「やあ、君がファインくんのトレーナーだね」 「わざわざ呼びつけて済まなかったね、さあそこにかけてくれたまえ」  そう言って彼女は俺に紅茶を差し出してきた。俺は近くにあった簡素なスツールに腰掛けた。 「すみません」  ややあどけなさが残る顔立ちのベッドに横たわった青年、彼女のトレーナーが申し訳無さそうにこちらを見つめてくる。  ここは彼女、アグネスタキオンのトレーナーのトレーナー室、で、合っているはずだ。開け放たれた窓には白いカーテンがはためいている。種々の薬品が陳列された藥品棚に、何に使うかわからない実験器具。相当に改造されている。窓から流れてくる爽やかな風と薬品の匂い。これは研究室。 「時間もないことだし手短に行こう」 「見ての通りうちのモルモットくんは静養中でね、その代わりを君に頼みたいんだ」  俺を実験台にするつもりだ。 「君をここに呼び立てたファインくんとは話が付いている」 「後は君が首を縦に振るだけという寸法さ」 「体に害はないので……」  と、彼女のトレーナーが続けた。何の説得力もない。 「ファインくんと睦事に及ぶ前にこれを飲んでくれたまえ」  俺は三粒のカプセルを手にとった。 「三回分だよ」 「君は使用感などをレポートにまとめて提出してくれるだけでいい」 「普段はもうちょっと慎重に進めるんです」  有無を言わさぬ彼女の態度をトレーナーが必死にフォローしている。 「鈍痛や動悸を訴えるものもいるが、何も問題はない」 「あとは、まあ、わずかに光るくらいさ」  僅かという部分は嘘であろう。 「君は、覚悟してここに来たんだろう?」 「結局ファインくんの方も弄ることになったが、それだけでは芸がないからね」 「成功例もある、君等で二例目さ、期待してくれていいよ」 「ありがとう、使わせてもらうよ」  俺はそれだけ言って、ラボを後にした。  入れ替わりにクーラーボックスを持った女性が入っていくのが見えた。出入りの業者までいるのか……。     「モルモットくぅん、メジロさんとは話が済んだんだろう?おなかすいたよー」 「ごめん、なにか取るからもう少し待ってね」 「はーやーくー」