今日書いたやつ 私と、その…結婚する前に聞いてほしいことがあるんだ。 かなり言いにくい話もしちゃうけど……その、セイちゃんの本音も知っておいてほしいかな〜…なんて、にゃはは。 私と一緒に寝てほしいし…あ、変な意味じゃなくてね?!それと、私と一緒に起きてほしい。 お休みの時は一緒に遊びに行きたいし、できるだけ側にいてほしいな。 うん、できる範囲でいいからさ。 あとさ…しばらくの間、私の地元で一緒に暮らしてほしいんだ。うん、おじいちゃんも心配だしね。 仕事は向こうでもトレーナー業はあるし、なんならセイちゃんもまだまだ走れますよ? にゃはは、本当言うと私以外は担当してほしくないんだけどね。……なーんて!今のはセイちゃんジョークでーっす! お仕事しないと、ご飯も食べられないもんね。 あのさ、私もサブトレーナーの勉強頑張るからさ、どっか行ったりしないでね。 あとトレーナーのスマホ、こないだ釣りの時に水没しちゃったでしょ?はい、お詫びに買ってあげました! いいよいいよお礼なんて、私がはしゃいじゃったせいだしさ。 でもあんまり他の女の子の連絡先は入れてほしくないな……。 俺の担当、セイウンスカイは本人こそ言わないものの、とても寂しがり屋で遠慮しがちな女の子だ。 ふと目を離せば、雲のように手元から消えて、猫のように去ってしまいそうに思えてしまう。 そんな予感を感じたある日から、俺は彼女へのふれあいをそれまで以上に増やした。 東にサボっているセイがいれば一緒に釣りをし 西に釣果に恵まれたセイがいれば共に恵みを味わい 南に仕掛けをほどこすセイがいれば結果が楽しみだと笑い合う 北に泣いているセイがいれば黙って胸を貸した そうこう過ごしているうちに、彼女から一瞬感じる儚げな雰囲気は影を潜めていき、甘えたいときは甘えてくれるようになってきた。 しかし……。 「ねえ、トレーナーさん…あの、さ……私…あなたと、キスしたい……です」 紅く頬を染め上げ、潤んだ瞳でこちらを見つめ、かつてならこの後に待っていたであろう「にゃはは、冗談でーす☆」という言葉も来ない。 うん、俺も腹をくくろう。……でも、本当の一線は越えないようにしないと。 「だいすき…トレーナーさん」 好感度、誰それをどのくらい好きかという数値、人への気持ちなど簡単に計れるものではないと思いながらも、 私はそれを彼への好意とそれを覆い隠すスキンシップとして実行しようと考えた。 「おや、セイちゃんの好感度が…?ぴろぴろぴ…ぶぶ、ざんねーん。そんな簡単にはあがりませんよーだ」 嘘、本当はこうやって何気なく会話しているときだって、きっと上がり続けているくせに。 本音をほんの少しだけ伝えるように、残りは青空の私で埋め尽くす。 しかし、彼を見つめれば目を丸くしてこちらを見ている。はて、なにかまずいことを言ったかと思うが、少なくともこちらの気持ちは伝えないようにしてたは…ず……。 ガラスに映った私、それが彼が動転している理由を何よりも克明に表していた。 私の頭上に、なにかを表すであろう数字が浮かんでおり、それは刻々と上昇している。 あれは、間違いない。そう確信すると同時にアナウンスが流れた。 『本年度197回目のバイオハザードです、今回は担当トレーナーへの好感度が頭上に表示されるというものです。生徒の皆さんは――』 もう、残りのアナウンスは聞こえなかった。顔に血液が登っていくのがわかる。 「……うにゃああああああーーーーーー!!!!!!!」 もはや私に残された行動は逃げることだけだった。「セイ!」とこちらを呼び止める彼の声が聞こえるが、ごめんなさい今はもう無理です。 「もっとちゃんと薬剤管理してよトレセン学園ーーーーー!!!!!」 走りながら絶叫した私の声は、学園全体にこだましたという。 「セイ!!!!どこだ!!!!!」 意味の分からん薬が学園に広がり早3時間、俺はあれから彼女をずっと探し回っている。 寮やトレーナー室はもちろん、彼女のサボりスポットやお気に入りの店を回ってみたが未だに彼女の姿は見つけられない。 「セイ……」 あんな数字で、終わらせるものか。 あんな中途半端な形で、終えさせてなるものか。 君は、いつもこちらに触れるか触れられないかくらいの距離で、おっかなびっくり近づいてきてくれる。 そんな君が、俺は何よりも愛おしくて、いつまでも大切にしたいと思うんだ。 なのにこんな時にそばにいてやれなくて、何がトレーナーだ。何が愛おしいだ。 ふと、己の中でひらめきが生まれた。多分、なぜだか、そこにいると思えた。 走って向かった先は、トレーナー寮。以前に一度だけ、内緒だと招いたことがある。 『わートレーナーさんの部屋って二階なんですね、本気でジャンプすればベランダに侵入できちゃうかも』 『危ないからやめてくれよ?来たいなら言ってくれればちゃんと開けるから』 『にゃはは、本当ですかー?それなら、明日もお願いしまーす☆』 『もうちょっと日を開けてくれ!』 こんな会話が繰り広げられ、その日は釣り上げた魚を一緒に食べてお開きとなった。 ああ、セイ。ごめん、気づくのが遅れて……。 急いで家に帰って、乱暴に靴を脱いで、ベランダの戸を空けた。 そこにはうずくまり泣きじゃくってる彼女がいた。 「セイ……」 「ト、レーナーざん……ごめんなさい…勝手に……」 泣きながら謝る彼女に心を痛め、一もなく抱きしめる。 「謝ることじゃない、そしてありがとう」 「…なに、が?」 「俺の部屋を、逃げる先にしてくれて」 「……違う、んです。ここ、なら…今日は、トレーナーさんに、会わないですむかなって、帰ってきたのが分かったら、飛び降りればいいし……」 「でも、ここで待っていてくれてたろう?」 「……う”ん」 彼女の頭を左手で撫で、落ち着かせるように右手で背中をゆっくりと叩く。 「今日が終わったら、色々と話そう。俺も、君にたくさん伝えたいことがあるんだ」 「うん”」 「だから今日は、ゆっくり休もう。大丈夫、外泊許可なんて後からねじ込むから」 「うん」 それから、軽くご飯を作って、一緒に食べて、交互にお風呂に入って、寝支度をして。 一緒の布団に潜り込んだ。 彼女はまだ本調子ではないみたいで、布団に入ってからは何も言わずこちらに抱きついている。 もうすぐ、時計の針が12時を周る。 彼女の抱く力が、少しだけ強くなってきた。俺も彼女を優しく抱き返す。 分針が一分前を指し、秒針は残り半周まで迫る。 「なあ、セイ」 20秒 「……なんでしょーか」 10秒 「俺な、ずっとセイのことが」 0 「大好きなんだ」 「……うん!私も、トレーナさんのこと、大好き……!!」 今日が終わって、明日が始まった。きっと、今まで以上に楽しい明日が。 まあ、それはそれとしてセイを泣かせたのは許せないので薬剤管理部には怒涛のクレームをいれることにする。