二次元裏@ふたば

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21311 B21/07/03(土)23:18:20No.819764723+ 00:18頃消えます
ウマ娘とは適切な距離感を保つ事が大事だと師匠に教わった。

実習生の時に指導教官を務めてくれて、この度晴れて同僚となる先輩──やはり慣れないので師匠と呼ぼう──は事につけてやたらにその類の話をしてきた。
実習生の時は取り敢えず居住まいを正して聞いていたのだが、後から知ったところによるとどうやら師匠の同僚が長年担当を務めたウマ娘の男性観をロードローラーで更地にしてから自分という名の豪邸に建て替えを行なってしまった様で、この度晴れて二人の愛の巣が完成したという事らしい。

新人も新人、卵の殻が尻についている自分からしたら縁遠い話だが、まあ美人の嫁さんを貰えるなんてなかなかに夢のある話だと笑っていたら師匠から酷い目に遭わされた。
具体的には某国民的バトル漫画の初期位の超スパルタ基礎体力トレーニングを課せられたのだ。あれ漫画だからいいけど実際は無理だよ、岩とか動かせないもん。

永遠に終わりの見えないトレーニングなどウマ娘でもない自分に必要なのかと疑問に挟む余地もなくみっちりと鍛え上げられて、取り敢えずの及第点を貰いやっと解放されたのがつい数ヶ月前。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
121/07/03(土)23:18:54No.819765025そうだねx1
地獄の特訓を終えた今ならわかる。
年頃の少女を預かる身として、冗談でもあの様なことを笑ってはいけなかったのだ。
精神的にも肉体的にも、正しい距離感を保って、ウマ娘たちの理想の杖たらんとする健全な精神。
これこそがトレセン学園に所属するトレーナーに求められる最低限の資質なのであると。

閑話休題。

試用期間を終え師匠の元を離れた俺は、とあるウマ娘と専属契約を結んだ。
自らの理想とする『カッコ良さ』を求め、日々邁進する少々ヤンチャなウマ娘、ウオッカである。
選抜レースで彼女が見せた鋭い切れ味の差し脚に惚れ込み契約を申し出た俺は、バイクという共通の趣味もあってかすぐさま意気投合し、あれよあれよという間にお互いを相棒と呼び合う仲となった。
221/07/03(土)23:19:36No.819765416+
そして今日もトレーナー室でバイクカタログを眺めながらウオッカの授業が終わるのを待っていると、慌ただしい足音が遠くから聞こえて来た。
足音が部屋の前を少し通り過ぎて、戻ってくると同時に喧しい音を立ててドアが開く。

「オイオイ相棒!ちょっと見たかよあれ!!?」

「なんだウオッカ、ドアは静かに開けろー」

「ああ、すまねえ……ってそんな場合じゃねえんだよ!タイキ先輩とそのトレーナーが広場で銃撃戦繰り広げてんだよ!つーかトレーナーの方は銃持ってねえんだけどなんかヌルヌル動いて弾一個も当たんねえの!」
321/07/03(土)23:20:17No.819765737そうだねx2
ああ、師匠ならそういう事する。知ってる知ってる何回も酷い目に遭わされたし。
中央のトレーナーは正直何人か人間を辞めている。それもこれも全ては師匠とその同僚が掲げる「肉体的な距離感」を会得する為にある時期から始めた対トレーナーへの指導が要因だ。
ウマ娘に身体能力で劣る我々人間が、もし彼女らが掛かってしまった際に適切な距離感を以って無力化するべく編み出す技術。

掛かり、とはつまり興奮状態にある事を指す。
常日頃から精神的な意味での適切な距離感を心掛けていても、一度興奮しているウマ娘に物理的に捕まってしまえば砂上の楼閣も同然であるとの事らしい。

先述した地獄の特訓もまたその指導の一つだったのだが、いやそんな週刊命の危機みたいな事になる方がよっぽどおかしいんじゃない?と声を大にして言いたい。
421/07/03(土)23:22:23No.819766801+
「ほれほれ、んなこたいいからさっさと着替えてトレーニングだ。今日はターフ予約してるからな、急げよー」

「んだよツレねぇな〜。ま、いいか、んじゃ先行っててくれ」

「あいよー」
521/07/03(土)23:23:11No.819767190+
「よし、そこだ!差し脚を繰り出せ!」

「ウォォォォォォォッ!!!!」

いつの間にか茜色が頬を優しく照らし、緑の絨毯は燃えるような鮮烈な色彩を重ねている。
随分とトレーニングに熱中してしまったようだ。

「ふぅ〜、今日は良い感じだったんじゃねえか?」

「ああ、やっぱりウオッカの鋭い差し脚は武器になる。凄い切れ味だ」

ウマ娘の中にはウマソウルを用いて物質を具現化させることが出来る者もいる。
得てしてそういう手合いの担当は人間を辞めている事が多いが、幸い──と言っていいのか判らないが、ウオッカは自身の身体強化に特化したタイプの様で、俺も胸を撫で下ろしている。
俺もウオッカも、平穏でいられるならそれが一番だ。
621/07/03(土)23:23:57No.819767551そうだねx1
そんな事を考えていると、いつもは騒がしいウオッカが随分と大人しい事に気がついた。
見ると顎に手をやり何事かをぶつぶつ呟いている。

「どうした?何か今日のトレーニングで気になる事でもあったか?」

「ん?ああいや、昼間のタイキ先輩の事を思い出しててよぉー。なんかさ、『ヴィクトリーショット!』とか言って足元が荒野に変わってさ、ああいうのすげえイカすよな!クゥー!俺もあんなの出せねえかなぁー!」

どうやら彼女の中の男子小学生が顔を覗かせただけらしい。
そうだな、と適当に相槌を打っていると、ウオッカは俺の目の前で回し蹴りを始めた。
ただの回し蹴りもウマ娘にかかればブォンブォンとバイクのエンジン音と聞きまごう程の風音を発して、種の違いと言う名の暴力に冷や汗が垂れる。
721/07/03(土)23:24:41No.819767990そうだねx1
「俺だったら、なんだろう……『アクセルX』……違うなぁ、んーこう、俺の個性が光る、差し脚、切れ味、バイク……『カッティング×Drive』」

最後の一言を耳にした瞬間、猛烈な悪寒が俺を襲い身体は師匠に叩き込まれた回避行動を全力で遂行していた。


ズ  パ  ン


回避行動を取った俺の真後方十数メートルにある外ラチが、目に見えない何かによって両断された。
821/07/03(土)23:25:10No.819768230そうだねx1
へたりこむ俺と、何が起きたかわかっていないウオッカ。
一瞬の空白の後、呆けたウオッカが事態を飲み込み、俺に駆け寄ってくる。

「あああ相棒!!だ、大丈夫か!!?」

「あ、ああ、なんとか……」

内心恐れていた事が、起きてしまった。
ウオッカのウマソウルが、目醒めた。
数多のウマ娘の中の何人かに起きるという『覚醒』という現象。
切っ掛けや起きる変化は様々だが、共通しているのはそれまでよりもウマソウルの発露が強力になるという一点。
流入する情報量に脳味噌をフル回転させながら傍を見ると、駆け寄って来たウオッカの手がワナワナと震えているのが目に入った。
掛かりか!?この状況で!?
921/07/03(土)23:25:44No.819768532そうだねx1
「あ、相棒、それ……」

震える指でウオッカが俺の胸を指す。
そこには、走る斬撃を躱し損ねて無惨に切り裂かれたジャージの残骸と、露わになった俺の上半身。

「ウ……」

「う?」

「ウワーッッッ!!!!!」

ウオッカは叫びと共に盛大に鼻血を噴き出して卒倒した。

「助かった……のか?」
1021/07/03(土)23:26:32No.819768934そうだねx2
鼻血を垂らして気絶する少女とその側でへたり込む上半身裸の男という名状し難い光景の中、俺がこの先生き残る為には何よりもこの純粋な少女との精神的な距離感、そして本当に正しい意味での肉体的な距離感をきちんと保つ事が最良であると理解した。

未来のダービーウマ娘、ウオッカ。
常識破りのその切れ味は、未だ発展途上。
1121/07/03(土)23:27:46No.819769545そうだねx2
以上です

しきりに人間じゃねえと言われるので人間のトレーナーとウオッカのバカコンビを書きました

この二人は永遠にギャグが書けるしカッコよくもかけるので好きです
1221/07/03(土)23:30:30No.819770862+
ウオッカペアなら少年漫画的な方向性に進めば健全なままで居られるかな…
1321/07/03(土)23:30:33No.819770895+
「報告は以上です。詳細は後ほど書面にて提出させていただきます」

「ウオッカ君は保健室か。仔細承知、今回の事は事故として生徒会も受理しよう」

「トレーナー主任としても特に何か注意すべき事は無いね」

「ありがとうございます。肩の荷が下りた気分です」

「いやあ、それはまだ早いんじゃないかなあ……」

「?それはどういう……」ガチャ
1421/07/03(土)23:32:22No.819771789そうだねx1
「?それはどういう……」ガチャ

「失礼、うちのがここにいると聞いたのでね」

「しっ、ししょ、師匠、どうして、あっ、それでは私はこれで」

「おいおい、俺は君に用があって来たんだ。気絶した担当を上半身裸で保健室まで運んだ未熟な不埒者君?」

「いやそれには深い事情がありましてですね」

「ああ、大体は把握しているよ。君がしっかりと鍛錬を続けていれば少なくとも半裸男という不名誉は与えられなかった。及第点はまだ早かったようだね」ガシッ

「それでは、失礼。報告書は2日以内に上げさせるからよろしく」ズルズル

「い、嫌だ!!人間辞めたくなーーーい!!!」
1521/07/03(土)23:41:48No.819776877+
ウブでよかった…
1621/07/03(土)23:42:32No.819777218+
初見の攻撃を見切れてるだけでも人外だよ…
1721/07/03(土)23:43:38No.819777751+
師匠も大概クソボケじゃねーか!!!!
1821/07/03(土)23:55:16No.819783504そうだねx2
ウオッカには柵を壊させたがる層がいるというのでその辺の需要も満たしてると思います

トレーナーに攻撃をさせるわけにもいかないのでそろそろネタ切れです
グラスは不退転なのでノーカン
1921/07/03(土)23:57:41No.819784844+
育成ストーリー時点である意味人外の域に踏み込んでるモルモット君とか…
投薬と修行でエグいことになってそう


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