[レイヴン、ベイラムから依頼が来ているようです。確認してみましょう] [G13(ガンズサーティーン)レイヴンに伝達!これはベイラム同盟企業『大豊(ダーフォン)』からの依頼だ。 きたる第3土曜日、つまり明々後日からベリウス中部の都市にて複数の企業が合同で開催する通称『展示会』が開催される。 貴様にはそこで『大豊』のキャンペーンガールとして参加してもらいたい。 貴様も我がベイラム系列の製品は使っているだろう?『展示会』とは各企業が近々販売するであろう新製品や自社の強みをアピールする場だと考えてもらいたい。 昨今は『展示会』も企業間の抗争が長引いて中々開催されなかったのだが、ようやく開催される運びとなった。 しかし、こういった『展示会』にはならず者どもがエサを求めてやってくるのに都合がいい所でもある。 そこで、『壁越え』を果たした貴様にキャンペーンガールとして参加してもらい、有事の際は戦闘を任せるつもりだ。 今回の依頼では弾薬費修理費を我が方から捻出する運びになっている。加えて迎撃に出た場合の出費を抑えれば新製品を無償で提供しよう。 G13レイヴン!確実な行動を期待する!] 「(……人がいっぱい……)」 そんなことを考えているのは、お立ち台に立って大豊製AC『天牢』の足元でポーズを決めているのは独立傭兵レイヴンである『C4-621』だ。 野外に作られた展示会のベイラムスペースにはベイラム傘下にある企業の展示が並び、マスコットである『ベイ太郎』もタスキを掛けて走り回っている。 621がいるのはその大豊スペースで、彼女の容姿に惹かれた人々が集まっていた。 元々ウォルターは断るつもりだったのだが、ウォルターのことを色々嗅ぎ回っていたエアが偶然にもこの依頼を見つけ、621も物珍しい依頼に興味が湧いて、ウォルターにお願いして依頼を受けたのだった。 ウォルターからため息を吐かれたが、621としては初めて受ける種類の依頼で内心浮き足立っていた。 実際、初めて行う化粧や着たことがない服など初めてだらけの体験で、『展示会』が始まる前からウッキウキだった。 ところで、大豊娘娘というのは『大豊の理念をイメージしたキャラクター』である。生まれた当初は2?3頭身ほどのデフォルメキャラだったが、月日が経つにつれその社訓である『樹大枝細(本体であるコアを太く、他のパーツは小さく)』の理念を体現するべく『もっと太く!もっとムチムチに!』という考えの元、頭身が伸びていき、ついには身長170センチ以上、バストとヒップはメートル越えの超ムチムチプリンなキャラクター像が出来あがってしまった。 当然そんな女性はそうそうおらず、大豊陣営はキャンギャルの採用に常日頃から苦慮していた。 そんな時、偶然にも『壁越えの英雄』のプロフィールがとある情報筋のリークから各企業上層部に公開されてしまい、身長172センチ、バストは頭よりでかい驚異の123.2センチRカップ(!!!)のデカパイムチムチ娘であることが判明したため、大豊陣営は621にアタックをかけたというわけだ。 そして、ウォルターのケアのおかげか最近になって少し成長した621は当初の想定よりもキツくなった衣装を身に纏って衆目の元に晒されていた。 さて、キャンペーンガールに選ばれた彼女であるが、普段仏頂面というよりも無表情である彼女は感情の起伏があまり無いため、こういう時に何をすればいいのか分からなかった。そこで、ルビコニアンであり交信を行なっている『エア』に何をすればいいのか調べてもらい、現在は持ち場でポーズを取っていた。 [レイヴン、次はこういうポーズをとってください] 脳内に響くエアのリクエストに応えながら前屈みになる621。 胸元が大きく切り取られた衣装は彼女の豊満なバストを無理やり押さえつけながら上側に空いた穴から溢れんばかりの上乳を晒していた。 ガーターベルトで止められているニーソックスからはみ出ている太ももはつまめてしまうほどで、彼女の肉感的な肢体をこれでもかと見せつけている。 大豊をイメージしてか、彼女の長い銀髪でシニョンを2つ作り、同時にウォルターに毎日丹念に手入れをされた髪は絹糸のように輝きながら風に靡いている。 621自身は長年コールドスリープ状態だったためにこうして注目されるのは気恥ずかしさと同時に嬉しくもあった。 しかし残念ながら人が集まるということは不埒な輩も増えてしまうということでもある。特に今の彼女は自ら肉体を曝け出し、肉欲的な欲望の的になっていた。 見物人の1人がポーズをとるのに夢中になっている621に近づいていき、溢れんばかりのデカ尻を真下から撮ろうとカメラを忍ばせたバッグを彼女の近くに━━ 「そこまでだ」 置こうとする手を褐色のスーツを見にまとったシュナイダー系特有のシュッとしたヘルメットを被ったどこかで聞いた声をした男が止めた。 「な、何だお前!?」 「そのバッグに入っているカメラを出すんだ」 「なっ!?」 [レイヴン、どうやら盗撮しようとした人がいるようです。通報したのでもうすぐ警備員が来ます] エアの言う通り盗撮犯はすぐにやってきた警備員に御用となった。 「……助けてくれて、ありがとう……」 「なに、気にすることはない。当然のことをしたまでさ」 「あなたは……?」 「『空力学の使者、シュナイダーマンッ!』と名乗らせてもらうよ」 621とシュナイダーマンが話をしていると、ポテポテと頼りない足音をさせながらアーキバスのマスコット『アーキ坊や』がやってきた 「ラス━━し、シュナイダーマ?ン!勝手に行かないでよ?」 「すまないアーキ坊や。それではみなさん、良い一日を、アーキバスエリアにも是非足を運んでください」 「くださ?い」 少し甲高い声をしたアーキ坊やと共にシュナイダーマンはアーキバスエリアに帰って行った。 その後は『ベイ太郎』と一緒に写真撮影をしたり(この時のベイ太郎は言動が荒く、621のことを最初は『ノラ』と呼んできた。撮影の都合で思い切り抱きついたら『娘娘(ニャンニャン)』になったが)、『アーキ坊やVSベイ太郎』というこの展示会恒例のマスコットプロレスで実況をしたり(エアがフォローした。今年はアーキ坊やの勝利)、普段とは違う活動に621もエアも楽しんでいた。 だが、レッドが依頼で言ったように、企業というのは色々と目をつけられてしまうもので、特に展示会ともなれば兵装の試射を行うこともあり、それを狙ってテログループや金のない独立傭兵が襲撃を仕掛けてくることも多い。 今日もそういった展示品を狙って襲撃が起こった。 普段であれば警護MTが対処するのだが、今回はランク外とはいえACが3機とMTが複数いた。 連携もそれなりに取れているようで、警護MTがどんどん撃墜されていく。 「……エア、これ動く?」 [━━ハッキングしました!ハッチ開きます!] そんな折、621は展示されていた『天牢』に目をつけた。本来は彼女の乗機ACがある格納庫に行く必要があるが、そうしている間に被害が増えていくだろう。 そう考えた621はエアの力で勝手に乗り込むと慣れた手つきで起動させていく。 そんな621を襲撃者たちは見ていたのだが、起動できたとしてもキャンギャルなどズブの素人もいいところだ、とタカを括ってゲスな妄想を膨らませながら621が乗り込むのを見逃した。 まさか中に入ったデカパイムチムチドスケベキャンギャルが『壁越え』を成し遂げた英雄だとはつゆほども思わなかったのだ。 [おいおい姉ちゃんよ!怪我しない内にとっとと降り━━ゴフッ!?] 「……邪魔」 スピーカーで話しかけてきた襲撃者の1機に『アサルトブースト(AB)』からの『ブーストキック』が炸裂する。 「……エア、敵は?」 [AC名『アマテラスヤタ』『フギンムニン』『ポイズンネヴァン』。全員ランク圏外で、ドーザー製のフレームにアサルトライフルとスタンバトンを持っています] 「……わかった」 最低限の情報を知りつつ、蹴りから流れるように左手の『DF-BA-06 XUAN-GE(バズーカ)』と右肩の『SB-033M MORLEY(拡散バズ)』を至近距離で放つ。 元々フレーム自体が粗悪品だったのだろう、爆炎に飲み込まれた襲撃者はスタッガーを起こし、そこへまた蹴りを入れられて距離が離され、右手の『DF-GA-08 HU-BEN(ガトリング)』と左手をハンガーにある『DF-MG-02 CHANG-CHEN(マシンガン)』に持ち替えられて蜂の巣になった。 「……次」 [流石ですレイヴン] あっという間に1機をスクラップにした621は流れるように取り巻きのMT群を掃討し、途中ACをもう1機落として最後の襲撃者に向かう。 [レイヴン、可能なら━━という感じで倒せますか?] 「……いいけど……?」 [お願いします] [く、来るな!来るな!] 半狂乱になりながらアサルトライフルで621の駆る天牢を撃ち落とそうとするが、多少の被弾はあってもABで迫る621を止めるほどのものでもない。 そのまま突っ込みつつバズーカで牽制した621は両手の武装をパージし、襲撃者を徒手空拳で圧倒していく。 そして、 「……ほぁちゃー」 最後の締めとしてどこか気の抜けた叫びと同時にブーストキックが繰り出される。 大豊特有の細い下腿から繰り出される蹴りは確かにジェネレータを捉え、スパークと同時に襲撃者のACにトドメを刺した。 戦闘が終わるとすぐに警護MTが駆けつけ、消火作業や生き残った襲撃者を捕らえていく。 [お疲れ様でしたレイヴン] 「……うん、エアも、お疲れ様」 外に出て戦闘の熱を風で冷ましながら夕焼けを眺める621。 暁の空に照らされた彼女の銀髪が風に靡く様は息を呑むほど美しく、その姿は様々な媒体で広がって行った。 後にこの出来事は大豊の広報が大々的に取り上げ、更に徒手空拳で華麗なコンボを決めたという話を聞いたRaDの『シンダー・カーラ』が『頑丈な鉄骨にブースターを取り付けた物理ブレード』を作成するのはまた別の話……。 後日、621のガレージにて━━ 「621、また大豊から例の依頼が来ているが、断っておくぞ?」 「……撮影ばっかりで飽きた」 「分かった。こちらからもいい加減まともな依頼を出すように伝えておこう」 [私としてはもう少しレイヴンのいろんな姿を見たいのですが……] 「……お部屋なら……」 [はい!] 「……また幻聴か?……外に出て息抜きをしてこい。使った金は後で請求しろ」 「……ウォルターは?」 「俺はまだ仕事がある。それにお前には様々な刺激が必要だ。近くにベイラムが統治している街がある、そこで息抜きしてくるといい」 「……わかった、行ってきます」 「……ああ」 621が出て行ってから、ハンドラー・ウォルターがフォトフレームを取り出す。 中にある写真に写っているのは、椅子に腰掛けた彼と、それに寄り添うように立っている621の姿だ。 展示会から数日後、大豊の依頼で大豊娘娘のコスプレをした621の写真撮影が行われたのだが、その時ウォルターも同行したのだ。そこで621がスタッフに頼んで撮らせてもらったある意味で奇跡の1枚だ。 「……『娘』……か……」 そう呟きながら、彼はフォトフレームを引き出しの中にしまった。 その胸中は誰にも明かされない━━。