二次元裏@ふたば

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2280151 B21/05/04(火)23:03:07No.799406694+ 00:03頃消えます
“最強の八冠ウマ娘・トウカイテイオー”の名が少し古くなった頃。
現役を退いた私は、トレセン学園の正門前にいた。

「そんなに懐かしいって訳でもない筈なんだけどな」

トレセン学園には自身の功績もあって卒業後も度々お呼ばれする機会があったので、なにも何年振りに足を運んだということでもない。
しかし、それまでは“競走ウマ娘・トウカイテイオー”としてであって、今度は立場が違う。
今度は、トレーナーとして。後輩たちを育て上げる立場なのだ。
立場が変われば景色も変わる。学び舎が、昔よりも大きく見えた。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
121/05/04(火)23:03:26No.799406815+
それまでの無理が祟ったせいかは分からないが、何度か足を骨折してしまい引退を考えるようになった頃。ルドルフさんと秋川理事長から打診を頂いたのがきっかけで勉強を始め、苦労しながらも正式にトレーナー資格を取った。
昔からトレーナーの指導の元でトレーニングしてきたわけだけど、改めて勉強してみると彼らの凄さが身に染みたと同時、とんでもない苦労を掛けていたと若気の至りに悶えた事もあった。帝王の名に恥じないワガママっぷりだったと反省したものだ。
如何に身近であろうと、実際にその立場に立ってみないと分からない事は多い。
221/05/04(火)23:03:42No.799406922+
校舎に入り、慣れた足取りで理事長室に向かう。
これからトレーナーとしてやっていく事になる訳だが、それにあたってまずは先輩トレーナーの元でサブトレーナーとして下積みをする事になる。その辺の打ち合わせをするそうだ。

「歓迎ッ!待っていたぞトウカイテイオー!よく来てくれた!」

あの頃よりかなり背が伸びて大人っぽくなった理事長が迎えてくれた。話し方は変わってないけど、迫力が増したせいか少しカッコよくすら感じる。
321/05/04(火)23:04:02No.799407074+
「いえ、私の方こそこうして理事長に声を掛けて頂いて、本当に感謝してもし切れません」
「何、キミの実績と才能を鑑みれば当然の事だ。脚の事は残念だったが、確信ッ!キミにレースへの情熱が残っているなら必ず受けてくれると思っていた」

いつもの特注扇子を扇ぎながらテーブルに資料を広げて今後の話をする理事長が、一枚の資料を抜き出す。


「理事長、それは?」
「うむ、ちょうど今年からチームを受け持つトレーナーがいてな。彼もチームを受け持つのは初めてなんだ……が、技量的にはともかくとして、少し身体にハンデを抱えていてな」
「懸念ッ、そのような身体で何人ものウマ娘を担当するのも体力的にきっと難しいだろう。なので、キミがサブとして着任するにはうってつけだと思ってな」
「チームを初めて…ですか?新米の私では足を引っ張ってしまうのでは?」

そう言って資料を受け取って、心底驚いた。開いた口が塞がらないとはこういう事か。
421/05/04(火)23:04:21No.799407208+
「フフ、再会ッ!彼もキミに会いたがっている、“トウカイテイオー”。君も知っているように、彼は優秀だ。故に、修練ッ!彼の元でなら、トレーナーとしての経験も大いに積めるだろう」
「なるほど、そういう事でしたか……、変わりませんね、理事長は」
「君も彼もお互い忙しい身で、退院後は会えていなかったと聞いてな。私の力で出来るお膳立てはここまでだ。奮起ッ!彼をよく助け、よく学ぶといい。期待しているぞ!」

思わずため息が出る。理事長のウマ娘一人一人の幸福を願う器の広さには定評があるけど、まさかここまでとは。
521/05/04(火)23:05:08No.799407569+
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病が快方に向かい目を覚ました彼と面会した時、なんと断片的ながらボクの活躍を記憶していた。『意識が無くてもわかるモンなんだなぁ』と、トレーナーは他人事のように笑う。
泣きながら思いの丈をぶち撒けることしか出来なかったボクを、彼は頭を撫でて慰めてくれて、ボクの頑張りを褒めてくれた。
ずっと、ずっと求めていた願いが、ようやく叶った瞬間だった。
621/05/04(火)23:05:32No.799407723+
しかし、それと同時に彼はボクに対し負い目も感じていた。自分のせいで、ボクの人生を壊してしまったと。
……確かに、それでボクの人生は大きく形を変えたかもしれない。彼が倒れなかったら、もっと幸福な未来があったのかもしれない。
それでも、ボクはやっぱり幸せだったのだ。ライバルたちと競い合い、本気でターフを駆け抜け、彼が誇りに思える様な、最強のウマ娘になるために努力出来た事が。
721/05/04(火)23:06:01No.799407923+
「ボクが自分で選んだ道だから、ボクは後悔なんてしてないよ。トレーナーがいなければ、きっとボクは夢を叶える事は出来なかった。だから、自分を責めないで」

それが嘘偽り無いボクの本心。トレーナーは「ありがとう、テイオー」と呟いて、静かに泣いていた。……そのあとで

「なんかお前見舞いに来る度ピーピー泣いてた気がするんだけど、アレって夢かなんかか?」

と聞かれて、死ぬ程恥ずかしくてボクも泣いた。

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821/05/04(火)23:06:19No.799408044+
その後、リハビリを経た彼はトレーナー業に復帰。私は私でドリームシリーズで走り続けた。お互い忙しい身で道が交わる事は無かったけど、それでもお互いの活躍はずっと見ていたし、それが何よりも励みになっていた。
私の勝利を彼は称えてくれたし、彼の担当の勝利を私は称えた。
彼の担当の調子が悪い時はアドバイスを送ったし、私が怪我をした時はよく慰めてくれた。
921/05/04(火)23:06:57No.799408320+
私が三度目の骨折をして引退を考え始めた時。ルドルフさんと理事長からもらった話を、私は彼に打ち明けられずにいた。

何か明白な理由があった訳では無い。なんとなく、気恥ずかしかったのだ。
トレーナーは私の引退を残念がってはいたけど、「むしろお前の脚でよくここまで走れた。本当に頑張ってきたんだな」と労ってくれた。
彼は私も知らなかった脚の不安を見抜いていたらしく、当時はそれに合わせたメニューを組んでくれていたらしい。…それもっと早く聞きたかったなぁ。
今思えば彼のやり方をベースにメニューを組み立てていたので、もしかしたらここまで走れたのは当然だったのかもしれない。

彼は彼で『どうだ?トレーナーやってみるとかさ』と誘ってくれたけど、それとなくはぐらかしてしまって、それ以来連絡を取る頻度も減って今に至る。
1021/05/04(火)23:07:18No.799408474+
“チームレグルス”と真新しい表札が付けられたトレーナー室。立地的にはあの頃と同じだが、年月を経て一度改装されたそうで少し大きく、小綺麗になっている。

……アレ?なんだろう、すごく緊張する。なんなら人生で一番緊張してる。たかだかノックして扉を開けるだけの事がこんなに手に汗握るとは。わけわかんないよー!

直接会うのは確か、退院のお祝いに行って以来だ。引退後も一応やり取りはしていたのになんでこんなにドキドキするんだ。
1121/05/04(火)23:07:33No.799408609+
固唾を飲み、意を決してノックすると部屋の中から「はい、どうぞ」と、あの頃より少し低くなった声が返ってきた。
扉を開けると、デスクに向かう男性がこちらに向き直って立ち上がり、杖を左手に少しぎこちない足取りで歩み寄る。
1221/05/04(火)23:07:54No.799408774+
「おぉテイオーか、ようこそチームレグルスのトレーナー室へ。さ、入りな」
「はい、お世話になります!…こうして会うのは久しぶりですね」
「あぁ、確か最後に会ったのは……退院祝いの時だったか。確かに久しぶりだな」
「……お身体の具合はどうです?」
「んー?もうすっかり良くなったよ。とは言っても、さっきも見たろ?脚がなかなか言う事を聞かなくてね、歩くだけならちょっとぎこちないが問題無いし、少〜しだけなら走れる程度にはなった」
「それは何よりです。…ホント、心配してたんですからね?」
「そうだな、心配掛けて済まなかった。俺が目覚められたのはテイオーのお陰だって、あの時からずっと思ってるよ。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう。テイオー」
「……そ、そんな改まって言われると照れるなー…」

そんな感じで、しばらくはお茶を飲みながら雑談をしていた。
彼の担当した娘達の思い出、私のドリームシリーズの思い出とか、色々。
1321/05/04(火)23:08:19No.799408982+
部屋の中にはボクとの写真の他にも、何人かのウマ娘との写真も数多くある。皐月賞、菊花賞、天皇賞の春秋に有馬記念……他にも重賞トロフィーやレイを掲げた写真がいっぱい。皆とってもいい顔をしてる。……ちょっと羨ましい。
……って、んん?
1421/05/04(火)23:08:34No.799409075+
「そういえば、理事長からは『チームを受け持つのは初めて』って聞いたんですけど、その割には写真とか色々多くないですか?」
「んー?あぁ、チームは持ったことは無いが、担当を掛け持っていた事は何度かあったな。まぁ多い時でも3人くらいだが」
「えぇ…大変じゃないですか、サブ雇おうとかは思わなかったんです?」
「サブなぁ、これが意外と何とかなるもんでさ。もちろんしんどい時もあるから、そういう時はスピカに手伝ってもらう事もあったな」
「でもまぁ、そんな事してたら理事長に『提案ッ!チームを受け持ってみないか!』と誘われてな。それに合わせて丁度今度新人のトレーナーが来るって聞いてたら…ま、こういうワケだ」

ダービーを取れたのはボクが最初で最後みたいで、それはちょっと…なんというか、優越感を感じてしまう。
1521/05/04(火)23:08:53No.799409219+
「理事長から聞いた時は驚いたよ、お前がトレーナーになるなんてな」
「…うん、私も『トレーナーをやってみないか?』だなんて声を掛けられた時は驚きましたよ。勉強するのも大変だったんですから」
「お前は座学苦手だったもんなぁ……、とするとアレだ、俺が声掛けた時にはもう勉強の真っ最中だった訳だな。妙なはぐらかし方しちゃってまぁ」
「なんだか……気恥ずかしくて。もうすっかり大人になったはずなのに、トレーナーの後を追ってるみたいで」
「ほーん光栄だな、“トウカイテイオー憧れのトレーナー”とは」
「……わかってたクセに。ばか」
「お、はっはーちょっと茶化し過ぎたか、機嫌悪くなるとむくれるクセは治ってないみたいだな?テイオー」
「こ、コレは違うよ!ボクは……!ちょっやめて、わしゃわしゃしないでったら!」
「そうは言っても口調が戻ってるぞ?さぁさ、お前のデスクはそっちだ。荷物はテキトーに置いて、ミーティングするぞミーティング!四月はすぐそこだ、忙しくなるぞ〜」
「っ〜〜〜!モー!コドモアツカイシナイデヨー!」
1621/05/04(火)23:09:05No.799409317+
大人を演じるしかなかったボクだけど…なんだか結局歳を取っただけで、まだまだ大人にはなりきれていないみたいだ。
この人と一緒なら、ボクも大人になれるだろうか?
夢は常にその形を変えていく。この夢を今度こそ、あなたと。
1721/05/04(火)23:09:50No.799409634そうだねx11
長くなってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいな後編です
1821/05/04(火)23:09:53No.799409663+
来たかッ!後編ッ!
1921/05/04(火)23:10:54No.799410098+
夢を駆けたぞトウカイテイオー今堂々ゴールイン!
2021/05/04(火)23:11:33No.799410357+
折返しが若干不穏だったからほらきたされると思ってビクビクしてたよ乙
2121/05/04(火)23:12:46No.799410867+
いい話だった
二人っきりの時は口調も一人称も昔に戻るんですね…
2221/05/04(火)23:13:56No.799411319+
これからも君と夢をかける
2321/05/04(火)23:16:09No.799412271+
ハッピーエンドでよかった...
2421/05/04(火)23:16:43No.799412527+
よろけるトレーナーをテイオーががっちりキャッチという未来予想図もバッチリというわけですね!?
2521/05/04(火)23:16:58No.799412631そうだねx11
後編とか言ったけど蛇足をもう一本書きたくなったので明日また出しますね……
2621/05/04(火)23:18:17No.799413274+
幸せそうで何よりだ…
2721/05/04(火)23:19:11No.799413647+
テイオーの
引退後家庭に入るより
サブトレーナーで隣りにいそう感は凄い
2821/05/04(火)23:19:12No.799413652+
蛇足ありがたい……
2921/05/04(火)23:27:42No.799416990+
テイオーは座学優秀だった気がするが...
内容が良かったので見なかったことにする
3021/05/04(火)23:29:24No.799417623+
見なかったことに出来てないあたりはまだまだ子供だな
3121/05/04(火)23:32:09No.799418689+
会長のルナモードがまさかテイオーのボクモードと同じ理由だったなんて
3221/05/04(火)23:33:51No.799419323+
おかえり、トレーナー
3321/05/04(火)23:40:28No.799422065+
続きめっちゃ気になってたのでありがたい…
3421/05/04(火)23:41:01No.799422261+
いいか、ハッピーエンド後の話は、蛇足なんかじゃない
3521/05/04(火)23:41:11No.799422333+
txtでくだち!
3621/05/04(火)23:50:12No.799426016+
チームスピカがあってテイオーは別の担当…?どういう世界なんだろ
前作見てみるか


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