にチューモンに変質がおきる。もはやそれは形状を維持するわけでもない、現れる巨大なナメクジ。 「ヌメモォンッ!!」  ナメクジのバケモノだった。 「ちゅーもん?」 「イエス!でも今はヌメモンだ!」 「あ、うん……ま、いいや」 「おう……やってやろうじゃないか!」  言って浩一郎とヌメモンが陽太たちの前に立ち、 「悪いね……後輩には手ぇ出させないぜ?」 「ザコニヨウハナイ」 「ザコ雑魚うっせーぞ!……今からその雑魚に負けるんだぜぇ?」  ヌメモンの不敵な笑みにつられ浩一郎もふっと笑って見せる。 「ザコ、ダガテキ、ハイジョ」  そう言って両腕を向けて、エネルギーをチャージもろとも吹き飛ばそうとした、思わず悲鳴が後方から聞こえた、 「浩一郎さん!!」 「源先輩っ!」 「センパーーイッ!?」  だが、慌てず、騒がず、そして見る、 「ヌメモンっ!!」 「任せろぉっ!連続……ウンチ投げっ!」  どう考えても排泄物のデフォルメにしか見えないそれをタンクモンに投げつけた。 「キカナイ」  当然のようにそれが通じるわけもない、無効の一言で片づけられる。 「へへへ……」  しかしそれに構わないとばかりにヌメモンがウンチを投げ続ける。そしてその1つが、 「ウヌゥっ!?」  顔面にぶつかった。 「っ…コレハぁ!?」 「へへ…目ぇ潰させてもらったぜぇ?」  ヌメモンが嘲笑を上げる。 「ダガ……ダメージハナイ!!」 「おう、そうだなぁ!」  何の恐怖も感じない声で言って見せる。  即座に顔面についたウンチはこすり取られた、ウンチと言ってもリアルワールドの排泄物とは違いデータのカスでしかない、人間の顔に糞が張り付けば病原体としても一大事かもしれないがデジモンは感情面を除けば何の問題もない、それゆえに戦いのプロフェッショナルであるタンクモンは即座に払い取り、そして目の前の違和感に気づく。 「イナイ!?」  ヌメモンしかそこにはいない、パートナーの姿がそこにはない。 「ニゲタカ!?」 「逃げねーよ」  それは真正面から聞こえた。いつの間にか浩一郎がタンクモンの砲塔に上っていた。それをタンクモンが振り落とそうとし、 「おせーよ」  浩一郎の声がする。 「ボディは硬いし、機動力もあるしマジで強いよ……だけどその中身はどうかな!?」  言って、何かをタンクモンの砲塔に詰め込んだ  浩一郎がそれと同時に砲塔から飛び降りる。それなりの高さがあることを無視して、それをヌメモンが軟体となった自分の体で受け止める。 「キサマァ!!」 「へへ…悪いね……「BOM!」」  爆発が起きた、浩一郎がタンクモンの砲塔に詰めたのは先に作っておいたチューモンのチーズ爆弾だ。  言葉と共にタンクモンから出ている弾丸付近で爆弾が爆発する。  その爆発が新たな爆発を呼んだ、弾丸の尾にある火薬データが誘爆を起こす。 「お、ォォォォォオオオ!?」  爆発が砲塔を砕き、タンクモンは己の力で目を回す。 「サビはいつだって……盛り上げどころで切るもんさ!……ってなわけでダークリングは頼んだぜ!」  言い、浩一郎とヌメモンが後方に離れる。 「任せてくれよ先輩っ!」 「源先輩っ…!」 「センパァーイ!アリガトデースっ!」  三者の一撃がダークリングを打ち砕く。 【アニメ中盤くらい、なんか新しい敵の仕様が出てきた頃(今回はダークタワー)】 「くそっ!デジソウルが出せないっ!」 「ははは…いくら選ばれし子供と言えどデジモンを進化させられなければ役立たずだな!!」  そう言って陽太とシンシアをファントモンが見る。その声はあからさまに侮りの声だった。星一はけおって離脱していた。 「陽太~……」 「ドルモンっ!しっかり気をたもてっ!!」 「うぅ……悔しいっ!こんな奴にっ!」 「ルナモンっ!今は耐え忍ぶのデスっ!」  そのやり取りが余計にファントモンの嘲笑をさそう。 「は……はは!まだやり合うつもりかい?笑えるねぇ!……いいさ、だったらそこのザコどもと一緒に始末してやるっ…死ね―――!!」  大きくフリかばったカマを振り下ろそうとし、 「待てーーーーい!!」  叫び声が聞こえる。 「なんだっ!?」 「なんだと言えば答えよう……」  その姿はダークタワーの上から聞こえた、それは2つのシルエット、子供のものとネズミのもの。 「浩一郎さんっ!?今までどこにっ!?」 「センパァーイ!星一は見つかりましたかっ!?」  ダークタワーの上に立っていたのは浩一郎とチューモンだった。 「いや星一はマジで見つからないや」 「あの馬鹿-!!」  陽太が頭を抱えるように叫ぶ。 「っと、それはそれとして……へへ…悪いね、その2人は俺の後輩なんだよね……手出し無用だ!」 「ふんっ……雑魚の仲間にまたザコか……」 「そう言えるかな……」  言って両手の中のものを輝かせる。 「それはっ!?」 「ずっとダークタワーの干渉を退ける力を探していたのさ……真打登場は……!」 「いつだって遅いのさ!浩一郎!」 「ああ!行くぞっ…デジソウル!」  気合を込めて叫ぶ。 「馬鹿めっ!進化は―――!?」  ファントモンの言葉は驚愕でかき消された、浩一郎のデジソウルが輝きを発している。 「力を貸せ……デジメンタルっ!」  その言葉と共にいびつな2つのデジメンタルが呼応するように光をともす。 「それはっ!?暗黒のデジメンタル!そして欲望のデジメンタル!」 「大正解っ!……チューモン!進化ぁっ!!!」  光が奔流となって現れチューモンを包む。 「チューモンっ…しんかぁあぁあああああ!!!」  その言葉と共に、明るさがましそしてあられる巨体。テディベアを少し不気味にした黄色い体躯。 「もんざえもぉんっ!!」 「っつーわけで……サクッと片付けさせてもらうからなっ!」  言葉と共にもんざえモンの一撃がダークタワーを破壊する。  あとはドルグレモンとクレシェモンともんざえモンでファントモンをタコ殴りにした。 「へへへ……みんな心配かけ……」  戦いが終わりそう言って陽太とシンシアに声をかけようとする。しかし声をかけるのはやめた。  シンシアが陽太に抱き着いている。 「馬鹿っ!ヨータの大馬鹿っ!!」 「し、シンシアなくなよ……」 「うるさいっ!心配かけて一人で突っ走って!!……馬鹿ぁ」  そう言って泣いているシンシアを陽太もまた優しく抱き返していた。  その瞬間に体の力を抜いた、そしてその場を少し離れる。 「浩一郎」  そう声をかけてきたのはパートナーのチューモンだった。 「声……かければいいだろ」 「……いいんだよ」  そう言って浩一郎は苦笑する。  正直に言えば泣きたかった、暗黒のデジメンタルと欲望のデジメンタルが肉体にすさまじい負荷をかけている、それは小学生がおおよそ耐えるべき痛みではない。しかしこらえる。年長の矜持として、足早に出来れば見られないところに。 「……なんで」 「いいんだ……俺は…」 「好きなんだろ、シンシアのこと」  声を詰まらせて、しかし浩一郎は何も答えない。 「こういちろ……」 「チューモン……いいんだよ……俺には……入れないからさ、格好いい先輩みたいだからさ」  知っていた、シンシアは絶対に自分に振り向かないことをずっとこの旅の中で思い知らされていた、そのシンシアの思いは全て陽太に向いているのだから。 「でも……こ、声をかけるくらいは」 「チューモン」  そう言って浩一郎はさえぎった、 「行こう」  チューモンにはその姿を見続ける以外の選択肢を持ち得ていなかった。 『物語終盤くらい』  息をのんだ、決戦の地に踏み込む前日、皆で体を休めようという話になって星一の親が保有するコテージに皆で宿泊することになった、楽しいバーベキューにレクリエーションの時間が過ぎあっという間に夜になる。  浩一郎はなかなか寝付けず、ベッドを抜け出した。そして外に出る。ただの気晴らしだった、そして、見た。 「陽太」 「シンシア……俺……ずっと恥ずかしいって思ってた」 「……」 「でもさ……やっぱり……俺……シンシアのこと……好きみたいんだ」 「うん……ワタシも……シンシアもヨータのこと……」  そこまで聞いて、浩一郎はその場を離れた、誰にも見られていないことを祈りながら。  つぎのひ 「星一?」 「昨日陽太から告白されたんだってな」 「ハイ」 「俺も好きだぞ」 「心こもってナイデスよ……」 「やっぱりそうだったか」 「女の子をトロフィーと間違えてます?陽太との戦いのトロフィー?シンシアは」 「……そうみてたかもな」 「まぁ、素直なので許してあげます」 「そうだよなぁ、そうなると思ってた」  星一は振られた 『最終話1話くらい前』  浩一郎が1人仁王立ちをする。 「浩一郎さんっ!?」  陽太の声を聞き、浩一郎は笑った、 「ここは俺が喰いとめるから……先に行けっ!」 「でもっ!」 「高々これくらい俺一人で十分っ!……ほら、俺のリバースセブンズも持って行って!ドルゴラモンとフェンリルガモンのジョグレスに必要なんでしょ!」 「それだと先輩がっ!?」 「大丈夫だって!」  押し込むようにリバースセブンズを陽太の手に握らせて、 「もう……俺とチューモンだけでも究極体にはなれるから……ほら!世界の機器は待ってくれないぜ!」  そう言って陽太、シンシア、星一を追い払うように先に進めて、 「さて……コンサートは大詰め、サビも大サビ、観客は満員だ」 「へへ…最高のイタズラで締めくくるさ!」 「行くぞ!デジソウルチャージ!!オーバードライブ!!!」  その言葉と共に、チューモンは一気に姿を変える。 「しんもんざえモンっ!」 「へへ…リバースセブンズがないからバーストモードにはいけないけど……言いハンデだと思わないか?」 「いいな浩一郎…こう言うのを薙ぎ払ってこそだぜ……」  浩一郎とチューモンの決戦が始まった。  勿論倒した。勝因は暗黒のデジメンタルと欲望のデジメンタル。 『最終話』 3人が戦い終わって浩一郎が合流した。ちなみになんかこう、ドルグレモンとフェンリルガモンもの友情の合体みたいな感じでなんかこう、凄い超究極(小並)なデジモンになって勝ったよ。あ、ちゃんとディアナモンも勝利に貢献した。 「よっ!終わったみたいだな!」  そう言って慢心そう言うの浩一郎とチューモンが現れる。歓喜の声を上げた。 「浩一郎さん!すげぇ!!」 「源先輩がこれくらいできないはずないだろ」 「もー……2人とも」  いいからと、浩一郎はさえぎって、 「これでとりあえず一安心、か……リアルワールドに帰れるな」  浩一郎の言葉に皆が一様にうなずいて、 「あー…俺たちももう六年かぁ……」 「お前、俺のライバルなんだから成績下げるなよ!?」 「スポーツは得意なんだけどねぇ……」 「陽太のおバカさんにはワタシがついてるから大丈夫!」 「ちぇー……」  そんな風に言ってちょっとつまらなそうにする陽太にちょっとだけいたずらごころが沸いた、 「言っておくが……来年中学になるなら……テスト難しくなるぞ?」 「浩一郎さん……お、脅さないでよぉ」 「マジだよ!だから勉強はちゃんとやりなよ?」 「へぇーい」  そう言って陽太がお手上げのポーズを取る。ひとしきり笑いが起きた後、そうだ、とシンシアが言って、 「陽太」 「ん?何?」  シンシアが飛びつき、陽太にキスをした。  浩一郎は気づかない、己の爪で血を流すほど拳を握っていることを、その振り上げ先も降ろし先もないことを。  だが、理性はわかっている。目の前の光景はとても尊く美しいものだと。  そして3年見続けた浩一郎はこの後もデジタルワールドでお助けキャラをやっていて、こんな感じの光景を何度も見て、愛素晴らしい!やっぱ愛は早いべきから育むべきだよな!と、インピオおじさんに変貌したわけだった。 『こっからはIF・別作者のキャラとつるませているのを許容できない方は見るのやめよう』 【出会い編は同じ】 【アニメだったら主人公ともう1人と合流編・多分アニメ2話】  耳をつんざく悲鳴が聞こえた。それは女の声だった。 「悲鳴!?」 「んだよー、それくらい別におかしくないだろ」 「いやおかしいよ!?」 「それより俺のこと早く進化させてくれよぉ」 「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!助けに行くよ!!」  そう言って浩一郎が駆け出し、遅れるようにチューモンがついていく。駆けだした先には浩一郎と似た背丈の少年と少女がいる。少年はいかにも活発そうな短パンに赤いシャツ、それにゴーグルをかけ、その後ろには明らかにサイズの合っていない服を着ている少女に浩一郎はその姿にひどく惹かれる様な気がしたが、それを今は振り払う。 「なんだぁっ!?」  そう叫んだのはデジモンだった、緑の肌の子供のようなデジモンだ。ゴブリモンだ。 「そいつぁ答えらんないね!それより3人を囲んで何のつもりかな?」 「はぁ?そいつらが俺等のシマに入り込んだのが悪いんだ!」 「ふーん……って、言ってるけどそうなの?」  いや、と少年が答えた。 「そいつらがドルモンの頭についてるのを宝石って言って引っぺがそうとしてきたんだ!」 「ふぅんっ……」 「ちょっと陽太君!」 「じ、事実じゃないですか!」  そう陽太と言い合うのは、黒髪の少女だった。 「いや、喧嘩してる場合じゃないでしょ」  そう言って浩一郎がゴブリモン達に向き直る。 「あれだね同じリアルワールド出身みたいだし……悪いけど今回はこっちに化成させてもらうよ!」  そう言ってデジヴァイスを構える。 「なっ……おまえも選ばれし子供!?」 「チューモンっ!!!」 「合点!」  その言葉を聞いてゴブリモンたちが身構える。進化の瞬間だと思ったのだろう。しかしその瞬間は来なかった。 「チーズ爆弾(ボム)っ!!」  その掛け声とともに三角のチーズの形をした爆弾が投げ込まれる、それは一気に爆発、光を生み出し、 「ってわけでてったーーーいっ!!」  浩一郎が同じリアルワールドの……選ばれし子供と思われる2人の内少年の手を取る。黒髪の少女が金髪の少女のてを取り、  一目散に駆けだした。 「あっ!逃げる気か!?」  ゴブリモンの声を聞きながら、 「ははっ!逃げるが勝ちってねーっ!チューモン!素敵な奴をもっと!」 「いいぞっ!ほらほら!!」  手持ちにあったチーズ型の爆弾を投げ込む、戦うには低い火力も逃げるだけなら十分だった。 〇 「って、なんで逃げるんだよっ!?あれくらい俺とドルモンで勝てたって!」 「勝てたー!」 「モー……折角助けてくれたノニ、それはどうかと思うよヨータぁ……」 「そうよ陽太!」 「陽太君…不服かもしれないけど、助けてもらったら御礼でしょう?」 「み、みんなして俺を攻めるなよー……」  どうも2人とそのパートナーたちは知り合いらしかった、子気味いいやり取りをしてまるで浩一郎は自分がいないような錯覚を覚えた。  それにちょっと魔があるのは黒髪の少女。 「あー……」 「あ……ゴメンナサイ、助けてくれたのにお礼もまだでした!」 「……ま、それもそっか!ありがとね!」  そう言って二人が頭を下げてくる。  改めて見る。本当に少年の方は活発そうで、目がキっと輝いているように見えた、覚えがある。クラスの中人人物になるような闊達で豪放磊落なタイプの少年。もう一人、少女の方。同じ国の生まれ出ないのはわかる、透き通りそうな白い肌、それに太陽の光を編んで糸にしたかのような金の髪、顔は美少女と言っていいほどに整い、そして瞳には青い宝石をはめ込んだかのようだ。  そして黒髪の少女、優しく朗らかな顔つきなのに、どこか芯の強い部分があるように見えた。紫の瞳が美しい。 「あ、別にいいよ」  何か気のいい言葉を返そうとしてそんな素気のない言葉を発してしまう。 「っと、そうだ、ぼ……俺は浩一郎、源・浩一郎って言うんだ、よろしく」 「俺は陽太!辰巳・陽太!よろしく浩一郎!」 「ハジメマシテ、シンシア、シンシア・シラトゥ、デス」  やっぱり少女の方は生まれが違うらしい発音の違う言葉でそう告げられる。 「烏籐・すみれです…あ、漢字じゃなくてひらがなですみれ」  それに合わせたようにすみれも名乗りを上げる。 「ね、浩一郎ってクラスで見たことないけど別の学校?」  ぼんやりとシンシアのことを考えていた浩一郎に対して陽太が声をかけてきた。 「え、あ…双葉北小の5年だけど」 「あ……マジ年上…!?浩一郎さんだったの!?」 「え、年下なの?」 「私達は虹浦二小の4年デス!」 「はぁ……学区違いだったのね……」 「あ、私は西小の五年だよ!同じ学年同士よろしくね!」  それが浩一郎と陽太そしてシンシアとの出会いった。  そして……烏籐すみれとも。 【アニメだったら浩一郎成熟期進化・多分4話くらい(前話で星一と合流)】 「ふんっ!年上とあろう人間が情けない!」  そう叫んだのは戌井・星一だった。 「はは……面目ないね」  そう言って苦笑で浩一郎が返した。  浩一郎はこのパーティーの中で唯一進化をさせることがまだできていなかったからだ。それをどこかとげのある態度で星一が詰める。 「そのようにへらへらしてるから!」 「星一!浩一郎さんがヘラヘラってどこがだよ!」 「お前は馬鹿か!1人まだ進化をさせられてないんだぞ!」 「進化進化って……進化しなくたって戦えてるじゃん!」 「もー……2人トモー…喧嘩はやめてヨー……」 「ほら、みんな言い争いは今なし!」  シンシアの小さな仲裁で陽太と星一が舌打ちをして互いにそっぽを向く。それをさらにいさめるようにすみれが言う。浩一郎はいたたまれなくなった。浩一郎は星一の態度を機にしていたりはしない、自分がまだ進化をさせることができてないというのは事実だし、小細工で立ちまわっているがそれが何時まで続けられるかだってわからない。早急に戦力としての力を得る必要があるのは課題だった。 「浩一郎さん、あいつの言ってること気にしなくていーですよ」  そう言ってどこか腹の立ったということを隠そうとしない態度で陽太が浩一郎に告げる。 「えらそーにしちゃってさ!結局あいつだって頼りにしてるんだし」 「まぁまぁ…事実だから」 「……言われっぱなしで嫌にならないんですか?」  陽太がそう問うてきた。 「あー…ちょっとは堪えるかも」 「やっぱり!」 「でもさ、星一なりに俺のこと励まそうとしてるんだと思うんだ」  不器用で常に上を目指す上昇志向の男が、自分に対して最大限の期待を込めているのはなんとなくわかる。ああいった友人がいた、もっと上に、そして周囲にだって自分ができるならお前たちにも、と期待をかけるような、それを知っているから浩一郎は星一のことをあまり悪く言えない。不器用でまっすぐな彼に対して、それとぶつかるような真似はしたくなかった。 「むぅ…」  納得いかなそうなのは陽太だった、どうにもな付いてくれてるらしく浩一郎を先輩として立ててくれている。戦闘の経験値センス共に彼の方が上だというのに、それでも自分を慕ってくれる後輩をまた無下にはできなかった。 「俺のことのために怒ってくれてるの嬉しいよ」 「うん…」 「だからさ、俺のことも信じてくれよ」 「え…」 「先輩って思ってくれてるんだったらさ、信じてよ」  そう言って浩一郎が陽太の目をまっすぐと見る。互いに視線をそらさない。 「……わかった」 「うん、大丈夫…すぐに俺も一緒に戦えるように…ま、戦うのはチューモンなんだけど、それでも…な」 「はい…」 「大丈夫、俺先輩だから心配しないでよ」 ついか 「浩一郎君……」 「あ……すみれさんか」  場を離れていた浩一郎の下にすみれが歩いてくる。 「えっと……」 「そのさ……私が何を言ってもかもしれないけど」  そう言いながらちょっとだけうつむいた、すみれは正常に進化を行うことができる、きっと言えば嫌味になるんだろうと、それでもその元来の優しさが何かを言わずにいられなかったのだろう。それは世間に置いてはおせっかいとも言われるようなものだ。やらずにはいられない人間もいる、それだけの話になる。それに気づいて浩一郎は笑みを見せる。 「大丈夫気にしないよ、ってか……もしかして気づかってくれてるんでしょ」 「それは……」  少しだけすみれが顔を赤くする。 「それだけで十分!それにさっきも言ったけどすぐに進化できるようになるからさ」 「そ、そうじゃないんだよ……」 「え?」 「その……一人で背負おうとしてるみたいで……」  そう言われ息が詰まる。  それは図星だった、まだ時期が時期だ、男は男らしくがまかり通る。年上で男の自分が一番頑張らないといけないのは自明だった。 「私は……頼れない?」  それに対して不満そうな顔を向けるのはすみれだ。 「そ、そんなことはないけど」 「だったら頼ってよ」  少しばかり上がった語気にたじろいでしまう。それを見ていたのかどこからかすみれのパートナーが現れる、ファルコモンが甲高い声で言う。 「もぉ~~……あんたねぇ、そうやって自分一人で頑張ってますぅって態度するんじゃないよ!ここにいるみんな頑張ってるんだよ!」  そう言って手のような羽を腰につけ、 「そうやって頑張るのは確かに大事だけどだからってそうやって頑張りすぎたら周りだってそれに合わせないとって思っちゃうじゃないの!わたしはねー、もっとゆったりでいいでしょう!って言うよりちょっとあんた無理してないっ!?なんか格好つけちゃって……やーねぇ、確かにそういうお年頃かもしれないけど無理したって体に毒なんだよ!?」  まくしたてる様なファルコモンにただはは、と返すだけしかできず呆れたようにすみれがひたいを手に付ける。チューモンはまた始まったな、といった顔で時が過ぎるのを待っていた。  浩一郎はその姿がちょっと面白くて笑ってしまった。 『すっ飛ばして戦闘シーン』 「ドルガモンっ!!」「ルガルモン!!」「レキスモン!?」  三者三様の悲鳴が響いた、 「ハイジョハイジョ…テキヲハイジョ」  無感情な機械の声が響き渡る。その眼には光がなく、そして首元には黒いリングがはめられている。 「糞っ……ダークリングさえ破壊できれば!」  星一が忌々し気に目の前の敵に視線を向ける。  金属の輝き、緑のボディと迷彩のボディ、両腕に重火器、東部には巨大な砲塔の付いたデジモンだ。 『タンクモン! 戦車の姿をしたサイボーグ型デジモン。タンクモンは「傭兵デジモン」の異名を持ち、自らの得となることであればワクチン属、ウィルス属のどちらにも荷担する。重量級のパワーと全身に付いた重火器で向かってくる敵を粉々に粉砕する。非常に争いごとが好きで、あちらこちらで起こる争いに赴いている。この一匹狼のデジモンの行くところ、常に争いが絶えない。必殺技は頭部の砲身から超強力なミサイルを発射する『ハイパーキャノン』(解説ボイス)』 「うぅっ…あいつの体硬すぎだよぉ……」  ドルモンから進化したドルガモンが情けない声を上げる。 「そ、そんな声出すなよっ!?」  そう言いながらも打開策を見だすことができない悔しさに歯噛みをする。タンクモンのボディがあまりにも硬く、ドルモンたちの爪が技が通らないのだ。その上にタンクモンの首元に仕掛けられたダークリングが凶暴性とそのボディの強度を底上げしてるらしい、同じ成熟期であれど手も足も歯も爪もどれもが通らないのだ。 「くそっ……」  そしてそれに悔しそうにただ見ているだけの浩一郎がいる。口から洩れるのは悪態だけだ、まだ浩一郎は進化をさせることができないそれがあまりにも悔しい。後輩の前に立ってやることもできない。 「ディアトリモン!何とか撹乱してっ!」  何より悔しいのは目の前で自分と同じ年頃の少女が奮戦しているという事実だ。 「畜生っ…」  両腕を握りしめる。何もできない自分が恨めしい。  その瞬間に手が光る。 「っ…!?」 「デジソウルっ!?」  そう叫んだのは星一だった、 「浩一郎さん…デジソウル…とうとう!!」 「センパーイッ!デジヴァイスにデジソウルチャージデスっ!!」  言われるがままにデジヴァイスを構えた、  それを見てすみれが笑う。 「いっちゃえ……浩一郎君!」  その言葉にちょっとだけ笑い。 「チューモンっ!!」 「あいよぉっ!!真打登場は……遅すぎるくらいが正解だぜ!」 「ライブも大詰めだ!」  右手の光をデジヴァイスに押し付け叫ぶ。 「デジソウルッ……チャーーーーーーーージッ!!!」  光らなかったデジヴァイスの画面が光る。データの奔流がチューモンを包む。 「チューモンっ…進化ぁ!!!」  その言葉と同時にチューモンに変質がおきる。人のように立ち上がり、巨大な詰めを持つげっ歯類 「プレイリモォンッ!!」  ちょっと癒し系げっ歯類だった。 「ちゅーもん?」 「イエス!でも今はプレイリモンだ!」 「あ、うん……ま、いいや」 「おう……やってやろうじゃないか!」  言って浩一郎とプレイリモンが陽太たちの前に立ち、 「悪いね……後輩には手ぇ出させないぜ?」  だったら、とすみれが浩一郎の隣に立つ。 「私も先輩だし……いいところ見せないとね!」 「じゃ、共同戦線だ……頼らないけど、当てにはするよ?」 「素直じゃないなぁ……だったら……うん、相棒ってことで!」  すみれが浩一郎の言葉に不敵に返し、そして眼前のタンクモンに視線を移す。 「ザコニヨウハナイ」 「ザコ雑魚うっせーぞ!……今からその雑魚に負けるんだぜぇ?」  プレイリモンが手を上げて威嚇のポーズを取る。 「ザコ、ダガテキ、ハイジョ」  そう言って両腕を向けて、エネルギーをチャージもろとも吹き飛ばそうとした、思わず悲鳴が後方から聞こえた、 「浩一郎さん!!」 「烏籐先輩っ!」 「センパーーイッ!?」  だが、慌てず、騒がず、そして見る、 「すみれ……撹乱っ!!」 「うんっ!ディアトリモンっ!羽をっ!」 「おっしゃ!まかせいっ!」  そう言い、その金属製の羽を思い切り羽ばたき、タンクモンの周りにばらまいた。タンクモンが鼻を鳴らし、 「コレガナンダ?」 「侮ってくれて……痛い目見るぜ?」  その言葉と共に、それはすぐにきた。 「ヌっ!?」  地面が揺れる、一気に体幹が保てなくなり、傾きを生じた、いつの間にか穴ができている。 「へへ…浩一郎が言ってたろ?痛い目見るってさ」  それはプレイリモンが掘った巨大な落とし穴だった、そこにタンクモンが右とにはまっている。 「キサマァ!!」 「へへ…悪いね……!」  不敵な笑みでタンクモンを見据える、 「それじゃ宴たけなわだ!……バイバーイっ♪」  プレイリモンの爪がダークリングを貫いた。 ついか 「やったね、浩一郎君!」  そう言って駆け寄ってくるのはすみれだった、 「ん?まーね!」 「もぉ、もっと一緒に喜んだっていいと思うんだけど?」 「これでも結構喜んでるんだけど?」  いいから、と言ってすみれが浩一郎の手をつかみ、そして掲げせて、その掲げた手に合わせるように平手、ハイタッチ。 「やったね……相棒っ!」 「……ああっ!」  すみれの笑いに浩一郎がまた笑いを返す。それは無理をしていない笑みだった。 【アニメ中盤くらい、なんか新しい敵の仕様が出てきた頃(今回はダークタワー)】 「くそっ!デジソウルが出せないっ!」 「ははは…いくら選ばれし子供と言えどデジモンを進化させられなければ役立たずだな!!」  そう言って陽太とシンシア、すみれをファントモンが見る。その声はあからさまに侮りの声だった。星一はけおって離脱していた。 「陽太~……」 「ドルモンっ!しっかり気をたもてっ!!」 「うぅ……悔しいっ!こんな奴にっ!」 「ルナモンっ!今は耐え忍ぶのデスっ!」 「ファルコモン……大丈夫…大丈夫だから」 「くぅっ……悔しいっ!あんなのに好き勝手言わせてるなんて!!」  そのやり取りが余計にファントモンの嘲笑をさそう。 「は……はは!まだやり合うつもりかい?笑えるねぇ!……いいさ、だったらそこのザコどもと一緒に始末してやるっ…死ね―――!!」  大きくフリかばったカマを振り下ろそうとし、 「待てーーーーい!!」  叫び声が聞こえる。 「なんだっ!?」 「なんだと言えば答えよう……」  その姿はダークタワーの上から聞こえた、それは2つのシルエット、子供のものとネズミのもの。 「浩一郎さんっ!?今までどこにっ!?」 「センパァーイ!星一は見つかりましたかっ!?」  ダークタワーの上に立っていたのは浩一郎とチューモンだった。 「いや星一はマジで見つからないや」 「あの馬鹿-!!」  陽太が頭を抱えるように叫ぶ。 「っと、それはそれとして……へへ…悪いね、その2人は俺の後輩、それと相棒なんだよね……手出し無用だ!」 「ふんっ……雑魚の仲間にまたザコか……」 「そう言えるかな……」  言って両手の中のものを輝かせる。 「それはっ!?」 「ずっとダークタワーの干渉を退ける力を探していたのさ……真打登場は……!」 「いつだって遅いのさ!浩一郎!」 「ああ!行くぞっ…デジソウル!」  気合を込めて叫ぶ。 「馬鹿めっ!進化は―――!?」  ファントモンの言葉は驚愕でかき消された、浩一郎のデジソウルが輝きを発している。 「力を貸せ……デジメンタルっ!」  その言葉と共にいびつな2つのデジメンタルが呼応するように光をともす。 「それはっ!?暗黒のデジメンタル!そして欲望のデジメンタル!」 「大正解っ!……チューモン!進化ぁっ!!!」  光が奔流となって現れチューモンを包む。 「チューモンっ…しんかぁあぁあああああ!!!」  その言葉と共に、明るさがましそしてあられる小柄な体、鈴に羽と金剛杵を付け、ネズミをわせたような格好。 「クンビラモンっ!!」 「っつーわけで……サクッと片付けさせてもらうからなっ!」  言葉と共にクンビラモンの一撃がダークタワーを破壊する。  あとはドルグレモンとクレシェモンとクンビラモンとジンドゥーラモンでファントモンをタコ殴りにした。 「へへへ……みんな心配かけ……」  戦いが終わりそう言って陽太とシンシアに声をかけようとする。しかし声をかけるのはやめた。  シンシアが陽太に抱き着いている。 「馬鹿っ!ヨータの大馬鹿っ!!」 「し、シンシアなくなよ……」 「うるさいっ!心配かけて一人で突っ走って!!……馬鹿ぁ」  そう言って泣いているシンシアを陽太もまた優しく抱き返していた。  その瞬間に体の力を抜いた、そしてその場を少し離れる。 「浩一郎」  そう声をかけてきたのはパートナーのチューモンだった。 「声……かければいいだろ」 「……いいんだよ」  そう言って浩一郎は苦笑する。  正直に言えば泣きたかった、暗黒のデジメンタルと欲望のデジメンタルが肉体にすさまじい負荷をかけている、それは小学生がおおよそ耐えるべき痛みではない。しかしこらえる。年長の矜持として、足早に出来れば見られないところに。 「……なんで」 「いいんだ……俺は…」 「好きなんだろ、シンシアのこと」  声を詰まらせて、しかし浩一郎は何も答えない。 「こういちろ……」 「チューモン……いいんだよ……俺には……入れないからさ、格好いい先輩みたいだからさ……いいんだ」 「いいわけないでしょ!」  え、と声を上げてその方向を見る、すみれが立っていた、 「この馬鹿……心配かけて……浩一郎!この馬鹿!」 「え、えぇ……これでも立ち役者にバカはひどくない?」 「何が立ち役者よ……1人で好き勝手やって!そうやって!馬鹿っ!」 「う……ぁ」  いつの間にか戻っていたファルコモンがその羽を一度浩一郎の体に触れさせて、 「浩一郎」  名を呼んだ瞬間に、思い切りはたき上げた。 「このっ…だぁほぅっ!!!すみれがな、すみれがどれだけ心配したかわかってんのっ!?かっこつけて飄々として自分はさも風流人に御座いってやって待つ人に迷惑かけて何も思わんのか!このアホ!馬鹿!おおまぬけっ!!」 「そ、そこまで言われるぅ……?」 「言われるから……やったんだよ!反省し!」  そのファルコモンの剣幕には流石に冷や汗を流すしかなかった、 「浩一郎」 「あ……はい」  これ以上の説教はちょっと勘弁をしてほしいと思うが失跡の言葉は飛んでこない、代わりに柔らかい声で、 「体……大丈夫?」 「えっと……」 「だってあんな凄い力使ったんだよ、大変なわけないじゃん」  見透かすような言葉で言われるともういいわけもできない。 「実は結構辛いかも……なんて言うか凄い筋肉痛……かな?」  そっかとすみれが返してきて、 「なら、見ててあげるから休んでていいよ」 「えっとでも……」 「いいから、休め」  そうやって強引に力を込めて近場の木陰に腰を落とされたら、もう抵抗はできない、木を背もたれがわりにして、帽子のつばで目元を隠してから、 「……ありがと」 「いいよ、相棒」  その言葉に、浩一郎は安堵を覚えた。 『物語終盤くらい』  息をのんだ、決戦の地に踏み込む前日、皆で体を休めようという話になって星一の親が保有するコテージに皆で宿泊することになった、楽しいバーベキューにレクリエーションの時間が過ぎあっという間に夜になる。  浩一郎はなかなか寝付けず、ベッドを抜け出した。そして外に出る。ただの気晴らしだった、そして、見た。 「陽太」 「シンシア……俺……ずっと恥ずかしいって思ってた」 「……」 「でもさ……やっぱり……俺……シンシアのこと……好きみたいんだ」 「うん……ワタシも……シンシアもヨータのこと……」  そこまで聞いて、浩一郎はその場を離れた、誰にも見られていないことを祈りながら。 ついか  しかしその願いは届かなかったらしい。 「浩一郎」 「……あ」  その姿をすみれが見られていたらしい、苦笑いを浮かべ、 「えっと……寝れなかった?」  そらすように話をする。しかしその言葉に何も返さずにすみれが近寄ってきて、ぐ、と力を込めて浩一郎を抱きしめた。声が来る。 「辛いんでしょう」 「え…」 「知ってるよ、シンシアちゃんのこと好きだったんでしょう」 「……そんなこと」 「バレバレ」 「……そうだよ」 「私も見てたよ、今の」 「でばがめみたいじゃん、俺たち」 「そうだけどさ…でも今はそんなのいいよ……辛いんでしょう」 「辛くなんて」 「ずっと、年上の頼れるお兄さんしてて、ずっと我慢してたの見てるよ…… やめてよ、相棒なんでしょ、それなのに隠すなんて、私……そんなに浩一郎の気持ち見るのに値しないかな……?」  その言葉になんだか涙が流れてしまった、 「そうだ……好きだったよ……でも、でも俺、言えるわけないじゃんっ…学園が上なのに年下のことなんてっ…だから格好つけたけど……そんなのしたって買ってこないじゃん、無理だよ……」 「うん……うん……」 「だってシンシアはずっと陽太見てるんだぜ…俺のことなんかどれだけ頑張ったって…ひぐっ…ぐすっ……ズリィよ……俺はっ……」  そして……仮面がはがれる。 「僕はっ…僕だって好きだったけど……入り込めない相手に勝てるわけないっ……」  そこからは堰が壊れ、流れ出した水のように言葉が紡がれる。 「辛かったよ、僕たった1歳しか年上じゃないのにっ…凄い責任持たなきゃだしっ……陽太とシンシアはずっと見せつけてくるしっ……星一は好き勝手するしっ……」  どれだけの言葉が紡がれたかはわからないが、しかし、その言葉と涙がなくなるまですみれは浩一郎に寄り添っていた。  つぎのひ 「星一?」 「昨日陽太から告白されたんだってな」 「ハイ」 「俺も好きだぞ」 「心こもってナイデスよ……」 「やっぱりそうだったか」 「女の子をトロフィーと間違えてます?陽太との戦いのトロフィー?シンシアは」 「……そうみてたかもな」 「まぁ、素直なので許してあげます」 「そうだよなぁ、そうなると思ってた」  星一は振られた 『最終話1話くらい前』  浩一郎が1人仁王立ちをする。 「浩一郎さんっ!?」  陽太の声を聞き、浩一郎は笑った、 「ここは俺が喰いとめるから……先に行けっ!」 「でもっ!」 「高々これくらい俺一人で十分っ!……ほら、俺のリバースセブンズも持って行って!ドルゴラモンとフェンリルガモンのジョグレスに必要なんでしょ!」 「それだと先輩がっ!?」 「大丈夫だって!」  押し込むようにリバースセブンズを陽太の手に握らせて、 「もう……俺とチューモンだけでも究極体にはなれるから……ほら!世界の機器は待ってくれないぜ!」  そう言って陽太、シンシア、星一を追い払うように先に進めて、 「さて……コンサートは大詰め、サビも大サビ、観客は満員だ」 「へへ…最高のイタズラで締めくくるさ!」 「なら……一人くらい伴奏がいるべきじゃない?」  言って、すみれが浩一郎の横に並び立つ。 「いいの、あっちに年上1人もいないよ」 「たまには私だって好きかってしてもいいでしょ?」 「まったく、委員長がね…でも、折角だ、最高のセッションにしようじゃない!」 「まったく音楽用語で格好つけて……でも、いいよ、今日だけは乗ってあげる、最高の演奏で盛り上がらせるからっ!」  言って、浩一郎とすみれがデジヴァイスを構えた。 「行くぞ!デジソウルチャージ!!オーバードライブ!!!」 「いくよ……シンドゥーラモン!進化っ!」  その言葉と共に、クンビラモンそしてシンドゥーラモンが一気に姿を変える。 「(実は設定詰め損ねた)モンっ!」 「ホウオウモン!」 「へへ…リバースセブンズがないからバーストモードにはいけないけど……言いハンデだと思わないか?」 「いいな浩一郎…こう言うのを薙ぎ払ってこそだぜ……」 「いくよおばちゃ……ホウオウモン」 「すみれぇぇぇっ!そういうところで格好つけんからっていつもいつも……!」 「ちょ!来ちゃうってば!」  浩一郎とチューモンそしてすみれとホウオウモンの決戦が始まった。  勿論倒した。 『最終話』 3人が戦い終わって浩一郎が合流した。ちなみになんかこう、ドルグレモンとフェンリルガモンもの友情の合体みたいな感じでなんかこう、凄い超究極(小並)なデジモンになって勝ったよ。あ、ちゃんとディアナモンも勝利に貢献した。 「よっ!終わったみたいだな!」 「そっちも無事みたいでよかったよ」  そう言って慢心そう言うの浩一郎とチューモン、すみれとファルコモンが現れる。歓喜の声を上げた。 「先輩たち!すげぇ!!」 「まったく、我らが先輩にこれくらいできないはずないだろ」 「もー……2人とも」  いいからと、浩一郎はさえぎって、 「これでとりあえず一安心、か……リアルワールドに帰れるな」  浩一郎の言葉に皆が一様にうなずいて、 「あー…俺たちももう六年かぁ……」 「お前、俺のライバルなんだから成績下げるなよ!?」 「スポーツは得意なんだけどねぇ……」 「陽太のおバカさんにはワタシがついてるから大丈夫!」 「ちぇー……」  そんな風に言ってちょっとつまらなそうにする陽太にちょっとだけいたずらごころが沸いた、 「言っておくが……来年中学になるなら……テスト難しくなるぞ?」 「浩一郎さん……お、脅さないでよぉ」  それに乗っかるようにすみれも笑い、 「本当本当!だから勉強はちゃんとやりなよ?」 「へぇーい」  そう言って陽太がお手上げのポーズを取る。ひとしきり笑いが起きた後、そうだ、とシンシアが言って、 「陽太」 「ん?何?」  シンシアが飛びつき、陽太にキスをした。  ついか 「そう言えばさ、えっと学区は北中?」  すみれの言葉にああ、とうなずいた。 「そうだよ」 「だったら今度住所教えてよ、遊びに行くから」 「え?」 「いいじゃん、リアルワールドだとちゃんと遊んだことないんだし」  なにより折角平和になったんだからさ!いっぱい遊ばないとっ!  それにいいな、と声を上げたのがパートナーたちだ、 「いいなっ!また俺っちもリアルワールドで遊びたかったんだ!」 「そうよねぇ……こっちでは大変だったしあっちでくらいゆっくりしたいわぁ」「もぉ……でも、そうだね」  だから、とすみれが向き直り、 「どう?」  その言葉に浩一郎はただ頷くしかない、 「ああ……遊ぼうか」  こうして浩一郎の幼年期は終わった。  ほろ苦いものもあった、だが、人生はそれだけで終わらない。