「お兄ちゃんってカノジョとかいるのかなぁ?」 「…キタちゃん!?どうしたの!?」 ダイヤちゃんが耳と尻尾ぴんとさせてこちらを振り向く 私達がまだ小さかった頃、近所でよく遊んでくれたお兄ちゃん みんなでよくレースをテレビで見ていて、私達はかっこいいウマ娘になりたいと夢を描いた そんな私達といっしょにかけっこしたり、お勉強を教えてくれた優しいお兄ちゃんは 私達みたいな子の夢を叶えるトレーナーになりたいといつも言っていた 『いつかわたしたちのトレーナーになってね!お兄ちゃん!』 幼い日の約束は、トレセン学園へと入学した後あっさりと叶ってしまった トレーナーとして独り立ちしたばかりのお兄ちゃんの、はじめての担当ウマ娘としてデビューした私達は 日進月歩トレーニングを重ね、最初の一年を無事に終えつつあった 「だって中央のトレセン学園のトレーナーだよ?すっごいエリートなんだよお兄ちゃんって」 「でもでも、お兄さん私達のトレーニングにつきっきりだし…女の人と一緒にいるのなんて見たこと無いよ?」 「う~ん…あっ!ハッピーミーク先輩のトレーナーさんと時々ご飯食べてるよ!」 「あのひとは同僚さんだもん!そんなんじゃないよぅきっと!」 あらゆる距離、芝もダートもお構いなしの適正王と呼ばれるハッピーミーク先輩、そのトレーナーさんは小柄でかわいい女のヒトだ 「え~?そうかなぁ~?」 「もうっ!どうしてキタちゃんはそんな事言うの!?」 「だってお兄ちゃん、私達があんなにアピールしても気付いてくれないし…」 「うっ」 幼き日の憧憬は、私達が夢に向かい続ける内に日々育まれていき、トレセン学園でお兄ちゃんと再開した瞬間にその赤い実は弾けた 「ダイヤちゃん、今日お兄ちゃんの右腕におっぱい押し付けてたでしょ」 「んっ!?キ、キタちゃんだってダートでの練習の後、蹄鉄の調子を見てもらうって言ってお兄さんに…」 「あ~!あぁ~!!きこえないー!!」 この学園の図書室には内緒の本棚が存在する。そこに収められた秘伝書、一心同体マニュアル。 トレーナーと仲良くなりたい、トレーナーさんに仲良し❤したいというウマ娘達の為に用意されたその奥義書は ヒトのオスの意識を惹く方法から、うまぴょいの時の作法まであらゆることが網羅されていた。 「あの本…本当に参考になるのかなぁ?」 トレーナーさんと一緒にトレーニング!流れる汗に張り付いたシャツ!うっすら見える肌色とメスの香りでトレーナーはイチコロ!とか書かれてたけど 「あのねキタちゃん…今日のお兄さん、キタちゃんのストレッチ手伝ってた時、キタちゃんのおむねをちょっと見てたよ?」 「そうなの!?やたっ❤」 「お兄さんはおっぱいが好きなのかな…私も頑張ろう❤」 ダイヤちゃんのほうがおっぱいは大きい…巨乳はいる、悔しいが 次からこの攻め手はダイヤちゃんの独壇場だろう、次の攻め手を考えなくちゃ 「クリスマス…お兄ちゃん予定あるのかなぁ…」 「そっか…もうすぐクリスマスなんだね」 勉強して、練習して、レースして、お兄ちゃんとの日々は大変だけど充実していて 一日はこんなにも長いのに、一週間はすぐ終わっちゃって、今年はもうすぐ去年になろうとしている 「おにーちゃん…誰かとクリスマスデートとかするのかなぁ」 「そんなことないもん!お兄さんはきっとひとりぼっちなの!」 「ダイヤちゃん…エグい…」 「やだぁ…お兄さんは私達と一緒になるの…やだぁ…にぃに…」 ダイヤちゃんが甘えん坊モードになっちゃった。冗談でも言い過ぎだった。 「ごめんごめん、ダイヤちゃん…そうだ、明日お兄ちゃんに聞いてみようよ!」 「にぃにに?なにをきくの?」 「クリスマス!私達トレーニングいっぱい頑張ったしご褒美に何か食べたいなーって!」 「うん…にぃにとごはん…」 「ね?それで私達がお兄ちゃんを一番に確保しちゃえば大丈夫だよ!」 「ぅん…そうだね、キタちゃん…」 「よぉし!それじゃあ明日からのトレーニングも頑張ろうね!」 「うん…にぃにのためにがんばる…」 「それじゃあ今日はもう寝よう!明日は二人でお兄ちゃんにアタックだよ!」 「うん…うん…頑張ろうね、おやすみキタちゃん」 「おやすみ、ダイヤちゃん」 翌日、お兄ちゃんとのクリスマスデートの約束を私達はもぎ取った でも肝心のクリスマスはもう目前で、目ぼしいデートスポットの予約は一杯で そんな行き先を決め倦ねている私達に、一冊の本が光指す未来への道を指し示す ファウストは、メフィストフェレスに心を売って明日を得た マクベスは、3人の魔女の予言に乗って、地獄に堕ちた 私達は聖夜に、己の運命を占う ここメジロシティで一心同体を得るのに必要なのは、アシゲニウムと少々の覚悟 次回「うまぴょい」 メジロの商売には春の匂い