キタちゃんのトレーナーさんに想いを伝えた日から数週間後、
キタちゃんから話があると伝えられてカラオケボックスの個室にいます。
小さい頃からデビューしたら歌も上手くないとねって2人で練習した場所であり、
デビューを果たしても学校が終わると時々一緒に寄って好きな歌を歌い合った場所。
2つのマイクは握られることなく置かれていて横にあるのは封筒から出された写真と故人の戸籍謄本が重苦しく並べられています。
写真にはどこかトレーナーさんの面影がある少年が…
――二人。仲良く肩を抱き合いながらサッカーのユニフォームでしょうか？泥まみれになりながらも
満面の笑顔でファインダー越しにこちらに笑いかけています。
「ダイヤちゃん…」

先に口を開いたのはいつも通りキタちゃんの方からでした。
「ダイヤちゃんが言ってるお兄ちゃんのことってトレーナーさんのお兄ちゃんのことじゃないかな？」
気まずい沈黙が二人の間を過ぎ、何も言わない私を待たずに。
「よかった。これでまた元通りに戻るよ」
一人で何やら納得しているキタちゃん。
…元に戻るわけないでしょう。
キタちゃんは本当にそういうところが可愛くて、素敵で。
甘い。

「今ならまだ間に合うから。認めてよ」
何を？と返します。自分で思うのもなんですが意地が悪いですよね。
「好きって言ったよねサトちゃん。あたしのトレーナーさんのことを愛してるって」
やけにあたしのところを強調して言いますねキタちゃん。
「昔、約束した人の見分けがつかないのになんでそんなこと言えるの？」
私は何も言いません。
「…顔が似てるだけでしょ？あたしのトレーナーさんと違うんだよ？」
また私は何も言いません。
我慢の限界だったのでしょうか。堰を切ったかのように
「じゃあダイヤちゃんは死んだトレーナーのお兄ちゃんを想い続ければいいじゃん！いいでしょ！今生きてるトレーナーさんは私のでいいよね！？」
机を叩いてキタちゃんが叫びます。
よくないです。
「なんで！？どうして！？」

違う。違う。違う。
覚えてないんですかキタちゃん？私は言ったのはそれだけじゃないですよね。
『もう二番目は嫌だ。先んじられて全部取られるのも嫌だ』
築き上げた信用が社会的地位が友人のトレーナーを奪って消え失せても
クラスメイトや後輩たちの憧憬がそれで無くなっても
両親やファンからの親愛が立ち消えても
友情もそれが例え唯一無二である親友であっても
すべてブッ壊してでも
俯きながらも自分の心に確かめるように言い放ちます。
――欲しい。絶対に。あの人の弟でそれが代用だったとしても。
二度とあなたに先着させない。

再び沈黙が部屋を満たします。先に口を開いたのはやっぱりキタちゃんでした。
「次の有マ記念」
絞り出すような声でした。かと言って聞き取れないようなかすれた声ではなく。
わなわなと震えながら出したような声でもない。
ハッキリと地の底から響くような熱を帯びた宣言。
ゆっくりと自分の顔を上げて彼女を見据えると
今まで何度見てきたかわからない奇麗な赤い双眸に宿るこれ以上似合うものはないような憤怒。
「次の有マ記念に出て。あたしが勝つから。だから諦めて」
私はあっけに取られていたと思います。
だってトレーナーさんを愛してるのに次の特定のレースでトレーナーさんを賭けて恋路の勝敗を決める？
どうかしてますよね。ですが…。

「私から逃げるの？さっき言ったよね『先んじられるのはもう嫌』だって。あれ嘘だったんだ”卑怯者”」
…見事な挑発ですね。
さて完膚なきまでに叩き潰してからじゃないとキタちゃんは負けを認めないでしょうし。何よりトレセン学園に二人で入学してから
キタちゃんに逃げ切られて負け続けの私がようやく掴んだ一つ目の勝ちです。
これからも勝つんです。例え、神聖なレースからかけ離れて行う個人的な馬鹿馬鹿しい賭けであろうと。あなたに勝って、トレーナーさんと幸せを掴んで見せるんです。
「わかりました。お受けします。ですが、負けたら二度とトレーナーさんに近づかない。専属契約してる場合は担当を解除する。でいいですか？キタちゃん」
聞き終わったキタちゃんは頷くと一人、カバンだけを持って個室から立ち去っていきました。

数時間後、私も封筒と共にカラオケ店を去りました。
会計をする際、店員さんが心なしか取り繕うような笑顔でしたが完全に怯えるような眼で恐怖に身体を震わしてこっちを見ていたのを思い出します。
話の内容は聞こえてはなかったと思います。ただ、自分で言うのもなんですが今の私の顔も先に出て行ったキタちゃんの顔もまともに見て怖気付かない人の方が少ないでしょうから。
それが連続で続けばこうなるのでしょう。
突然ですが、赤と黄色を混ぜるとオレンジになるそうです。
昔、小学校の頃。図画工作の授業の後の放課後にキタちゃんと二人の眼の色を混ぜたらどうなるんだろうねって言って絵具を混ぜ合わせて
それが教室に差す夕焼けと同じ色でキレイだって笑い合っていたことをふと帰り道の空を見上げて思い浮かべました。
あの頃、思いもよらなかったです。オレンジ色の夕焼けは黄昏。終わりへ向かう色。このあと待っているのは夜の真っ黒な闇だけだということを。

それとお話はここでおしまいなんです。

その次の有マ記念
その有マ記念で私は――。

…というわけで地獄みたいなキタサトを書いてた人に感化されまして言い出しっぺが書いてみました
先の怪文書のスレに私以外にもトレーナさん双子説気に入った別の人が少なくても一人以外いましたのでその「」さんも書いてくれると思います
楽しみですね

女の子だなぁ

朝からドロッドロすぎる…

あんなに一緒だったのに

んもー…

夕焼けは違う色

朝から立て続けに地獄を見せられて精神がもたないよ

>朝から立て続けに地獄を見せられて精神がもたないよ
それはそう

なんだいフクロスに光に満ち始めたと思ったら新しい邪悪が生まれているじゃないか

これだとキタちゃんがおつらすぎる…

>すべてブッ壊してでも
>俯きながらも自分の心に確かめるように言い放ちます。
>――欲しい。絶対に。あの人の弟でそれが代用だったとしても。
ここグツグツに煮えたぎってて好き

>これだとキタちゃんがおつらすぎる…
キタちゃんが勝つから大丈夫だ

おい…何で朝っぱらからキタサトの怪文書が増殖してる…

キタサトこれ何人書いてるんだろう…

>おい…何で朝っぱらからキタサトの怪文書が増殖してる…
梅雨入りが近いから…

親友に好きな人の死亡届突きつけるってどんな胆力なの…

友人に戻れるかもしれない絶好の機会だからな
そりゃ一縷の望みも託す

朝から掛かりすぎだよぅ…

光のキタサトが立ってたと思ったらまた闇のキタサトが現れてる…

>光のキタサトが立ってたと思ったらまた闇のキタサトが現れてる…
>それが教室に差す夕焼けと同じ色でキレイだって笑い合っていたことをふと帰り道の空を見上げて思い浮かべました。
>あの頃、思いもよらなかったです。オレンジ色の夕焼けは黄昏。終わりへ向かう色。このあと待っているのは夜の真っ黒な闇だけだということを。

もうスレ画のような笑顔には戻れないすぎる…

ウワーッ！土曜の朝からなんてものを！

有マ記念、キタの夢、ダイヤの夢は叶うのか

そしてキタは憤怒のウマ娘となり7冠に…