「えっと、ライスは……」
ライスは困ってしまった。もともと相席自体を避けたいのに、こんな二人用のテーブルだと確実に相手に不幸が降りてくるような気がしてならない。しかし、相手の好意を無下にするようなことも、ライスは苦手だった。
「でも……きっと、迷惑かけちゃうから……」
「気にしないわ。折角の菊花賞定食が冷めてしまうわよ。それともこの一流のウマ娘であるキングがわざわざ相席をする権利をあげているというのに、断るつもりなのかしら？ さ、早く」
そうしているうちに、キングがあれよこれよと言葉を並び立てて押されるようにライスは一緒の席に座ってしまった。不思議とこのキングヘイローというウマ娘の物言いは、文字だけに起こせば高圧的で尊大であるのに言葉の端々に温もりと思いやりがあって、毒気が全くない。
ライスもそれを感じたのか、半ば強引な言い方だったのに自分の中に拒否感がないことに驚いた。
「ライスシャワーさんよね？ よくウララさんからお話は聞いているわ。それと、ごめんなさい、先輩なのについ同期とお喋りするような口をきいてしまって」

「ううん、ライスもお友達とお喋りするみたいに話すのが好きだから、そっちの方がいいな……」
「そう、それならよかったわ」
そう言って微笑むキングに、ライスはなんだかそれだけで相席相手のことが好きになった。
キングヘイローもまた、ハルウララからライスシャワーの話を聞いて、この黒鹿毛のウマ娘が好きになっていた。性格は異なっていても、何処か純粋な部分で一緒だったのかもしれない。
その後は共通のハルウララという友人の話から始まって、趣味や笑い話をしているうちに、ライスの頭からは相手が不幸になるかもしれないという不安が消えていた。それほどに話が弾んだ。
「それで、お兄さまがね。あっ……」
そんな時、ふと、話の中にトレーナーがでてきたとたん、ライスは頬をぽっと染めて俯いた。その様子にキングヘイローは顔を傾げたがすぐに理由が分かった、遠くにトレーナーがいたからだ。それに横にはキング自身のトレーナーがいる。
もう一度キングがライスに視線を移すとその姿がない。少し姿を探すと、テーブルの下に潜り込んでいて、その耳だけをぴょんと出している。

ウマ娘の耳は大きく自由が利く、器用に動かしてアンテナのように使って色んな音を遠くから探ることができるのだ。ライスはそうやってどうやらトレーナーの様子を探っているようだった。
「なにをしているのかしら、ライスさん貴方……」
「えっと、そのね……あのね……そのぉ……」
ライスの方といえばそう言ってごにょごにょとするだけで、要領を得ない。ので盗み聞きは一流のすることではないと思いながらキングは耳を同じように動かして少し遠くに座っているトレーナー達に耳をすました。もしかしたら、何か察してほしいような問題があるのかもしれないし、純粋に自分のトレーナーが普段同僚とどんな話し方をするのかも気になった。キングヘイローもまだまだ乙女真っ盛りの少女なのである。
「今年も菊花賞かぁ。どんなドラマが待ってるのか、楽しみだな」
最初に聞こえてきた声はキングヘイローのトレーナーである。芯が通ったはきはきとした喋り方で、誰からも好感が持たれそうな声だ。

「みんな無事に走り切ってくれれば、俺はそれでいいよ。限界を超えたデッドヒートを見るといつもハラハラしてしまう」
次にライスシャワーのトレーナーの声が聞こえた。本を読み聞かせているような、一言一言がするりと耳に入ってくる声だった。
「相変わらずの心配性だな、練習はハードなくせに。ライスちゃんもまぁ、お前の過保護さを受け入れてるもんだよ、四六時中一緒でさ、年頃の娘さんならウザがられても可笑しくなさそうなのに」
「怪我させないためだよ。しかし、そのライスなんだけどね。この頃心配なことが一つあるんだ、いや俺にとってはかなり深刻な問題と言ってもいい」
男にとってはからかったつもりだったが、これが想像に反して相手がそんなことを言い出したのでキングのトレーナーはぐいとテーブルに身を寄せたようだった。
「へぇ、お前がそんなに焦るのは珍しいな。だが、安心しろ、一流のトレーナーが何でも相談に乗ってやろうじゃないか！」
「では言葉に甘えるけれど、どうやらライスが……恋をしているみたいなんだ」

テーブルから見えていたライスの耳が千切れんばかりにぴーんと伸びた。一転して、キングとそのトレーナーは気の抜けた顔になって相手を見た。
「この頃様子が可笑しいんだ。何を言っても上の空だし、よく赤くなる。恋愛専門の女性誌を眺めていたようだったし、夕日に向かってため息をついていた。恋をする乙女そのものなんだ。今日だって一緒にご飯を食べてくれなかった、大丈夫だろうか、何処かから想い人を眺めてご飯を食べ忘れたりしていないだろうか」
「あ、そう。なのねぇ、うん」
なんとも気の抜けた返事である。
「問題はその相手だよ。ウララさんにそれとなく聞いてみたら、『トレーナーが好き』と言っていたらしい。学校の外の男の子ならともかく、これは大変だ。この学園には顔が良い連中が多いからね、エイシンフラッシュのトレーナーさんだろ、マヤノトップガンのトレーナーさんだろ、誰か見惚れでもしていたらかなり危険なことだ、あぁ心配だ……あんなに可愛いくていじらしい子だ、告白されたら誰でも一発で受けれてしまうだろう。修羅場が起きてしまう……」
いよいよライスは耳がぐりんぐりんと動いて湯気が出始めた。

「あーふーーん、そうなの。へぇ。なぁお前って誰かとお付き合いした経験ある？」
「俺の学歴は全部男子校だよ。経験があったら大変なことになるじゃないか」
「あ、ないのねぇ。じゃあそっか、なっとくぅ」
ごんっと鈍い音が聞こえた。ライスがテーブルに頭をぶつけた音だった。あうぅとテーブルの下からそんな声が聞こえてくる。
「なんだいさっきから、不親切じゃないか。君が同じ立場になっても相談に乗ってあげないぞ」
「俺の方は心配いらない。キングが選んだ男が悪い奴なはずはないからな、一流のウマ娘はそういう所も一流なんだ」
自慢げに語るトレーナーに、ぴくっとキングの耳が不機嫌そうに動いた。
「そうなんだね。それはいい、ちなみにこれはウララさんから聞いた話だが、キングさんも夜な夜な何やらため息をつきながらスマートフォンに向かってトレーナーと呟いているらしいが、まぁそれもまぁ心配いらないことだね」
「なにぃっ！？」
少しピリピリとした感情を誤魔化すように、水を飲んでいたキングは思わず噴水のようにそれを吹き出した。そろそろと頭を出していたライスがそれをもろに浴びて可愛らしい悲鳴が漏れた。

「と、トレーナーって……誰だ！ どのトレーナーだ！？ ダメだぞ、エイシンフラッシュとかそういう色男達は危ない！」
「なんだ、心配いらないんじゃないのかい」
「トレーナーだったら別だ！ キングを見ろ！ 妻めとらば、才たけて、みめ美わし、情けある。っていうだろ？ 全部満たしてるじゃないか！！ 断れる男なんているか！ いないだろういたら俺が許さない！ 不味い、修羅場になってしまう！」
濡れたライスをハンカチで拭いながら、キングはハルウララに口にチャックする方法をなんとしてでも教えなければならないと心に決めた。そしてその前に自身のふにゃふにゃになっている口をどうにかしないといけなかった。
そんなウマ娘たちに気づかず、未だ二人はじゃあどうすればいいかを実りも無いことを永遠と話し合っている。それとなく相手を聞いてみるとか、仲がいいトレーナーを調べてみるとか、説得するにも方法が分からないとか。
「ライスさん、貴方も大変そうね。みーんなにぶちんばっかり」
「えへへ……キングさんも、いっぱい頑張らないとね」

そんな姿をみると怒るにも騒ぐにもなんだか馬鹿馬鹿しくなって、二人のウマ娘は微笑み合いながら席に座り直すと共通の話題でまた盛り上がった。いきなり手でも握ってみるかとか、ラブレターでも送ってみるかとか、キスでもしてしまうかとか。
ライスはもう次の友人との相席が楽しみになっていた。
ところで世の中はなかなか非情で、やっても無駄な努力というものがある。その生き見本が自分達になるとはトレーナー達はこの時点では気づけもしなかっただろう。
しかし世の中はときおり有情で、諦めなければ夢は叶うという言葉もある。だが、とっくに二人のウマ娘がその生き見本なので、結局男達は気づく、諦めが肝心なのだと。しかし二人を育てて寄り添ったのはトレーナー達である。
つまりは自業自得だった。数年分の自分の業が数年分の得に帰ってくるときはそう長くはなかった。

自分のいない所で自分の事を話すトレーナーを見たウマ娘学会の者でしたが削っても削っても長くなります

フラトレやマヤトレはイケメンなのか……

このシリーズ好き…

読ませる文章だ…

このクソボケどもがー！

やたら警戒されるフラトレでダメだった

相席シリーズすごいいい…

>やたら警戒されるフラトレでダメだった
気持ちは分からんでもない…が本人はフラッシュにぞっこんなのでそれによってエイシンフラッシュがまた得をするという寸法よ

マヤノのトレーナーはシナリオで明確にイケメンって断言されてる珍しいやつだよ

見つめるだけでマヤノ撃沈できるしな…

>妻めとらば、才たけて、みめ美わし、情けある
結婚するなら才能があって綺麗で性格のいい子がいいよねというあたりめーだろ言いたくなる詩である
なるほどキングにピッタリだな！

ライスちゃん？ライスちゃんはトレーナーさんが好きって言ってたよ！キングちゃんもねトレーナさんの写真にチューしたりするんだよ！きっとトレーナーさんのことが好きなんだよ！

ウララはさあ…

>ライスちゃん？ライスちゃんはトレーナーさんが好きって言ってたよ！キングちゃんもねトレーナさんの写真にチューしたりするんだよ！きっとトレーナーさんのことが好きなんだよ！
許せねえぜフラトレ……！

ウッ…ウララさんッッッ

いいね...好きなシリーズだ...

女帝タイシン組とかファル子フラッシュ組の続きかな？
フラワーデジたん組は別の方かな？

あんないい男のマヤノトレーナーなのにネットでは酷い言われようなんだよね

>「ライスさん、貴方も大変そうね。みーんなにぶちんばっかり」
>「えへへ……キングさんも、いっぱい頑張らないとね」
ほら！こういうにぶいのが普通だって！
フラッシュさんの方が例外だよ！

相席シリーズで女性トレーナー回読んでみたいな…
うちの子かわいい！！！！っていう感じの

>女帝タイシン組とかファル子フラッシュ組の続きかな？
>フラワーデジたん組は別の方かな？
フラワーデジたんとは別だけどあれいいよね…すごくよかった…

相席シリーズは意外な組み合わせなのがまたいいんだよね…

エアグルーヴのトレーナーはちょっと違和感あったけどキングトレはいいな

シチーネイチャのやつも好きだった
何個か溜まったらまとめてほしい…

フラトレはなんでそんな事言えちゃうのって事を同僚との会話でも言ってそうだもんな…

フラッシュのトレーナーはちょっと経験値がどう考えても違いすぎたからな…
いや実情はマジで一途なんだが…

フラトレは経験が豊富だから言えるルートと
逆にそういうの無いから直球で投げてるルートの2つがある

フラトレも惚れた相手がフラッシュだからセーフだっただけで
惚れた相手がニシノさんやウララちゃんだったら即通報だったかもしれない

>惚れた相手がニシノさんやウララちゃんだったら即通報だったかもしれない
それはフラトレに限らずなんじゃねぇかな！！

冷静さを失ったら一気にへっぽこと化すのはキングとそっくりすぎる…

ライスは自分が最初になれるって思ったら凄い掛かりそう

>>惚れた相手がニシノさんやウララちゃんだったら即通報だったかもしれない
>それはフラトレに限らずなんじゃねぇかな！！
後者はともかく前者はまさにフラトレじゃないか

ライスが高等部の色気を出しながら押し倒してきたら流石にお兄さまいえども生唾を飲むだろうな…

フラ(ワー)トレーナーがロリコン異常者という風潮よくないと思います！！

ライスがお兄さまの初めて…ライスがお兄さまの初めて…ってなっちゃうんだ…

>ライスがお兄さまの初めて…ライスがお兄さまの初めて…ってなっちゃうんだ…
最初で最後の女になろうとするライスいいよね…

>ライスが高等部の色気を出しながら押し倒してきたら流石にお兄さまいえども生唾を飲むだろうな…
男子校出身の生え抜きの童貞にとっては劇物過ぎる…

お兄さまはライスが高等部でそっちの知識もしっかりある事を理解してなさそうだから油断して速攻で食われそう

>キングを見ろ！ 妻めとらば、才たけて、みめ美わし、情けある。っていうだろ？ 全部満たしてるじゃないか！！ 断れる男なんているか！ いないだろういたら俺が許さない！
キングトレがキングにこのセリフ引用されて断るような男は許さないのよね？って追い詰められそう

良いですよね今まで子供だと思って過保護にしてた娘から押し倒されてライスもう子供じゃないんだよ…？ってされる展開

己の中の性欲と闘うお兄ちゃんや周囲の敵意に気付けるトレーナーちゃんの察しの良さを少しは見習えクソボケ共！

>良いですよね今まで子供だと思って過保護にしてた娘から押し倒されてライスもう子供じゃないんだよ…？ってされる展開
確かに3年後ライスに押し倒されたら色んな意味でちょっと勝てないな…

もう完堕ち一歩手前と矢印のデカさに気付きながら見ないフリしてるロリコンども来たな…

高等部だから3年後には年齢的に問題なくなるからな…

>>キングを見ろ！ 妻めとらば、才たけて、みめ美わし、情けある。っていうだろ？ 全部満たしてるじゃないか！！ 断れる男なんているか！ いないだろういたら俺が許さない！
>キングトレがキングにこのセリフ引用されて断るような男は許さないのよね？って追い詰められそう
詰みである。認めれば結婚キングの言葉を避けても結婚トレーナーに一切の打つ手は無い

トレーナーちゃんはむしろロリコンだった方が幾分か救われそうなくらい運と風評被害と腰が悪いっていうか…

一流のトレーナーは一流の矜持を持つ限りは絶対に娶るだろうしお兄さまは悪い子になったライスにお仕置きしてそのままゴールインになるだろうな…

一年後に終わる方
お義父さんに挨拶すると終わる方

>良いですよね今まで子供だと思って過保護にしてた娘から押し倒されてライスもう子供じゃないんだよ…？ってされる展開
ライスにここまでさせてしまったという少しの罪悪感と3年前と比べて勇気を出せるようになったなという成長を喜ぶ心とトレーニングによってさらに磨かれた身体への男性としての欲情が混ぜ合わさりトレーナーの正常な思考は失われる…というわけだね？

下の口が完全におかゆと化したライスが襲ってくるのか…

ライスは身長がないだけで絶対脱ぐとすごい身体してるよね…

このシリーズほんとに好き

>ライスは身長がないだけで絶対脱ぐとすごい身体してるよね…
マヤノにお尻を盛った感じのスタイルがライスなので本人の欲の強さも含めてめちゃくちゃ搾ってきそう

今日東スポのnoteで原作のキングの記事読んだけど当時を知らない人間が記事を読んだだけでグッときたのにウマ娘世界であんなことされたらトレーナー離れられなくなってしまう

>>ライスは身長がないだけで絶対脱ぐとすごい身体してるよね…
>マヤノにお尻を盛った感じのスタイルがライスなので本人の欲の強さも含めてめちゃくちゃ搾ってきそう
一線超えたらうまぴょい中はライスはめちゃくちゃ好き好きしてきそうでやばい

>マヤノにお尻を盛った感じのスタイルがライス
えろじゃん！！

食欲が旺盛だからそれが性欲に向いたらどうなるか

そしてフィジカルはまずウマ娘でデカ過ぎる下駄履いてるのにさらにステイヤーだ

>そしてフィジカルはまずウマ娘でデカ過ぎる下駄履いてるのにさらにステイヤーだ
トレーナーが搾り殺されちゃう…

小さな身体だから思いっきりしがみつけるのは強いなライス…

絡みがありそうでなかったところを突いてくれるのありがたい楽しい

昨日のタイシンとエアグルーヴも良かった…
他の作品も読みたいのでぜひまとめを…

そういえばエイシンフラッシュの時にでた『シュニッツェル』だがオーストリアで食った時めっちゃ美味かったな…本場の味というのを思い知ったわ
あれ自宅で作ると面倒なのよねまな板汚したくないからラップ敷いたり綿棒で結構薄くなるまで何度も叩いたりしてさ
でも叩いた分だけ繊維が切れて肉が柔らかくなるし揚がった黄金色の衣がサクッとしてて下味をつけたお肉とベストマッチ！してて美味かった

もっと長くてもええんやで…
フラッシュトレーナーはこのトレセンでどういう評価なんだ…

なかなか文学してる文章で小気味いいもんだ

>フラッシュトレーナーはこのトレセンでどういう評価なんだ…
完全に担当とイチャイチャしてる伊達男

このフラッシュトレーナーは勝ったらエグいジャンプしそう

フラ(ッシュ)トレを色男のやべーやつ扱いしてる二人だが片方は担当からお兄様と呼ばれ片方は公衆の面前で創作話でしか見ないようなスカウトかますやべーやつなんだよな…

>しかし世の中はときおり有情で、諦めなければ夢は叶うという言葉もある。だが、とっくに二人のウマ娘がその生き見本なので、結局男達は気づく、諦めが肝心なのだと。しかし二人を育てて寄り添ったのはトレーナー達である。
>つまりは自業自得だった。数年分の自分の業が数年分の得に帰ってくるときはそう長くはなかった。
ここら辺で芥川隆行のナレーションが聞こえてきた