二次元裏@ふたば

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97885 B21/05/06(木)00:12:28No.799804693そうだねx1 01:12頃消えます
「トレーナー。それは何だ?」
「それって?」
「その……紺色の」
「ああ、これか」

「ヴァイオリンだ」

 URAファイナルが無事に終わり、俺と愛馬のオグリキャップは少しの間、休養期間になった。最初の3年間を終え、トレセン学園からはチームのサブトレーナーとして働くか、数人のウマ娘たちを導いていくかという選択が提示されていた。もちろんオグリキャップとの指導は継続の上である。
 どちらを選んでも、トレーナー室は変えなくてはならない。今の部屋で数人を集めるとなると、少々手狭なのだ。
 そういうわけで、休暇中のオグリと一緒にどれを新しい部屋に運び出すか、ということをあーでもないこーでもないと話し合っていた。
 大まかなリストアップを終えた後、オグリキャップはたまたま置いていたヴァイオリンに気がつき、今に至る。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
121/05/06(木)00:12:55No.799804838そうだねx1
「ヴァイオリン?もっと茶色くて小さいものかと思っていたぞ」
「これはケースだ。中身が本体」
「……中を見てもいいか?」
「どうぞ」
 ケースを開け、ヴァイオリンを取り出す。数ヶ月ぶりだが、楽器は綺麗な状態を保っていた。軽く拭いて、机に置いた。

「触るのは初めてだ」
「あんまり高いモンでもないし、そんな扱いに気を使わなくてもいいよ」
「細い……小さい……軽い」
「ヴァイオリンは見るのも初めてか?」
「随分前に。家に余裕が無かったから楽器には縁が無かったんだ。学校にも無かった」

 だとすれば、当然カサマツトレセン学園にも無かったのだろう。レース第一なら音楽の授業も取らないだろうし。オグリキャップはヴァイオリンを机に乗せたまま、おっかなびっくり弦を指で突いていた。ぴん、ぽろん、とか細い音が鳴った。
221/05/06(木)00:13:31No.799805072そうだねx1
「でも見たことも聞いたこともあるぞ。最近な」

 芦毛の眉が得意そうに動いた。

「へえ、どこで?」

 こいつの休日の過ごし方にそんな劇場に行ったとか聞いたことあったっけ。大体飯屋か喫茶店でケーキ食いまくってたような。

「とぼけないでくれ。……夜のグラウンドで、君が」

 ヴァイオリンを弾くまねをしながらオグリキャップが答えた。ちょっとムスッとしてる。……待ってくれ聞かれてたのか。有馬記念を前にしていたある日の夜、俺はヴァイオリンを引っ掴み、心の赴くままに演奏していたのだ。門限間近のグラウンドに誰もいなかったから実にいい音だと思っていたのだが……!
321/05/06(木)00:14:06No.799805309そうだねx1
「誰もいないと思っていたのだろうが、そうはいかない」
「……恥ずかしいな」
「私は綺麗だと思ったぞ?」

 オグリキャップはこちらの目を真っ直ぐに見て言った。

「……そう言われるともっと恥ずかしいな」
「トレーナー、その。私にはこの3年で見せてくれなかったのに、どうして夜なんかに弾いてたんだ?」

 綺麗に弾けるんだから聞かせれてくれれば、とオグリキャップは口を尖らせた。
421/05/06(木)00:14:21No.799805393そうだねx1
「昔、夢があってね。大舞台で立ちたいとか、そんな夢だ」
「うん」
「まあ、頑張ってたんだけど……色々あって折れた。よくある話さ」
「うん」
「それで……さらに色々あって、トレーナーになったけど。で、オグリキャップと会えた」
「……うん」

 オグリキャップはただ聞いてくれていた。夢が潰えるなんてトレセン学園でも珍しい話ではなく、想像のしやすいものだったのだろう。彼女がいずれ味わうかもしれない恐怖でもある。

「弾くことそのものはやめられなかったんだ。どうしても……楽しくて」
「それは、私にとっての……走ることのような?」
「だろうね」
「なら、私に聞かせてくれ」
521/05/06(木)00:14:42No.799805512そうだねx1
 オグリキャップが身体を起こし、言った。ウマ娘の上手な走りを見ようとする、その時の目をしていた。

「満足できるかは、分からないぞ」
「いいんだ。私が聞きたいから、弾いて欲しいんだ。君が見ていた夢を、私に見せて欲しい」

 小さなプライドが起こした逃げはあっさりと牽制……いや、真正面から叩き潰された。ここまで可愛い愛馬に言われてしまっては、もうやるしかないだろう。我ながらちょろいな、と俺は内心で苦笑した。深呼吸を一つして、頭の中をトレーナーの世界から音楽の世界へ切り替えながら、俺は聞いた。

「何かリクエストは?」
「君の弾きたい曲を」

 ヴァイオリンを肩に乗せ、顎で挟む。弓で弦を弾き、自分のハミングで音程を合わせ、俺は曲を決めた。ワクワクとこちらを見るウマ娘と目を合わせ、俺は演奏を始めた。
621/05/06(木)00:15:03No.799805635そうだねx1
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 演奏が終わった後、一人分の拍手があった。ぶらぼー、ぶらぼーとも聞こえる。可愛いぞ。目の焦点を元に戻すと、遠慮がちな歓声をあげる愛馬と目が合った。

「ぶ、ブラボーとこういうときは言うんだろう。知ってるぞ。……どうした?涙が……その、ブラボーは嫌だったか?」
「いや、違うんだ……昔のわだかまりと決別できただけ……ありがとうオグリ」
「お礼を言うのは私だ。聞かせてくれて、ありがとう」オグリキャップは首をかしげた。彼女には分からなくていいか、涙の訳は。

「これなら、もっと早く聞かせればよかったな」
「ならまた聞かせてくれ。レースの後、とか。レパートリーは多めで頼む」
「そっちも大食いか」
「良いものを聞かせてくれたせいだぞ。私も勉強してみる」
「わかった。……でも練習は見ないでくれよ、恥ずかしい」
「見ても誰にも言わないから大丈夫だ」
 ……そういう問題だろうか?
721/05/06(木)00:15:43No.799805878そうだねx1
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「ところで……そのケース、自分で買ったものなのか?」

 ひとしきり話した後、オグリキャップが聞いてきた。心なしか声のトーンが低いように感じるし、素直に話しても嫌な予感がする。声の勢いを弱くして、聞こえないといいなと思ったが……

「……元カノが……」
「なら私が新しいのを買おう。そうしよう」
「まだ使えるだろ!」
「君が私に聞かせるんだから、私がケースぐらい決めたっていい」

 ほら来た。言い方が端的な癖して、いつぞやのぬいぐるみの時よりもむくれ具合が酷くなってる気がする。あれから成長して、大人に近づいた顔でその膨れっ面はずるい。あざとい。
821/05/06(木)00:16:00No.799805992そうだねx1
「練習用の靴を買ってもらったお返し、だ」
「それずいぶん前の話じゃないか。それにお返しならもうたくさんされてきた」
「だめだ。楽器のお店はどこにある?明日行こう。何なら今から行こう。ついでにご飯も食べに行こう」

 むくれた愛馬にひっつかれ、トレセン学園から一番近い楽器店を検索しながら俺は思った。理事長殿、部屋の移動はもう少し遅れそうです。
921/05/06(木)00:17:37No.799806620そうだねx11
終わり
タキオン曇らせ怪文書が煮詰まりすぎたので代わりに書きました
夢破れた人×夢を目指す人のコンビっていいよね
ちなみに渋に上げてるので悪しからず……
1021/05/06(木)00:17:46No.799806685そうだねx6
昔の女の残滓は許さない
1121/05/06(木)00:18:24No.799806918そうだねx2
やきもちオグリは健康に良い
1221/05/06(木)00:19:25No.799807271そうだねx1
むくれるオグリは明日への活力になる
1321/05/06(木)00:19:52No.799807439そうだねx13
「これなんかどうだろう、私の勝負服みたいな色だ」
「白いケースは汚れるから嫌だ」
「私だってレースに出れば汚れるがトレーナーは褒めてくれるじゃないか」
「そういう事では……」
みたいなこと何時間もやってこい
1421/05/06(木)00:21:19No.799807995+
えー!?
1521/05/06(木)00:22:42No.799808506そうだねx6
私も甘々にしておくれよー!
1621/05/06(木)00:23:43No.799808856+
凄くすっと心に落ち着いてきた…
ありがとうスレ「」…
1721/05/06(木)00:28:51No.799810665+
野暮なのは承知だけど、この世界のバイオリンの弓毛は何でできているんだろう…
1821/05/06(木)00:30:45No.799811319そうだねx2
>バイオリンの弓毛
ウマ娘のヘアドネーションとかありそうじゃない?
1921/05/06(木)00:32:10No.799811788+
理想の大型犬オグリ
2021/05/06(木)00:32:27No.799811898+
>野暮なのは承知だけど、この世界のバイオリンの弓毛は何でできているんだろう…
クジラだろ
2121/05/06(木)00:34:12No.799812509+
>野暮なのは承知だけど、この世界のバイオリンの弓毛は何でできているんだろう…
クジラだったり
あとはウマ娘が贈り物用に自分の尻尾の毛を繕ってもらったりはしてそう
2221/05/06(木)00:35:32No.799813002+
独占欲
2321/05/06(木)00:45:26No.799816453そうだねx4
自分の髪の毛で作った弦のヴァイオリンをトレーナーに弾かせるウマ娘…スーホの白い馬…
2421/05/06(木)00:48:04No.799817318+
いずれガンに効く
2521/05/06(木)00:55:15No.799819607+
>あとはウマ娘が贈り物用に自分の尻尾の毛を繕ってもらったりはしてそう
愛が重い…
2621/05/06(木)00:59:20No.799820865+
お守りに自分の尻尾の毛を入れたのを意中の相手に渡すのがウマ娘の間で流行ったり
2721/05/06(木)01:08:45No.799823665+
キタハラの時みたいなのが涌かない辺りなるほどなって


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