母の赤子になって2ヶ月が過ぎた。 トレーナーの執務室。母の手によって丁寧に整頓されていたその場所は、今はとても静かだった。 しとしとと雨音が聞こえる。春から初夏のG1週間も半ば、基礎トレーニングもそこそこに、今日は夕方から休みとしていた。とはいえこの雨模様ではどこに行くにも二進もいかず、執務室のソファで母の太腿を枕にただくつろいでいた。 添えられた手から、とん、とん、と与えられるタッチ。時折母の鼻歌が漏れ聞こえてくる。 片手で広げられた文庫本は何の本だろう、と考えたが、徐々に訪れる眠気で思考は閉ざされていった。 意識が落ちてから数分の時間が経った。もしかしたら数十分かもしれない。ただ、今の状態とは不釣り合いな、あってはならない下腹部の感覚に、すぐに目が覚めた。 眼前の圧倒的な胸の膨らみのためか、はたまた微睡みの中の生理現象か、自分の陰茎はスラックスの内側で痛ましいばかりに主張していた。 この状態とはいえ、流石にまずいと良識が訴える。さて、どうすべきか。さり気なくポジションを直すことができれば、きっと誤魔化せる。 そう思い、さり気なくのつもりで股間に手を突っ込んだ。というところで、完全に目が合った。全てを察した母の目と。 気まずい状態なのはわかっている。だが、頭に感じる母の柔らかさと目前の胸の雄大な膨らみは未だに消えてくれず、股間の怒りは全く衰えない。 どうして欲しいですか? と聞く。答えはわかりきっているはずなのに。彼女は言って欲しいのだろう。それが母親のエゴと知ってか知らずか。 そしてそれを未だに言うのはとても恥ずかしい。母の腹部に顔を埋め、表情が読まれないように、一言だけ、おっぱい。と言った。 直接見えずともわかるくらい、母の顔が笑顔で輝く。はいっ、と答え、彼女は片手で器用に服の上からホックを外すと、上を着たままスルスルと下着を脱いでいく。 はい、どうぞ~、と促され、母の春服の、薄手のリブ編みの中に顔をうずめた。汗っぽさは無く、トレーニング後のシャワーにあったであろう石鹸の香りに包まれた。 母は上を着たまま。これなら、万一部屋に誰かが来ても、咄嗟にごまかしやすい。という暗黙の同意があってだと思う。彼女にとっては単純に授乳しやすいだけということもあるかもしれないが。 だが、成人の上半身が、母の片腕で軽く支えあげられていることには少なからず驚きを覚える。独特の膂力によるものなのだろうが、彼女たちにとっては、大の大人でも子供のように扱えることはあながち嘘ではないのだろう。 大丈夫でちゅよ〜、と優しく微笑む。母は鞄の中から手際よくポケットティッシュとプラスチックの小さなボトルを取り出し、ご用意していてよかったです。と付け加えた。 若干の水音の後、怒り狂う陰茎に、冷たい感触が当たる。よしよし、なでなで。いい子いい子。ぐずる子をあやすように、母の手は陰茎を優しくなでた。 ぐちゅぐちゅっ、ぐちゅぐちゅっ。 母の優しい声に似つかわしくない、粘液と空気の混ざる音。 頭ごと抱きかかえられ、母の服の中、母の乳房で視界が埋まり、母の香りに鼻孔は包まれている。もし胎児に戻ることができたら、こんな気持ちなのだろうなと思う。母乳の出ない乳を吸う口と、怒張した陰茎を絞る手が、臍の緒の代わりに親子関係を作っていた。 ただ、足りない。母の気持ちに対して自分自身を確認するように、或いは自我が芽生え始めた幼児のように、母が優しく陰茎を絞るほどに母を独占したくなり、胸の突起を強く強く吸い上げる。 母が息を漏らし、こらぁ、と声を出す。自分の悪戯に母が反応してくれることで、本能的な安心感に包まれる。 来週の特訓メニュー、週末のレース、明日の分別ゴミ、自宅の散らかった床の片付け。大小の悩み事が、今、眼前にいる母に、授乳から手淫まで受け容れられているという事実の前にはどうでも良かった。 根源的な欲求が満たされたからか、急激に新しい欲求が生まれてきた。子を成したい。種をつけたい。目の前の牝に子を産ませたい。母親に母になってほしい。赤子の生理的欲求から、大人の持つ段階的欲求へと数秒で駆け上がり、その実現を叶えるべく陰茎は子種を吐き出した。 お疲れさまでした。そう言って、母は額に浮かんだ汗を拭いてくれた。 そして下腹部に散らばった精液を拭き取る母の、左右に動く耳を見ながら、母の母乳はどういう味だろう、と思いを馳せた。その瞬間、母のティッシュが雁首の汚れを拭き取り、その刺激で、どぷ、と残りが零れ出た。