1.「10年か…たいして変わらんもんだな」 俺がトレーナーとして勤めていたトレセン学園を辞め10年。 久しぶりに学園を見たくなりこの街に戻ってきた。 トレーナーという職業は俺にとって天職だったと思う。 あの頃は寝ることも忘れて担当するウマ娘のことを考えていた。 俺の最初で最後のパートナー、トウカイテイオー。 まだ若い2人はともに歩み、成長し、勝利を重ねた。 だが彼女がウマ娘として活躍すればするほど、周りは俺に冷ややかな言葉を浴びせた。 お前はまだ若い。経験が足りない。テイオーはもっと実績のあるトレーナーに任せるべきだ。 彼女はそんな周りの声を気にしなかった。ボクにとってのトレーナーは1人しかいないと言ってくれた。 …が三冠を目前にしたある日、テイオーに骨折が見つかり菊花賞は断念せざるを得なくなった。 お前のせいだ。テイオーの将来を潰したのはお前だ。やはり実績のあるトレーナーに任せるべきだったんだ。 この時を待っていたかのように周りは散々俺を非難し、ついには学園もこの状況を看過できず俺はテイオーの担当を外された。 逃げるように地元へ帰った俺は適当な仕事を見つけ、お見合いで知り合った相手と結婚。 もうトレセン学園での日々を忘れて人生やり直したい一心だった。 …だがテイオーはそんな俺を連れ戻そうと何度も何度も連絡を寄こしてきた。 新しいトレーナーはボクのことちゃんと考えてくれない。トレーナーと一緒じゃないと走るのが楽しくない。戻ってきてくれないとレースには出たくない。 今思えば彼女もきっと必死だったのだろう。ついには遠く離れた俺の地元を直接訪ねてきた。 「トレーナー!ボク、トレーナーと一緒じゃなきゃやだよ…。みんながなんて言おうと関係ない!お願い戻ってきて…」 俺はもうあの頃を忘れようと努力しているのに、彼女はそんな俺をつらい過去に引き戻そうとする。つい俺はカッとなってしまい彼女を突き放してしまった。 「もう新しい仕事も見つけて結婚もして俺は次の人生を歩んでる。頼むからもう顔を見せないでくれ。」 テイオーは俺の口調に怯えたような驚いたような顔をして…薬指に光るリングを一瞥すると何も言わず走り去っていった。 それ以降彼女から連絡がくることもなく…結局会えずじまいだ。 10年も経ったのだからおそらく彼女は一線を退いて俺と同じく次の人生を歩んでいるのだろう。 俺は結局その後何事にも熱中できず仕事を転々として…ついには妻にも見捨てられてしまいまた一人になってしまった。 あの頃を思い出せば何か変わるかと思い、意を決してこの街に戻ってきた…が 「やっぱテイオーがいないと俺は駄目だなぁ…」 フェンスの向こうでトレーニングに励むウマ娘たちを見ながら呟く。 「こんなとこでバツイチ職なしの男がウマ娘見てたら通報されかねないな」 あまりに落ちぶれた自分の現状に失笑しつつ、もう帰ろうと思った…その時だった。 「トレー…ナー…?」 懐かしい声が聞こえ振り向く。 そこにいたのはきれいな女性。耳としっぽからウマ娘ということはわかる。 「テイオー…?」 くせっけのある髪は束ねられておらず腰辺りまで伸びている。背も伸びて体つきも女性らしくなっているが…見間違えるはずはない俺の元パートナーだった。 「トレーナーどうしてここにいるの…?」 「いやあの頃が懐かしくなって…な」 「そうなんだ…奥さんは?一緒じゃないの?」 …痛いところを突かれた。 「ま…まぁね。…じゃあもう行くな?テイオー。元気で。」 俺は引きつった笑みを浮かべてその場から逃げようとする。 「まって」 彼女の綺麗な手が愚かな男の左手を掴む。 「なんで指輪…してないの?」 彼女の美しい瞳に込められた決意は、俺を連れ戻しにきたときのそれと似ていた。 2.「そっか…トレーナーも色々あったんだね」 トレセン学園沿いの並木道を並んで歩く。 またこんな日が再び訪れるとは思ってもみなかった。俺はついテイオーに学園を辞めてからのことを洗いざらい話してしまう。 「テイオーその…ごめん」 ちょうど学園の門の前で俺は足を止めた。 「トレーナーを辞めたことは後悔してない。君は否定してくれるだろうけど俺じゃあ確かに力不足だった」 テイオーは少し寂しそうな顔で俺を見る。 「でもちゃんとお別れは言うべきだった。俺の口から言うべきだったんだ。ありがとうとさようならを…だけどできなかった。君に引き止められるのはわかってたから。もう怖くて逃げ出したかったんだ。だからその…ごめん。地元まで説得に来てくれた君を追い返して…ごめん。もう顔見せるなとか言って…ごめん」 10年間溜め込んできた思いを口にする。出てくるのは謝罪ばかり。我ながら情けない男だと思う。 「もー久々に会えたのにごめんばっかり聞きたくないよ」 彼女は少し困った顔をして俺の手を取る。 「私の家学園から近いんだー。お茶でも飲んでいって?」 学園すぐそばのアパートまで引っ張ってこられた。 いい匂いのするワンルームの部屋に入るとたくさんのトロフィーが並んでいる。 皐月賞…ダービー…その先は俺の知らないテイオーの勝利の証。 「トレーナーがいなくなったのは私が骨折したせいだって思った」 テイオーが小さなダイニングテーブルに湯気の立つマグカップを2つ置く。 「だから毎日泣きながらリハビリした。また走れるようになったらトレーナーは戻ってきてくれると思ったから。…そしてお医者さんもビックリする早さでまた走れるようになった。だけどトレーナーは戻ってこなかった」 俺は返す言葉もなく黙って耳を傾ける。 「だから私は直接会いに行くことにした。トレーナーの実家の住所教えてって学園に掛け合って。…最初は教えてくれなかったけど私が退学届持って、教えてくれないと学園辞めるって言ったらさすがに折れてくれて…ね?押しかけちゃった」 彼女は並んだトロフィーを眺めながら寂しそうに笑う。 「引っ張ってでもトレーナーを連れて帰る。どうしても無理なら私もここで暮らすって意気込んでトレーナーに会ったんだけど…結婚はズルいよ。左手の指輪見たら何も考えられなくなって逃げ帰っちゃった」 「その…ごめん」 「だから謝らないでってば。私はちゃんと走ったよ。私が勝てばトレーナーもどこかで喜んでくれてると思って」 テイオーは俺の手を取りそっと握る。 「私はこうしてトレーナーにまた会えてうれしい。ちゃんと頑張って走り切ったこと伝えられて幸せ。もう二度と会えないと思ってたから」 「それは俺もだテイオー。ちゃんと君に面と向かって謝ることができた。それだけでなんか救われた気がするし前向いていけそうだよ」 俺はマグカップに入った紅茶を飲み干し席を立つ。一人暮らしの女性宅に長居は不要だ。今はもうトレーナーという立場でもない。 「でもまだ1つ伝えられてないことがあるの」 「え…?」 彼女は俺に近づき首の後ろで手を組んだと思うとベッドに倒れこむ。 ちょうど俺がテイオーを押し倒した格好になってしまう。 「私トレーナーのことが好きだった」 彼女は真剣な表情でまっすぐ俺を見る。 「あの頃はまだ子どもで…この気持ちが何なのかはっきりわかってなかったけど…私はあなたのことが好き。1人の女としてあなたのこと愛してた。ずっと想い…続けてた…」 次第に彼女の声が涙声になっていく。 「でもあなたは結婚もして…新しい人生を歩んでた…。何度も忘れようと思ったけど…レースで勝つたびに大勢のお客さんの中からあなたのことを探してた…」 絞り出すような声で彼女が呟く。 「おねがい…もういなくならないで…このまま私のもとにいて…」 俺はバカな男だ。まだ若い彼女に自分勝手な夢を見て、自分勝手に逃げ出した。 怪我をした彼女を支えてやりたかった。はるばる俺を連れ戻しにきた彼女を抱きしめてやりたかった。ターフで歓声を浴びる彼女をもう一度見たかった。 でもそれはもう叶わない。過去には戻れない。だから俺は前を向いて、彼女の気持ちにこたえる。 「テイオー…俺もお前のことが好きだ。俺は弱くて…いつもまっすぐな君に救われてた。…大好きだ。愛してる。もうどこにも行かない。ずっと一緒にいてほしい」 テイオーは俺の胸で泣きじゃくりながらうんうんと何度も頷く。 俺ももう涙をこらえることができなかった。こんなに泣いたのはテイオーが怪我した日の夜以来だ。 ひとしきり泣いた後俺たちは唇を重ね、ベッドに入った。 「やりすぎちゃった…な」 あたりはすっかり暗くなっている。 「10年分の想いこもってるんだから仕方ないよ」 生まれたままの姿のテイオーが俺の胸で呟く。 「実家にはいつ帰るの…?」 「いやもう帰らない。こっちでまた仕事探すよ」 「そしたら明日は広めのアパート探しに行こうね」 再び唇を重ねる。 「大好きだよ。ボクのトレーナー」 あの頃の面影が残るテイオーの笑顔を月明かりが照らした。 3.俺がテイオーのトレーナーを辞めて10年。 2人は偶然の再会を果たし、結ばれた。 まだ籍は入れてないが…1LDKのアパートに引っ越して早2か月、俺はシャワーを浴びながら頭を悩ませていた。 それは…そうテイオーとの夜のことだ。 ウマ娘の性欲についてはトレーナー時代からわかってはいたが…まさかここまでとは…。 この2か月毎晩のように求められている。 最初は「10年分の想いこもってるから」なんて理由で付き合っていたが…いやもうこの2か月で少なくとも1年分はシたと思う。たぶんあと半年あれば10年分消化できる。 さすがに疲れの方が勝ってしまい昨晩は「タバコ吸ってくる!」と言い訳して逃げてしまった。 なさけねぇ…でも毎日はもたんよなぁ…。 適当に髪を乾かして寝巻を着る。 そして風呂場を出ると…そこには勝負服を着たテイオーがいた。 攻めた格好とかそういう意味じゃない。ウマ娘がレースに出るときの勝負服。 「テイオーその…どうした?」 「どうしたって…?久々に着てみたの。どう?ボクかっこいい?」 懐かしいボクという響きに少しウルっときたが改めて全身を舐めるように見る。 きつそうな胸元、膨らんだお尻、スカートの丈はかなり大変なことになっていて…たぶん俺が今しゃがむだけで完全に見えてしまう。 これはなかなかそそるな…さっきまでの疲れがウソのように俺の股間が反応している。 いかんテイオーにバレたらきっと煽られる。 「ああ!かっこいいよ!でもテイオーそろそろ自分の年齢考えろよ!じゃあ俺もう寝るな!」 「もー!なにさー!まだボク着れるもん!これでレース出れるもん!」と頬を膨らませる彼女の横を少し前かがみになりながらベッドに飛び込んで布団をかぶる。 危ないなんとかなった。 「でもこの勝負服着ると…嫌なことも思い出すんだ」 テイオーはいきなり冷たい口調で…遠い目をしながらベッドに腰かける。 「嫌な思い出?」 「うん…その新しいトレーナーとね?色々あって」 俺がテイオーの担当を外された後の担当者か。今までその話は聞いたことはなかったから実に気になる。 「何か…あったのか?」 俺は食い気味に彼女に尋ねる。 「うん…ホントは内緒にしとこうと思ったけど…あのね、ボク新しいトレーナーにセクハラされてたんだ」 「セクハラ?それはいやらしいこと言ってくるとか…か?」 その程度であってくれと願いを込めて返す。 「最初はそれくらいだったんだけど…マッサージ中に胸とかお尻とか触られて…ボクも最初は抵抗したけどこれはテイオーのために必要なことなんだって言われて...」 彼女は語ることも辛そうな様子だった。 「ボクも早く怪我を直してトレーナーに帰ってきてほしい一心だったから...そのうち受け入れちゃって。悩んだけどベテランのトレーナーだったから誰かに相談しても信じてもらえないと思って...ガマンしてた」 「そっか…」 俺がいなくなったせいでテイオーはどこぞの変態オヤジに…だんだんとこみ上げてくる怒りとともに俺の股間はさらに反応した。 いかん。テイオーはつらい過去を思い出してあんな顔をしてるのに俺は何を考えてるんだ…。 自分でもクズ野郎とは思いつつも、俺は布団の中でバレないようにモノを出して右手で握った。 「あとは…どんなことされたんだ…?」 「トレーニングの後わきの汗舐められたり…着替えてるとこ見られたり…その…アレを…舐めさせられたり…」 テイオーが、俺のテイオーがそんな汚されていたなんて…俺の右手は絶えず動き続ける。 「トレーナー…?大丈夫?なんか息荒いよ?」 「いや…大丈夫だ」 「ゴメンね…?こんなこと聞きたくないよね…」 俺はパートナーとしてちゃんと彼女を慰めてあげないといけない。 …だけどこのクズ野郎はそれどこじゃない。もう果ててしまいそうだった。 「テイオー」 「ひゃっ…」 俺はテイオーをベッドに引き寄せる。 「テイオー大丈夫だ。今は俺がいる。その変態トレーナーに汚されたぶん俺が上書きしてやる。」 なんとなくそれっぽいことを言ってみるが今はそれどこじゃない。 愛撫もそこそこに下着をずらして彼女と一つになる。 「あっ…うれしい?トレーナーすき…」 「他にはその…どんなことされたんだ?」 「あとは…おもちゃはめたままウイニングライブで踊らされたり…レース後控室で勝負服にかけられたり…」 くそ…くそっ…俺はテイオーに怒りと欲望をぶつける。 「とれーなーぁ…そんな怖い顔しないで…?ボクとれーなーのことしか見てないよ?今はとれーなーがいるから幸せ…だよ…ッぁ…きもちぃ…」 「そうだテイオー。お前には俺がいるからな。俺がそんな過去忘れさせてやるからな!上書きしてやらないとな!!」 俺は限界を迎えたモノをテイオーから抜くと、ありったけの欲望をテイオーの勝負服に注いだ。 白い勝負服を白く濁った液体が汚す。 「どう?興奮した?」 「え?」 放心状態で天井を見上げているとニコニコのテイオーが覗きこんでくる。 「ウソだよ。全部ウソ。セクハラなんてされてない」 「はぁ?!」 「ボクの新しいトレーナー女の人だったし」 「はぁぁぁ…」 一本取られた悔しさとあんな過去はなかったという安堵感が重なって俺は大きなため息をつく。 「たまにはこーゆうのもいいでしょ?トレーナー最近お疲れ気味だったし」 まるであの頃のようにニシシと笑う彼女。 俺は恥ずかしさをごまかすように2回戦へ突入した。