「ア゛ーーーー!!」 『オ、なんだクロウ。もしかしてオバケ怖いのかぁ〜?』 「んッなッわッきゃッ無(ガサッ)」 『ヒイイーーー!?』 「…オ、オメーこそオバケにびびってんじゃあーーねぇーかぁ?」 ガサガサガサ… 「ち、ちょっ…ちょうどいい肝試しといこーぜ!?こっからオバケにビビったら罰金な!」 『お、オオオオオウいいぜこんにゃろー!売店あったらなんか奢れよなァァァ来いやオバケぇー!!』 ガサリ 「『ヒュッ』」 オバケ…来ちゃった 悲鳴が突き抜けた ───【デジモンイモゲンチャー】第◯話《密林の出会い 強襲のウッドモン》 「……あ、あの。てづか…さん」 「クロウでいいぜ?」 「…クロウ、さん」 『まぁー馴れ馴れしくすんのはムリだよな。コイツこーんな吊り目で顔こえーもんな』 「余計な事言うんじゃねぇよッ。…えーと、それでどうした」 ここはデジタルワールドの何処かの深い森。それぞれが成り行きで迷い込み、出会い、行動を共にしてから幾ばくかの時がたってからの事だった …見ての通り子供のあやしは苦手だが、威圧感を与えぬよう…かつての《恩師》の真似をして膝立ちで話しかける高校生《鉄塚クロウ》とそのパートナーの《ルドモン》 ───に、睨みを聞かせる《バケモン》と《ソウルモン》… その相棒たる小学生の少女《青山司》はおどおどしながらも言葉を考え、絞り出す 「さっきは、その…びっくりさせてごめんなさ」 『お嬢ちゃん。オレたちはビビってない。いいね?』 「なんにも見なかった。ヨシ」 バケモンらに睨まれ、白目がちに震えた声で食い気味に喋る二人に司は頷くしかできなかった 話題を変える 「クロウさんは、どうして…デジタルワールドに?」 「あー…なんつーか」 ───最後に見た現実世界 それを果てしなく染め上げる赤色の奔流…目の奥に今も焼きついている …それから必死に街の中を逃げて、逃げて、逃げた果てにどうやってここに来たかは覚えていない それでもクロウは…やるべき事が、きっとあった 「…で、なんやかんやで迷子ってワケだなー」 『迷子っちゃったかー。お嬢ちゃんは?』 「えと…」 ───闇貴族の館 そう呼ばれる場所で出会ったバケモンとソウルモン。記憶に新しいその出会いを…その果てに逃げ迷い込んだこの森までのことを。たどたどしく語りながら、彼女らは薄暗い森を進む パジャマにスリッパというサバイバビリティのかけらもない司をバケモンとソウルモン、そして彼等は何度も手伝ってくれて…協力しながら進むうちに、二人はすっかりバケモンたちとも打ち解けたようだった 『〜!〜!』 「おう、で…何て?」 「えっとね…」 もっとも、クロウとルドモンにはバケモンたちの言葉が"何故か"通じてないようで…司は間をとりもちながら会話を続けた …見ず知らずの人と喋るのは、ほんとうにいつぶりなのだろうか───病室のベッドを囲う大人たちの影と、剣呑な声ばかりを思い出す 「……クロウさんは、やさしいひとなんだね」 「うおっ、いきなりなんだよ…」 照れる素ぶりを見せたものの、それからかなり言い淀んだ後…クロウは続ける 「……んなことねぇよ。俺は…今も昔も、情けねえ漢のまんまだ」 やがて向こうの景色の薄闇に、徐々に光が漏れてくる 「もしかして…外か!」 「あっ…待ってバケモン!」 興奮したのか我先に飛び出したバケモンに思わず司は走る。昔は考えられなかったが、デジタルワールドに来た今なら身体が動く…動いてくれる その事に高揚感を覚えながら、やがてバケモンの背中を抱きしめた 「追いついた……あれ?」 不意に誰かの視線を感じた やがて木の葉が揺れる音が大きくなり 「え…」 大地を震わせる破裂音が…伸びてきた腕に掴まれた司が飛び離れた地面を劈いた 「うおお危機一髪ッ!ケガしてねぇか司ちゃん!」 『だ、誰だテメェは!』 『オメーの相手は、オレたちだって!』 『ヌオオオ!?』 「クロウさん…ルドモン…!」 少女を掻っ攫った人影と共に怪物をどつきに来た艶消しブラックのボディが身構える 「うっおおお木のバケモンだァ!?」 ───『ウッドモン』 枯れ果てた大木の姿をした植物型デジモン 性格は怒らせると攻撃の手を休めることは無いほど狂暴だ 必殺技は枝状の腕を伸ばして敵を突き刺し、エネルギーを吸い取ってしまう『ブランチドレイン』 『《ウッドモン》かよ…やいやい、女子供を殴るとかヒキョーだぞウッドモン!』 「デ、デジモンか…ビビらせやがって」 『うるせぇ!オレサマの縄張りにノコノコ入ってきたテメーらが悪いんだよ…全員まとめて食ってやる!!』 双方臨戦体制。クロウが背後を指差し司に隠れるよう促す 「とりあえず隠れてろ。荒事は…俺らみてぇな不良がなんとかするのが…勤めってヤツだろうからなぁ!」 そうは言うがルドモンとて成長期デジモン。そしてクロウはただの人間…それらが果敢に木の怪物に飛び掛かる ウッドモンの丸太のような腕はそれほど俊敏では無かったが、まともに当たれば…そう思うと司はまともに見ていられなかった 「それでもだァ!」 『ウォル…レーキ!!』 ルドモンの必殺技…両手の武具を打ち付けウッドモンが体制を崩す。そこへクロウが拳を振り絞った 「ヨッシャア!ルドモン…今度こそ進化だ。デジソウル…チャージ!」 ───沈黙。デジヴァイスに光が宿ることはなかった 「クソっ"また"かよ!」 『クロウ後ろだ!』 木の幹のような巨腕がクロウの背を撃った。人間の躯体は木の葉のように吹き飛び転がる 『ムカつくぜ!おいそこのチビ女、まずはテメェから食ってやる!』 『!!』 『〜!!』 「だめ…ソウルモン、バケモン!」 なんとクロウのピンチに、司のピンチに…バケモン、ソウルモンが飛び出しウッドモンに噛み付く 『ザコデジモンがぁ!お望み通り潰してやるァ!!』 だが相手は成熟期体デジモン。体格差と力量差があまりにも顕著…振り払われたソウルモンにウッドモンが殴りかかった 「だめ…だめーーー!」 『ふんぬあああああああ!!!!!』 その時四肢を全力で伸ばし顔面を差し出して、ルドモンが己を盾として躍り出た。成熟期デジモンの一撃をモロにうけ、身体が軋む…が 『バ、バカな…どこにそんな馬鹿力が!』  拮抗…寸手のところでソウルモンの身代わりとなり、ウッドモンの動きを縫い止める 『モガモゴ…かっこよかったぜソウルモン…お前もヒーローだなぁ!モゴ…今度はオレたちの番…は・や・く…やれクロウ!』 「───デジソウルぅぅ………オラァァアアアア!!!!!!」 『ぐっへァァアアアア!ひ…ヒーローが目潰しだとぁ!?!?』 血まみれの形相でピンピンした様子のクロウがデジソウルチャージ…もはや突撃のニュアンスのそれである 「ヨッシャァァアアいくぞルドモン!!名付けて…」 『よし、次こそ進化…エッちょっオレを"また"武器にする気かおまええええええええ!!」 デジソウルで一時的に強化された腕力でクロウはルドモンな脚をふんづかみ、目潰しに転んだウッドモンに飛びかかる 「硬いモンでぶん殴りゃ…否が応でも強えだろうが!ルドモン…ハンマーァァアアアア!!!」 『ギャアアアアアーーーー!?!?』 「ゼェ…ゼェ…に、逃げたかアイツ。どうでぇい!!」 『ハァ…ハァ…後で覚えてろよこのチンピラヤローめ!!』 「ふたりとも大丈夫…!?」 「おう、大丈夫に見えるか。そーかそーか…なら痩せ我慢してカッコつけてる甲斐があるってもんだイデデデデ」 『??!??!』 『うわぁぁあ何だ何だ何だ急にクロウにひっつくな!』 「……いや!ちょっとまて。これは…イイ!」 『!?』 「このひんやり感…最高かよバケモンにソウルモン。おかげでタンコブが楽だ!」 「バケモンにソウルモン…すごく心配してくれてる。え、えと…ええと…。あっ…これ!」 司が懐から取り出したのは、闇貴族の館の中で見つけた救急箱の中身 …といっても、使い道がわかるのはほんの少しだけ持ち出した絆創膏程度のものだったが ───顔面を絆創膏だらけにしながらクロウが謝罪し、問う 「悪いな怖い目に合わせちまって。…元の世界、戻りてぇか?」 「…わかんない」 「そうかぁ、俺もわかんねぇ…。───よし、んじゃまずはこの森を抜けて、デジタルワールドを探検しなきゃだなぁ!」 『護衛はオレたちに任せなぁ!なんてったって…このオレ、ルドモンはヒーローになるんだからな。泥舟に乗ったつもりで任せとけ!』 「泥舟任せとけ!」 ───泥舟だと、まずいんじゃない?と小学生の彼女なりに思ったが、 「……」 それでも、あの時飛び出してくれたバケモンやソウルモンたちのために…知らねばならないことがあるのかもしれない 探さねばならないことがあるのかもしれない クロウの手に収められた《デジヴァイス》を見やり、目を閉じて…この世界にきて痛みのなくなった胸で深呼吸をする 「うん。クロウさん、ルドモン…よろしくね」 「『おう!』」 明日の予定もわからな委員会