最近デジタルが冷たい。 滅多に目を合わせてくれなくなったし、会話だって最小限で済ませようとする。 声を掛けると驚いて逃げられるわトレーナー室にも滅多に来ないわでもうお手上げである。 ここまで袖にされる覚えは全くないのだが、やはり知らぬうちに何かしてしまったのだろうか…… 「ってことなんだけどさ……」 「いやウマ娘のこと俺に相談すんなし」 解決の糸口も見えず辟易していたトレーナーは、せめて大学時代の友人に愚痴を吐き出すことにした。 彼はウマ娘には興味は無いがそれ以外の趣味は合うため卒業後も腐れ縁が続いている。 ある意味では気の置けない親友と言えるだろう。本人たちにその気は無いが。 「相談じゃないわ愚痴の痰壺になれってんの」 「ひでぇ。つうかやさぐれすぎだろ」 「だってお前仕事仲間が急に冷たくなったら雰囲気死ぬだろ」 「死ぬ」 「そういうこと」 「一人で死ね~」 「うるせえ奢ったんだから付き合え」 からからとグラスの氷をかき回しながら机と熱いキスをする彼を見かねて、友人は二枚のチケットを取り出した。 「そんなに死んでるなら気分転換でもすれば?」 「……なにそれ」 ひらひらと揺れるそれは色彩鮮やかで、率直に言えば趣味の悪いデザインだった。 「知らねぇの?バブリーランドって最近流行ってるんだぜ」 「そうなの?」 「知らね。でも先輩からペアチケ貰ったから行って来いよ」 「誰と……?」 「担当ちゃんと」 突如、トレーナーの脳裏にあふれ出した存在しない記憶 『デジタル、気分転換に遊びに行かないか?』 『……』 『で、デジタル……』 『ごめんなさいやっぱ一人で行ってくださいごめんなさい……!』 『デジタルー!』 完 「今は無理かな……」 「いやチケットの期限今週だけど。先輩から感想聞かせてって言われたんだけど」 「んなもん押し付けんな……」 嫌な想像と嫌な現実の板挟みでトレーナーのテンションは沈み切った。 「その先輩と行って来いよ……」 「いや男だし。お前が行けって」 「誘う当てねぇよ……はぁ」 「「なら二人で行く方がマシ……」」 思わず顔を合わせる二人。 あんまりお互いの状況が悪いのも相まって、こらえきれずに噴き出してしまった。 図らずしも完璧にハモったのが決め手となり、結局男二人での水着デートと相成ったのである。 「はぁ……」 アグネスデジタルは水着姿で流れるプールを流れていた。 その様子も傍から見ればある程度様になっていたが、本人としては藻屑をイメージしたものである。 流れに身を任せながら最近の不調について思いを馳せる。 以前ほどの活気が無くなったのは自覚している。 しかしその原因がイマイチはっきりしない。 ウマ娘を追いかけようとしてもすぐに頭の中がぐるぐるになって足が止まる。 かといってトレーニングに打ち込もうにもトレーナーの声やしぐさが気になってしょうがない。 ライフワークが二つとも満足にいかず、もがけどもがけど自分がどこにいるのかすら分からない。 彼女にとっては初めての体験だった。 「はぁ……」 流されるのにも飽きてプールのへりに腰掛ける。 不調を見かねたタキオンにチケットを二枚渡され、とりあえずトレーナーを誘ってみたものの、 「す、すまん。その日は先約が……」 と要件を話す前に断られてしまった。 仕方のないことだと分かっていても、それでもどうしようもなく煩わしい気分になって、やけになって一人でここにやって来たのだった。 (なんであたし、こんなことしてるんだろ……) 膝に頬を預けて一人思う。 あの日燃えていた熱情が吹き消えてしまいそうな、そんな寂しさに酔いかかっている自分が嫌になっていた。 「おいおい君、大丈夫?」 聞きなれぬ男の声に顔を上げると、そこには果たして印象通りの軽薄そうな男がジュース両手に立っていた。 派手な柄トランクスにサングラス、ピアス、どこをとっても苦手な人種の気配をぷんぷん感じる。 しかしそれを跳ねのける気力もほとんど残っていない。 「何か用ですか……」 「いや気分悪そうだなって。これ飲む?」 「結構です……」 断ったのにも関わらず、男は無遠慮に隣に腰掛けジュースを飲み始めた。 「悩みあるなら聞くよ?」 「本当に結構です……」 声音から多分本気で心配しているお節介焼きだというのは伝わってくる。 ただその真偽はともかく、悩みかどうかも今の自分には分からない。 「あっ、そうだ。俺の友達がさ、トレーナーやってんだよ」 「はぁ」 「あいつなら多分君の力になってくれるって!えーっと……」 「アグネスデジタルです……」 「デジタルちゃんね。アイツすげートレーナーだから!なんかじーわん?取ったことあるって泣いてたし」 「……」 原因不明の自分の不調。 しつこく絡んでくる謎の男。 心労は限界を超え、助けになるなら何にでも縋りたい気分になっていた。 「じゃあ、ちょっとだけ……」 「おし、じゃあ行こうか。あ、これ飲んでいいよ」 「どうも……」 解決するなんて微塵も期待していないはずなのに、言われるままにその男についていく。 ぺたぺたと踵について行きながら、冷たい酸味が無機質に喉を通っていた。 「……おっせぇな」 トイレで離席ついでに飲み物買ってくるわと友人が行ってから数十分が経とうとしたころ、ようやく彼が返ってくるのが見えた。 「おーい!」 「おせぇぞ!ジュース買いに行くのに……あれ、一個だけ?」 軽快に手を振り返す彼の手には当然コップが一杯しかない。 「ごめーん通りすがりに飲ませちゃった」 「何してんの本当に!?」 数十分待たせた挙句、自分の分しか買ってこない友人に呆れて席に沈む。 今いる屋外テラスの自販機は修理中である。 ひとしきり空を仰いだ後、友人の方を再び向くとその背中側にピンクの髪が揺れている。 「……は?」 見覚えのある色彩、よく見れば大きなリボンもはみ出していて、それはまさに、 「デジタル!?」 「ぶふっ」 「冷たっ!?」 友人の背中でうつむきながら付いてきていたデジタルも、聞き覚えしかない声色に思わずジュースを噴き出した。 「ととととととトレーナーさん!?」 「あれ、知り合い?」 「何勝手に人の担当ナンパしてんだテメー!」 余りにも友人がウマ娘に頓着が無いことに加え、よりによって担当に声を掛けた事実に我を忘れて食いかかる。 その後ろでデジタルが思わぬ邂逅に酷く動揺していた。 (またっ……このぐらぐら……!) トレーナーの姿を見るとどうしても発作が出ることは経験則で分かっている。 普段は覚悟してこらえているが、不意を打たれるとどうしようもない。 抱えていたプラのコップを取り落とし、もたつく足でその場を離れようと駆けだした。 「お前がそこまでとは思わなかったぞ……!」 「いや待て待て落ち着け……あれ?デジタルちゃん?」 「は?あっ、速ぇ!?」 慌てて友人を置いて追いかけるが、その姿はもう点のようになっていた。 動揺しているとは言え流石のGⅠウマ娘。その足並みに淀みは無い。 ゴールがどこにも見えなくとも、立ち並ぶ人影をすり抜けて走っていく。 「くそっ、こんな時ばっかり走りやがって……!」 しかし施設内というのが幸いしなんとか見失うことだけはない。 必死に喰らいついた挙句、彼女が人通りの少ない路地に入り込んだのが見えた。 「変なところ来たなぁ……」 暗がりの中を奥へ奥へと歩を進める。 分かれ道もあまりなく、目的の人影はあっさり見つかった。 一番奥で縮こまっていた、悩みの種を。 「なぁ、そんなに逃げること無くないか?」 「知らないです……」 「俺が何か間違ったなら言ってくれ。どうしようもないなら、担当変更って手も……」 「私にも分かんないんですよっ!」 裏路地に少女の絶叫がこだまする。 こんなに近くにあるのに、手の届かないどうしようも無さに、ただ歯噛みをすることしかできなかった。 そんな二人に、掛かる声があった。 「あのー。ここを利用するならちゃんと受付した方がいいですよ」 「えっ、いやあの、僕らは」 「はい、これそこの鍵。あと、ここはプライベートなのでお静かにね」 と、言うだけ言って声の主は待たせていた連れと一緒に帰ってしまった。 「とりあえず、中で話そう。な」 「……」 渋々といった面持ちのデジタルを連れて、個室の扉を開いた。 「変な臭い……」 「ちっ、後片付け中途半端だな……」 手元の消臭剤を振りまいてから、乱れたシーツを替えてベッドに腰掛ける。 彼女にも着席を促すと、距離を空けて座りじっとうつむいていた。 沈黙が肌を刺す。 薄桃色の照明とは裏腹に雰囲気は重く苦しい。 針のむしろの中、先に口を開いたのはトレーナーだった。 「……なぁ、デジタル。何でもいいから話してみないか?」 「……」 目線は並行に。 どんな顔をして聞いているのかも分からないが、とにかく思っていることを口にする。 「何か苦しんでるのは分かるんだよ。だけどそれ以上、お前は何も言ってくれない」 「……それは」 「自分でも分からない、言ってたじゃないか。さっき」 「……」 「だから、とにかく言葉にするんだ。分からないなら、その苦しみも背負わせてくれ」 「……」 「頼む」 「……あたし」 決死の訴えは、彼女に通じた。 「最近、ウマ娘ちゃんを追いかけてる時も変なんです。ずっと集中できてない」 体育座りで、誰に向けるでもなくつぶやく。 「いつもなら没頭できるのに、心に引っかかってしょうがない」 「トレーナーさんといるときもそうなんです。声を聞いても、些細な仕草を見ても、すごくざわざわする」 「そのせいでトレーニングにも身が入らなくて、考えないようにすると余計考えちゃって」 「なんででしょうね」 「なんでずっと、トレーナーさんの顔を想い浮かべるんでしょうね」 「あたし」 「……そ、れは」 ようやく聞けた、彼女の告白。 それは、何というか、 (……恋煩い?) 想い人の顔が浮かんでしょうがない。そのせいで趣味にも身が入らない。 漢詩の題材でありそうなほどコテコテの恋煩いのような、スラング的な告白にしか聞こえない。 避けられてたのは俗に言う好き避け、というよりその思いが恋とすら自覚していないのではと思わずにいられない。 思わぬうちに向けられてた想いに、免疫の無い彼は上がる口角を必死で下げていた。 ただ自信過剰の可能性も捨てきれず、そこでばっさり切られて立ち直る姿も想像できない。 ようやく糸口が見えたのに踏み込めない自分の不甲斐なさにあきれ果て、何気なく室内を見回してみた。 「……あれ?」 薄桃で煽情的な間接照明。 室内は簡素だが、ベッドだけは二人寝そべっても余裕がある豪華さで、 その脇は小さな棚と、中に昔友人がふざけて見せびらかしていた手のひらサイズの避妊具。 (ヤリ部屋だこれー!?) 「はぁ、もう考え疲れた……」 「おぉ!?」 こっちに向けて寝そべった彼女もよく見れば水着姿で、未熟な体に秘められた魅力をしっかりと引き出すレオタードタイプ。 控えめにあしらわれたフリルも、ある意味で魅惑的なボディラインを損なわずに華やかさを添えている。 そこに加わるはアンニュイな表情と、無防備に投げ出されたすらりとした生足。 モデル撮影の経験はまだない彼女のまさにお宝相当のレアな姿である。 「……あんまり見ないでください」 不満げな視線も、背景が背景だけにエロく見えてしょうがない。 ごりごりと頭の中で理性の削れる音がする。 (い、いや、それにしたって雰囲気が……) 必死に欲望を抑えようとするも、理性のカスを糧に脳は急激に回転を始める。 どういう段取りで持ち込むか、言いくるめるかが着々と組み上がっていく。 そしてとうとう、理性のテープが切れる音がした。 「……なぁ、デジタル」 「……なんですか」 苦悩に疲れ果てた彼女がおなざりに返事をする。 しかし最近のとげのある態度に比べれば、むしろ軟化したとも言える。 「お前って、もしかして俺のことが好きなんじゃないか?」 「はぁ!?ななななな何を言ってるんですか!?」 突然の逆告白に飛び起きて、真っ赤な顔で後ずさりをする。 しかしトレーナーも逃がすまいとじりじり小さな体に詰め寄っていく。 「考えてもみてくれ、その人の顔が頭から離れないって、それもう好きだろ。大好きだろ」 「あ、あたしがそんなわけないでしょぉ!?デジたんはウマ娘ちゃん一筋のヲタクですよ!」 「オタクが恋したって別におかしくないだろうが!」 「ちーがーいーまーす!この気持ちはもしや恋……、とかじゃないですー!……多分」 「くそっ、じゃあ何だってんだよ!答えろ!」 「やだっ、こっち来ないで!ヒャァ!?」 煮え切らない返事にこっちが業を煮やし、小さな彼女の体を組み伏せる。 いつもよりも間近で見る彼女の体はずっと華奢で、それ故の魅力が文字通り腕の中にあった。 「や、やだっ、離して……」 「いい加減認めろ。お前は俺のことが好きなんだよ」 「嫌ですっ、認めません!デジたんが恋するのはウマ娘ちゃんだけなんです……!」 じたばたともがくが力は無く、見た目相応の衝撃しか伝わってこない。 目が潤んで顔が赤く見えるのは、照明のせいだけではないだろう。 「なんでっ……力はいんない……」 「デジタル……」 「やだぁ……じっと見ないで……」 「俺もお前が好きだ」 「あ、あたしが好きなのはウマ娘ちゃんだけなんです……!そうじゃなきゃデジたんじゃないんです……!」 「……」 「お願いだから、あたしの中に入ってこないで……」 彼女は恋をしていた。 しかし厄介なことに、彼女は自他ともに認めるウマ娘フリークである。 それこそが自分のアイデンティティだと信じて疑わなかったし、ウマ娘ちゃんと彼女らと共にするレース以上に求めるものなど無かった。 しかしそこにトレーナーの存在が挟まってどうなったか。 無意識下でウマ娘一筋であることを自身に強要していた彼女は、それ以外の”好き”を認めなかった。 それ故の好き避け、自己防衛的な反射のそれは逆に彼女を苦しめた。 なぜなら、元来恋とは抑圧されるほど燃えるものだからである。 ここまでトレーナーの妄想である。 実態もドンピシャだったが。 「やだっ……やだぁ……」 腕の下でぼろぼろと大粒の雫をこぼす彼女をじっと見ていた。 それはアイデンティティの崩壊に怯える悲痛な叫びで、こんないたいけな姿を前に彼は、 (めっちゃかわええ……) 欲情していた。 しかしまさか涙を流す女の子に追い打ちをかます真似などできるはずも無く、マウントポジションのまま慰めの言葉を考える。 あわよくば、というよりは確実に一発ヤれるように慎重に言葉を選ぶ。 彼は性欲で動いていた。 「デジタル、聞いてくれ」 「ひぐっ……ぐすっ……」 泣きしゃぐる彼女に構わず、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。 「お前がウマ娘を好きという気持ちと、俺を好きだという気持ちは両立できる」 「じゅっ……そ、そんなのいちばんじゃない……」 「好きなものに優劣を付けるな。ありのまま受け入れれればいいんだよ」 「ひっ……!?」 言葉で惑わせ、動きを抑えている間に股の間に手を伸ばす。 いやらしく伸ばした中指で布越しに筋をなぞり上げると、快感に震えるすべすべの太ももが両側から手を包み込む。 「さ、触らないで……」 「本当に嫌なら蹴るなりすればいいんだ。覚悟はできてる」 欺瞞だらけの逃げ道を提示しながら手を休めることはない。 爪を立てて固くなりつつある豆状の突起をこすったり、強く指を喰いこませじりじりと彼女を責め立てる。 彼女も彼女で逃げるそぶりも見せず、ただ知らない感覚に体を縮めるしかできない。 じっとりと湿度を増していく股布が恥ずかしくて、しかしどうして恥ずかしいのか分からない。 「ひぃっ……」 布が捲られ、直に指が秘裂に割り込む。 ぴっちりと閉じられた一筋は彼女自身も殆ど触れたことのない聖域である。 それを武骨な指が、ゆっくりと割り開いていく。 (狭い……一人遊びもしたことなさそうだな……) 狂人のごとき洞察でそれを見抜いたならば、想定よりもペースを落としてほぐしにかかるだけである。 「ふーっ……んふぅ……っ」 丁寧で執拗な愛撫が続くこと数十分、彼女の聖域はとうとう指一本を咥えこむまでにふやけていた。 指の届く最奥をまた執拗に嬲られつづけ、鈍い快感が脳をちりちりと焦がしていく。 何をされているのかもよく分からないまま、どうしてこうなったのかも分からなくなったまま、ただ為すがまま脳を焼く。 恐怖と、期待と、予感の雁字搦めになったまま、彼女はただ体を小さくして耐え続けた。 そうしてまたじっくり責め立てること数十分が経った。 「フーッ……❤フーッ……❤んっ……!」 「はぁ……はぁ、どうよ、こんなになったぞ」 「……っ」 根気強く躾け続けた成果の、指に掛かる銀橋を彼女に見せつける。 ねっとりと尾を引いて中々落ちない粘液の橋は、まるで自分の厭らしさそのものを見せつけられるようで、堪らなく恥ずかしかった。 「もう……こっちが限界だよ……」 「ひぃ……っ!?な、なな……」 軽く水着の端で拭ったあと、彼は勢いよく水着を下ろした。 ばるん、と跳ね上がったそれは、数十分のお預けを食らってだらだらと先走りを垂らしている。 その状態はもちろん、男性器すら初見の彼女にとってそれは涎を垂らす獣のようにも見えた。 限界ギリギリを張り詰める一物が下腹部を測る。 「ほら、こんなところまで入るぞ」 「む、無理っ……」 そう示されたのは股下からぴったり臍の直下までで、太さも相まってそんな怪物が自分の腹に収まるとは到底思えない。 しかし感情が恐怖に傾けど、囲われた体に逃げ場は無く、獣の頭がしっかりと入り口に狙いを定める。 注射の針先を見つめるときのように、目を背けることから耐えられない。 だからはっきりと、自分の純潔が奪われる瞬間を目にしていた。 「ぐ、ぎっ……」 股の裂け目がめりめりと広げられていく。痛みで脳が弾け、視界が明滅する。 まるでデジタル表示のように今あの恐ろしいものがどこまで侵入しているかが透かし見える気がする。 それほどに感覚だけははっきりしていた。 「やっぱ狭いな……っ、チンポ食いちぎられそうだ……!」 「いたい”っ……いだいじゃん……っ」 「大丈夫、よくなるまで待つから」 苦痛に悶えながら、体を支える手でシーツを固く握りしめる。 早く終わってくれと願いながら、ひたすらに体を固める。 その緊張が、徐々に緩和していることに気が付いたのは数分後だった。 「あ、あれ……」 じわり、じわりと、少しづつ痛みがほどけていく。 緩みたてのふわふわした意識でも、ぼんやりと馴染む感覚を受容する。 無理やり広がった内膜が新たにあるべき場所を見つけて、そこに戻りゆくのが奇妙に心地よかった。 「もう痛くないか?」 「……うん」 「じゃ……」 ずるりと太い肉棒が抜かれていく。 根元に自分の物と思われる赤を纏って遠ざかるそれをじっと見つめている。 (あ……抜けて……) そこに妙な寂しさを感じた、次の瞬間、 ぱちゅん 「んひっ……!?」 勢いよく、再び肉棒が彼女を貫く。 そして突然のカムバックに驚く暇も無く、また抜けかかって、奥まで突き抜ける。 何度も、何度も繰り返されるそれがセックスの主であると彼女は知らない。 知らなくても、背筋に何度も走るぞわぞわした感覚が本格的に後戻りできないことを予感させた。 「はっ……はっ……な、なにこれ……」 何度も何度も腹の裏側をそれが擦る。 トレーナーは必死な顔で腰を振り続けて、往復するたびに自分の中の何かが膨らんでいく。 膨らんで、膨らんで、自分が風船になったかと錯覚しそうなほど膨らみ続ける。 「デジタルっ……デジタル……っ!」 「は、はい……?」 「出るっ……!」 何が、と問う前に胎の一番奥で何かが弾けた。 それはじんわりとした熱の拡散を伴って、彼女の風船にも針を突く。 「あっ!?あっ❤なに、なにこれっ❤」 背筋のぞわつきが一本のうねりとなって跳ね回るような、弾けた自分がどこかへと飛んでいくような感覚。 制御できない痙攣が視界を震わし、津波のような多幸感が堰を切って心の中になだれ込む。 「はぁっ❤はぁっ❤~~~~っ❤」 「おわっ!?急に締まりがっ……!」 本能が先だって理解して、竿を強く搾り上げる。 それ自体は反射だったが、結果より強くお互いの肉が絡みあうことになり、更に肌の重なりの歓びを強める。 ようやくその波が収まったころには、彼女はすっかり快楽の虜になっていた。 「い、今の何……?」 「初めてなのに中イキはエロ過ぎでしょ……」 「中、いき……?」 怒涛の新体験に呆然とした彼女は無垢そのものの表情でトレーナーに問いかける。 しかしそのアンバランスさに、種を付け終えたトレーナーの愚息が再び反応してしまう。 「あっ……またおっきく……」 「……ねぇ、デジタル」 「何ですか?」 「もう一回、しない?」 「っ!……❤」 あの感覚を想起して喉が鳴る。 同時に胎の中で硬さを増していくあのおぞましいものが脳内で結びついて、途端に愛おしく感じる。 こっちの方向にも才能のあった彼女が、その提案を拒むわけも無く。 「……もっと、沢山シてください❤」 その浅ましくねだる姿に、さっきまでの刺のある態度の面影は微塵も感じられなかった。 「『お前って、もしかして俺のことが好きなんじゃないか?』キリッ、だーってぇー!」 「ホント勘弁してくれ……」 バブリーランドからの帰り道、トレーナーはアグネスデジタルを乗せて帰り道を飛ばしていた。 「いやぁ……あんな台詞が許されるのはイケメンに限ると思ってたんですけどねぇ……」 「マジでやめろハンドル切り損ねるぞ……」 これまでの不仲っぷりはどこへやら、二人の距離は以前のような気安さまで縮まっていた。 もっとも、よく観察すれば以前よりも距離が縮まっていることに気づくものもいるかもしれない。 「しかしデジたんもまだまだ甘かったですね。好きを諦めないという自分の原点を見失うとは一生の不覚……!」 「……うん、まあ、解決してよかったよ本当に。理事長から担当外れろ勧告来てたし……」 「ヒョエェェ!?初耳ですよトレーナーさん!?」 実際はもう少しやんわりした言い方ではあったが、担当との絆が重視される専属制度の趣旨とは合わなかったのは確かである。 知らず知らずのうちに自分の恩人との縁が切れようとしていた事実に彼女は戦慄する。 「ご、ごめんなさい……あたし本当に何にもわかんなくなってて……」 「むしろ俺は訴えられる側なんだけどな……いや我ながらキモすぎる殺してくれデジタル」 「な、仲直りしたのに早すぎる別れっ!?あたし訴えたりなんかしませんよぅ!」 「うん……」 「着いたぞ」 トレセン近くの駐車場に停めたころにはすっかり日も暮れて、街灯だけが暗い夜道を照らしていた。 「……あ、明日からも」 「明日からもよろしくお願いしますね!今までのスランプの分取り返しますよー!シュッシュッ!」 シャドーボクシングもして意気込み十分な彼女に安堵の息をつく。 これでようやく普段通りの日々が送れると思うと…… 「あ、そうだトレーナーさん」 「ん?ああ何……」 「時々でいいから、”また”しましょうね~……❤」 「……バレないようにな」 前言撤回、前より爛れたものになってしまうかもしれない。 ネタ晴らしをすると、かのの部屋には先のカップルが焚いていた専用の媚香が消されずそのままになっていた。 それが消臭剤で消えるわけもなく部屋に充満し、二人の性欲を静かに高めていた。 その結果があれであるのは言うまでも無いだろう。 ちなみに置き去りにされた友人は急遽休日出勤を命じられたため別れたすぐ後に泣く泣くバブリーランドを後にしていた。 「そりゃ大変だったな……今日は奢るぜ」 「マジ?ラッキー、パチ代浮いたわー」 「……やっぱ割り勘な」 「えー」