芸能コンフューズのウワサが攻撃方法も具体的な姿も不明なまま霹靂一閃・八連(スケート靴)により斬殺された後、何やかんやあって鶴乃・フェリシア・さながマギウスに寝返ってしまう。残されたいろは・メンタルが殺られたやちよの足を止めるためにアリナは魔女を放ったのだが…… 「見ててくださいやちよさん……!わた」 「いい空気に水を差すようでごめん。でももう魔女は待ってくれないみたいだ」 いろはがいい感じにキメようとした矢先、その傍に何者かが突然現れた。 「……かなりの速さね。そういう物言いをするという事は、手伝ってくれると?」 「その認識で合ってるよ。さあ、急ごう。焔さん?って人たちに追いつかないと」 「ッ!そうだ、焔ちゃん酷い傷を負って……!」 後はもう大層な事は起きず、3人で協力してアリナの置き土産を一掃し、この場からの離脱を計った。 (「」、あっちもそろそろ脱出できたんじゃないかな?) 『予定通りだな。このままみかづき荘に着いていけば、確実に機会は訪れる。焦る必要も無いさ』 ーーー 「宮尾時雨です。訳あってマギウスに敵対する貴女たちに協力したい。よろしくお願いします」 ミュージカルから脱出し、焔たちと合流しみかづき荘まで帰ってきたいろはたちは一先ず話し合いを始めた。どうも焔の身内らしい二人が自己紹介を終え、最後にいろはとやちよを助けた魔法少女ーー宮尾時雨が口を開きぺこりとお辞儀した。 だがある意味で何故かこの場の中心と化していた焔は、時雨の傍に置かれたあるモノに視線を向けていた。 (…………ふむ、あの妙な形をした剣から感じるこれは……) 自らの感覚に従い、不安要素を潰すべく焔が口を挟んだ。 「……貴女、その剣は一体?魔法少女と同じ魔力反応を感じるのだけど?」 場が凍りついた。 それは時雨も例外では無い。 これまでも怪しまれる機会はあったが……まさか魔法少女でも何でもない一般人(?)に見抜かれるとは。 『……竈門焔、話だけは聞いてたがこれは……ただ魔力を感じ取ってる、ってだけでもないなこの感じだと。私と時雨の魔力の性質の違いを見抜いた……?契約無しで……?いやバケモノかよ……魔法少女も大分ファンタジー極めてると思ってたんだが、本物の突然変異がこの世に存在するとはなぁ』 観念したかのように時雨が剣をポイッと宙に放る。 すると、光が室内を満たし、それが収まった後には一人の見知らぬ少女が胡座でその場に座り込んでいた。 「あー……自己紹介させてもらうと、「」だ。時雨の剣をやってる。こうなった以上話すしかないんだが、説明させてもらうとだな……」 「」と時雨は、二人のこれまでの経緯を話し出す。 奇妙な出会いからコンビを結成。特訓を重ね魔女を安定して狩れるようになり、みふゆにスカウトされる。マギウスと翼の思惑を見極めるために承諾。だが口寄せ神社のウワサが撃破された時期からきな臭さを感じ始め、焔たちが暴れたの見計らい今日の脱走を決意した…… 「……って言う流れだな」 「ぼくたちも最初はマギウスの理念に賛同したから所属してたんであって、辞めるにしても必要以上に敵対するつもりはなかった。なかったんだけど……」 「何か事情ができたと?」 こくりとうなづいた「」が言葉を続ける。 「……実は最近、方向性に迷っててな」 「方向性?」 「簡単に言うとどう強くなりたいか、どんな魔法少女になりたいか、ってところ」 時雨と「」、二人は魔法少女の強さの指標の一つとなる魔力量の大半を「」が担っている。しかし持ち主である時雨は高速移動技能を身に付け、魔力を高威力の斬撃として放てる程に成長した。これだけでも上々過ぎる成果であり、問題は無い。だがそれこそが問題だった。 「最初に設定した大台の目標達成しちゃったから、次が中々定まらなかったんだよね」 「瞬歩で撹乱と位置取りして月牙天衝すれば大体片付くからなあ。ただこれだけじゃ手数が少ないってのも事実で……翼に居た間ずっと悩んでた」 一芸を使い続けて極めるのは大事だが、そればかりに頼っていては柔軟性や想像力が失われる。二人は二次元作品を漁り、時には翼の子らの会話を盗み聞きするなど様々な手段で発想と情報を集めた。自分たちの目指す次のイメージを求めて。 そして、ついに見つけたのだ。 自分たちが目指すべき、次のステージを。 「神楽さんと模擬戦した時に見せてもらった“全集中の呼吸”。最近翼の間でも噂になっていた、魔法少女としての素質に関係なく身体を強化できる技術がある、と」 神楽燦と遊狩ミユリ。白羽根の中でも上位に位置するこの二名は、ある特殊な技術を戦闘に使っている。翼たちの間で噂になっていたコソコソ噺に、二人は光明を見た。 「魔力を消費せずに筋力や持久力を高める……元々がひ弱なぼくはそれを覚えたいと思った」 「同時に呼吸にも幾つか種類があるという話やそれに伴う鍛錬の違いや適正の是非も耳にした。どうしようか二人で悩んでたそんな折に……奴を見掛けた」 「……それって、もしかして」 焔はこの二人の魔力の流れと性質、そして先刻の自らの経験から、答えを読み取った。 つまりそれは、二人の戦闘スタイルに合致する呼吸。 『我流・月牙天衝』のその先。 三日月形の魔力の斬撃を千変万化させる、その手段。 「ーーー月光サムライのウワサが使ってる“月の呼吸”。ぼくたちはそいつと直接戦って……それをモノにしたい」 「それが気楽な中立になれる立場をわざわざ捨ててあんたらに協力を申し込んだ理由と、掴み取りたい成果ってやつだ」