「でもわたしはまってるよ」
突如差し込まれた声に振りむく
最近夢に現れる声
「───と───がなかなおりするのを」

「───ッ！！」
飛び起きる
午前5時と言う時間が目に入る
寝汗が気持ち悪い、こめかみがズキズキする、吐き気もしてきた、すぐに収まるとは言えここ数日は毎日こうだ
「薬……貰っておこうかな……」
同室は……今日も外泊か、爛れてるなぁ…
私が言えた口では無いのだろうけど
そう気分を紛らわすために考え事をしていると少しづつ収まってくる
そんなこんなで今日も普段と変わらない一日になりそうだった

「──ンスカイさん？……セイウンスカイさん！」
「あだっ……！」
教本の角で頭頂部を叩かれる、痛い
やはり授業は真面目に受けたほうがいいのかな？痛い思いしなくて済むし
などと頭を撫でながら教科書とにらめっこする
だが眠気は来るもので……
「はぁ……」
「……あいだっ！？」
こうなってしまうのだ

「最近居眠りが多いデスよ？大丈夫デスか？」
「ですね!」
「しっかりしていかないといけませんよ〜？」
「うへぃ……わかってるんだけどさぁ……」
わざわざお昼の話題にする程……なのかな？
「でもスペちゃんだって私のあとにしばかれてたよね？」
「それは……見なかった事に……えへへぇ……」
「いや……どうなんデスかね……？っと……今日のランチは……」
「ん〜……私はお刺身定食で〜」
「私は人参ハンバーグセットで」
「アタシは……フライセットでお願いしマース」
どれどれ……？
「なら私は皿うどんかな？」
めいめいが食事を受け取りテーブルに着く

私以外は皆ご飯が山のようになっており……
「……よく食べられるね」
「セイちゃんは逆に食べなさすぎですよ！」
いや、一人前はあるんだけどね？スペちゃん？
「どこか具合が悪いのデスか？」
だから一人前はあるんだよ？まあ……
「ちょっと食欲は落ち気味だけど……」
「そうなんですね……ならお酢とかかけるといいみたいですよ！」
いや、普段からかけてるし……
等と答えながらお酢を手に取りかけようと──
「あ」
フタが緩かったのか普段の軽く5倍近い量の酢がかかる
「……その……私のハンバーグ少し上げますね？」
「私のお刺身も……」
「アタシのアジフライ……イイデスよ？」

同情しないで……
「い、いや……いいよいいよ？勿体ないし……これ食べるから……」
憐れみの目を浴びながら酢の匂い漂う麺を口に含む
──あれ？
「セ、セイちゃん？大丈夫ですか？」
「スペちゃん……これ、結構イケるよ……」
「マジデスか！？……ちょっともらいマース」
「エル。怖いもの見たさはやめなさい」
エルちゃんが麺を啜る、が
「──すっっっぱいデーーース！！！！！」
そうなの……かな？なんかちょうどいいんだけど…？
そうして波乱の昼休みが終わりを告げる

「──って事があってさ」
「そうなのか……なんか大変だな？」
「いやいやいや？なんか自分の味覚を切り開いた気分だなって」
夕暮れの中トレーナーと会話する
トレーニングが終わった帰り道で二人で並んで歩く
あの雨の日から2週間が経ち少しギクシャクした関係も修復されつつあった
断った訳ではない、でも先延ばしにした
現役中は無理、と
なら待つよ、と答えてくれた
でも、それで良かったのか分からない
胸の奥に刺さった針がチクチクと痛むから
そうして今日も終わりを告げる
──はずだった

朝の頭痛や吐き気を止める為の薬を貰いに保健室へ
校内医のおばさんは私の症状を聞いて少し真顔になった
渡されたのは薬ではなくて病院の紹介状
トレーナーと行くように、と
そこで私は──

「……え？妊、娠……？」
「はい、採尿結果や問診での症状などからほぼ確実に」
医師の言葉に頭の中が真っ白になる
いつ授かったのかは考えるまでもなかった
「……トレーナーにはこの話は？」
「まだしていません……が」
「話す義務がある……って事？」
「はい」
ショックなのは分かりますが……これからの事を考えて下さい

そう言われトレーナーと入れ代わりに部屋を後にする
私は扉が閉まると同時に駆け出していた
逃げるみたいに
──何から？

「……ッ……ハァ………ハァ……ハァ……」
無我夢中になって駆けていった先は何時もの河川敷で、月明かりがやけに眩しく見えた
「なんで……どうして……」
口から零れる
これからの事を考えて──頭の中で医師の言葉が駆け巡る
これからの、事
私の事、トレーナーの事、この子の事……分からなくなる……
トレーナーとの事を考えるならば堕ろすのが一番なのだろう、それは私の競争バ人生においても一番の選択になる
でも
「……分からないや」

産みたい、そう思ってしまった、身勝手にも、感じてしまった
「どうすれば……私は…」
雲ひとつない月明かりの中で涙が零れてくる
どうすればよかったのか、どうなるのが正解なのか
ままならないな、と

──結局私は彼との対話を拒む選択を取ってしまった
寮に戻り財布や最低限の着替えを鞄に詰め込み脱走する
誰にも知らせずに、一人きりで
幸い賞金が少しは貯まっていたので当面……産むまでくらいは生活できるはず、と考えた
実家に帰ろうかとも考えたが連絡が行くだろうと思い候補から外す
しかし世間の風当たりは厳しいもので──
「結局ここしか泊まれない、か」
遠征等で使う各レース場備え付けの宿泊施設に流れ着いたのだった

そうして2週間が過ぎた
もともとが大勢のウマ娘が出入りする関係上紛れ込むのは難しくなくなんやかんやで時間は過ぎていった
問題があるとすれば……
「えっと……ニシノミライさん？」
「……えっ……あ、はい？」
「貴女はどのレースに出るの？結構滞在してるみたいだけど…」
「うーん……トレーナーと合流してから……だからまだちょっとかかるかな……？」
「……そう、なら早く合流できるといいわね」
だって貴女とても早そうですし

レースに出る訳でもないのに嘘をつく、ことだった
仮にも二冠バなので顔を知られていると面倒だと思い髪型を変え耳飾りの場所も変え、伊達メガネを付けたしこうして偽名も名乗っている
お陰で私は存在しないウマ娘としてここに居る
でも──
「──セイウンスカイっ！！！」
「……にゃはは〜」
見つかっちゃった

「……話、しよう」
宿泊施設から少し離れた喫茶店で腰を下ろす
コーヒーと人参ジュースがそれぞれの前に出されたのをきっかけにポツポツと言葉を吐き出す
「……なんで？」
「追いかけてきたのは……俺が後悔したくないからだ」
時間は…かかったけどな
「……なら私が思ってる事は」
「分かってる、つもりだ」
「…じゃあ、私は…どうしたら…」
「したいように……いや、それは俺の勝手だな……」
どうしたいんだ？
「走りたい、でも──」
産んであげたい

「そうか……」
「両立……は、できないよね……」
「……うん、身体の事を考えるなら妊娠中の出走は非現実的だ」
「なら……どうしよっか」
「ドリームシリーズ」
「……行けるの？」
トゥインクルシリーズの先にある舞台
それに行ける、と？
「割とギリギリだけど、な」
正直ここから約一年のロスを取り返す必要があるのは分かっていてくれ
でも、挑戦しない理由にはならないと思ってる
そう言ってくれた
なら──

「うん……覚悟は出来たかな」
「なら良かった……ところでなんだが」
「…うん？」
「籍、入れようか」
「あはは……それ今言っちゃうか〜？」
「まあついでだし」
「なら…うん──」
これからもよろしくお願いします

トレセン学園には他の学校とは違った校則がある
旧校則18条1項不純異性交遊についての罰則
現校則30条1項トレーナーとの性交渉についての規定
何れも最後にある文言が記載されている
『ウマ娘トレーナー双方の合意があり学園からの許可を得た場合にのみ入籍及び同居が許可される』と
そして2項には
『上記の者の妊娠、出産に際して学園は可能な限りの対応を取るものとする』とも書かれていた

昨日のやつの間数ヶ月のお話
結局書いちゃったんだなこれが

あの時点で妊娠してたのか...

私の中ではウンスとトレーナーは成り行きの一発で避妊したはずなのにデキちゃったくらいの身体の相性の良さって事で一つ

ハッピーならいいのさ…
俺はそれで…

ウンスが幸せそうならもう全部快晴馬場だよ！

最終的に前に進めたようでよかった...

ウンスがデキたら逃げ出す風潮
最後が幸せなら私の性癖には合っていますよ！

なるほど…原作だと怪我で出れない期間の説明を妊娠で補うすごい発想だ

少し先行き不安ではないでしょうか……

二人には幸せな未来が待っていますよ

天気は崩れるかと思いましたが快晴の青空です