私がクラシック級の夏合宿で体調を崩して以来、トレーナーはそれまで以上に私の健康管理に気を遣うようになった。お互いにもうあの頃とは違うというのに、こうやって過保護なまでに世話を焼きたがる。それはきっと、こいつが私のトレーナーだからだ。
「……」
こいつのトレーナーとしての腕は、かなりいいんだと思う。少なくとも、ただがむしゃらに走りたいだけだった私が、勝ちを重ねられるようになったのは、トレーナーがついたからこそだろう。
トレーナーを持たないウマ娘も多い中で、それはきっとすごく恵まれたことだとわかっている。それなのに、私の中には満たされない何かがあった。

喉が渇いた。ペットボトルを傾ける。最後の一滴まで流し込み、嚥下する。それでも、まだ渇いている。
昨日のレースを思い出す。勝ちたい、一着を奪い取りたい、出走者全員のそんな気持ちが渦巻いて、熱を発していた。その熱気の中を、心身を燃やして走って、勝った。出迎えてくれたトレーナーは、頬を紅潮させて「すごかったよ！」と私の肩を叩いた。手のひらまで熱かった。

その熱が、なかなか引かなかった。レース場を出てからも、宿に着いてからも、布団に入った後も、ずっと熱かった。そして襲ってくる、猛烈な渇き。水を飲んでも、夜風に当たっても、おさまらなかった。渇いているのが肉体ではなく心だからだと気づいた頃には、空が白みかけていた。
足りない。この渇きをおさめる何かが足りない。学園に来る前から感じていた、走ることへの渇望に似ている。でも、あの渇きは「走りたい」という明確な欲望の形をしていた。今の私は、自分が何を欲しているのか、わからない。
考えながら歩いているうちに、気づけばだいぶ駅に近づいていた。信号のある交差点に差し掛かる。赤だ。大人しく止まる。隣を見る。トレーナーがいない。いつの間にか置き去りにしてしまったようだ。
「はぁー、やっと追いついた……！」
少ししてから、ようやくトレーナーが隣に来た。早歩きでもしたのか、息が上がっている。
「あー、暑い……！」
うなりながら、トレーナーが鞄からペットボトルを取り出す。青いラベルのスポーツドリンクだ。フタを開け、ゴクゴクと飲みはじめる。
ひどく喉が渇いている。喉だけじゃない、私の全部が、何かを求めて渇いている。

だから私は、
「おい」
「ん？……んんっ！？」
トレーナーの手からペットボトルを奪って、一気に飲み干した。独特の甘じょっぱさのある液体は、暑さのせいかだいぶぬるくなっていたけど、不思議な心地よさで喉を通っていった。
「……っは。ごちそうさん」
「ぶっ、ブライアン！？　何をいきなり――」
「青だ。行くぞ」
「えっ、ちょっ、待ってって！」
驚いた顔のトレーナーが何か言う前に、信号が変わった。空になったペットボトルをトレーナーに渡し、歩きはじめる。
この渇きの正体も、どうすればそれがおさまるのかも、私にはわからない。それでも、ほんの少しだけど、今この瞬間、私の中の何かは、確かに満たされていた。

アアー…イイ…これは万病に効きます……

まったくブライアンと来たら焦れったい…

育成してみて思ったけどこの子割とトレーナーガチ勢だね？

姉貴もこれぐらいはしてほしい

私の闘志に火をつけた責任…取ってもらうぞ…

膝枕しろだの
最強のウマ娘にしたのはアンタだの
きゅんきゅんさせてくるよねナリブ…

中学生というか小学生だこれ…

ブライアン側に踏み込んだのはトレーナーの方だからな…
渇きを癒すのはトレーナーの役目だ…

カッコいい女の子が恋に戸惑う姿
どうです？

>カッコいい女の子が恋に戸惑う姿
>どうです？
好き…

ｼｭｷｨｨｨ

ブライアン
言葉がなければ伝わらないものもあると何度も言っているだろう

姉貴こそどうなんだ？

いいよね…
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>言葉がなければ伝わらないものもあると何度も言っているだろう
行動した方が早いだろう？