「知れば誰もが望むだろう、君のようになりたいと!君のようでありたいと!故に許されない、君という存在も!」 「僕は…それでも僕は!力だけが僕の全てじゃない!!」 「それが誰に解る?何が解る! 解らぬさ!誰にも!」 「くっ……」  クルーゼの駆るMS、プロヴィデンスのドラグーンによる猛攻で、既にフリーダムは満身創痍だった。 「これが定めさ!知りながらも突き進んだ道だろう!」 「なにを!」  ドラグーンを一つ撃ち落とす。しかし、圧倒的な砲門数の前には焼け石に水だった。  激戦の最中、一体のM1アストレイがアークエンジェルに緊急着艦しようとしていた。 「こちらジュリ・ウー・ニェン!アークエンジェル、応答願います!」 「こちらアークエンジェル、どうぞ!」 「機体の損傷が激しいのでそちらに着艦します。行けますか?」 「了解しました!着艦、どうぞ!」 「了解、感謝しま……ん?」 「どうかしましたか?」 「少し先に、連合のものと思われる救命艇があります!回収しますか?」 「救命艇!?艦長、どうします?」 「……見捨てる理由はないわ。回収をお願いします」 「了解です!」  ドッグに運び込まれた救命艇を、マードック軍曹ら整備兵が囲う。 「あー乗員に告ぐ。お前さんたちは一応オーブ軍所属…でいいのか?のアークエンジェルに拿捕された。抵抗しなければ何もせんから船から出てこい」  マードックが慣れない警告を告げるな否や、船のハッチが開く。いきなり開くとは思わなかったので、マードック達も少し戸惑う。  中から飛び出して来たのは、連合士官の服に身を包んだ、見覚えのある赤い髪の少女だった。 「んお!? あの嬢ちゃん、確かボウズのカキタ……んごっ」  みなまで言う前に、周囲の者達がマードックの口を塞いだ。 「ここは……アークエンジェル!アークエンジェルなのね!?」  中から飛び出してきた少女……フレイ・アルスターは、歓喜の笑みを浮かべる。 「戻ってきた……!やっと、戻ってこれた……!!」  自分を懐かしそうに見つめるマードック達に気付くと、フレイは表情を切羽詰まった物に変える。 「そうだ……キラは!?キラは何処にいるの!?」 「ボウズは当然現場だ!なんでもヤバいMSと戦ってるらしいが……」 「何ですって!?」  そう言うや否や、フレイは一目散に船内へ駆けて行った。 「あっ、おい!」  突然開いたブリッジの扉を、その場にいた者が全員驚きの目で見た後、入ってきた人物を見て更に二度見した。 「「フレイ!?」」  しかし、フレイは意にも介さず通信席に向かう。 「ミリアリア、ごめんちょっと代わって」 「えっ……ちょっ!?」  フレイはミリアリアを押しのけると、そのまま管制席に座る。意外にも慣れた手付きで操作を行うさまに、ミリアリアは少し面食らった。 「よし、いける…!」  ミリアリアからマイクも奪うと、そのまま話し始めた。 「正義と信じ、解らぬと逃げ、知らず!聞かず!その果ての終局だ!もはや止める術などない!そして滅ぶ、人は!滅ぶべくしてな!」 「そんなこと!そんな、あなたの理屈!」 「それが人だよ!キラ君!」 「違う!!人は…人はそんなものじゃない!」 「っは!何が違う!何故違う!」 「く…」 「この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で!」  しかし、フリーダムのコックピット内に第三の声が響く。 「キラ!」  聞き覚えのある声に、キラは思わず反応する。 「フレイ!?」 「ああ……!キラ!キラ!」  発信元は……アークエンジェル。どうしてかは分からないが、フレイがアークエンジェルに居る。  嬉しかったが、それに応えられる余裕は今のキラには無かった。  しかし、フレイは構わず続ける。 「キラ……言いたいことはいっぱいあるけど、二つだけ言わせて……必ず生きて帰ってきて!それから、今更こんな事言う資格はないかもしれないけど……愛してるわ、キラ!!」  その言葉を最後に、通信は途絶した。  キラの中で、『何か』が弾ける。  思考がクリアになり、何をするべきかが直感的に分かった。  キラは半壊したミーティアをパージし……そのままプロヴィデンスに突撃させる。 「ぬうっ!?」  回避が間に合わず、クルーゼは即座にドラグーンの砲門を向け、ミーティアを蜂の巣にする。爆炎と共に宇宙の藻屑となるミーティア。そしてその爆炎の中から……サーベルを構えたフリーダムが現れる。 コックピットに向かって袈裟斬りに斬りかかるフリーダム。プロヴィデンスは咄嗟に躱すも、サーベルの切っ先が左脇腹の量子通信ケーブルとエネルギーケーブル二本を切り裂く。瞬間、ドラグーンの半数が機能を停止する。 「なぜ抗う!まだ苦しみたいか!いつか!やがていつかはと!そんな甘い毒に踊らされ一体どれほどの時を戦い続けてきた!?」  残りのドラグーンでフリーダムを攻撃するが、フリーダムはそれを躱し、逆に次々と撃ち落としていく。 「それでも……僕には……!!」  弾幕をくぐり抜け、プロヴィデンスに肉薄する。 「護りたい人と……!!」  ビームサーベルが、プロヴィデンスのコックピットを貫く。 「世界が……有るんだぁーっ!!」  コックピットの爆発がそのまま核エンジンに誘爆し、プロヴィデンスは爆発、四散した。  パトリック・ザラ、ムルタ・アズラエルの死亡。ヤキン・ドゥーエの自爆、ジャスティスの核爆発によるジェネシスの崩壊、連合艦隊の壊滅。これにより、19ヶ月続いた連合・プラント間の大戦は終わりを告げた。  帰還したキラに最初に告げられたのは、ムウとバジルールの戦死だった。  ドミニオンの脱出艇に乗っていた者たちによれば、アズラエルに反旗を翻したバジルールをアズラエルが銃撃。バジルールはクルーを逃がしアズラエルを閉じ込めるが、アズラエルはおそらくローエングリンの照準を一人でアークエンジェルに合わせ、発射。直撃すると思われた瞬間、ムウの駆るストライクが艦橋の前で盾となり、「不可能を可能にし」見事防ぎきったが、機体は爆散。返すアークエンジェルのローエングリンでドミニオンは轟沈したという。  キラは二人の死にショックを受けたが、一方で最期まで矜持を示した彼らにどこか誇らしさも覚えた。  次に待ち受けていたのは、何故かアークエンジェルに乗り合わせていたデュエルのパイロット、イザークとの邂逅だった。自分の知る残忍さに似つかわしくない、中性的な銀髪の美少年……の顔に刻まれた凄まじい傷跡が、なんとも言い難いギャップを醸し出していた。しかもその傷を付けたのが自分だと聞き、非常に気まずい空気となる。向こうもそれは同じなのか、こちらに気付かれないように視線を泳がせていた。キラは今無理にコミュニケーションを取ろうとするより、引いたほうがいいと判断した。  ……いつか、彼とも話せる日が来るだろう。アスランやディアッカのように。  キラはそう信じ、踵を返して自分を待っている人の元へ向かった。 「キラ……!」  目に一杯の涙をため、フレイはキラに駆け寄る。 「ごめんなさい…!ごめんなさい、キラ…!私、ずっと、ずっと貴方に謝りたかったの!ごめんなさい!」 「いいよ、いいんだ、フレイ!僕の方こそ、ごめん、ごめんよ…!」  互いに謝りながら抱き合うという、事情を知らぬものには一見奇妙な光景。しかし、事情を知るものからすれば、ようやく互いを赦し合えた事に安堵を覚えるものだった。  そんな二人を遠巻きに眺めるマリューとミリアリア。 「……さっきの、処罰しなくていいんですか?」 「まともな軍隊ならそうするべきなのでしょうけど……私たちはただの義勇兵だから」 「ふふっ。そうでしたね」  愛する人を失った悲しみは確かにある。  それでも、自分たち大人の不甲斐なさのせいで傷つけてしまった少年少女に救いがあったことは、マリュー自身にとっても救済であった。  ひとしきり泣いた後、フレイが静かに告げる。 「キラ……さっきも言ったけど……私、貴方に話さないといけないことが沢山あるの。聞いてくれる?」 「僕もだよ。君に、話さないといけないことが沢山、沢山あるんだ」  互いにそう告げると、再びひしと包容し合う。  それを複雑な表情で見つめるラクスと、この光景を気まずそうに見るアスランとカガリがいた。  戦後、三隻同盟周りの始末は煩雑を極めた。  マリューを始めとするアークエンジェルクルー、アスラン、フレイ、バルトフェルドはオーブに亡命(残りのドミニオンクルーは大西洋連邦に帰国)。  特に政治的に複雑な立場にあるアスランと、連合の重要機密を多数知るマリューには証人保護プログラムが適用され、偽の戸籍が与えられた。  ラクス及びディアッカにも亡命が持ちかけられたが、ラクスは「私にはまだやるべき事がありますから」、ディアッカは「父上と母上に無事を伝えないと」とそれぞれ告げ、プラントに帰っていった。今や主流派となったクライン派のリーダーであるラクスはともかく、理由はどうあれ脱走兵であるディアッカは極刑となる可能性が高い。アスランやミリアリアより必死に引き止められたが「俺なりのケジメでもある」と言って聞かなかった。キラとしても同じく引き止めたい気持ちはあったが、両親に散々心配をかけた身としては彼の気持ちも分かるため、強く言い出せなかった。両親やラクスやイザークの口添えはあるだろうが、それでも彼が今後どうなるかは未知数だった。  ミリアリアとサイは元よりオーブ国民の為、オーブ軍の名誉除隊と言う形で処理された。しばらくゆっくりしたいそうだが、「これからも世界の為に何が出来るか考えたい」と二人共言っていた。  そしてーーストライク及びフリーダムのパイロットの身元はオーブのS級秘密事項に指定され、キラ個人の戦果は全て闇に葬られた。キラとしてもそれらに大した拘りはなく、むしろ今後平穏に生きるならその方がいいのは分かっていたので、特に反対しなかった。  戦果こそ無かった事になったが、カガリはせめてもの埋め合わせと言うことなのか、戦時中に開発したナチュラル用OSの特許権利者にキラ個人の名前を含めた。結果「それなりの」パテント料がキラの懐に入ることとなった。  キラはそれで浜辺の一等地にそこそこの大きさのコテージを建てた。自身の戦いの傷……そして、フレイの傷を癒やす為に。  正直なところ、フレイが愛していると言ってくれたのは凄く嬉しかった。とはいえ、彼女の父親を守れず、挙げ句あんな事までさせてしまった罪の意識は消えなかった。なら、それを一生かけて償いたいと思った。たとえそれが、ただの傷の甜め合いだとしても。  15〜16歳の男女二人が同棲することに、キラの両親は当初猛反対した。キラは「コーディネイターの成人年齢は15歳」と言いくるめようとしたが、「それはプラントの話」と一蹴された。しかしフレイに身寄りがない事、何よりフレイと「そういう関係」であることをちらつかせると、母カリダは「そんな子に育てた覚えはない」と号泣し、父ハルマからは「もう勝手にしなさい」と追い出されるような形でなんとか了承された。「週に一度は顔を見せる」という条件付きで。  アスランやカガリに知らせたところ「ラクスはどうするんだ」と言いたげな表情をしていたが、結局何も言ってこなかったのでキラも何も言わなかった。そもそも、カガリはともかく元婚約者のアスランには何も言われる筋合いはないとも思った。  そして少し……と言うかかなり迷ったが、ミリィやカズイ、そしてサイにも伝えた。  ミリィは「ま、貴方達が決めた事なら」とあっけらかんに返し、カズイは「ふーん」と最初は興味なさげだったが、「まあキラなら大丈夫だよ」と言ってくれた。  サイには対面で知らせることにした。最初は「俺にも知らせるのか……」と呆れた様子を見せたが、「ま、いいさ。フレイを頼んだよ」と一言だけ告げる。去ろうとするサイに、キラは思わず叫んだ。 「あっ……違う……違うんだ!」 「実は今日本当に伝えたかったのは……砂漠での事を謝りたかったんだ!」  キラは俯きながらなお叫ぶ。 「いくら切羽詰まってたからって、あんな酷いこと言って……ホントに、本当にごめん!」  キラは深々と頭を下げる。サイはキラが頭を上げてから、優しく微笑む。 「別にいいさ。結局お前が最後まで矢面に立ってたのは事実だしな。それにお前、言ってくれたじゃないか。『自分にしか出来ない事があるように、俺にしか出来ない事もある』って。俺はこれからそれを探すよ。お前はもう十分過ぎるくらい出来ることをやった。だから、今はゆっくり休め」 「ううっ……」 「あ、でも一つ言っとかなきゃいけないことがあるな」  半べそをかくキラに、サイはもったいぶったように告げる。 「えっ……」 「これは俺個人のお願いなんだが……フレイに、罪悪感だけで向き合わないでくれ。あの娘はお前の為なら命も厭わないくらいの気持ちを抱いてる。だから、お前も彼女を同じくらい愛してあげて欲しい。それだけだ。……あらためて、フレイを頼んだぞ」  背を向けて去っていくサイの後ろ姿を、キラは呆けたように見つめていた。  ある日の午後、キラは、マリューと共にコテージの前で静かにたたずんでいた。  マリューは亡命手続きが終わった後、「マリア・ベルネス」という名でモルゲンレーテに勤務していた。もっとも、親しい者達には普通に「マリュー」と呼ばれているが。  マリューによると、キラのOSを国際特許としても公表し、オーブ再建の足がかりとする予定があるらしい。まだカガリには知らされていないが。 「国際特許って事は……連合の軍用MOSのベースにも使われる可能性があるって事ですか?」 「否定はできないわね」  マリューは淡々と告げる。 「まあ、それはあまり気に病まないほうがいいわ。遅かれ早かれの話ですもの。それに、悪い話ばかりでもないわ。うちに補給に来てたジャンク屋組合っていたでしょう?あそこが、一般販売を企図している民生用MSにキラ君のOSを使いたいそうなの。貴方のOSが世界中で平和利用されることになるのよ」 「だといいんですけど」 「ふふ。じゃあ、そろそろ私は帰るわね。あんまりお二人の愛の巣を邪魔してはいけないし」 「ちょっ、マリューさん!」 「またね、キラくん」  その声と共に、奥から一人の少女が出てくる。 「あら、ラミアス艦長、帰られたの?」 「うん、帰った」 「ご飯食べていって貰えばよかったのに」 「……きっと忙しいんだよ」 「「いただきます」」  キラとフレイは、食卓の前で手を合わせる。料理は全てフレイが作ったものだ。  最初はどうなるかと思ったが、意外と両親とフレイの関係は良好だった。両親は元々人当たりのいい人達ではあったが、息子の恋人が快活な美少女だと見るやグイグイと押していった。フレイの側も、元来の素直な朗らかさが再び表に出るようになっていった。また母親を幼い頃に亡くしたフレイにとってカリダの母性は新鮮なものでもあったようで、今では実の母親のように慕っており、料理も習っている。 (家族、か……)  考えてみれば、戦争で家族を失ったのはフレイだけではない。アスランも、カガリも、ラクスも、みな親を失った。戦いに巻き込まれ、身内を失った人は最早数えきれないだろう。決してあの子やトールの死を軽んじるわけではないが、彼らを思えば自分などまだマシな方なのだ。  思考を切り替え、キラはあらためて自分の正面に座る少女を見つめる。トレードマークだった赤いポニーテールは、肩口で切りそろえられたミディアムボブになっている。変化は髪型だけではない。アークエンジェルに居た頃までは化粧や美容に相当気を遣っていたのだが、今は化粧水など必要最小限に抑えている感じだ。元より15歳の少女があそこまで力を入れているのがおかしかった、と言えばそれまでだが、この変化は意外だった。 「どうかした?」 「いや、何でもないよ」  ここまで劇的なイメチェンを果たした理由を聞いても「そうするべきだと思ったから」としか返ってこない。あるいはディアッカと同じように彼女なりの「ケジメ」なのかもしれないが、語りたがらない以上あまり深読みもしたくなかった。彼女が決めた事ならそれを尊重したかったし、何より今の姿も好きだったからだ。  キラは、黙って彼女が作ったスープを口に運ぶ。時折母に習っているのもあってか、味は当初に比べると劇的に向上している。 「美味しい?」 「……うん。美味しいよ」  ただ、それでもまだまだ美味しくはないのが実際の所だ。  食後、キラとフレイはベッドに座り二人でテレビを見ていた。 『地球連合軍旗艦、マッカーサーの艦上にて行われている、プラント地球間の終戦協定に向けて……』 「あの娘、凄いわね。あんな風に堂々と出来るなんて。私と二つしか違わないとは思えないわ。初めて会った時はあんな感じだったのに」  テレビに映るラクスを見て、フレイは素直に感心して見せる。 「ラクスに関しては、どこまでがキャラでどこまでが素か、僕もアスランもよく分からない所あるから…」  キラは苦笑して見せる。 「……これで、戦争は終わるのよね」 「終わってくれないと困るよ」  フレイは、頭をキラの肩に預ける。 「ねえ、キラ」 「何?」 「もし、もしもよ。もしまた仮に戦争が起きたとして……その時、キラはまた戦場に行く?」 「……あまり考えたくないかな、そういうのは」 「……ごめんなさい、変な事聞いて」 「でも、一つだけ決めてる事はあるよ」 「えっ」 「戦場に行くかは分からないけど……君や、アスランや、カガリや、ラクス、ミリィにサイにカズイ、アークエンジェルの皆は……僕が絶対に守るよ。戦いの場は戦場とは限らないけど、僕は、その時僕にできることをして、僕の大切な人たちを守る。これだけは、絶対に変わらないと思う」 「………っ。キラっ!」  フレイは、キラをベッドの上に押し倒す。  少し顔を赤らめながら、キラに囁くように問いかける。 「久々に……する?」 「……しちゃおっか」  そう言うと、二人は唇を重ね合わせた。 〈了〉 「ユニウス条約の内容は見たか、キラ」 「うん、見たよ」  フレイが作ったロールキャベツを頬張りながら、キラとアスランは語り合う。 「個人的には関税とリンデマンプラン?以外はそんなにプラントとして悪いものじゃないと思うけど」 「とはいえ、父達は元々それが嫌で独立運動を始めたんだ。ラクスと言えど総辞職は已む無しだろう」  アスランは更にもう一つロールキャベツを口に放り込む。 「後、条約には国境線を戦前に戻すとあるだろう。これでオーブや今揉めている南アメリカは完全に主権を取り戻す事になる。ここだけの話だが、カガリの首長就任はそれにタイミングをあわせる予定だ。そうなったら俺達も忙しくなるし、こんな風にここに来れる機会も減る。不労所得があるからと言ってグータラするんじゃないぞ」 「しないってば。てか、食べてから喋りなよアレックス」 「その名で呼ばなくていいと言っただろう!!」  スケールが大きいのか小さいのか分からない世間話の中、唐突にコテージのドアがノックされる。 「はーい、今出まーす」  フレイがとたとたとドアに向かう。  ドアを開けた先には……見覚えのある、ピンク色のゆるふわヘアーが広がっていた。 「「ら、ラクス!?」」  キラとアスランが同時に叫ぶ。 「お久しぶりです、キラ、アスラン、フレイさん」  プラント評議会元最年少議長、ラクス・クラインは優雅に挨拶する。 「な、何しに来たの?」  ロールキャベツを無理やり飲み込みながら、キラは聞く。 「いえ、実はわたくしをこの家で家政婦として雇っていただきたくて」 「は!?」 「知っての通り、わたくしは評議員を首になってしまいました。すなわち今は無職ですの」 「ま、また歌姫とかは…?」 「今更そちらに戻っても政治色が強すぎますわ。どちらにせよプラントではあまり身動きが取れませんの」 「それに……まだ指輪も返していただいてないですわ」  アスランはキラの首をホールドし、詰め寄る。 「お前、まだ返してなかったのか!?」 「いや、なんか返すタイミングが無くて……」 「あら、いいんじゃない?」  動揺するキラとアスランを尻目に、フレイはラクスを何処か余裕のある視線で睨めつける。 「家政婦の一人くらい問題ないでしょう?むしろ人手が欲しかったのよ。『私達の』この家結構広いし」 「あらあらフレイさん、しばらく見ないうちに随分お心が広くなりましたのね」 「私もアンタに負けないくらい鉄火場くぐって来たのよ。アンタが分を弁えてればどうということもないわ」 「あらあら。うふふふふ」 「おほほほほ」  アスランはいつの間にか姿を消していた。キラは……まにあわなかったようだ。 「アァァァァスラアァァァァン!!!!」