なんだい、今日くらいは昔話をしてもいいじゃないか。あの子の前ではこういう話はできないからね。時間はあるんだろう？
それにしてもこんなことになるとはねえ。モルモット君と一緒になったときには考えもしなかったねえ。
……いいんだ。あの子を産む前に二人で決めたんじゃないか。
あの子が大人になるまで、研究や実験は私とモルモット君との間で完結させる。
それでもしも本当に、私が自分を抑えきれなくなって、あの子を実験材料にしようとしたら、モルモット君が私を殺して止めるって。
君は優しいから結局それができなくて、代わりにあの子を連れて逃げることを選んだわけだけどね。
モルモット君の狂気をもってしても、あの時の私の暴走は耐え難かったんだね。あの子にしない分の苛烈な人体実験をモルモット君にぶつけていたのも確かで、そりゃあ愛想も尽きるというものだよ。
あの子にそういうところを見せないようにしていたのは、当時の私にも引け目というか、最後のラインがあったんだろうね。

あの頃の私は「全てが実験材料」と豪語していた過去の私を裏切りたくない一心で、もう歯止めが効かなくなっていたからねぇ。
あの実験を行っていたらどうなったか、今でもよくわからないんだ。得られるデータは無二かも知れないが、それで子供を危険な目に遭わせるなんてバカげている。
わかっているのに、あの時の私はトレセンにいた時以上におかしくなっていたものだから。
あの子のことを愛しているからこそ、研究にあの子を捧げれば、これまでの研究を裏切らずに済むだなんて。バカな意地さ。
あの日、とうとう後戻りできないところまでラボの準備を整えて家に帰ったらだれもいなかったから、本当に安心したんだ。

他に方法がなかったのか今でも悩んでるって？私もよく考えるんだがね。今思い返してみても、あの時はあれしか方法がなかったと思う。モルモット君は間違っていないよ。
あの時モルモット君が素直に立ちはだかったのでは君まで殺していたかもしれない、黙って距離を置くしかなかったんだ。
だからモルモット君には感謝しているんだ。本当だよ。
……今はもう、ああいうことはしないよ。少しの回り道も許せなかった、あの頃の私とは違う。
君たちがいなくなって、研究が足踏みをして、それでようやく余裕ができたんだ。
そのことは、あのあと取り持ってもらったスカーレットくんからも聞いたろう。
君も逃げてすぐの間はあの子のことでスカーレットくんをよく頼っていただろう。あちらの子どもたちにはあの子もよく構ってもらったし、まったく、一家揃って頭が上がらないね。

それで今日はどうしたんだい。娘の親離れの嘆きを聞かせに呼び立てたわけじゃないんだろう？
……それは……君がいなくなってすぐくらいの時に、スカーレットくんを通じて送った指輪と離婚届じゃないか。
なんだ、まだ出していなかったのかい。ふぅン……あの子が家から出ていくまで提出を待っていたということかな。
あの子が家を出て行って、それを提出して、私とモルモット君の関係もこれですっぱり清算……
え、ライターで火を……つけ……ちょ、ちょっと待ってくれ、灰皿の用意がないよ！？
火をつけたそれをどこに……燃える勢いが思ったより早いだって！？えーっ！
流し台か風呂場に持っていくんだ！多少の火傷なら私が手当してやるから……
ああもう、その程度ならしばらく氷水で冷やしておけば大丈夫だよ……どういうつもりなんだい突然こんなことを！
かっこいいからこういうのを一度やってみたかった？それもそうなんだがそっちではないよ……
あれはね、紙をねじって固めてから火をつけるんだよ……

さて……家を出るあの子の代わりに人が恋しくなった、というだけの理由なら私は帰るよ。
だいたい、君の機転とスカーレットくんのとりなしで、私は「多忙で滅多に帰れない母親」ということになっていて、
それでまあまあうまくやれていたじゃないか。
あの子の誕生日と、クリスマスと……学校行事の時には母親面をさせてくれていて、それで良いと思っていたんだ。
本当は顔なんて、まともに合わせて良いわけがないのにね。
……愛してるかって？当たり前じゃないか！あの子のことも、モルモット君のことも、愛している。今だってそうだ。心の底から愛しているよ。
だからこそなんだ。私が傍にいることはできない。また実験材料にしてしまうからではないよ。
これは道を踏み外して、モルモット君の狂気にも、あの子にも一度愛想をつかされたけじめなんだよ。私なりのね。
だから……だから、そう、帰るよ。離してくれ。その目で私を見つめないでくれ。ここにはもう来ない、ここにはもう居られ――

どうして……どうしてこの子が居るんだい。今日はいないんじゃないかったのかいモルモット君。別に何も言ってないって？そんなぁ……
……聞いていたんだろう？それとも既にモル……お父さんに教わっていたかな。
お前にお母さんと呼んでもらう資格なんて、私にはなかったんだ。
だからそんなに……そんなにぎゅーっとしないでおくれ。……やー！じゃないよ。相変わらず甘えん坊さんのままだねお前は。
帰れなく……帰れなくなってしまうよ。離しておくれ。……いーやー！じゃないんだよ。わかった。わかったから一旦落ち着いておくれ。
……いつもは俺がやられてるって？前々から言おうと思っていたけれど、君はちょっと甘やかし過ぎだよ。
私の分だって？そ、それは……その……
はあ、たしかにこれは、モルモット君が心配になるのもわかる気がするねえ……

……いつまで逃げているんだって？なんの事だい、逃げることなんて、私は何も……
……違うな。私はずっと逃げてきたんだった。この子からも、モルモット君からも。
逃げながら、良いとこどりだけをしようとしてきたんだった。それでもみんなが優しいから、それで良いと思ってしまったんだ。
ごめんなさい。許しておくれ。君たちを追い詰めたこと、君たちから逃げたこと。どうか、どうか許しておくれ。
たったこれだけのことが、どうしてか、どうしても今日まで言えなかったんだ。
……そうだね。いろんな人に迷惑をかけたからね。スカーレットおばさんにも、ごめんなさいをしにいかないといけないね。
指輪。つけてもらったのにずいぶん冷たいと思ったら、君の手が氷水で冷え切っているからじゃないか。
もう火傷は心配ないだろう。紅茶でもいれてあげるから、それで手を……いや、この子がお手々で温めてくれるそうだよ。
優しいのはお父さん譲りで、甘えんぼなのは……誰に似たんだろうねぇ、まったく。
都合よく逃げ回るのはもうやめるよ。だから――また、一緒に居させてくれるかい？

――これほどまでに罪深い代物を作ってしまったという事実については慙愧の念に堪えないねモルモット君。
いやあ私も、今回は本当に反省しているんだよ。自分で体験しなければわからないことはあるものだねぇ。
あまりにも没入感を強めすぎると、終了した瞬間のVRとの落差による絶望が甚大なことになるね。
自覚していたかどうかわからないがモルモット君は30分くらい呆けていたんだよ。これには何か対策が必要だろう。

以前作成した「予測される未来を映像化する薬品と機材」の改良版として、予測の解像度と稼働時間を向上させつつ、
第三者視点ではなく自ら「体験」できるようにしたわけだが、生涯の"谷間の区間"を強調する機能はやっぱり余計だったね。
もともとは理事長方面からの「トレーナーに対して掛かり気味のウマ娘に対するセーフティを用意してほしい」という要望でつけたもので、
予測された未来のつらい部分を抽出・強調しているだけなのだが、破壊力が強すぎたよ。
確かにトレーナーの寿退社は防げるかもしれないが、それで担当ウマ娘が調子や成績を落とすのでは本末転倒だよ。
理事長も理解してくださるだろう。

さて、これから忙しくなるぞモルモットくん。今見てきたあれは、今後起こりうる可能性の一つであることは間違いない。
だったら、あの未来の上澄みだけすくいあげる可能性だってあるはずなんだ。
あの子を生贄にしようとした実験装置も、倫理的な面はともかく、理論自体は興味深かった。
可能性の中の私はあの子が生まれてから実験を思いついたから間に合わなかったが、
今から研究を始めれば検体なしで実験ができる手法を編み出せると思うんだよ。いや、編み出してみせるさ。必ずだよ。
それに、モルモット君もあの子に逢いたいだろう。早く逢うのはさすがに不可能だが、可能性を高めることはできるよ。
機械の中でのあの子の生年月日を覚えているかな？つまりそういうことさ。さあ、研究に終わりはないよモルモット君！
とりあえず体感時間では何年も君の料理を食べていないんだ。何か作っておくれよ。食後の紅茶くらいは淹れてあげるよ。

……可能性のどこかで、君もこれを聞いているかな？
大丈夫、同じ失敗はしないさ。だから、安心して逢いに来ておくれ。

おれはよわいモルモット
タキオンを曇らせてから持ち上げるつもりが拗らせすぎておかしくなった

幸せに繋がるのか不幸に繋がるのかわからないな
つまりタキオンと一緒の普通の未来だ

よわいモルモットで良かった……良かったのか？

モルモット君の脳は破壊されたがタキオンと一緒ならじきに再生するだろう

最初は子供は入学、親は就職でトレセンに行くオチだったんだけど
貼り付ける直前に糖分が足りねえなと思って以前見かけた未来VRネタを拝借して
VRをもとによりよい未来を目指すオチに急遽かえたんだけど分かりづらかったかも知れない
次回頑張るからごめんね ゆるして

娘はディープスカイちゃんかな？

だいぶおかしなことになってるがこれはこれでいいぞ

いいじゃない…