「何か気に触るような事をしたか？」
「いえ、そんなことは。ただ指示された量を超した自主練をしていましたし、今はその……」

最後はなんでもありませんと、彼女は俯いた。
語尾は掠れて聞き取れないが、内心で安堵する。
確かに指示を聞かないのは拙いが、関係に罅が入るよりはマシだ。まだ修正できる。

と、急にフラッシュが顔を上げて、こちらを見た。
視線は先程までの戸惑った物とは違い、怜悧さを取り戻している。

「――――ところで、それはコンビニの袋でしょうか」
「あ、あぁ。軽い、ジャンクなものが食べたくなって、消耗品の補充がてらな」

と言いつつ、背中を冷や汗が流れる。
カッチリとした管理を好むフラッシュは、当然だがカロリー計算にも煩い。

何故だが最初のG1を越えてから、こちらの私生活まで干渉するようになってきた。

やれ『朝は規則正しく起きるのが大事です』とモーニングコールをしてきたり。
やれ『昼食は栄養とカロリー比が重要です』と部室で食べさせられたり。

その分、俺の指導内容を信頼してくれるようにもなったのだが……

（この流れは拙い、怒られるパターンだッ！　この危機を乗り越えなくてはッ！！）

Ａ：菓子パンで買収する
Ｂ：スポーツドリンクを差し出す
Ｃ：タオルをかける

ﾆｱ　菓子パン

「ど、どうだ？　運動した後だ。腹でも空いてるんじゃないか？　ほら」
「……こんな高カロリーで糖分の塊を食べようとしていたんですか？　夕食ではありませんよね？」
「ま、まっさかぁ〜。勿論、夕食は別に食べるって！」

スゲェ顔で睨まれた。うちのお袋みてぇ。
頬の引き攣る俺の手から、一瞬で菓子パンと買い物袋が奪われる。
あっ、と思うもフラッシュの鋭い視線の前に、取り戻す気力も残らない。

「カロリーオーバーです。はぁ、仕方ありません。今から私が食事を作りに行きます」
「えっ、今から？　ちょっと遅いんじゃ……」
「不満はありませんよね？　当然ですね。ではシャワーを浴びてきますので待っていて下さい」

こちらを押し切り去っていく。もっと別の事を言えばよかった……。

ﾆｱ　スポーツドリンク

「そ、そうだ！　汗かいて、喉渇いてるんじゃないか？　水分補給してくれ」
「ッ……！　け、結構です！　喉なんて渇いていません」

肩がびくりと跳ねると、頬膨らませてフラッシュは顔を背けた。機嫌を損ねたか？
だが冷静に考えて担当トレーナーとして、見過ごすわけにはいかない。

「いや言い直す、飲むんだフラッシュ。脱水症状で倒れられた困る」
「倒れる心配は無用です。ちゃんと後で「それでも俺は心配なんだよ。ダメか？」
「……私を心配してくれるんですか？　倒れても自業自得ですよ」
「当たり前だろ。何処に女の子が倒れて心配しない奴がいる」

下手に出ると、暫し口をもごもごさせて、結局は受け取ってくれた。
茜色に染まりながらぼんやりとドリンクを飲むフラッシュ。セーフ、かな……？

ﾆｱ　タオル

「ほらタオルだ。早く汗を拭け」
「え、あの、その……」

妙に動揺するフラッシュの頭に、新しいタオルをかける。
髪形が崩れるとかを心配してるのかもしれないが、知ったこっちゃない。

「まだ日が出てるといえ、寒くなる。そのままだと風邪ひくぞ」
「はい……」

のろのろと無言で汗を拭うフラッシュの耳が伏せる。何か警戒している？
妙な沈黙と時間が流れるが、全く心当りがない。

いい加減気まずくなり尋ねようとした時、先に彼女の口から破られた。

「その……私はそんなに汗臭かったですか？」

は？　と思う。もしかしたら口に出していたかもしれない。
だが顔を上げたフラッシュの目は、真剣そのもので、潤んですらいる。

思えばG1レースを争うウマ娘とはいえ、彼女はまだ青春真っ盛りの少女だ。
トレーナーの俺相手とはいえ、汗の臭いくらい気にするのだろう。

「いいや全然気付かなかった。人間はウマ娘ほど臭いに敏感じゃないしな」
「そうでしたか……いえ、それでも」
「それより俺は、フラッシュが風邪を引かないかが心配だよ。ほら」

頭を拭いてやると、髪が乱れますと不満を口にするが、されるがままだ。
結局、罰として寮で夕食をご馳走する事になったが彼女が笑顔なら良いだろう。
え？　外泊許可を貰った？　明日はオフだから寝かさない、って、ちょ、あ、あぁ――――ッ！

掛かっているようですね(トレーナーの部屋で)落ち着けるとよいのですが

エイシンフラッシュと絆を深めつつ三年間を過ごす幻影を見たが、適性がないため失礼する。

おい待てぇ失礼するんじゃねえ

オイ待てぇ適性あるから失礼すんじゃねえ

オイ待てェ失礼するんじゃねェ
データキャラがデータを捨てて掛かってくるオイシイ部分を投げっぱなしにするんじゃねえ

キチガイ三連不死川来たな…

3つもコース取り考えられる文才持ってるから適正A+視界金スキル持ちだ安心して走ってくれ

これで適正ないとか言ったら俺の適性がG超えてZになるんだが？

ファル子シナリオでスケジュール病なフラッシュなのに「たまたま」時間が空いてるのすき…

エイシンさんの香り…

9分胸を見てましたね？って言われても
いや、午前中も合わせたら20分だな、くらい返しそうなトレーナー

クール系美少女が段々身だしなみや汗の臭いを気にし出すのいいよね

この距離感はBでも下手したら最終的に乗り込まれてしまうのでは？

……元々指示通りに、私はトレーニングを終えるつもりでいた。
そして練習後にたった一言、

『少しお茶でもしませんか？』

そう誘ってみよう。
朝の段階では思っていたし、台詞の準備もしておいた。

でも最初の契約時に

『公私をキッチリ分けたいので』

冷たく言い放った過去の言葉が、私の喉を締め付ける。
ただ、もう少し一緒に居ませんかと、それすら言えなかった。

だからこうして精根尽き、陽が沈む寸前まで走っている。

決められた通りの事が出来ない自分を戒めるために。
決められた通りにしか出来ない自分を嗤うために。

……折角明日は休みで、わざわざ外泊許可の申請までしてたのに。
少しだけ距離を詰めて、少しだけ彼と話をする。

友達となら出来る、理由のないただお喋り。
これだけの事なのに大義名分、距離の詰める理由が、私には……ない。

そうして折角用意した『たまたま』の空き時間は終わりを告げた
残ったのは不完全燃焼と、悶々とした胸の内だけ。
一体私は何をやっているのかと、とぼとぼと歩き出す。

！

思いの他、意気込んで走っていたらしく、かなり汗臭い。
以前は気にしなかったが……あの人に不潔だと幻滅されたくない。
どうせ今日はもう会わない、そう分かっていても一刻も早くシャワーを浴びたかった。
これも、あの人と出会ってから変わった事――――……

「エイシンフラッシュ？　まだ練習してたのか」

肩を震わせ、顔を跳ね上げれば、今一番会いたくないヒトが居た。
自己管理から逸脱し、折角の機会を棒に振った、更には汗臭い。
正直会いたくないタイミングだったけど、トレーナーの落ち度に目を付けて

『しょうがない人ですね、貴方は』

と、なんとかマウントを取って誤魔化そうとする。
けど胸を苛む罪悪感。

『俺はお前が心配なんだよ』

素っ気ない私を、それでも気遣ってくれるトレーナーに思考回路はショート寸前。
なんとかその場を誤魔化し、彼の部屋に上がり込む。


『明日はお休みでしたっけ？』
『ん？　おぉ、そうだぞ。息抜きもトレーニングの一つだ』

夕食後のちょっとした一時、帰り支度の間際。
フラッシュも好きな事をして羽を伸ばせよ、と彼は背中越しに告げる。
好きな事……私が、好きなもの。

いつもの休日通り、ルーチンをこなせばいいのか？
それでまた言葉にならない自己嫌悪を感じ、枕に顔を埋めるの？
台所で食器を洗う担当トレーナーの背中を抱きしめる。
急な接触に戸惑う彼だが、ウマ娘の膂力からは逃げられない。

「私、今日は外泊申請を貰ったんですよ」

言った、言ってしまった。もう後戻りは出来ない。
彼のシャツの下に手を伸ばし、私もスカートのホックを外した。

抱けーっ！

即興で書いた故、かなり荒いが許してくれ
これにて本当に失礼する

自縄自縛に苦しむエイシンフラッシュ……！
そういうのもあるのか……

しなずがわは花柱みたいな世話焼きが好きだからな…

これを即興かつこの速度で叩き出せる辺り適性S余裕では？

このエイシンフラッシュ怪文書はきっとガンに効くぞ