二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1619438545826.jpg-(76402 B)
76402 B21/04/26(月)21:02:25No.796679401+ 22:02頃消えます
抹茶の粉末が詰まった缶を開けると、少しだけ分量が減っていた。
「あら…?」
変だ。私が飲んだ覚えは無い。思えば棚にしまってあった道具も配置が少し変わっている気がする。
例えば缶のラベルの向きが違ったり。例えば茶杓の収める向きが反対になっていたり。
ふと思い当たる節があって私は食器棚の前から振り返った。
机の上にはファイリングされた書類の山。そのてっぺんに無造作に置かれた本。
『初めての茶道 〜カラー写真図解付き〜』。
…あらあら。まあまあ。それはそれは。
急にこんな本が置いてあってどうしたのだろうとは思ったのだけれど。
唇の端がふにゃふにゃと吊り上がるのを感じながら私は書類に目を通していたトレーナーに横から近寄った。
「トレーナーさ〜ん。つかぬことをお聞きしますが、もしかして茶道にご興味が〜?」
「うん…?ああ。君がいつも楽しそうにお茶を点ててくれるからね。僕も少しは勉強してみようと思ったんだ」
びっしりと他のウマ娘のデータが印刷された書類に目を通しながらトレーナーは言った。
紙面には赤や青のボールペンで追記がびっしりと書き込まれている。どこが要注意だとか、どこが隙だとか。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
121/04/26(月)21:02:40No.796679495+
これだけ油断無く綿密に調べ上げておきながら、レース前の私に彼が伝える助言はいつもほんの僅かだ。
本当に必要な情報以外、君の力を以てすれば意識するだけ逆に邪魔になる。君自身の力を信じる。
そう言われているようで悪い気はしない。ほぼ外れたことの無い彼の助言、それを導き出す洞察力に舌を巻く一方で。
「あら、まあ。トレーナーさんが茶の道に興味持ってくださるというのが嬉しい気持ちですね〜。
 でも、言ってくだされば私がいろいろとお教えしましたのに」
「だろうね。けれどもし教わるにしても、最初のさわりくらいは自分で体験しておくのが誠意というものだろう。
 見当違いなことを言って君に呆れられたくも無いからな」
軽い気持ちで言った言葉に思いの外真剣な口調で返され、私は少し戸惑ってしまった。
確かに私は伝統に則った作法や格調というものを好むが、それはそれとして茶道はもっと気軽に楽しんでいいものだ。
私はトレーナーから茶の湯に対する興味以外の微かな香りを感じ取っていた。
私の小さな沈黙から彼も私の違和感を読み取ったのか、ちらりと横目でこちらを一瞥するや書類のファイルを閉じた。
勘のいい人だ。相変わらず。
221/04/26(月)21:02:50No.796679560+
「グラス。人と人との関係というものは手放しでずっと維持出来るものではないんだ。
 歩み寄りや相手を知ろうとする意思を持っていないといつか崩れるものなんだ。身近な相手ほど特にね」
私の方へ向き直ったトレーナーが左の膝をゆっくりと撫でていた。きっと無意識に。
それは膝であるが、義足の継ぎ目でもある。彼がそういう仕草をする時何を想起しているか、私は既に把握していた。
「…ひょっとしてトレーナーさんの実体験でしょうか。そう…奥さんのこととか」
「前の、な。何も言わなくても切れることの無い関係だと昔の僕はずっと勘違いしていた。
 僕が夢を追いかけることで僕らは繋がっていた。夢が潰えた時、僕らの関係もお終いになったんだ。
 だけれどそれはいい。終わったことだからね。今は君とのことだ」
トレーナーが痩せた頬を僅かに硬直させて微笑む。寂しいという気持ちと温かいという気持ちを同時に思わせる笑み。
私はこの笑顔が苦手だった。乾いた手触りが心の柔らかいところに触れられている気がして。
「今の僕にとって最も重要な関係は君とのものだ。最後まで支えると約束したからね」
そう、ずっと見ていたくなるくらい苦手なのだ。
321/04/26(月)21:03:05No.796679647+
「だから君のこともよく知りたいと思う。レースのことだけではなく、君の思うところを知る努力を欠かしたくない。
 手始めに君の好きなことを僕も好きになってみるつもりでいる。だから真面目だし、本気だよ」
…と、トレーナーは至極穏やかに言うのだが私はそんな平常ではいられない。
───この人、自分が何を言っているか分かっているんだろうか。
真顔で…その…………、みたいなことを…。本当にもう…この人は…。
体の前で組んだ指をもじもじとさせていた私にトレーナーはからりと違う笑い方をした。
「とまあ、固い話になったけれど純粋に気になるのも本当だよ。君が熱心に勧めてくれるから。
 この手の日本文化というやつには僕はこれまで縁が無い。これについては君がトレーナーだ。ご教授願いたいな」
ほんのりと人懐こそうな顔をする彼に私は小さく嘆息した。
そうやって気を取り直さないと何か変なことを言ってしまいそうな気分だったのだ。
「…仕方ないですねぇ。でもそういうことでしたら私の指導は厳しいですよ〜?」
「普段の意趣返しかな。よろしく頼むよ」
ゆったりと笑う彼の向かいの椅子を私は引いて、机越しに腰掛けた。
421/04/26(月)21:06:55No.796681042+
程よい苦味がありがたい…
521/04/26(月)21:08:30No.796681625そうだねx11
巣作りなど所詮小娘のかわいい愛情表現よ…
621/04/26(月)21:09:57No.796682155+
ちょっと手玉にされるグラスいいデース…
721/04/26(月)21:13:38No.796683489+
>巣作りなど所詮小娘のかわいい愛情表現よ…
油断してる貴様に組立式茶室というビックリドッキリアイテムの存在を教える
821/04/26(月)21:16:28No.796684511+
ほぼ告白デース
921/04/26(月)21:22:03No.796686601+
椅子に座って卓上でお茶を点ても良いのですよー
1021/04/26(月)21:22:05No.796686624+
こうして茶道と華道と書道と日本舞踊とあと薙刀が出来るトレーナーが生まれた
1121/04/26(月)21:27:55No.796688841+
グラスを駄目にするトレーナー
1221/04/26(月)21:32:17No.796690455+
弱そうでかなり強いたまにちょっと弱いウマ娘と弱そうでかなり強いたまにちょっと弱いトレーナーいいよね
1321/04/26(月)21:38:35No.796692699+
重い…
1421/04/26(月)21:40:04No.796693227そうだねx3
グラス怪文書はトレーナーさんも魅力的な方が多くて大好きデース
1521/04/26(月)21:41:01No.796693592+
武人のトレーナーは武人デース
1621/04/26(月)21:44:39No.796694795そうだねx1
>こうして茶道と華道と書道と日本舞踊とあと薙刀が出来るトレーナーが生まれた
ウワーッ!私色に染め上げてる!
1721/04/26(月)21:46:05No.796695323+
属性が…属性が多い…
1821/04/26(月)21:52:08No.796697554+
>>こうして茶道と華道と書道と日本舞踊とあと薙刀が出来るトレーナーが生まれた
>ウワーッ!私色に染め上げてる!
染まりたがってるのでセーフです!
1921/04/26(月)21:53:16No.796697934+
毎回読後感が良くてありがたい
2021/04/26(月)21:55:26No.796698717+
一流はトレーナーの部屋に私物を増やす
超一流はトレーナーの頭の中に私物を増やす


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