【赤ちゃんとボク】 トレーナーがお休みを取った そんな訳で今日は昨日渡されたメモをもとにしての自主トレなんだけど、どうも集中できない 「明日はどうしても家から出られないんだ」って申し訳無さそうに休みを切り出したトレーナー 一身上の都合とは帝王への献身が足らないぞ!とも思ったけどそこは偉大なる8冠バ(予定)のテイオー様だ、寛大な心で暇を出してあげた でも、今になって休んだ理由がどーにも引っ掛かる、どこかに行かなきゃいけないならともかく『家から出られない』って…なに? 溜まった録画の消化とか?いやいや、そんなので休むわけない、トレーナーの真面目さはボクが一番よく知っている じゃあなんなんだろうと取り留めの無い理由が頭に浮かんでは消えていく おかげですっかり練習に身が入らなくなってしまった、このままじゃ寝るときまで影響が出ちゃいそうだ ここまで考えて思いついた、そうだ!トレーナーの家に行って確かめればいいんだ! 悩みで非効率な練習をするくらいなら疑問を解決して精神的安定を図ったほうがいいってもんだよ、ボクって頭いい! よーし、そうと決まったらトレーナーの家に行こうかな。テイオー様をここまで悩ませた責任を取らせてやるんだ!ニッシッシ♪ というワケでやって来ました、トレーナーのお家!初めて来たけど寮があるのにわざわざアパートを借りてるなんて変わってるよねー さーて、ではこれから我が帝国の領土拡大の為、電撃作戦を開始する!ピンポーン♪お届け物でーす♪ 「はーい、少々お待ちくださーい」 インターホン越しに少し慌ただしい感じの声が届き、しばらくしてガチャリと扉が開いてトレーナーが顔を出した じゃじゃーん!テイオー様のお出ましだぞー!とトレーナーに声をかけようとして……頭が真っ白になった 「すいません、お待たせしました……ってテイオー?!なんでここに?!」 驚きの声だとか練習はどうしたんだとかトレーナーが何か言っているけどそんなものは全く耳には届かず、ボクはただ一点を見つめていた だって玄関から出てきたトレーナーの腕には……小さな赤ちゃんが抱きかかえられていたのだから トレーナーが結婚していたなんて知らなかった、それならアパート住みなのも納得だ 本来ならこういう時おめでとうとかお祝いの言葉で祝福するんだろうけど、何故かボクにはそれができなかった 寝ている赤ちゃんを抱くトレーナーを見たら何だか胸がギュウーっとなって、無性に悲しみがこみ上げてきて…… 「う、う゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーん!」 「テ、テイオー?!どうしたんだ?!」 気が付けばトレーナーの前だというのにその場で大声で泣いてしまっていた 「……すん……すん……」 「……落ち着いたか?」 トレーナーは突然泣き出したボクの様子に戸惑いながらも部屋に上げて慰めてくれた あれだけ悲しかったにもかかわらずトレーナーにギュっとされて背中をトントンってされたら少し落ち着いた 赤ちゃんは今布団に寝かされている。幸いボクの声では起きなかったようだ 「……トレーナーぁ……」 「ん?どうした?」 どこまでも優しい声、背中を撫でてくれる大きな手、ああ、ボクはこのヒトが好きだったんだ 勝利には程遠い、あまりにも遅い自覚だった トレーナー……結婚してたんだね、知らなかったよ」 「え?」 「奥さんは……何処にいるの?こんなに小さな赤ちゃんがいるんじゃ、もしかしてトレーナーを辞め「待て待て」……なに?」 「勘違いしてるみたいだけど、俺は独身だぞ」 「え……?でも、赤ちゃん……」 「あの子は姉貴の子供、つまりは姪で俺はおじさんだ」 「どうしても今日だけ預かって欲しいって言われてな、乳児だし家で見るしかなかったんだよ」 めい……姪?トレーナーの子供じゃ……ない……? 「はぁぁぁああああ……」 安心でへたり込みそうになった。それと同時にさっきまでの醜態と今の状態を思い出して顔が赤くなる 「ごめん、もう大丈夫」 トレーナーから離れる。名残惜しいし顔もまともに見られないけど、今の心情で抱きしめられ続けるのもキツい それでも、いつでも相談に乗るからとトレーナーが頭を撫でてくれれば調子は戻ってくるのだから我ながらゲンキンなものだ 「じゃあ落ち着いたところで、何でテイオーはウチに来たんだ?」 「え、えーっと……家から出られない用事ってなにかなーって気になっちゃって……あはは」 「しょうがないなテイオーは。もう戻って練習再開ってわけにもいかないし、悪いんだけど一緒に子守り手伝ってくれないか?」 「いいの?!」 「ああ、正直一人で赤ん坊見るの不安だったんだよ。一緒に居てくれると助かる」 「わーい!ボク赤ちゃん抱っこしたい!抱かせて抱かせて!」 「そうだな、そろそろ一度起こさなきゃと思ってたし……ほら、まだ首が据わってないから気を付けるんだぞ」 そう言って座っているボクの腕に赤ちゃんを抱かせてくれる。うわぁ……あったかくてちっちゃくて……ミルクの香りがする…… 「可愛いなぁ、可愛いなぁ。ボクも赤ちゃん欲しくなっちゃうなぁ」 そんなボクを見てハハハって笑うトレーナー。う~ん、未来予想図。将来はこんな感じになるのかな~ 今日ボクには8冠を得るというの先の新しい目標ができた。またこんなふうに赤ちゃんを抱っこすることだ 今度はボクとトレーナーの子供を……ね! 【テイオーとあのヒト】 トレーナー……今日もあのヒトの所に行くの……? イヤだよ、やめてよ……ねぇ、お願い…… それは聞けない?ボクの為だから? 何で?!ねぇ何で?!ケガをしてもレースに出たいって言った時も!あの時も!あの時だって!いつもボクのお願い聞いてくれたじゃん! ワガママだって分かってたけど、テイオーの為ならって笑って叶えてくれたじゃん!何で今回はダメなの?! トレーナーはボクの気持ちを分かってくれないの?!とっても痛いし、ボクの大事なものが取られちゃうんじゃないかって怖いんだよ……! 身体と一緒に心までドリルで削られちゃうみたいに感じるんだ…… だからお願い……やめてよぉ…… え……?終わるまでずっと一緒についててくれるの?最後まで手も握っててくれる……? うん、わかった……じゃあ、イヤだけど行く…… 連れてって、歯医者さん 【ウマムスメイドのトウカイメイドー】 ~三行でわかる前回のあらすじ~ 嫌がるトウカイテイオーの虫歯治療に付き添ったトレーナー ドリルに怯えるテイオーは励ましの為にと握っていたトレーナーの手を握りしめ粉砕!玉砕!大喝采! その後負傷した彼の下にメイド服に身を包む謎の三冠バが現れたのだった 「て、テイオー?こんな時間にどうしたんだ?」 トレーナーの戸惑う声に奮い立ててた心がちょっと怯んでしまう それでも手の包帯を見てもう一度気合を入れなおす 骨折させてしまい謝るボクをトレーナーは許してくれたけど、それではボクの気が済まない 今までトレーナーが支えてくれた分、不自由な間はボクがトレーナーを支えるんだ! 「ボk……ワタシはトウカイメイドー。決してトレー……あなたの愛バのトウカイテイオーじゃない……ありませんわ」 「手をケガしてては生活が大変だろうと、トウカイテイオー様より依頼を受けてウマムスメイド協会の方から派遣されてきましたわ」 「ええ……何その設定……」 トレーナーは明らかに困惑した目でボクを見ている 自分の手をバキバキのコナゴナにしてしまった元凶が目の前にいるんだから仕方ないだろう 本当はトレーナーはもうボクのことを見たくも無いかもしれない それでも……やっぱり…… 「お世話、したいの……ダメ……?」 「う、うーん……分かった。じゃあ、お世話になろうかな」 「ただしその変なキャラは止めてくれ、テイオー」 いつもの少し困ったような笑顔。ボクのワガママに応えてくれる時の、ボクの好きな優しい顔 こんな状態でも、甘えてるのはやっぱりボクの方みたいだ 「アリガト……じゃなくて、ありがとうございます。ご主人様!」 ニッコリ笑顔で返して部屋に上げてもらう。よーし、お世話頑張るぞー! でも……さっきご主人様って言った時少し顔を背けてたのは何だったんだろう? ボクがトレーナーの為に炊事や洗濯を始めて一ヶ月が経った 最初の頃はトレーナーも変にそわそわしてたり、ボクも罪悪感があって少しギクシャクしてたけど、今はもう慣れたものですっかり元の関係に戻った 家事の度に褒めてくれたりお礼を言ってくれるし、スキンシップも増えたから元以上の関係かも! 元々家事は苦手じゃなかったけど、そこから結構上手くなったと思う。特に片手で食べられる料理のレパートリーは随分増えた 今やトレーナーの部屋はボクの第二の家といっても過言じゃない。合鍵も貰ったし、ボクの私物も大分増えちゃった それでも、トレーナーはボクにずることを許してくれないことが幾つかある。 お風呂のお世話とか下着の洗濯とかはさせてくれないし、他にもあ~んとかやってもそっぽを向いて応じてくれない 特に外泊は絶対にダメ。一度したらズルズルやっちゃうから、だって そこに不満が無いわけでもないけど、今のボクはトレーナーのメイドさん。ご主人様の意向には従わなくっちゃね 「さーて、やっちゃうぞー!」 腕まくりをして気合を入れる。今ボクは大掃除の真っ最中 トレーナーが検診で病院に行ってる間に隅々までピッカピカにしちゃおうって寸法だ ふんふふーん♪なんて鼻歌を歌いながら掃除を進めていたら『ガタンッ』……やっちゃった 棚に掃除機をぶつけて、上にあった箱を落としちゃった。中身は本だったみたいでそこらに散らばってしまっている 気を付けなきゃって思いながら本を拾い、ふと表紙を見てみると…… 「これって……エッチな本?!」 そう、男の人が読むエッチな本だった。驚いたけどトレーナーも男のヒトだもんね……なんてことないフリをしたけど本から目が離せない ボクだってお年頃、マヤノともそういう話もしたりする。ついつい全部拾い上げて中身を見てしまった 『ウマムスメイドの積極ご奉仕』何だかメイド物が多いみたい ははーん、最初の頃トレーナーの様子がおかしかったのはこの服のせいか、トレーナーはメイドがお好き、っと 他には……『ポニーテールの元気っ娘』『ボクっ娘特集』……な、なんかジャンルが偏ってるような? ドキドキしながらページをめくる。うわぁ……こんなこともしちゃうんだ…… その時、読んでいた本の間から一枚の写真がスルリと落ちた。拾い上げてみると……ボクの写真だ 色々な物が繋がった気がした。心もお腹も幸福感が満ち、ボクの頭はトレーナーのことで一杯になる ボクの手が徐々に服の中に伸びていったその時、「ただいまー」という声と歓喜の扉が開く音が聞こえた ……あはっ♪おかえりなさいませ、ご主人様💛 その日からボクの外泊は解禁され、お世話の上での禁止事項も全部廃止されることとなった 【帝王様ゲーム】 ターフを駆けるウマ娘たちもコースから外れたら立派な女の子!ってのは何のキャッチコピーだったっけ そう、ボクだって花も恥じらうお年頃。勿論レースが一番だけどオシャレに遊びに美味しい物と、やりたいことはいっぱいある あれもしたい、これもしたい、もっともっとしたいってものだ。それに……恋だってね! 今も前々からやってみたかったことに挑戦中。それは何かというと…… 「「「「「「王様だーれだ?」」」」」」 そう、パーティーの定番、王様ゲームだ マヤノやネイチャ達とトレーナー室に押しかけて六人でプレイ中。 トレーナーは周りに女の子しかいないせいでちょっと肩身が狭そうにしてる。可愛い いつもだったらトレーナーの傍にボク以外のコが近づくのは許せないけど今回は別だ 「おっ、ネイチャさんが王様ですねぇ。じゃあ~、二番と五番に一分間ギューっとハグしてもらいましょうかね」 「二番……俺か。じゃあ五番は……やっぱりテイオーか!今までテイオーとしか当ってないんだけど何か仕込んでないか?!」 三回ぶり六度目となるボクとの命令に声を上げるトレーナー 確率的にそう思うのは当然だよね……まぁ、仕込んでるんだけどさ! この場にいるのはトレーナー以外全員仕掛人。 定期的にボクとトレーナーがペアで命令されるようになってる ボクたちはそれぞれが自分の担当トレーナー相手に同じようにインチキ王様ゲームで協力するという約束の下に集った盟友なのだ ちなみにある程度要望は伝えているけど、基本的にはイチャイチャできるという条件のみで命令内容はランダム 約束されたイチャイチャと何が来るかわからないドキドキが相まって堪らない 「トレーナー早く早く!王様の命令は絶対なんだから!」 「分かった分かった……ほら、おいでテイオー」 腕を広げたトレーナーの胸に飛び込み、ギュっと抱きしめ合う。んう……トレーナーの匂いだぁ…… 思わず顔をトレーナーの胸にスリスリしてしまう。トレーナーも頭をポンポンしてくれてボクはご満悦。ありがとう皆…… 「一分経過……っと。さ、そろそろいい時間だからあと一回くらいでお開きな」 なんだかんだ皆も楽しんでいたのでトレーナーの提案に不満の声が上がる 勿論ボクも不満なんだけど確かに時間的にはそろそろ終わりにしないとマズイ 「もーしょうがないなー。じゃあこれが最後の一回だねー。よーし王様で終わるぞー!」 そう言ってマヤノ達に目配せをする。最後だけはボクが王様になってトレーナーに命令することに打ち合わせで決まってる ボクは、トレーナーに告白して……ち、ちゅーしてもらうんだ……! 「「「「「「王様だーれだ?」」」」」」 皆で一斉にクジを引く。トレーナー、大好きだよ……! よし、トレーナーの番号は……「あっ、マヤが王様ー!」……えっ? 確かにマヤノのクジの先には王様の印が付いている、どういうこと?! 「命令どうしよっかなー?えーっとね~」 マヤノがボクを見てニヤニヤしている。そしてそのままトレーナーへと目を向けた……まさか?! この作戦を提案して持ち込んだのはマヤノだ。クジのトリックもマヤノ案だからすり替えることもできるだろう 確かにトレーナーとマヤノは仲がいい。この間も二人でいたことがあった ボクの心に最悪の不安がよぎる マヤノ、裏切ったの?!ダメだよ!イヤだよ!ボクのトレーナーを取らないで……! 「六番が一番に自分の思いを伝えるのだー!」……あれ? トレーナーがボクの前に来る。クジの番号、一番はボクで、トレーナーは……六、番…… 「テイオー、聞いてくれ。俺はお前を……」 真っ赤な顔のトレーナー。これって、もしかして…… ボクが出すはずだった命令は、立場が逆転して叶えられることとなった 後日聞いた所によると、今回の件はどうしても告白する勇気が出ないトレーナーが自ら退路を塞ぐためにマヤノにお願いした作戦だったらしい 本当のターゲットはボクだったようだ 騙した側のつもりが騙された側だったというワケ しかし本当に質が悪い。あの時はもうワケが分からなくなってぐちゃぐちゃに泣きながらトレーナーに飛びついたっけ おかげで一生忘れられない思い出になった そんな風に思い返していたらもう時間だ、出かけないと。今日はデートなんだから! ボクは花も恥じらうお年頃。勿論レースが一番だけどオシャレに遊びに美味しい物と、やりたいことはいっぱいある あれもしたい、これもしたい、もっともっとしたいってものだ。大好きなトレーナーと一緒にね! 【お嬢様テイオー】 「酷いよー!トレーナー!」 「ん?いきなりどうした?」 俺を非難しながらトレーナー室に飛び込んできたのは我が担当バことトウカイテイオー。 随分とご立腹の様子だがはて?何か怒らせるようなことしたっけかな? 「トレーナー、怒られるような心当たりが無いって顔してるね?」 そう言ってテイオーにじとーっとした目で見つめられるので、ここ最近の行動を思い返してみる 他のウマ娘のトレーニングをむやみに見たりはしてないし、足以外の箇所を要求されるのは困りものだがテイオーのマッサージだって念入りにしている おはようとおやすみ前の電話だってかかさずしているし待ち受け画面もテイオーとのツーショットだ 強いて言うならテイオーと週一で交換している手作り弁当に嫌いな野菜を分からないようにして入れたことくらいだが、それならその日に文句が来るだろう うーん、ちゃんとテイオーのワガママもといお願いには応えてるはずだけどな……あっ 「もしかしてこの間テイオーにあげたブレスレットがペアアクセだったことか?」 「エッ、これってそうだったの?」 「ああ、カップル用だったけどテイオーに似合いそうだったから別にいいかなーって」 プレゼントなのに男性用だからといって半分しか渡さなかったからケチな奴だと思われたのかもしれない 「あのさ、もしかしてトレーナーも今付けてたり……とか……」 「付けてるよ、ほら」 「ピェ……オソロイ……」 せっかく買ったのに半分無駄にするのはもったいないしな 「お揃い……ペアのお揃いアクセかぁ……えへへ……」 「って誤魔化されるところだった!違うよトレーナー!」 どうやら違ったらしい。誤魔化してるつもりはないがそういうことになってしまった 完全にお手上げだが何故かテイオーの機嫌が少し良くなったようなので今なら教えてもらえるだろう。素直に聞いてみるとしよう 「すまん、全然思いつかない。悪いところがあったなら直すから教えてくれテイオー」 「もー!最近キングとかマックイーンとよく一緒にいるでしょ!」 「ボクというものがありながらどういうつもりなのさー!」 「ああ、そのことか。いやさ、最近テーブルマナーとかそういうのについて色々教わってるんだよ」 始める切っ掛けとなったのは理事長やたづなさんにされた助言である 曰く『テイオーの活躍や実績は目覚ましいものであり、今後は所謂上流のパーティー等に呼ばれることも増えてくるだろう』 『そういう場ではトレーナーも同席することも多いから今のうちにテーブルマナーや社交界の作法を学んでおいた方がいい』とのことだ 言われたところでどう学んだものかと同期に相談したらマックイーンとキングヘイローのトレーナーがそれぞれ自分の担当を紹介してくれた メジロ家お嬢様のマックイーンと一流のマナー講座がとても好評だと聞くキングヘイロー。その二人が教えてくれるならありがたいと頭を下げた次第である そういう訳で俺は二人の指導の下、目下勉強中なのである。ただテーブルマナーなんかはともかく一トレーナーに社交界の作法とか必要かな……? 「そういうのはまずボクに相談するべきでしょー!そうすれば全部ボクが教えてあげたのに!」 「それをよりによってマックイーンなんかに教わってさー!」 「え?教える?テイオーが……?」 「何なのさその目はー?!ボクだって良いトコのお嬢様なんだぞー!」 「いや、それは知ってるけどさ……なんかこう、イメージが湧かないというか……合わないというか……」 一般人ゆえに貧困なイメージではあるが活発溌剌天真爛漫なトウカイテイオーはどうにも自分のお嬢様像とは結び付かない 「むー……!そこまで言うならボクのお嬢様ぶりを見せてやろうじゃないかっ!」 「それで納得したら今後はボクから教わること!いいね!」 「あ、ああ、分かった」 「じゃあ、ボクは準備してくる。後で連絡するから待っててね!」 そう言ってトレーナー室から駆け出ていくテイオー。勢いに圧されてしまったがテイオーが自分の為に何かしてくれると思うと楽しみだな 「おおお、でっけー……すっげー……」 数日後、俺は『何事も実践が一番!トレーナーのテストも兼ねるよ!』と言われて指定された物凄くデカくて立派なホテルの前で立ち尽くしていた 「ここで合ってるよな……?テ、テイオーはどこだ?まだか?」 テイオーは準備があるからと一度実家に戻っており、ここで合流する手筈となっている だが小市民な俺はすっかり不安になってお上りさんのごとくキョロキョロしてしまう。テイオー早く来てくれ…… そこに立派なリムジンが一台走ってきて俺の前に止まった。スゲー、リムジンなんて初めて見た 運転手が降りてきて後部座席の扉を開ける。そこから降りてきたのは…… 「テイ、オー……?」 シックなドレスに身を包んだ担当バだった 「お待たせ。どうかなトレーナー……トレーナー?」 綺麗だ。素直にそう思った 大人っぽいドレスであるのにしっかりと着こなしており間違ってもマ子にも衣裳だなんて言えはしない。色香さえ感じる程だ 装飾品も派手過ぎず地味過ぎずテイオーの魅力を上げるのに一役買っている。俺が買ったブレスレットも付けているが見劣りしていて申し訳なくなる 「トレーナーってば!」 「えっ、あっ、すまん。なんだ?」 「なんだじゃないよ。どうしたのボーっとして」 「すまん。あまりにテイオーが綺麗だったんで見とれてたよ」 「ホント?えへへ……やったね!じゃあもうすぐご飯の時間だから行こう?しっかり見てあげるね」 「よろしく頼むよ」 差し出されたテイオーの手を取りホテルに入る。不安はもう無かった 「ご馳走様。旨かったな」 見たこともないような食事を終える。驕りというのが大人のプライドにヒビが入るが仕方ない。俺の給料じゃ一生手が届かない 「中々ちゃんとしてたね。及第点をあげよう」 食後の紅茶を飲みながらそう通達してくる。なんとか合格は貰えたようだ 一方の俺はと言うと、テイオーに会った時点で諸手を上げて白旗だ 完全無欠にお嬢様ぶりを見せられ、ぜひマナーを教えてくださいと頭を垂れた 「でもスープのときのスプーンの使い方はバラバラでダメだね。お皿の奥から手前にすくうのがマナーだよ」 「これがイギリス式マナーだと手前から奥になるから注意してね。ボクの家はそっち方面のヒトとも付き合い多いから」 マナー道も奥が深いようだ。テイオーの家の付き合いが関係するかは分からないが心には留めておこう 「コース料理って結構時間がかかるもんだな。テイオーはどうやって帰るんだ?また迎えがくるのか?」 「?今日はトレーナーも一緒に泊まりだよ?って言うか二泊ね。ご飯だけでテストが終わるわけないじゃん」 そういってルームキーを見せてくるテイオー。き、聞いてないぞ?! 「明日はこのホテルでパーティーがあるからそれに参加するからね。パパとママも来るから挨拶お願いね」 どうやら全てにおいて実践形式らしい。ご両親にはテイオーづてに一度会いたいと言われていたから丁度いい機会だけどもっとラフな場がよかった…… 「じゃあ部屋に行こっか。トレーナーの着替えも部屋に運ばせてあるから」 「え?もしかして同部屋なのか?」 「スイートにシングルルームなんてあるわけないじゃん。さ、行こ!」 同部屋はいささか問題がある気がするが、まぁテイオーとなら大丈夫だろう。アルコールのせいか少しポカポカしか気分を味わいながら一緒に部屋に向かった 「これからの為にいーっぱい勉強してね、トレーナー!」 【肩車テイオー】 「なぁテイオー、そろそろ機嫌直してくれないか?」 胸の中にいる我が担当バの頭を撫でながら問う。こうやって抱き締めてかれこれ一時間である 「マダイタイモン……トレーナーノセイダモン……」 胴に回された腕の力が強くなり、グリグリと額を擦り付けてくる。痛い所はその額のはずなのだが 最初に比べれば大分良くなったが帝王様の機嫌が治るにはまだまだかかりそうだ これが可愛い所でもあるんだけどな、なんて考えながら頭を優しく撫でつつ俺は事の発端である少し前の出来事を思い出していた 「トレーナー!これやって!これ!」 そう言って昨年のJCの記録を見せてきたテイオー 映像内では優勝者のエルコンドルパサーを彼女のトレーナーが飛行機のように抱えて走り回っている 「……この抱えて走るのをやれって?」 「うん!ボクの方が軽いしできるでしょ?」 「ええ……どうかな……」 確かにテイオーの方が小さいし体重も軽いが、俺は彼ほどガタイは大きくないしも力も強くはない テイオーにウマ娘の脚力で飛びつかれたらそのまま押し倒されてしまうだろう 「できないの?」 「うーん……肩車だったら、何とか……」 「え?肩車?!それでいいからやってやって!」 しゃがんでテイオーを肩に座らせ立ち上がる。首回りの感触については考えないようにしながら少し走ると歓声が上がった 「わーいわーい!そのまま外へ発進だーっ!」 はしゃぐテイオーに俺も楽しくなり、言葉に従って外に向かったが……1.5人分の身長という大事なことが抜け落ちていた 結果としてテイオーは扉の上枠に思い切り額をぶつけ、俺は償いとして額や頭を撫で続けることとなったのである ギュ、っと腕に力を込めてトレーナーの胸に顔を埋める 機嫌も痛みもとっくに治ってるけど、トレーナーの胸の中から離れたくなくてつい駄々をこねちゃった ボクの気持ち、トレーナーに伝わってるかな……? 「頼むよテイオー……俺が悪かったから……」 トレーナーがちょっと困った感じで泣きを入れてきた。そういえばお仕事一杯溜まってるって言ってたっけ 名残惜しいけどそろそろ離れてあげようかな。そうだ、離れる前に…… 「じゃあ、まだ痛いからおでこにちゅーして」 そう言った直後、ボクは猛烈に後悔した。これは卑怯な行いだ 確かにちゅーはして欲しいけど罪悪感や義務感だったり、適当にあしらうような気持ちでなんてして欲しくない 『なーんて、冗談だよ!』そう言おうとする前におでこに柔らかい感触が降ってきた。その瞬間の感情は歓喜と後悔が半分ずつ。嬉しいけど、悲しい 「トレーナー……あの……」 「今のが謝罪の分な」 「え?」 「んで、これが俺の気持ちの分」 そう言ってトレーナーはボクのおでこに雨を降らせてきた。ちゅっ、ちゅっ、とまるでボクのおでこで触ってない所は無いぞと言うかのように あまりのことに思考が纏まらない。トレーナーが自分の意志でボクにちゅーしてくれた……? 「なぁテイオー、俺は頑張ってるテイオーが好きだ。俺ができることならなんだってしてやりたいと思ってる」 「テイオーのしたいことは俺のしたいことだ、後ろめたく思うことなんか何もないぞ」 そう言って柔らかく笑うトレーナー。ボクの心はは嬉しさやら何やらでもうぐちゃぐちゃだ。トレーナー、トレーナー、トレーナー……大好き 「それで、もう痛い所は無いか?テイオー」 優しく聞いてくるトレーナー。言うのはちょっと恥ずかしいけど、その声も目もボクへの愛に溢れてたように思う 「えっと、まだここが少し痛い……かな」 そう言ってボクは自分の唇を指さした