「クリスマス…お兄ちゃん予定あるのかなぁ…」 「そっか…もうすぐクリスマスなんだね」 勉強して、練習して、レースして、お兄ちゃんとの日々は大変だけど充実していて 一日はこんなにも長いのに、一週間はすぐ終わっちゃって、今年はもうすぐ去年になろうとしている 「おにーちゃん…誰かとクリスマスデートとかするのかなぁ」 「そんなことないもん!お兄さんはきっとひとりぼっちなの!」 「ダイヤちゃん…エグい…」 「やだぁ…お兄さんは私達と一緒になるの…やだぁ…にぃに…」 ダイヤちゃんが甘えん坊モードになっちゃった。冗談でも言い過ぎだった。 「ごめんごめん、ダイヤちゃん…そうだ、明日お兄ちゃんに聞いてみようよ!」 「にぃにに?なにをきくの?」 「クリスマス!私達トレーニングいっぱい頑張ったしご褒美に何か食べたいなーって!」 「うん…にぃにとごはん…」 「ね?それで私達がお兄ちゃんを一番に確保しちゃえば大丈夫だよ!」 「ぅん…そうだね、キタちゃん…」 「よぉし!それじゃあ明日からのトレーニングも頑張ろうね!」 「うん…にぃにのためにがんばる…」 「それじゃあ今日はもう寝よう!明日は二人でお兄ちゃんにアタックだよ!」 「うん…うん…頑張ろうね、おやすみキタちゃん」 「おやすみ、ダイヤちゃん」 翌日、お兄ちゃんとのクリスマスデートの約束を私達はもぎ取った でも肝心のクリスマスはもう目前で、目ぼしいデートスポットの予約は一杯で そんな行き先を決め倦ねている私達に、一冊の本が光指す未来への道を指し示す ファウストは、メフィストフェレスに心を売って明日を得た マクベスは、3人の魔女の予言に乗って、地獄に堕ちた 私達は聖夜に、己の運命を占う ここメジロシティで一心同体を得るのに必要なのは、アシゲニウムと少々の覚悟 次回「うまぴょい」 メジロの商売には春の匂い 「お腹いっぱいだぁ…」 「もうキタちゃん、お行儀悪いですよ。お兄さん大丈夫ですか?」 店を後にし、二人は幸せそうに歩いている 美味しい料理に舌鼓を打つのに夢中で、どうも食べすぎてしまったようだ。 「お兄ちゃんは少食だなぁ!もっと食べて力をつけよう!」 「さっきのお店で胃薬を頂いたので、どうぞ」 礼を言い、小瓶に入った胃薬を飲む。不思議な味だが暫くすれば少しは楽になるだろうか。 トレーナーと担当ウマ娘として、一年間一緒に頑張ったご褒美にと二人におねだりされた私は、 クリスマスに二人を連れて郊外の商業施設へと赴いた。二人が見つけたという、格安で豪遊出来るこの施設は 冗談のような価格で一流のサービスが受けられる施設が多数あり、度肝を抜かれた。 どうも家族割引のようなものがあるようで、時折店舗ではその確認として一心同体の証明とかいう変な要求がなされた その度に私は二人に抱きかかえられたり、両頬を二人の頬で挟まれたり、お姫様抱っこしてみせたりして、店員にOKを貰っていた 可愛い妹のようなウマ娘達ではあるが、彼女たちも立派に成長しており、こういった行為は気恥ずかしくもある だがそんな二人がその度に幸せそうに微笑むため、やめるという選択肢は出てこなかった。 楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、夕飯を終え、そろそろ帰る時間だろうか 「あれっ?ダイヤちゃん、帰りの電車ってもう無いみたいだよ?」 「えっ、本当ですね…?」 郊外だというのに帰りの電車の終電があまりにも早い。私鉄だからだろうか、チェックを怠った私の怠慢だ。 愛バ達に門限破りをさせるわけには行かない。タクシーを呼ぼうと携帯電話を取り出した手を、キタサンブラックが抑える 「えっへっへ、こんな事もあろうかと!実は私達、外泊申請してきたんだよねぇ~!」 「えぇ、計算通りですね!今夜はお兄さんとずっと遊べますよ!」 肝が冷えたが安心した。しかし二人のことだ、終電が早いのを知っていたのでは無いだろうか。 「あはっ!バレちゃった!」「流石お兄さんですね!でももう時間切れですっ!」 してやったりと笑い合う二人。こういう悪巧みをするのは昔から変わらない。 こうなったらとことん付き合うかと腹を決め、次はどこへ行こうかと視線を巡らせる。 「お腹いっぱいだ食べたら汗かいちゃった!お兄ちゃん!お風呂いこ!お風呂っ!」 「キタちゃんはお風呂大好きだもんね?良いでしょうかお兄さん?」 夕餉を終え、まだまだ夜は長いが、腹いっぱい食べた後の風呂は確かに気持ちよさそうだ。 先程貰った胃薬が効いてきたのか、腹の重さも無くなり、消化が進んでいるのか身体が温かい。 確かさっきホテルも兼ねた銭湯のような施設があった気がする。どこだったかと見回すと背中をグイグイと押される。 「ほらっ!お兄ちゃんっ!行くよっ!」「こっちみたいですよお兄さん?ほら!行きましょう!」 キタサンブラックに背を押され、サトノダイヤモンドに手を引かれ、夜の街と言うにはまだ早い街路を私達は歩く。 今夜は忘れられない夜になるだろう。二人の笑顔に挟まれながら私はそう確信するのだった。 キタサンブラック様 サトノダイヤモンド様 この度は『メジロシティクリスマスデートプラン』を御利用いただき誠にありがとうございます。 以下の通り、明細をお送り致します。 ・一日デートプラン  ・追加サービス   ・一心同体確認サービス(6回)   ・食後のドリンクサービス(うまぴょいZ)   ・終電時刻通過通知サービス ・宿泊プラン 旅館『湯処メジロ』  ・追加サービス   ・一心同体の湯 貸切   ・秘湯成分追加『掛かり』   ・秘湯成分追加『うまぴょいZ』   ・マッサージ器具レンタル   ・エアマットレンタル   ・衣装レンタルサービス    ・MEZIRO 競泳水着・白・濡れ透け型 2着    ・MEZIRO トレセン指定体操着・ブルマ 2着    ・MEZIRO 勝負服レプリカ 2着 ・割引  ・一心同体割(60%OFF)  ・うまぴょい大成功三位一体割(30%OFF) お二人のまたの御利用をお待ちしております。 あなた方にも更なる一心同体のあらんことを。 ※追記:!と?を❤に変換して下さい 最も危険な罠、それは不発弾 溜まり溜まった愛と欲は出口を求め暴れ続け、湿りきった導火線が弾ける 混浴と知らずに先に風呂へと踏み込んだトレーナーに微笑む一対の肢体 幼き日の思い出をなぞり、優しく互いを洗い合う 時折触れる水着越しの柔肌の感覚と、湯気と汗で透ける肌色に揺らぐ心身 匂いで全てを悟る二人は徐々に掛かり気味になり、身体と身体との距離は詰まる 理性が限界を迎え、逃げようとした彼の両膝に跨り、妹達はそっと囁く 次回「うまぴょい」 誰もピリオドを打たない 「お兄ちゃん!次の駅だから荷物おろそうよ!」 キタサンブラックの実家に行くことになった。 『愛娘に栄冠を授けてくれたトレーナーに、是非一度直接合って礼がしたい。』 そう書かれた手紙がトレセン学園に届いたらしく。私は理事長室に呼び出された。 栄誉ッ!手土産を忘れずになッ!と理事長は快活に笑い、切符と休暇を頂いた。 幼馴染でもあったキタサンブラックとは同郷であり、ついでに実家にも寄ろうか等と考えていたが 切符の行き先は実家ではなく、都市郊外の船上レストランであった。 「君がトレーナー君か、キタちゃんからはよく話を聞かせて貰っているよ。」 豪放磊落という言葉が和を纏って歩いているような壮年の男性からそう言われ、私は縮こまるしか無かった。 「お父さん!お兄ちゃんは最高のトレーナーさんなんだよ!」 「そうかそうか…どうだろうトレーナー君、うちの他の娘たちの担当もしてみないか?」 彼は身寄りのないウマ娘達を養子に迎え、生活を支えている素晴らしい方だった。キタサンブラックもその一人だったと言う。 「や!ダメだよお父さん!お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの!!」 「やれやれ、レースやライブでは成長したと思ったが、まだまだ子供のようだなキタちゃんは」 「私もう子供じゃないもん!一人前だもん!ね!お兄ちゃん!」 そうだねそうだねと適当に相槌を打つともー!と可愛らしく怒るキタサンブラック 彼女を父君一緒に宥めながら、談笑しつつ美味しい料理を楽しんだ。 「まぁなんだ、この子は小さい頃から私に似てかっこいい子だったんだ。今では美しさのほうが勝っているがね。」 そういって皺を深くする彼女の父は、慈しむように愛娘に微笑した。 「美しい?私?私美しいのお兄ちゃん!」 口元に料理を貼り付けたまま、そんな事は知らずに彼女は喜んでこちらを見つめてくる。 トレーニングの時も、レースの時も、ライブの時も、いつだって輝いているよと褒めると 「…そう?…そっかぁ…うっへぇへへへ…」 とデザートのパフェを突き回しながらアイスより先に蕩けてしまった。 彼女の父も私達を見て満足そうに笑い、そして席を立った。 「いいパートナーを得たなキタちゃん…でもね、上ばかりを見ていてはダメだよ。支えているのは大地に貼った根っこなんだ。」 「うん!お父さん!」 嬉しそうに頭を撫でられるキタサンブラック。彼女もその父も、とても幸せそうに微笑んでいる。 「さてトレーナー君、最後に私のウイニングライブも見て貰えるかな?」 そういうと彼は片手にマイクを、もう片手にキタサンブラックの手を取り、演台へと進んでいく 会場はやや暗くなり、音楽が始まる。キタちゃんとサブちゃんの二人へと光が当たる 「私の可愛い愛娘と、それを支えてくれた『お兄ちゃん』へ」 ありがとう キタサンブラック 「よければ泊まっていきなさい。部屋は用意してある。まだお休みはあるんだろう?」 華やかな宴会も終わりを迎え、帰りの算段をつけようとする前にそう言われ、私はフロントへと案内を受けた。 船内にはホテルもあり、その一部屋に泊まることとなった。 好意を無下にしてはならないとは思ったが、案内された部屋は非常に豪華で、遠慮するべきだったかと後悔した。 折角頂いた物だし、満喫させてもらおうと開き直り、設えられた大きな風呂へと足を向ける。 身体を洗い湯船に浸かり、今日という日が思い出になっていく寂しさを嘆息し、湯気と一緒にかき混ぜる …用意された合鍵、思ったとおりに開く扉。 大好きなお兄ちゃんの可愛い鼻歌がお風呂場から聞こえてくる 部屋に漂うお祭りの残り香が今日が終わり思い出になっていくと私を囃し立てる まだ終わらない、終わらせない。好きで選んだこの勝負、私がやらなきゃ誰がやる。 「たとえ小さな願いでも、我慢ばかりじゃ進めない…!」 父の言霊を勇気に変え、私は次の勝負のゲートをこじ開けた。 さだめ、絆、縁 親の血をひく兄妹よりも堅い契りの義兄妹 逢えてよかった俺たち二人 例えば春まつ辛夷の花か 俺の目を見ろ なんにも言うな お前の影とおいらの影と 二つ重なるおしどり峠 あの夢この夢この先までも 大事に生きよう いつまでも 次回「うまぴょい」 死が互いを分かつまで