*出発編* ウマノシンカンセンが管理人を兼ねて住んでいるボロアパート、その玄関前にキャンピングカーが止まっていた。 「レモンギク、私しかいないからと言ってのんびりしないでくれ、夕方にはマルゼンと落ち合うんだろ」 「わかってる、もう少しだけ寝たかったんだがなぁ」 あくびを噛み殺しながらレモンギクはウマノシンカンセンとともにてきぱきと荷物をキャンピングカーに積み込んでいく、水に食料に調理器具と、車のあちこちにある収納へしまっていく。 ここにはいないが、この後マルゼンスキーもタっちゃんにのって3人2台での長距離ドライブである。 「しかし、お前も九州に親戚がいるなんてな」 「それはこっちのセリフだ、まさか同じ佐賀のトレセンにいるとはな」 「こっちはマルゼンの親戚でもあるんだ」 「案外狭いよねこの業界」 3人が佐賀に行くのは、佐賀のトレセン学園の知り合いに会いに行くというもの、とくにレモンギクとマルゼンスキーの親戚は活躍してるという。 とはいえ飛行機で行くのが早いのだが、どうせだからとキャンピングカーで向かうことになった、眠るときはマルゼンスキーもキャンピングカーにやってくる。 レモンギクは地図とにらめっこしながら休憩ポイントの最終確認、その間にウマノシンカンセンは積み忘れがないかの確認をしていく。 「そういえば、お前この前は東北に行ってなかったか?」 「行ってたよ、親戚に指導してほしいって頼まれて、ダートは苦手なんだけど」 「その前は金沢に行ってたよな?」 「その前は兵庫に行ったぞ」 「…お前親戚多くないか?」 「地方のトレセンに一人は親戚がいるんじゃないかと最近は思ってる」 トレセンに通うウマ娘で親戚が地方トレセンにいるというのは珍しいわけではない、レモンギクのように親戚が活躍しているというのは珍しいが、ウマノシンカンセンのように各地方に一人いるのではないかという疑いが出るのも珍しい。 とはいえウマ娘のレース業界は広いようで狭いようで…そんな世界なのである。 「あとは予備の燃料はここにと…積み込みは終わったぞ」 「こっちもルートの確認は終わった、いざとなったら運転頼むよ」 「初心者なんだが」 「練習したんだろ」 「…交通量の少ないところで」 「はいはい」 シートベルトをしっかり占めて、最初の目的地であるトレセン学園正門前へと、レモンギクとウマノシンカンセンが乗ったキャンピングカーが佐賀を目指して出発した。 *道中編* トレセン学園から離れた高速道路のSA、その端っこには赤いスーパーカーとキャンピングカーが駐車されていた。 そのキャンピングカーのキャビンでは、3人のウマ娘が宴会していた。 「いやー、シンカンセンちゃんの運転チョベリグだったわよ」 「練習したからな」 「高速には信号もないしな」 マルゼンスキー、ウマノシンカンセン、レモンギクの3人は高速乗る前に調達した焼き鳥と塩むすび、そしてビール風炭酸飲料でたのしく宴会をしていた。 「しかし一日で関東を飛び出せるとはな、結構休んだよな?」 「そうねぇ、タッちゃんの事もあったから休憩が多くなるのよね」 「お前があの子にタッちゃんを見せるのも目的なんだから、仕方ないさ」 今回3人は佐賀を目指して車旅をしていた、目的は佐賀トレセンにいる親戚に会うためで、マルゼンスキーを象徴する存在でもあるタッちゃんはどうしても持っていきたいと2台での旅になった。 タッちゃんでの長距離移動はきつかろうというレモンギクの配慮によるものであった。 「フェリーでもよかったと思うが…走りたかったんだろ」 「モチのロン!トレーナー君も仕事が忙しくて現地合流だから、たまにはこうやって走ってみたくなったの」 「車好きだもんなマルゼンは」 「そういうシンカンセンちゃんは鉄道好きよね?」 「新幹線なら1日で佐賀まで行けるからな、なにより運転疲れがない」 「座り疲れはあるだろ」 「否定はしない」 そういいつつ小さいオーブンから温めた焼き鳥を取り出すシンカンセン、自分で運転してる感覚がいいと語るマルゼンスキー、そんな二人の話を肴にビール風炭酸飲料を飲むレモンギク。 ウマ娘三人の夜はこうして更けていった。 *まだ修羅の国になってない佐賀編* サガトレセン、それは九州でも有数の地方トレセンである、近隣のトレセンの統合もされて大きくなった。 そんなサガトレセンが誇る名ウマ娘が、キギクシラギクだった。 「マルゼン先輩にレモンギク先輩にあえるなんて…光栄です!」 「そんなにかしこまるな」 「そうよ、ふふ、かわいい子ね」 サガトレセンの一角に止められたキャンピングカーとスポーツカーの前で、キギクシラギクは親戚であるマルゼンスキーとレモンギクにかわいがられていた。 二人化したらまだまだ新米のかわいい後輩、運命的な何かも感じるしとにかくかわいがりたかった。 「いいトモをしてるな」 「そうね、よく走れそうね」 「ありがとうございます」 この二人から見て走るといわれる、そしてそれはサガトレセンの面々も同じであり、走りに真剣でないウマ娘の多くは彼女と走ろうとはせず、挑もうとするウマ娘は努力し、作戦を練る。 その結果、サガトレセンのレベルは上がってきている、たった一人でサガトレセンに変革が起こり始めたのだ。 「自分は、ここを残したい、後輩にウマ娘として走れる場所を残したいんです」 「いい子だな、そろそろレースだろ」 「がんばってね」 「はい!」 キギクシラギクは何度もお辞儀すると、レース場へと向かう。 レモンギクとマルゼンの二人もレース場へ、ただし特別な場所から、そこにはウマノシンカンセンもいた。 「早いな」 「もう少しゆっくり話しててもよかったのよ?」 「いや、アカツキもサクラも集中したかったみたいだから」 ウマノシンカンセンも親戚のウマノアカツキとウマノサクラとあってきたらしい、3人の目の前ではサガトレセン所属のウマ娘達がゲートに入っていた。 『ヨブコノイカがゲートに入り、最後に入りますにはキギクシラギク、一番人気です』 「この人気は本物だな」 「そうね、それに出てる子の目はみんな真剣ね」 「これぞレースだな」 3人の見守る中で、レースが始まるのだった。