そう言われていた私がその不安を感じさせない走りを見せつけたんだから。
格好の狙い目だったんだろう。この場合の狙い目とは、私の成績と、そして…私のトレーナーの未熟だ。
がらり、とトレーナー室の扉を開けた音に対し、室内で目に見えるくらいびくりと反応した者がいた。
「あ…ふ、フジ、おかえりっ。今日のトレーニングメニュー出来てるよ。一緒に…頑張ろうね」
その微かに引きつった笑顔を見て、むらりと胸の中で沸き立ったのは…なるほど、そうか。怒りか、これは。
これまでなら心温まるものだった私のトレーナのその笑顔が、今は無性に腹が立ってしょうがない。
私が…怒る？つい可笑しくなった。まるで白馬の王子様だと噂され、求められるならばとそう振る舞ってきた私が？
そう。今トレーナー室に入った私を立ち上がって出迎えたこの小柄な女性トレーナーは、まだ何の実績も無い新人だ。
加えて何か凄い特技や指導力を示したわけでもない。世間一般的にはごく普通のトレーナーだろう。
当たり前のことを、ただ当たり前に実行し、ただ当たり前に真摯に向き合うだけの、普通のトレーナーだ。
───違う。それは世間でのくだらない評価だ。

私にとっては、違うんだ。
「…トレーナー。ひょっとしなくても、私が他のトレーナーにスカウトされてるのを見てたね？」
「えっ！？…や、その…そ、そんなこと、無い…よ…？」
「いけない子猫ちゃんだ。そんな分かりやすい嘘をつくなんて。私は…知っているんだよ」
知っているとも。私が何人かのベテラントレーナーにスカウトを受けている横で、逃げるように去っていった君を見たから。
つい足取りが早くなる。こつ、こつ、こつ。リノリウムの床を靴底が叩くリズムも自然と短くなる。
すぐ側に立てば見下ろせてしまう身長差のトレーナーの前へ私が立つのに数秒も掛からなかった。
「もしかして…私が引き抜かれて、別のトレーナーのチームへ移ってしまうんじゃないかと思ったのかな」
「その…それは…」
「ああ、それなら逆に不安がらせたことを私は謝らないといけないね。私のトレーナーはね、何があろうと君なんだよ」
さりげなくトレーナーの手を取って握る。ふわあ、と驚くようなトレーナーの溜め息が聞こえた。
小さな手だ。私の手でもすっぽり包めてしまうような、人間の非力で華奢で小さな手。

でも、私は覚えている。この小さな手が私の前に差し伸べられた時のことを。
その小さな掌が私の目からはどれだけ力強くて光り輝いていたことか。
『あなたの脚が壊れやすいなんて関係ない。それを支えるのもトレーナーの役目でしょう？
　私はあなたと一緒に走りたいと思ったの。お願いするのはこっちの方なんだよ。こんな私で良ければ───』
地道に基礎トレーニングを積み重ねる私を長い時間をかけて見つめてきた君は、そう言ったね。
将来を嘱望されながら、誰よりも速く、誰よりも壊れやすい、ガラスの脚。誰からも見放されたそれを君だけは全力で肯定してくれた。
それにどれだけ救われたか。それがどれだけ嬉しかったか。君は何度言っても分かってくれない。
「だ、だって…フジは誰よりも凄いウマ娘なんだから…私なんかじゃない、凄い腕前のトレーナーさんのところのほうが…」
「違うよ。それは違う。いいかい、よく聞いてくれ。
　私がレースでの好成績を捧げたいのはね、君なんだ。彼らじゃない。彼らがいくら素晴らしい指導をしたって関係ない。
　君は言ったね。私と一緒に走りたいと。私も同じ気持ちなんだ。だから、さ」

私は軽く屈み、手に取ったトレーナーの小さな手の甲にキスをした。
まるで、女王様に忠誠を誓う騎士のように。出来る限りの厳かさで。出来る限りの誠実さで。
そうさ。皆は私を王子様と言うが、むしろ私は彼女にとっては騎士のつもりなんだ。
今は決して強くはない、君を護るための───忠節の騎士。
「一緒に強くなろう、トレーナー。私は君が思うほど強くない。けれど君が望むなら君が思うくらいに強くなってみせるよ。
　だから、君も私と一緒に強くなろう。信じてくれ。私たちはどちらかが手を引っ張るんじゃない。肩を組んで…共に進むんだ」
「…」
「さあ、トレーナー。我が子猫ちゃん。次はどの栄冠を望む？次は…何処へ向けて走りたい？そう、私と一緒に」
微笑む私を前にしてトレーナーは俯いていたが、やがてぎゅっと表情を固めて前を向いてくれた。
おっかなびっくりではあったけれど、覚悟を決めた凛々しい王女の顔つきだった。
「───朝日杯に行こう！フューチュリティステークス…同世代の中であなたが1番なんだって！示しに行こう！」
「それでこそだよ、トレーナー。さあそのための航路を示してくれ。君の指示なら私は喜んで従うさ」

急に元気が湧いてきたのか、今後のトレーニングプランを印刷したリストを束ね始めたトレーナーを見ながら思う。
そうとも。私のトレーナーは君しかいない。君以外のトレーナーなんて考えられない。
君には私だけを見ていて欲しい。君が見初めた私の力を示し、私は私が持つ能力を発揮し続けよう。
君が劣等感を感じなくても済むくらいまで。君がフジキセキのトレーナーなのだと胸を張れるまで。
君は私を最優のウマ娘だと思っているかも知れないが。私にとっては、君こそが最優のトレーナーなんだから。
「け、結構辛いメニューになるよ。特にスタートダッシュはみっちりやらなきゃいけないからっ。
　併走してくれるウマ娘は私がどうにか手配するね。フジはとにかく、私の提案に納得できるなら従って。
　───私を信じて」
「勿論だよ。我が愛しのトレーナー。───君を信じるよ」
当然だ。私はフジキセキ。他のウマ娘からは王子様だなんて噂されるウマ娘。
けれど、こと君と私の間にとっては、お姫様とか王子様とかそういう一方的な関係は崩れ去る。私たちはふたりでひとつだ。
なんせ、お互いに見初めあった王子様でお姫様なんだから。

ひょえええ〜〜ひょあ゛っ…

デジタル…？デジタル…！

これはすごい！
私イチオシのストーリーです

フジキセキもカッコいいしトレーナーもカッコよくてこれは…深夜まで起きてて良かった…

抱けー！

ア゛_

実はトレーナーに依存してる構図いいよね…

花とゆめコミックスかな？

王子様なのに雌臭い…

>なんせ、お互いに見初めあった王子様でお姫様なんだから。
ここが本当に大好きだ…

>トレーナー室の戸を引く前に溜め息だって出る。誰も見てないし。
私を慕ってくれる子たちには見せられない顔だ。
ここがフジ先輩らしくて好き

>そうさ。皆は私を王子様と言うが、むしろ私は彼女にとっては騎士のつもりなんだ。
この文章が刺さった
イケメンフジ寮長いいよね…

>ここがフジ先輩らしくて好き
慕ってくれる子には見せられないけどトレーナーには見せていいんだ…

>すぐ側に立てば見下ろせてしまう身長差のトレーナーの前へ私が立つのに数秒も掛からなかった。
デジたんはどう思う？

>>すぐ側に立てば見下ろせてしまう身長差のトレーナーの前へ私が立つのに数秒も掛からなかった。
>デジたんはどう思う？
マ゛゜

し、死んでる

これは死ぬのも仕方ないと思う

デジたんはもうダメだ
ここからの戦いにはついてこれない

恐ろしいほどのイケメンだ…耐性がなければ目にするだけで地に倒れ伏すだろう…
少女漫画を久しぶりに読みたくなるちょうど直球だった…良い…

これを読んでばきゅんばきゅん胸がなりーしてる
ガラスの足を最初から信じていたトレーナー
新人トレーナーを最初から信じたウマ娘
美しい

ポニーちゃんになりたすぎる
早く実装して

参ったな野生のシナリオライターが情報漏洩してる…えっ違うの！？

私の脚質には合っていますよ

早く実装されないかな…

フジキセキ快文書初めて見た

他からすると石ころみたいなトレーナーでも自分にとっては宝石なのいいよね

「モルモットになる」「ポニーちゃんにもなる」

「両方」やらなくっちゃあならないってのが「トレーナー」のつらいところだな

覚悟はいいか

>他からすると石ころみたいなトレーナーでも自分にとっては宝石なのいいよね
まさに奇石…

実装前にストーリーのネタバレしちゃダメだよ！

俺はモルモットであり…ポニーちゃんであり…赤ちゃんであり…商店街のおじさんであり…ゴールドシップの相棒であり…マスターであり…開運グッズでもある…
だがその正体はただのトレーナーなんだ

ホーム画面トレーナー…実在していたのか！？

続きがほしいです王子様

トレーナーがあんまり強くないとかえってウマ娘の執着が捗るやつ…

実装ストーリー的にデビュー朝日杯弥生賞以降全てifってのも難しいなコレ
皐月ダービー確定として秋〜シニアは産駒成績加味してマイルと中距離路線かな

ガラスの脚担当トレーナー同士で故障対策を相談し合ってるとかどうだろう

>実装ストーリー的にデビュー朝日杯弥生賞以降全てifってのも難しいなコレ
>皐月ダービー確定として秋〜シニアは産駒成績加味してマイルと中距離路線かな
その辺はタキオンで前例があるから何とかなると思う

フジキセキの前では忙しなくぴょこぴょこ動いてそうなトレーナー！

忙しないしダメダメだし自信ないしうっかりでおっちょこちょいであがり症でetc…

そこら中にデジタルの死体が転がる

さっきまで命だったデジタルが辺り一面に転がるのか

初めて担当する娘にこんなこと言われたらトレーナーのウマ娘観がめちゃくちゃになりそう
フジキセキは責任取ろうね…

ああ゛ッ推゜せるッ！！

スペランカーデジタル先生...

デジタルすぐ死ぬ

👼😇

https://img.2chan.net/b/res/802490108.htm

デジたんの死体は本人が片付けなきゃダメでしょ全く！

二人の目の前でトレーナーをボロクソにけなしてキレたフジキセキに壁のシミにされた上に二人の関係を深めるダシにされるモブトレーナーになりてぇ〜