ごちゃまぜボックス

１つ目
私と、その…結婚する前に聞いてほしいことがあるんだ。
かなり言いにくい話もしちゃうけど……その、セイちゃんの本音も知っておいてほしいかな〜…なんて、にゃはは。
私と一緒に寝てほしいし…あ、変な意味じゃなくてね？！それと、私と一緒に起きてほしい。
お休みの時は一緒に遊びに行きたいし、できるだけ側にいてほしいな。
うん、できる範囲でいいからさ。
あとさ…しばらくの間、私の地元で一緒に暮らしてほしいんだ。うん、おじいちゃんも心配だしね。
仕事は向こうでもトレーナー業はあるし、なんならセイちゃんもまだまだ走れますよ？
にゃはは、本当言うと私以外は担当してほしくないんだけどね。……なーんて！今のはセイちゃんジョークでーっす！
お仕事しないと、ご飯も食べられないもんね。
あのさ、私もサブトレーナーの勉強頑張るからさ、どっか行ったりしないでね。
あとトレーナーのスマホ、こないだ釣りの時に水没しちゃったでしょ？はい、お詫びに買ってあげました！
いいよいいよお礼なんて、私がはしゃいじゃったせいだしさ。
でもあんまり他の女の子の連絡先は入れてほしくないな……。

２つ目
俺の担当、セイウンスカイは本人こそ言わないものの、とても寂しがり屋で遠慮しがちな女の子だ。
ふと目を離せば、雲のように手元から消えて、猫のように去ってしまいそうに思えてしまう。
そんな予感を感じたある日から、俺は彼女へのふれあいをそれまで以上に増やした。
東にサボっているセイがいれば一緒に釣りをし
西に釣果に恵まれたセイがいれば共に恵みを味わい
南に仕掛けをほどこすセイがいれば結果が楽しみだと笑い合う
北に泣いているセイがいれば黙って胸を貸した
そうこう過ごしているうちに、彼女から一瞬感じる儚げな雰囲気は影を潜めていき、甘えたいときは甘えてくれるようになってきた。
しかし……。
「ねえ、トレーナーさん…あの、さ……私…あなたと、キスしたい……です」
紅く頬を染め上げ、潤んだ瞳でこちらを見つめ、かつてならこの後に待っていたであろう「にゃはは、冗談でーす☆」という言葉も来ない。
うん、俺も腹をくくろう。……でも、本当の一線は越えないようにしないと。
「だいすき…トレーナーさん」

好感度、誰それをどのくらい好きかという数値、人への気持ちなど簡単に計れるものではないと思いながらも、
私はそれを彼への好意とそれを覆い隠すスキンシップとして実行しようと考えた。
「おや、セイちゃんの好感度が…？ぴろぴろぴ…ぶぶ、ざんねーん。そんな簡単にはあがりませんよーだ」
嘘、本当はこうやって何気なく会話しているときだって、きっと上がり続けているくせに。
本音をほんの少しだけ伝えるように、残りは青空の私で埋め尽くす。
しかし、彼を見つめれば目を丸くしてこちらを見ている。はて、なにかまずいことを言ったかと思うが、少なくともこちらの気持ちは伝えないようにしてたは…ず……。
ガラスに映った私、それが彼が動転している理由を何よりも克明に表していた。
私の頭上に、なにかを表すであろう数字が浮かんでおり、それは刻々と上昇している。
あれは、間違いない。そう確信すると同時にアナウンスが流れた。
『本年度197回目のバイオハザードです、今回は担当トレーナーへの好感度が頭上に表示されるというものです。生徒の皆さんは――』
もう、残りのアナウンスは聞こえなかった。顔に血液が登っていくのがわかる。
「……うにゃああああああーーーーーー！！！！！！！」
もはや私に残された行動は逃げることだけだった。「セイ！」とこちらを呼び止める彼の声が聞こえるが、ごめんなさい今はもう無理です。
「もっとちゃんと薬剤管理してよトレセン学園ーーーーー！！！！！」
走りながら絶叫した私の声は、学園全体にこだましたという。

「セイ！！！！どこだ！！！！！」
意味の分からん薬が学園に広がり早3時間、俺はあれから彼女をずっと探し回っている。
寮やトレーナー室はもちろん、彼女のサボりスポットやお気に入りの店を回ってみたが未だに彼女の姿は見つけられない。
「セイ……」
あんな数字で、終わらせるものか。
あんな中途半端な形で、終えさせてなるものか。
君は、いつもこちらに触れるか触れられないかくらいの距離で、おっかなびっくり近づいてきてくれる。
そんな君が、俺は何よりも愛おしくて、いつまでも大切にしたいと思うんだ。
なのにこんな時にそばにいてやれなくて、何がトレーナーだ。何が愛おしいだ。
ふと、己の中でひらめきが生まれた。多分、なぜだか、そこにいると思えた。
走って向かった先は、トレーナー寮。以前に一度だけ、内緒だと招いたことがある。
『わートレーナーさんの部屋って二階なんですね、本気でジャンプすればベランダに侵入できちゃうかも』
『危ないからやめてくれよ？来たいなら言ってくれればちゃんと開けるから』
『にゃはは、本当ですかー？それなら、明日もお願いしまーす☆』
『もうちょっと日を開けてくれ！』

こんな会話が繰り広げられ、その日は釣り上げた魚を一緒に食べてお開きとなった。
ああ、セイ。ごめん、気づくのが遅れて……。
急いで家に帰って、乱暴に靴を脱いで、ベランダの戸を空けた。
そこにはうずくまり泣きじゃくってる彼女がいた。
「セイ……」
「ト、レーナーざん……ごめんなさい…勝手に……」
泣きながら謝る彼女に心を痛め、一もなく抱きしめる。
「謝ることじゃない、そしてありがとう」
「…なに、が？」
「俺の部屋を、逃げる先にしてくれて」
「……違う、んです。ここ、なら…今日は、トレーナーさんに、会わないですむかなって、帰ってきたのが分かったら、飛び降りればいいし……」
「でも、ここで待っていてくれてたろう？」
「……う”ん」

彼女の頭を左手で撫で、落ち着かせるように右手で背中をゆっくりと叩く。
「今日が終わったら、色々と話そう。俺も、君にたくさん伝えたいことがあるんだ」
「うん”」
「だから今日は、ゆっくり休もう。大丈夫、外泊許可なんて後からねじ込むから」
「うん」
それから、軽くご飯を作って、一緒に食べて、交互にお風呂に入って、寝支度をして。
一緒の布団に潜り込んだ。
彼女はまだ本調子ではないみたいで、布団に入ってからは何も言わずこちらに抱きついている。
もうすぐ、時計の針が12時を周る。
彼女の抱く力が、少しだけ強くなってきた。俺も彼女を優しく抱き返す。
分針が一分前を指し、秒針は残り半周まで迫る。

「なあ、セイ」
20秒
「……なんでしょーか」
10秒
「俺な、ずっとセイのことが」
0
「大好きなんだ」
「……うん！私も、トレーナさんのこと、大好き……！！」
今日が終わって、明日が始まった。きっと、今まで以上に楽しい明日が。
まあ、それはそれとしてセイを泣かせたのは許せないので薬剤管理部には怒涛のクレームをいれることにする。

３つ目
んあ〜？スカイの好きなところ〜〜？
じゃあまず性格からいくとだなぁ〜あの掴みどころのない性格に見せて実は寂しがりやだったり素直になれないところだなぁ。
たまにこっちが察してやると耳がピョコッて動いてな、もうかわいいのなんの。
そうそう、この間温泉旅行に行ったときなんか何かっちゃ理由をつけて甘えてきてなぁ、もう愛おしいよなぁ。
は？外見はどうなんだって？馬鹿野郎でめぇ大好きに決まってんだろ！！！
いやさぁ、俺ってスカイに出会う前ってロングが好みだと思ってたのよ、もう宗旨変えしたね、ショートボブ最高じゃない？
前に昼寝しちまった時に目を覚ましたらよ、目の前にスカイの寝顔があってさ、心臓止まるかもと思ったね、世界一幸せな瞬間だったわ。
実際同年代の子らと比べると発育はそこまででもないけど、まあ関係ないよな。もう最近指導で近づくのもドキドキしっぱなしだわ。

こないだ二人ででかけた時もさ、たまに冗談めかしてくっついてきてさ
「あれれ〜？トレーナーさんドキドキしちゃいました？」
ってちょっと顔赤くしながら言ってくんのよ。一瞬で輪廻から脱するところだったわ。
お？結婚したい家だって？そりゃもちろんできるなら今すぐにしたいわ！
まあ、でもまだまだあいつは走れるし、俺はあいつが走ってるとこが大好きだからな！俺の気持ちを押し付けてこの関係をぶっ壊すわけにゃいかんだろう！
よっしゃー！まだまだあいつのこと語ってやるから覚悟しとけー！
以上、セイウンスカイ担当トレーナーが酔っ払った時にこぼした彼女への愛の告白（撮影及び発案者：黄金世代の各トレーナーたち）
備考：視聴したセイウンスカイは顔を赤くして担当トレーナーの部屋へと向かった。


４つ目
ただひたむきに栄光を目指せばいいだけのレースに比べ、恋愛のなんと難しいことか。
相手の気持ちがまるで計れない上に、自分の気持ちばかり大きくなっていっている気がする。
肥大した恋心を抱えると、当然疲れてくるわけで、気付けばため息が日に日に増えてきている、そんなセイちゃんなのです。
そんな私が、ある日遭遇したハプニング、それは――。
「あれ？トレーナーさーん、いないの？」
珍しく時間通りに来た私は、彼のいないトレーナー室を見渡す。
なんということだ、私がオンタイムなだけでなく、彼が遅刻をするだなんて、明日は嵐か大雪か。
ふとスマホの通知が来たかと思えば、相手はその彼からのテキストメッセージだった。
『ごめん、体調悪いから今日は自主トレでお願い。なるべくレスポンスはするからわからないことがあったら連絡して』
全文を読み終わる前に私は部屋を飛び出す。向かう先は彼の部屋、校内を校則ギリギリのスピードで駆け抜け、守衛さんに事情を説明して寮に入れてもらう。
この間、私は無我だった。ただただ心配で、駆け抜けてたどり着いた、彼の部屋の前までは。

（……うわー！？このあとどうすればいいの！？！？！？）
インターホンを鳴らすのがまず第一手だろう、しかしまずその難易度が富士山よりも高い。
しかもその後は彼の部屋に入るのだ、日本海溝に沈むより呼吸の仕方がわからない。
どうしよう、逃げてしまいたい。
（いやいやいやいや！）
ここに至って逃げたら、その後絶対後悔する！秋天のあと、怪我をしたって有馬に出たあの闘志を思い出せ！
「……えいっ」
ピンポーンと、審判の音が響く。
響いたあとで、また後悔した。
（そうだよ、体調悪いんじゃん。来客の対応なんて面倒に決まってる）
もしかしたら居留守されちゃうかもな…と勝手に落ち込んでいたら、中から彼が応対する声が聞こえてきた。

「…あい、どちらさん？」
「あ、トレーナーさん？や、やっほー」
「……スカイ？なんで？」
よかった、出てくれた。不安や安堵、喜びを心の裡に閉じ込めて、明るい声でいつもの私を演じる。
「もうっ、なんでじゃないですよ？担当トレーナーさんが心配で心配で、セイちゃんったらお見舞いに来たんですよ？」
「ははっ、そうか…ありがとう。じゃあ、サボりついでにお願いするよ」
「にゃはは、お見通しでしたか」
うそ。
大嘘。
そんな打算なんて思いつかないくらい必死に飛び出したくせに。
鍵を開けてもらって、中に入ると、しんどそうな顔で無理に笑うトレーナーさんがいた。
「ごめんな、セイ。心配かけて、明日には治すからさ」

……胸が、締め付けられる。
彼がこれだけ疲労したのも、元はと言えば私のためで、なのに私に気にするなという。
私は、私はこの人に少しでも返してあげられているのだろうか。
きっと、彼はこの問に、十分だと応えてくれるのだろう。でも、足りない。
他ならない私自身が、足りないと思う。
「トレーナーさん、今日は全部、私にまかせて」
「いや、大丈夫だって」
「任せて、いいから」
彼は軽い訪問だと思っていたのだろう、小一時間くらいで帰そうと思っていたのだろう。
そうはいかない。
何が何でも、彼が治るまでそばにいる。
私は、自分自身でも認識していなかったことだが、一つの目標に心を置けば、結構集中できる方らしい。
ご飯を支度し、汗をかいた彼の下着を取り替え、冷たい水枕を用意する。
ついでに薬を調達して、自分の分のご飯も作る。

「スカイ？そろそろいい時間じゃないか？寮に帰らないと」
「ん〜？にへへ、大丈夫ですよ☆」
あと外泊許可も取った。
のらりくらりと彼の帰ったほうがいい発言をしのいで、気付けば22時。
彼はやはり疲れが溜まっていたようで、静かに寝息を立て始めていた。
彼の寝顔を見やる。大好きな、私の、トレーナー。
ふと気付けば、彼の顔が近づいてきている。いや、私が近づいて行ってるんだ。
「……大好き」
逃げ腰な私は、それ以上のことはできなくて。
弱腰な私は、それだけしか言えなくて。
彼に触れられない私が、どうしようもなく情けなくて、それでもこの時間が愛おしくて、感情がごちゃまぜになるのを無理やり落ち着かせて、私も目を閉じることにした。

翌日
「……う゛に゛ゃ゛ぁあ〜〜〜〜〜」
「ごめんな、すっかり風邪移しちゃったなぁ」
「責任とって〜〜〜」
「ああ、もちろん。しっかり取らせてもらうよ」
「………トレーナーさん、今のもう一回言ってもらえます？」
「ん？えっと、きちんと責任はとるって」
「……ﾖｼ」
「スカイ？」
「なんでもないでーす☆看病よろしくおねがいしますねぇ」
スマホでしっかり彼の発言を録音した私は、しばらくその音声でいろんな妄ｓ…計略を楽しむのでした、まる。

ちなみにセイちゃんはこのあとトレーナーの音声録音にハマりだしてトレーナーと一緒にいるときはほぼ録音アプリ起動するようになって寮でお気に入りの音声を繰り返し再生するようになる
その後感覚が麻痺してきてウマ耳フォンで音声聞きながら釣りしたり昼寝しだすようになって最終的にうっかりウマ耳フォンつけてる時にトレーナーと遭遇して「何聞いてるんだスカイ？」って問われたら自然に「トレーナーさんの声ですよ」って返して固まった後に顔真っ赤にして走り去っていく
あっこれ私の妄想の話ね！

５つ目
ウマ耳フォン、それはウマ耳用に開発されたヘッドフォン。
最近、私はそれを新調した、しかもそこそこ以上のお値段がするやつをだ。
なんでそんな事になったかと言うと、とある経緯から私はある趣味に目覚めたのだ。
『責任取るよ、スカイ』『俺も―ﾌﾞﾂｯ―好きだよ』『スカイ、こっちおいで』
「にへへへ…えへぇ……」
普段、トレーナーさんと会ってる時に録音アプリを起動して、それを簡単に編集したものを聞く、これが最近の私の趣味になっている。
いや、ここ最近で言えばもはや私だけの趣味とは言えない、秘密の趣味をどうしてもお披露目したくなった私は、ついにスペちゃんたちにこの趣味を告げたのだ。
最初の反応こそ、正直言えばドン引きされた。あの空気はちょっと忘れられそうにない。
それでも一回でいいから試してみなよ！と私にしては珍しく熱意を以て布教したところ、みんなドハマリした。
やはり私達ウマ娘にとって信頼の置ける（大好きな）トレーナーの声をいつでも聞けるというのは、（妄想の）パフォーマンスにとても影響するのだ。

トレーニングをして、会話をして、録音して。
サボって、迎えに来てもらって、録音して。
もはや音声ライブラリのデータはちょっとえげつないくらいの量になっていて、素人仕事のつぎはぎながら、望み通りの言葉を出してくれるまでになった。
そして、私はついに禁断の音声を作ることにした。
「ここを、こうして……よしっ再生」
『愛してる、スカイ』
「……に゛ゃ゛っ」
やばい、これはやばい。ただ繋げただけで、イントネーションも怪しいのに、それでも嬉しさと喜びが体中を跳ね回っている。
もし、もし……トレーナーさんから本当に言われたら。
「どうなっちゃうんだろ、私……」
そんなことをつぶやいた瞬間、ガラッとトレーナー室の扉が開かれた。入ってきたのは当然、私のトレーナーさんで、私は唐突のことにウマ耳フォンをとれなかった。

「お、スカイ、いたのか。昼寝の邪魔しちゃったか？」
「いえいえ〜、セイちゃんはちゃんと起きてましたよ？」
「そっか、なら良かったよ。……最近ウマ耳フォンをよく持ち歩いてるけど、なんかお気に入りの曲でも見つけたのか？」
「うん、トレーナーさんの声」
「……うん？」
「……あ」
やってしまった、言ってしまった。部屋の空気が凍っていく、いやトレーナーさんはいまいち内容を飲み込めていない。
「にゃ、にゃはははは！も、もう！冗談ですよ！！そ、それじゃあ私そろそろお昼休憩終わるんで、失礼しますね☆」
多分私の人生の中でも最も俊敏に体が動き、風のごとくトレーナー室を後にした。
（……私のばか〜〜〜！！！！）
放課後のトレーニングが気にかかりすぎて、午後の授業が身に入らなかったのは、言うまでもない話なのでした。

おまけ
「スカイ、さっきの話なんだが」
「うぇえ？！な、なんのお話でしょ〜〜」
「いや、スカイが俺の声聞いてるっていう」
「ぅぁ……は、はい…ごめんなさい」
「いや、謝らなくてもいいんだけど、なんかよくわかんないけど、スカイが俺の声聞いてるって言うならなにか協力しようか？」
「え、ええっ？！それ本当ですか！？」
「お、おう……全然いいぞ」
「じゃ、じゃあ！こんど台本書いて持ってくるんで録音させてください！あ、いっそレコーディングスタジオ行きましょうよ！」
「あ、ああ…分かった」
後日、渾身の台本をかきあげてニコニコ笑顔で持って行った私は、それがニアイコールでトレーナさんへの告白だと収録段階で気が付き、悶絶しながら彼の声を聞く羽目になる。
余談として、担当トレーナーに自分の望むセリフを録音してもらうという行為は一部のウマ娘の間で流行りだすのだった。

6つ目
「……ん？なんだろ、これ」
トレーナー室に来てみれば、謎の機械…いや、正直に言うと姿形はとても見覚えのある機械が机上に置かれていた。
「これ、あれだよね…ウマゴンボールのスカウター」
大人気国民的漫画、ウマゴンボールに登場した相手の戦闘力を計る機械だ。田舎育ちの私は、夏の娯楽の一つに再放送アニメを視聴することがあったので、よく分かる。
一点だけ違うのは、側頭部側の機械部に『M.C』と書かれているという点だけ。
「ふーん、なんか面白そうだからつけてみよ。うーん、やっぱり戦闘力計れちゃうのかな？」
ということはまずはトレーナーさんの戦闘力計ってみちゃいますかねぇ。と考えていたら、ガラッとドアを開ける音がした。音の主はもちろん彼だった。
「おっスカイ、それつけてくれたのか？」
「やっほートレーナーさん。どりゃどりゃ、戦闘力はいかほど〜？」

『100700』
「そんなに」
「いやあ、こないだの祭りの出店で買ったやつだからどうせ適当に出してるだけだよ」
「いやいや、トレーナー力ということで言えばむしろ妥当な数値なのでは〜？」
「ハッハッハッハッ褒めても休みは増えないぞ？」
「ちぇっケチだなぁ」
「まあまあ、せっかくだからスカイのも計らせてくれよ」
「しょうがないにゃあ、じゃあトレーナーさんにじっくりセイちゃんのこと見回す権利あげちゃいまーす☆」
『101410』
「そんなに」
「スカイの実力なら妥当だろ？」
「も〜！もうっ！褒めても次にお刺身捌く当番は変わってあげませんよ？」
「下心バレてたか〜！！」

おバカな会話をしていると、スカウターから光が投影されて、プロジェクターのごとく壁に画像を映し出した。
『おめでとうございます！お二人の愛情値が近似値かつ、とても大きな数値を記録しました！』
「ん？」
「へ？」
『この製品は、ウマ娘とトレーナーの愛情を記録する装置です。お互いがこのスカウターを装着し数値を計り合うことで一心同体度を計測します』
「一心？」
「同体？」
『概ね1000を記録すれば素晴らしい愛情をお持ちで、さらにお互いの数字が±5％以内の数字であれば完璧な一心同体であると言えますわ！』
『なお、このスカウターは十分なサンプル数を記録しており、精度はたしかなものと自負しております』
『お二人のさらなる一心同体を願っておりますわ！メジロコーポレーション代表M.M』

「……スカイ」
「ひゃ、ひゃい」
「あの、なんていうか……今晩、開いてるか？」
「う、えあ…あ、空いてます……」
「じゃあ、会ってくれるか？今から、その…色々準備するから」
「うん…ま、待ってる…ます……」

この晩、愛情値がめちゃめちゃ増えた。

7つ目
ウマ娘との適切な距離感、という講習をしていたところをたまたま見かけた。
なるほど、噂に聞くところによるとトレーナーたちの寿退社率がとても高いらしい。それを憂慮した対策の一つ、ということだろうか。
さて、私と担当トレーナーさんのことを考えてみよう。

そもそもの出会いは、私が急ぎ担当を見つけなければならない時に、たまたま当時からのリラックスルーム（またの名をトレーナー室）でお昼寝していた時に出会った。
言うなれば、私にとって都合のいい、特に口やかましくなくサボりも黙認してくれそうな人、ただそれだけだったからあの人に担当を願い出た。
……確かに、彼は口やかましくはなかったし、サボりに厳しくもなかった。だけど、それは決して情熱がない人だったわけではなく、彼の情熱を以て、私に合わせてくれたのだ。
私に合わせて、一緒に策を考えてくれたし、私に合わせて、練習の効率を最大限まで高めてくれた。


そして、私が私自身に失望して逃げようとした時に、彼は私に合わせるために、追いかけてきてくれた。
彼の秘めていた情熱は、私の中で燻っていた闘志を、以前よりも熱く燃え上がらせた。
私はその後、秋の天皇賞と有マ記念、トゥインクルシリーズの栄光を冠するURAを制した。
さあ、燃え尽きたなぁと思っても、やっぱり彼は放してくれず、来年からはドリームリーグに挑戦予定だ。

「おやおやぁ？適切な距離感とは一体何でしょうねぇ〜」
件の講習は、今年着任した新人トレーナーへのもので、おそらくは彼もかつて受講したことがあるはずだ。
この講習がどのようなものか、全貌はわからないが、私達ウマ娘に入れ込みすぎないように、みたいなことは言われたはずだ。
でも彼は、私が逃げようとしても追いかけてきてくれて、私が甘えたいときには甘えさせてくれて、私がとびっきりのサプライズをしたときは、本当に本当に嬉しそうにしてくれた。


「……はあ、都合のいい人なだけだったら、どんなに楽だったかな」
そんな人だったら、いま私は確実にここにいないだろうけど。
そんな人だったら、いま私はこんなにも大きい熱を秘めていなかっただろうけど。
あんな人だったから、私は今も青空に浮かぶ雲のように漂っていられるんだ。

「お、スカイ。こんなとこでどうしたんだ？」
「トレーナーさん」
じっと、彼の顔を見る。私がアナタに会うために、わざとこの辺をふらついていたと言ったら、アナタはなんて言うかな。
「どうした？黙りこくって」
「なんでもないですよ。あっやっぱりなんでもありました」


ハイ、と彼にポケットから取り出したものを渡す。彼はちょっと不思議な顔をしたけど、ちゃんと受け取ってくれた。
「これは……ルアーか？あ、でも刺さらないようになってる」
「はい、正解です。ずっと使ってたやつなんですけどね、ドリームリーグへの挑戦を皮切りに新調しようと思いまして、それはなんていうか、セイちゃんの分身みたいな、キャハ☆」
「……ありがとうな、スカイ」
「も、もう、そんな真面目な顔で言われたら冗談って言いづらくなっちゃうじゃないですか。あんまり重く受け取らないでくださいね、この3年間のお礼…みたいな、感じですから」
「うん、大事にするよ」
「……も〜〜〜〜！！！」

ほら、やっぱりアナタは、逃げようとする私を捕まえてくれる。
だから、私は、アナタが……大好きなんですよ。