長い…今や誰も開戦の理由すら思い出せないほど長い戦争が…終わりも見えないまま三日ほど続いていたし… 「無冠よ…この三冠の後にしっかりついてくるし…!」 「りょ…了解だし…!」 弾丸と悲鳴が飛び交う狂気の戦場を、三冠の熟練たぬきが新米の無冠たぬきを連れて駆けていくし… あたふたと周りを見回しながらなんとか銃を抱えて走るのが精一杯の無冠たぬき… 一方三冠たぬきは冷静に敵の攻撃を避けられるルートを選びつつ、着実に敵の陣地へ接近していたし… 「さ…三冠…流石だし…!」 「フフ…よく見てるし無冠…。いつかはお前がこの私のように、カッコよく新米を率いてぐぎゃぁああああ!」 「さ、三冠ーッ!!」 もう少しで敵の本隊を攻撃できるというところまで来て、三冠たぬきの右足とお腹に運悪く敵の凶弾が直撃してしまったし… 「さ、三冠…!大丈夫だし…!?」 「フ……し…心配するなし無冠…たとえ足が撃ち抜かれ、腹を貫かれようとも…私は仲間たちのため…最後まで戦い続けるし…!」 脚とお腹を撃たれたというのに、三冠たぬきは歯を食いしばって立ち上がろうとするし… その決して諦めない気高い姿はまさにたぬき軍人の鑑…。 気高き魂を持つ偉大な三冠隊長と、その熱き魂の火が燃え移り始めた勇気ある無冠隊員は、負傷してなお衰えぬ戦意を瞳に宿らせながら一気呵成の突撃を 「あっコラ!そこのたぬきちゃん?水鉄砲が当たったなら、ちゃんと手を上げてヒットって言わなきゃダメよ?」 「はい…」 審判のスズキに怒られたので三冠たぬきは即座に退場していったし… 一人取り残された無冠たぬきもその後間もなく敵軍の集中砲火にあい、尻尾も濡れて退場したし… 「メーデーだし…メーデーだし…!」「尻尾が…私の尻尾がぁぁ…!」「だ…誰か助け…っ!至急えんぐんを…!」「な…七冠が出てきてるなんて聞いてないし…!話がちがっ」「うわぁぁぁん水が目に入ったしぃぃぃぃ!スズキィイイイ!」「あぁはいはい、よしよし痛かったわねぇ…」 ──たぬきたちの悲鳴、そして水鉄砲と水風船が出すビシャビシャという音がこだまする悲惨な戦場──トレセン学園校舎裏戦線…。 トレセン学園の敷地内を住家とする学園軍…。 スズキがよく走ってる道の辺りを縄張りとする野生軍…。 たぬきたちはこの二つの派閥に別れ、連休で暇してるスズキに付き合ってもらいながら悲惨な戦争をしていたし…。 「クソッ…野生軍のやつらも本気を出してきたし…。本部…敵軍の七冠たぬきを三人確認したし…!こっちの七冠も呼び出してぶつけるし…!」 「ダ…ダメだし…!こっちの七冠は今右の方で戦ってて忙しいし…!」 「そ…そんな…!うわぁぁぁぁっ!」 戦況はほとんど互角…。 しかしそれ故に時間が過ぎれば過ぎるほど、両軍共に被害は大きくなり続け…。 もはやお互いに『勝つまで終われない』というところまで戦意は膨れ上がり、どちらかが完全に砕け散るまで誰にも戦争を止めることはできなくなっていたし…! 「あら、もう五時のチャイム…。ハイたぬきさんたち、今日はここまでにして暗くなる前に帰りましょうね?」 「「「「「はい…」」」」」 夕方になったので今日は一旦解散ということになったし…。 「…クソ…。今日も決着がつかなったし…。尻尾も濡れたし…」 「もう限界だし…。これ以上戦争が長引くのはまずいし…」 夜。 巣穴に帰った野生軍のたぬきたちは、ご飯を食べながら作戦会議をしていたし…。 「もうご飯の貯蓄が残り少ないし…。ここのところみんな一日中戦争に夢中でご飯集めてなかったから…。このまま食べるものがなくなっちゃうと、もう降伏するしかないし…」 「おのれ…本来ならもうとっくに勝ってるはずの戦だったし…。こんなに長引くとか思ってなかったし…。わかってたらもっと事前に用意してたし…」 単純な戦力だけならば、学園軍よりも野生軍の方がかなり高かったし…。 安全な学園内でヌクヌクと過ごしているたぬきたちと違い、野生で農耕や狩りや運送業などをしているたぬきたちは鍛えられていたし…。 何より体格・技術・その他諸々全てにおいてたぬきたちの最高戦力である七冠たぬきの数が、学園軍は二人しかいないのに対し野生軍は五人もいたんだし…。 なのに何故ここまで戦況が互角に持ち込まれてしまっているのか…。 それは物資の差にあったし…。 まず第一に水の差があるし…。 学園軍は学校の敷地を背にして戦い、野生軍はお外を背にして戦わなければならない以上、こちらは水鉄砲や水風船に入れるためのお水を手に入れるのに、いちいち川から酌んでこなきゃいけないし…。 バケツ重くて大変だし…。七冠たぬきに手伝ってもらわないと運べないし…。あとたまに川で溺れるし…。 一方学園軍は後方にある学園の水道で普通に水が補給できるし…。ズルいし…。 第二にさっきも言ったけどご飯の余裕に違いがあるし…。 学園にいるたぬきたちはスズキや他の生徒たちのお手伝いをしたりでちゅね遊びをしたりしてたくさんお菓子をもらってるらしいし…。たまに学園にいる変な食いしん坊に全部食べられるらしいけど、基本的には野生のたぬきたちよりご飯には困らないし…。 だから戦いが長引いてご飯がなくなると降伏するしない野生軍と違い、学園軍は長期戦上等、とにかく多少押し負けても大崩れはしないように徹底的に守りに入り続けていたし…。 「もう…食料は保って1日だし…。明日決着がつかなかったら、白旗をあげて降伏して…ご飯を分けてもらうしかないし…」 「……なんでそんなにご飯の残りが少ないんだし…?普段はもっと余裕あるはずだし…」 「初日の時…ずっと優勢だったから…。これは勝ったなって…みんなで早めの祝勝会パーティやっちゃったし…。あれで一気に減ったし…」 「あぁ……」 リミットは、あと1日…。 しかし、ここ数日全く攻めきれなかったということを考えると、たった1日で勝つというのは絶望的だったし…。 もうダメか…。 みんながそう思い、地面に寝っ転がって手足をジタバタさせ始めたその時…。 一人のたぬきが手を挙げたし…。 「心配するなし…既に手は打ってあるし…。戦争は明日終わるし…」 「七冠…!それは本当だし…?」 群れのリーダーである七冠たぬきの一人が、スズキに作ってもらった段ボールのメガネをクイクイさせながらそう言ったし…。 「これだけはやりたくなったけど…もう手段は選んでられないし…。学園軍のやつらの拠点に、最終兵器を出撃させたし…」 「さ…最終兵器…?なんだし…聞いたことないし…」 皆がそう首を傾げると、七冠は最終兵器とやらの説明をしたし…。 その瞬間、群れにざわめきが起こったし…。 「え…?そ…それはいくらなんでも…」「非人道的すぎないかし…?」「流石に可哀想だし…」「スズキに怒られるかも…」「人の心はないし…?」 一斉に狼狽えだすたぬきたち。 しかし、もうサイは投げられてしまっていたし…。 「…どのみち、このまま普通に戦ったのでは降伏するしかないし…。敵に情けはかけず、徹底的に戦うし…!」 「…な…七冠がそう言うなら…」 メガネ七冠とは別の七冠たぬきの一言で、他のたぬきたちも覚悟を決めたし…。 『明日で終わらせる』…皆その想いを胸に、橋の下で眠りについたし…。 「フフフ…明日…明日で戦争は終わるし…」 「攻めずとも…ただ守っているだけで勝手に相手が力尽きる…楽な戦だし…」 学園軍本拠地(栗東寮の空き部屋)。 勝利を確信した学園軍たぬきたちは、無冠も三冠も七冠も、みんな集まって少し早めの勝利の美酒(コーラ)に酔っていたし…。 「これでスズキの手作りトロフィーは、我ら学園軍のものだし…」 「どう考えても負ける要素が見つからないし…。向こうより兵士の数は少なくても、ご飯いっぱい食べてるからみんな元気だし…」 「あとはイレギュラーさえなければ…」 「ワオ☆ 可愛いたぬきちゃんたちがいっぱぁ~い☆」 「「「……え…?」」」 たぬきたちの拠点に、いつの間にか安心沢刺々美が出入り口を塞ぐように立っていたし…。 「『お友達』から話は聞いてるわ!私の針で強くなりたいんでしょう?任せてちょうだい!バッチリやってあげるから!ワオ、あんし~ん☆」 「……う…うわぁぁあああああ!!」「は…針ぃぃ!注射嫌だしぃぃぃ!怖いしぃぃぃ!」「く、くるな…さわるな…」「スズキ…!誰か…助け…!」 「……あらぁ~?みんな寝っ転がってジタバタしちゃって…。もう、そんなに暴れちゃったら針が刺しにくいでしょう?大人しくしなさいっ!」 「やっ…やめっ……!!」 「あぁもうこのままやっちゃうか!ほ~ら、ブスッと大成功☆」 ──ブスッ!!!! 次の日。 「計画通りだし…学園軍の軍勢が明らかに人数減ってるし…。残ってるたぬきも見るからにゲッソリしてるし…」 「もはや奴らの陣地は吹けば飛ぶような藁の家だし…。全軍突撃だし…!」 計画が見事にハマり、学園軍は半ば壊滅状態になっていたし…。 野生軍はこのチャンスを逃さず、即座に戦争を終わらせんと後方に温存していた部隊も全てかき集め、一団となって突撃を始めたし…。 あとはボーリングのピンに球をぶつけるが如く、野生軍のたぬきたちがヘロヘロの学園軍を蹴散らして戦いを終わらせるだけ…誰もがそう思ったその時だったし…。 ──ヒューン、ビシャッ! 「わっぷ!?」 「な…なんだし…!?急に頭も尻尾も濡れたし…!?」 「撃たれてないのに濡れちゃったし…!おかしいし…!」 突然、先頭を走るたぬきたちが全身ずぶ濡れになってしまったし…。しかし学園軍は水鉄砲を構えてすらいなかったし…。 ならば何故濡れたのか…もしかして雨でも降ってきたし…? そう思って野生軍のたぬきたちが空を見上げると…。 ──ブゥゥゥゥン… 「あの針ぶっ刺されてからなんか尻尾で飛べるようになったし…」 「上から敵に水風船落としまくれば無敵だし…」 …その視線の先には、奇跡的に笹針が成功したため尻尾をプロペラのように回して空を飛ぶことができるようになった、数人の航空たぬき小隊の姿があったし…。 「「「う、うわぁああああああ!!」」」 いくら野生軍が学園軍に対して戦力の質・量ともに上回っていたとしても、それが通用するのはあくまで前後と左右…つまり二次元の戦場での話だったし…。 三次元からの攻撃……つまり水鉄砲が届かないほどの高さの上空からの攻撃は、どれほど軍勢の数を揃えようが、七冠たぬきが何人いようが、まったく意味がなかったし…。 「こっ…こっちの水鉄砲は届かないのに…!相手が上から撃ってくる水鉄砲は届いちゃうし…!」 「わっぷ…!高いところから水風船落とされると、めっちゃ広い範囲に水飛び散るし…!一発だけでも大勢やられるし…!」 「逃げるし!逃げるしぃぃぃ!」 野生軍のたぬきたちは散り散りになって逃げ惑い…しかし空を飛んでいる相手には走って逃げてもすぐ追い付かれてずぶ濡れにされ、逃げ惑い、ずぶ濡れにされ、逃げ惑い、ずぶ濡れにされ……。 「「「「もう無理だし…尻尾も濡れたし…」」」」(ジタバタジタバタジタバタジタバタ) 数分もする頃には、七冠も三冠も無冠もみんな泣きながら手足を地面に投げ出して、ジタバタするだけになってしまったし…。 戦争は終わったし。 勝利者である学園軍のたぬきたちにはスズキの手作り折り紙トロフィーが送られると共に全員におめでとう勲章メダルが配られ、敗者である野生軍のたぬきたちにはがんばったね勲章メダルが配られたし…。 そして戦いが終わったならば、やることは一つ…。 「それじゃあたぬきちゃんたち、みんなで打ち上げパーティーしましょうか!」 「「「わぁぁぁい!」」」 連休最後の日、たぬきたちは学園軍も野生軍もなくみんなで肩を組んで同じ窯の飯を食い、数日に渡った大規模な戦争で生まれたわだかまりを消していったし…。 あれほど激しく戦ったのがまるで嘘のように、たぬきたちはお菓子を頬張りながら、お互いに幸せそうな笑顔で語り合ったのでしたし…。 めでたしめでたし…。 なお、後日校舎裏の花壇を連休の間に水浸しにした罪により、エアグルーヴに呼び出されたスズキとたぬきたちは全員花壇整備の強制労働の憂き目にあってしまうのだが、これはまた別のお話だし…。