『このデモによる死傷者の数は既に1000人にのぼり、赤道連合政府は……』 『18日の大西洋連邦大統領の発言を受けて、昨日、南アフリカ共同体のガドア議長は……』 『この声明に対しプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは昨夜未明、プラントはあくまでも……』 「毎日毎日、気の滅入るようなニュースばかりだねえ。なんかこう、気分の明るくなるようなニュースはないもんかね?」  モニターから流れるニュースを見ながら、バルトフェルドがぼやく。 「しかし、何か変な感じだな。プラントとの戦闘の方はどうなっているんだ。入ってくるのは連合の混乱のニュースばかりじゃないか」  カガリは少し不安げに告げる。その薬指には、アスランから送られた指輪が光っていた。 「プラントはプラントでずっとこんな調子ですしね」  ラクスはそう言いながら、モニター内の右下のニュースをクローズアップする。 『静かなこの夜に貴方を待ってるの♪あのとき忘れた微笑みを取りに来て♪』 『星の降る場所で貴方が笑っていることを♪いつも願ってた♪今遠くてもまた会えるよね♪』 『勇敢なるザフト軍兵士の皆さ〜ん!平和の為、わたくし達もがんばりま〜す!皆さんもお気を付けて〜!』  大写りになるのは、プラントの「ラクス」。際どい衣装と派手なパフォーマンスは、まるで歌姫というよりはアイドルといった印象を見る者に与えた。 「皆さん、元気で楽しそうですわ」  ラクスは穏やかな口調で告げるが、その表情は全く笑っていない。 「あの娘の方が胸大っきいしねー。男って本当単純」  フレイのその一言にラクスの表情が更に強張り、ブリッジ内に緊張が走る。 「アンタもああいう格好してれば議長辞めなくて済んだんじゃない?」  しかしフレイは低カロリースナックを頬張りながら、お構い無しとばかりに煽る。 「こ、これもいいのか!?このままにしておいて……」  凍り付きかけた空気を打破するため、カガリが話題を変える。 「そ、そりゃ、何とか出来るもんならしたいけどな……だが、下手に動けばこちらの居所が知れるだけだ。そいつは現状あまりうまくないだろ?匿ってくれているスカンジナビア王国に対しても」 「……ええ、それは」  キラは唯一しかめっ面を崩さず、モニターを睨みつける。 「なら、いつまでもこうして潜ってばかりもいられないだろ。オーブのことだって私は……」 「そうねえ。ユニウスセブンの落下は確かに地球に強烈な被害を与えたけど、その後のプラントの姿勢は真摯だったわ。難癖のように開戦した連合国が馬鹿よ」 「ブルーコスモスだろ?地球軍の大半は復興の手伝いやこういうゴタゴタの鎮圧でてんてこ舞いだろうしな」  マリューの評にバルトフェルドは訂正を入れる。 「まあね。でも、デュランダル議長はあの信じられない第一派攻撃の後も馬鹿な応酬はせず、市民から議会からみんななだめて最小限の防衛戦を行っただけ。どう見ても悪い人じゃないわ。そこだけ聞けば」 「実際良い指導者だと思う、デュランダル議長は。というか、思っていた。ラクスの暗殺とこの件を知るまでは。アスランだってそう思ったからこそプラントへ行くと言い出したんだし」 「じゃあ、誰がラクスを殺そうとしたんだよ」 「えっ?」 「そしてこれだろ?僕には信じられないよ。デュランダルって人は」 「キラ……」  キラの毅然とした一言にラクスは笑みを取り戻す。 「みんなを騙してる」 「それが政治と言えば政治なのかもしれんがね」 「と言うか実際、あの娘が勝手に顔整形してラクス名乗ってるだけ、って可能性はないわけ?」 「……プラントにわたくしの生体情報は登録されていますし、評議会やザフトがそれらを照会する事は容易です。それらを偽証することは、何らかの大きな政治的意図が無い限り不可能でしょう」 「つまり、彼女のバックには最低でもプラント評議会議員クラスの何者かが付いてる、ってことだな」  バルトフェルドが補足する。 「はて、何を考えてるのかなプラントは」 「なんだかユーラシア西側のような状況を見てると、どうしてもザフトに味方して地球軍を討ちたくなっちゃうけど」 「お前はまだ反対なんだろう?それには」 「はい」 「アスランが戻ればプラントのことももう少し何か分かると思うんだが。一体何やってるんだろうな、あいつ」 「……それに、キラも思ったより不機嫌だな……」  カガリはフレイにボソリと告げる。 「そりゃ、自分の女と同じ顔したのがあの格好で人前で乳揺らしながら踊ってたら嫌でしょうよ」  しかし、そのしばらく後に入ってきた知らせは予想を上回る酷さだった。 「オーブが、スエズに軍を派遣!?そんな、ウナトは……首長会は一体何を……!」 「……完全に連合の使い走りね」  フレイがため息交じりに告げる。 「だが仕方なかろう?同盟を結ぶということはそういうことだ」 「そしてそれを認めちゃったのはカガリでしょ?こうなるとは、思ってなかった?」 「まあ、私としてもここまでするのは流石に恣意的運用が過ぎると思うけど」 「うぅ……」  バルドフェルド、キラ、マリューの評にカガリは言葉を詰まらせる。 「気に入らないのは分かるよ。僕だって、こんな事の為にムラサメ開発を手伝った訳じゃない」 「キラ……」  カガリは、毅然とした表情でキラに告げる。 「発進してくれ!今更馬鹿げた感傷かもしれないが、この戦闘、出来ることなら私は止めたい!オーブは、こんな戦いに参加してはいけない。いや、オーブだけではない。本当はもうどこも…誰も、こうして戦うばかりの世界にいてはいけないんだ!だから頼む!キラ!そうして少しづつでも間違えてしまった道を今からでも戻らねば!オーブも!」 「……まあ、やれるだけはやってみるよ」  キラはキラで憮然とした態度を崩さず、ただ淡々とそう告げた。  ダーダネルス海峡での戦闘は熾烈を極めていた。  オーブは地球軍への援軍として空母1、護衛艦6、数十機のM1、ムラサメと言う大規模な兵力を派兵しており、更にそれがミネルバに殺到するという過酷な戦況。シンとアスランの活躍によりなんとか凌いでいるが、それでも状況はジリ貧であった。  そんな中、ミネルバ艦長タリア・グラディスはある決断を下す。 「取り舵30。タンホイザーの射線軸を取る」  照準は、オーブ軍旗艦タケミカヅチ。 「敵艦、陽電子砲発射態勢!」 「何っ!?回避!面舵20!」  タケミカヅチは回避体制を取るが、間に合わない。 「てーっ!」  副長のアーサーが号令をかける。  その瞬間。  タンホイザーを、緑のビームが貫く。発射直前だったこともあり、タンホイザーは盛大な爆発を起こす。 「うわっ!?な、何だ!?」  直後、高空から一機のMSが飛来する。  青い翼を広げた前大戦の英雄、フリーダムだった。 「フリーダム……キラ!?」  親友が駆っているであろうMSの出現に、アスランは動揺を隠せなかった。 「流石に発射直前は不味かったか……」  自身が撃ち抜いた陽電子砲が思ったより大きな爆発を起こしたことについて、キラは少なからず後悔する。しかし、そうしてばかりもいられない。  キラーーフリーダムは少し後方に下がると、後ろから深紅の装甲を持つMSーーストライクルージュが現れる。 「私は、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!オーブ軍、直ちに戦闘を停止せよ!軍を退け!」 「現在、訳あって国もとを離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハが、オーブ連合首長国の代表首長であることに変わりない!」 「その名において命ずる!オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!」  カガリの演説に、オーブ軍は一時的に動きを止める。 「ユウナ・ロマ・セイラン。これはどういうことです?あれは何です?本当に貴国の代表ですか?」  連合側の司令官と思われる男がオープンチャンネルでオーブ軍司令官のユウナに語りかける。キラはその声に何故か聞き覚えがあったが、気には留めていられなかった。 「ならば、それが何故今頃、あんなものに乗って現れて軍を退けと言うんですかね?」 「これは今すぐきっちりお答えいただかないと、お国もとをも含めていろいろと面倒なことになりそうですが?」 「う……うぅ……!」 「に、偽者だ!オーブ軍は攻撃を続けろ!あの賊軍を撃て!」 「!?ゆ、ユウナ様何を……!」  ユウナの宣言にタケミカヅチクルーは動揺する。 「我々はすでに連合と同盟を結んでいるんだ!それを、ハイ止めますで済むかぁ!」 「っ……ミサイル照準、アンノウンモビルスーツ。我等を惑わす賊軍を討つ!」  オーブ護衛艦からストライクルージュ及びアークエンジェルに向けてミサイルの一斉掃射が行われる。 「ちっ、やっぱりこうなるか……!」  キラはマルチロックオンシステムを起動し、放たれたミサイルをロックオンする。  そして、フルバーストモードでそれらを全て撃ち落とした。 「オーブ軍!何をする!私の声が聞こえないのか!?」 「カガリ、下がって!もう駄目だ。あとは出来るだけやってみるから!」  そう言うとキラは再度フルバーストモードを起動し、敵のMSを手あたり次第に無力化していく。  背後からオレンジ色の見慣れないMSが襲い掛かってきたが、それも武器を破壊し無力化する。  しかしそのMSを真っ二つに切りつけながら、更に背後からバクゥを思わせるMSが襲い掛かる。  キラはそのMSを蹴りつけ地面にたたき落とす。  そうする内に帰投命令が出たのか、連合軍は艦を引いていった。  介入から数日後、アークエンジェルは再び海底に潜伏していた。 「でも、どうしたらいいのかしらね、これから」 「ん?」  きつねうどんの揚げを咥えながら、バルドフェルドはマリューに対し相槌を打つ。 「ま、先日の戦闘ではこちらの意志は示せたというところかな。だが、これでまたザフトの目もこちらに向くとこになるだろうし。厳しいな。いろいろと」 「そうよね……」  一方、キラは自室でフレイとくつろいでいた。しかし、キラの表情は険しい。 「良かったの、あれで?」 「分からないよ。他にやりようが無いだけだし」  ……一応奥の手は一つあるが、とキラは内心で付け加える。 「極論言っちゃえばカガリのわがままだしね」 「それを言うならそもそも始めたのは僕だよ。カガリ攫おうって言いだしたのもそうだし」 「アスランに頼まれたってのもあるしね。それにあれ見ると、やっぱりユウナ・ロマと結婚しなかったのは正解よ」 「ま、それはね」 「……ままならない物ね、本当」 「世の中、大体そんなものだよ」 「そう言えばカガリとラクスは?」 「温泉。知らない間に増設されたらしいよ」 「へぇー、じゃあ今度入りましょうよ。一緒に」 「……マリューさんに怒られるよ」  それからしばらく後。 「ん?艦長!」  チャンドラが少し驚いた様子で報告を入れる。 「どうしたの?」 「ターミナルから入電です!」 『ダーダネルスで天使を見ました。また会いたい。赤のナイトも姫を探しています。どうか連絡を。ミリアリア』 「ミリアリアさんから?」 「赤のナイト……?アスランか!」 「ダーダネルスで天使を見たって…じゃあミリアリアさんもあそこに?」 「彼女、今はフリーの報道カメラマンですからね。来ていたとしても不思議はありませんが」  ノイマンが補足を入れる。 「アスランだ、アスランが戻ってきているんだキラ!」  カガリは声色を上ずらせ、嬉しそうなのを隠そうともしない。  しかし、キラやバルドフェルドはしかめっ面のままだった。 「プラントからということか?さあてどうするキラ?だれかに仕掛けられたにしちゃあ、なかなか洒落た電文だがな」 「でも、ミリアリアさんの存在なんて……」 「確か、彼女自身は知っているはずですがね。この艦への連絡方法は」 「どうすんの、キラ?」 「……会います。アスランが戻ったのならプラントのこともいろいろと分かるでしょうし。でも、アークエンジェルは動かないでください。僕が一人で行きます」 「……もし罠だったら危険ですわ」 「分かってるけど、何かあっても何とか出来そうなの僕くらいだし」 「私も一緒に行くぞ!」 「え?」 「いや、あの……でも……」 「……いいよ。じゃあ僕とカガリで」  ダーダネルスからそう遠くない海沿いの岩場で、ミリアリアは待っていた。 「あっ、キラ!」 「久しぶり、ミリアリア」 「あーもうほんとに信じられなかったわよ、フリーダムを見た時は。花嫁をさらってオーブを飛び出したっていうのは聞いてたけど。一体どんだけ人の女攫えば気が済むのよ?」 「はは……」 「いや、その話は、あの……それよりアスランは?」 「あ、ごめん。用心して通信には書けなかったんだけど、彼ザフトに戻ってるわよ?」 「ザフトに!?」 「アスランが!?」   キラとカガリは一様に驚く。  そしてそれを語り合う間もなく、赤い可変MSが飛来、着陸する。そこから降りてきたのは、他ならぬアスランだった。 「アスランお前!心配していたんだぞ!連絡も取れなくて……でも、ザフトに戻ったって本当なのか!?」 「……ああ、本当だ」 「な、何でそんな……」 「その方が良いと思ったからだ。自分の為にも……そしてオーブの為にも」 「そんな、何がオーブの……!」 「カガリ」  興奮気味になっているカガリをキラは制止する。 「その赤い機体は……君のかい?」 「ああ。それにこの間の戦闘は俺もいた。今はミネルバに乗ってるからな」 「あの船に!?」 「お前達を見て話そうとした。でも通じなくて……だが、何故あんなことをした!あんな馬鹿なことを!おかげで戦場は混乱し、要らぬ犠牲も出たんだぞ!!」 「馬鹿なこと……?あれは、あの時ザフトが戦おうとしていたのはオーブ軍だったんだぞ!私達はそれを……!」 「あそこで君が出て素直にオーブが撤退するとでも思ったか!君がしなけりゃいけなかったのはそんなことじゃないだろ!戦場に出てあんなことを言う前に、オーブを同盟になんか参加させるべきじゃなかったんだ!」 「そ、それは……」  アスランも流石に言い過ぎたと思ったのか、少しバツが悪そうにする。 「でもそれで、君が、今はまたザフト軍だっていうならこれからどうするの?僕たちを探してたのは何故?」 「止めさせたいと思ったからだ、もうあんなことは。ユニウスセブンのことは解ってはいるが、その後の混乱はどう見たって連合が悪い。それでもプラントはこんな馬鹿なことは一日でも早く終わらせようと頑張っているんだぞ!なのにお前達は、ただ状況を混乱させているだけじゃないか!」 「本当にそうなの……?本当に?プラントは本当にそう思ってるの。あのデュランダル議長って人。戦争を早く終わらせて、平和な世界にしたいって」 「どういう意味だ……?お前だって議長のしていることは見てるだろ!?言葉だって聞いただろ!彼の言葉が信じられないとでもいうのか!?」 「じゃあ、あの『ラクス・クライン』は?今プラントにいる、あのラクスは何なの?」 「そ、それは……」 「そして何で本物の彼女はコーディネイターに殺されそうになるの?」 「「!?」」  アスランはもちろん、それは初耳だったミリアリアも動揺を見せる。 「殺されそうにって……なんだそれは!?」 「コーディネイターの暗殺部隊に狙われたんだよ。ご丁寧に最新型のMSまで持ち出してきていたんだ。それも、まだ表向き婚約者って事になってる君が居なくなった途端に」 「表向きの、婚約者……」  何か気になる事があったのか、少し考えを巡らせる様子を見せるアスラン。 「それがはっきりしないうちは、僕はプラントも信じられない」 「!……キラ!そりゃラクスの件は確かにとんでもない事だが……その犯人たちの行動だけで、議長やプラントの人間も信じられないというのか?」  アスランは興奮気味にまくし立てる。 「プラントにもいろんな考えや思いの人間がいる。それこそユニウスセブンを落とした犯人たちのようにな。そしてそれを必死に止めようとしてくれた人達もいる。それをお前は……!」 「……ごめん。それはそうだけどさ」 「ともかくその件は俺もこっちで調べてみるから、お前たちはオーブに帰れ」 「……じゃあ、アスランはオーブにも戻らないし、僕たちとも来れないって事?」 「オーブには門前払いを食らった。お前の開発したムラサメの攻撃まで受けてな」 「あ、アスラン!」  流石の物言いにカガリも咎める。 「当然と言えば当然だが、ユウナは元々俺を疎んでいた。復隊していなくても、条約が結ばれた以上結果は似たような物だったろうさ。お前達とも……今は一緒に行けない。この一連のゴタゴタが片付くまではな」 「でもそれじゃあ、君はこれからもザフトで、またずっと連合と戦っていくっていうの?」 「……そうなるな」 「じゃあこの間みたいにオーブとも?」 「俺だって出来れば討ちたくはない。でもあれじゃ戦うしかないじゃないか!連合が今ここで何をしているかお前達だって知ってるだろ!?それはやめさせなくちゃならないんだ!」 「でもアスラン。それも解ってはいるけど、それでも僕たちはオーブにこんなことをさせたくないんだ。出来れば君にも力を貸して欲しい。アスラン・ザラでも、アレックス・ディノでも構わないから」  しかし、その台詞にアスランは激昂する。キラの胸ぐらを掴みながら、絞り出すように叫んだ。 「知ったような口を……!本当なら俺だって、カガリの傍に居てやりたかったさ!でも駄目なんだよ、少なくとも『アレックス・ディノ』では!」 「アスラン……!」 「……すまない」  流石に取り乱したと思ったのか、アスランは謝罪する。 「とにかく、あんなことはもうやめてオーブへ戻れ。いいな?」 「あ……」 「……理解は出来ても、納得出来ないこともある。俺にだって……!」  そうとだけ言い残すと、アスランは機体に乗ってその場から飛び去って行った。  飛び去って行くセイバーを呆然と見上げながら、キラはポツリと呟く。 「ねえカガリ。前から気になってたんだけどさ」 「……なんだよ」 「カガリはアスランとの将来について、真剣に考えた事ある?」 「なっ!当然だ!」 「でも条約関係なく、ユウナ・ロマ・セイランとの事は昔から決まってたんでしょ?それについて、アスランと何か具体的な話した?」 「そ、それは……」 「態度には出さないけど、ずっと不安だったんだと思うよ。元より不安定な立場だし、自分が相応しい相手なのかって」  カガリは何も言い返す事が出来ず、そのまま俯く。 「まあ、もう過ぎた事だけど。もしまた機会があれば、アスランとしっかり話し合った方が良いんじゃない?」 「……そうだな」  そしてそこから数日後。  海中に潜伏するアークエンジェル内から、キラは海を眺めていた。 「ここに居ましたか、キラ」 「ハロハロ!ザンネン!」  やってきたのは、ラクスだった。 「綺麗ですわねえ。地球って不思議」 「うん、そうだね」  キラ自身もアークエンジェルによる降下まで地球に降りた経験はなかったため、実際地球に来て色々新鮮に感じることは多かった。 「……アスランのことですか?」 「うん。彼の言うことも解るから。何が本当か、またよく分からなくて。プラントが本当にアスランの言う通りなら……オーブにも問題はあるけど、じゃあ僕たちはどうするのが一番いいのか」 「分かりませんわね……ですからわたくし、見て参ろうと思います。プラントの様子を」 「えっ!?」 「道を探すにも手がかりは必要ですわ」 「駄目だ、危険すぎる!」 「大丈夫ですわ、キラ」  そう言うと、ラクスはつま先立ちになり、キラに口吻をする。  数刻ほどの時間だったが、キラには永遠のようにも感じられた。 「ラクス……」 「行くべき時なのです。行かせてくださいな、ね?キラ」 「はいはいはいはい、どうもどうもどうも、あんじょうたのむでぇ〜」 「みなさ〜ん、こんにちわ〜。お疲れ様で〜す!」  怪しすぎる関西弁で「プラントのラクス」のマネージャーを演じるバルドフェルドと、「プラントのラクス」を演じるラクス。  ーーバルドフェルドは実は彼女の隠れファンであったのだが、本物のラクスはそれを知る由もなかった。 「ラクス様こそ、本当に御苦労さまでした」  出迎えの軍人が事情も知らずにねぎらいの言葉をかける。 「いえいえ〜」 「早速で悪いんやけどなぁ、時間がないんや。ケツかっちんやさかいシャトルの準備はよしてんか」 「ぁはい!ぁしかし定刻より少々早い御到着なのでその……」 「急いでるからはよ来たんや!せやからそっちも急いでーな!」 「ああはい!直ちに!」 「アカンデー!」 「はい」 「ありがとうございます!光栄です!」 「いいえ」  少しの待ち時間の間、サインをせびるザフト兵たちの対応を行うラクス。彼女にとっても手慣れたものなのか、次々とサインを量産していく様にバルドフェルドは少し面食らっていた。 「失礼します!シャトルの発進準備完了致しました」 「あーほないくわ」 「ありがとうございます」  そして、ラクスたちが乗り込んだシャトルがいざ発進しようとしたとき。 「シャトルを止めろ!発進停止!」  事態に気付いた管制官が船を止めようとする。 「すまんなぁ。ちょっと遅かった」  バルドフェルドの後ろには、彼によってのされた兵たちが転がっていた。 「さあて、では本当に行きますよ?」 「はい」  キラは、アークエンジェルのブリッジで一人落ち着かない様子で、腕を組みながら壁にもたれかかっていた。 「……行きなさいよ」 「えっ?」  フレイの唐突な一言に、キラは少し驚く。 「あの娘が心配なんでしょ?いいわよ別に。今更嫉妬したりしないわよ」 「……うん、分かった。ありがと」 「モビルスーツを出せ!シャトルを行かせてはならん!」  将官の命令により、バビやガズウートを始めとしたMSが次々発進し、シャトルに砲撃を向ける。 「てえぇい!」  初撃は何とか躱したものの、ついにシャトルがロックオンされる。 「くっそー!上がれえぇー!!」  レバーを全力で引くバルドフェルド。しかし、間に合わない。  その瞬間。  何者かの砲撃により、シャトルに向かっていたミサイルが全て撃ち落される。  キラと、彼の駆るフリーダムだった。  フリーダムは次々にバビを無力化していく。  更にレドームを破壊し、管制室の横を通り過ぎることによって窓ガラスを破壊する。  そしてそのまま上昇し、シャトルに随伴する。 「ラクス!」 「キラ!」 「ご苦労さん。大胆な歌姫の発想には毎度驚かされるがなぁ。だがこれで結果オーライかな?」 「やっぱり危険だ、ラクス。僕も一緒に……」 「いえ、それはいけません。貴方はアークエンジェルにいてくださなければ。マリューさんやカガリさん、何よりフレイさんはどうなります?」 「そうだけど……!」 「わたくしなら大丈夫ですわ。必ず帰ります、貴方の元へ。だから」 「ここまで来て我が儘言うな。俺がちゃんと守る。お前の代わりに、命懸けでな。信じて任せろ」 「バルトフェルドさん……分かりました。お願いします!」 「本当に気を付けて、ラクス……」  シャトルが加速し、通信が荒くなる。 「キラ!」  そして、完全に通信が途絶する。  それと同時に、フリーダムは離脱する。  キラはそのまま、宙へ昇っていくシャトルをいつまでも見送っていた。 〈続く〉