────────────────── 申し訳ございません。 ここから少々過激な展開が続きます。 ────────────────── 互いの唇を触れ合わせるだけの行為。 だというのに、心臓は張り裂けそうなほど高鳴っている。 彼女の豊満な胸の感触のせいか。 絹のように滑らかで美しい、芦毛のさらさらとした感触のせいか。 目を閉じた彼女の睫毛の長さに、改めて驚いたせいか。 柔らかな、唇の感触のせいか。 たった数十秒のそれが、永遠に感じられて。 急に、ばっ、と顔を引いた彼女が、瞼を開けて。 気恥ずかしそうに微笑んでいた。 「どうよ?」 「どうよも、何も……」 「………嫌か?」 痛ましい表情を浮かべる彼女に思わず、言葉を失ってしまう。 好き嫌いの感情よりも先に、衝撃が優っていた。 自分とゴールドシップが、このような行為をする事など、未来永劫ないものだと考えていたから。 「……落ち着いてくれ。君と俺は、トレーナーとウマ娘で」 「ンなこた聞いてねえ」 そう吐き捨てるように言うと、がしりと胸ぐらを掴まれる。 どうにかこの場を潜り抜けようとするためだけの、場当たり的な台詞である事は瞬時に見抜かれていた。 彼女の真っ直ぐな瞳から、目を背けてしまう。 「アタシはウマ娘だとか、トレーナーだとか、漁師だ社会人だ理事長だ神サマだとか、そんな話をしているんじゃねえ」 最初からそんな話はしていない……。 「肩書きなんて捨てちまえよ。オマエはオマエで、アタシはアタシ。それ以上でも以下でもねえだろ」 「なあ、トレーナー。……い、」 「嫌だったか……?」 今にも消えてしまいそうな、萎むようなゴールドシップの声に、視線を戻すと。 ぴん、と張っていた筈の耳は垂れ、今までに無いほど、その姿が小さく見えて───。 「そんな訳、ないだろう」 そっと彼女の頬に手を添え、しかと彼女の瞳を見据えて答える。 奇想天外で、型破りなウマ娘。 そんな君に振り回される日々は。疲れないと言えば、嘘にはなるけれど。 でも、君の担当トレーナーになってからは。毎日が充実していた。 君と一緒に過ごす毎日が。楽しくて、しょうがなかった。 その内に、段々と。 俺が今までに見たこともない景色を見せてくれる、その強引なところも。 真剣勝負に燃える、魂を燃やす熱い表情も。 子供たちと一緒になって遊ぶ時の、和やかな姿も。 友のため憤り、声が枯れるまで応援を続ける、仲間想いで優しいその性格も。 いつしか。 俺は君のすべてに、魅かれていた。 最早、誤魔化すことはできない。だって。 「俺は、どうしようもなく……君が、好きなんだから」 「へへ……!」 ぱあっ、といっぱいに浮かべた明るい笑顔に思わず、胸が熱くなる。 全く、この娘は本当にずるいと思う。 「うんうん、折角このゴールドシップ様が初めてのチュウをくれてやったんだ。そうこなくっちゃな」 まさか自分も初めてだったとは口が裂けても言えない。 これでも彼女より歳上の男なのだ。ちっぽけなプライドを辛うじて保ちながら、柔和に微笑んで見せる。 「にしてもなんか余裕そうだな、オマエ……段々と溜まってきたぜ。ゴルシちゃん怒りのボルテージがよ」 「そんなことは……」 「あっ、そーかそーか。オマエ、もっと激しくされる方が、好きそうだもんな」 ぽん、と得心が言ったように手を叩き、そのままがしりと後頭部を固められる。このゴールドシップの顔は。 良からぬことを企んでいる時の顔だ───! 「え? いや、ちょっと待っ……!」 制止虚しく、唇を奪われる。 先ほどまでの恋人同士が交わす甘いそれとはまるで違う。 相手の全てを貪り、犯し尽くすような暴力的なキス。 怪しく煌めいた桃色の瞳に射抜かれたまま、彼女の長い舌に口内が蹂躙される。 普段の彼女の姿からはとても想像が出来ない、耽美で妖艶な姿。 奥へ逃げこもうとした舌すらも絡め取られ、交わり合う。 呼吸すらも混じり合って、ひとつになり。 脳がどろどろに溶けて、何処までも堕ちていく感覚。 息をすることも忘れ、朦朧とする頭で必死に胸を叩くと、ようやく解放される。 荒い呼吸を吐き出しながら、お互いの口から唾液が糸のように伝い、落ちた。 「へへ……? ゴルシちゃんの勝ち?! マジで逝っちまう所だったな、トレーナー」 口で呼吸が出来ねえならアタシみてーにエラで呼吸しろよな、という彼女の軽口を、酸欠でぼうっとした頭が何とか聞き取っていた。 歪んだ視界。しかし、彼女の濡れた唇から目が離せない。 そのうち。彼女が、ふと何かに気づいたように首を下げた。 ───ま、まずい。 「……あ?」 激しい口付けによる快楽と、死が間近に迫った男としての生存本能。 これ以上なく昂った物が。彼女の腹を押し上げていた。 自身の腹部に感じる、熱く硬い感触に違和感を覚えたのか、ゴールドシップが身体を揺する。 「何だコレ……」 「いや、これは……違うんだ」 いくら何でも、キスだけで限界になってしまったとは言えず。 羞恥心と情けなさで縮こまりながら言葉尻が窄む。 そのうち彼女は察したように、「あー……」と少しだけ微笑むと。 すぐ様、よよよ、と泣く真似を始めた。 「そりゃ無いぜトレーナー。こちとら思春期のウマ娘なんだ。初チッスでドキワクしていたゴルシちゃんのピュアで乙女なハートは痛く傷ついちまったってなもんよ。どう責任取ってくれるんだテメー」 「ごめん、謝るから……ど、退いてくれ……!」 からかうような口調で挑発してくる間にも、ゴールドシップはぐりぐりと身体を押し付けてくる。 我慢など出来るはずもない。 柔らかな感触に、欲望がどんどんと頭をもたげていく。 これ以上は、本当にダメだ───! ヒトとウマ娘だ。力では敵わないが、無理にでもやるしかない。 彼女を跳ね除けようと腕に力を込めた瞬間、その機先を制するように。 全身がぎゅう、と抱きしめられて。 「変態ヤロー♡」 はーっ……♡と熱っぽい吐息が耳に掛かり、ぞくぞく、と全身に鳥肌が立つ。 力が抜ける。 彼女の柔らかな指先が、次第に下へと伸びて。 ぴんと張った先端をすりすり、と掌で撫でられ、口から喘ぎ声が漏れ出れば。 それを皮切りに、またお互いの唇を重ね合う。 甘い痺れがじわりと下腹部に広がっていく。 抵抗する気力など最早、残されていなかった。 「ったく。そんな情けねー姿じゃ、カラダ目当ての悪いウマ娘にとっ捕まっちまうぞ、トレーナー」 担当のウマ娘に、己の身体を好き放題に弄ばれる、罪悪感と羞恥心。 倒錯した想いがぐるぐると頭の中を回っている。 息も絶え絶えになりながら。それでも、これだけは。 「だ、誰にでも、こんな風になる訳じゃない……」 「あん?」 「他の、誰でもない……君に。その、されているから……」 「………♡」 ふーん、と満足した様子で、彼女は微笑むと。 すんすん、と首筋の匂いを嗅いだかと思えば、ちゅう、と吸い付かれ。 種の異なる快感に、びくりと身体を震わせてしまう。 「ぁ、ううっ……!」 「そんなにビビんなくても、ちゃんと可愛がってやるよ」 柔らかな唇の感覚が首を伝う。 狂おしいほどの快感に身を捩る。 はーっ、はーっ、と乱れた息を弾ませながら、つい油断して。 強張る身体が弛緩した直後。 「バーカ♡」 「がっ、……!」 がり、と思い切り首を噛まれ、悲鳴が口から漏れ出る。 唇に付着した血をぺろりと舐め取ると、いいかトレーナー、と。 そっと顎を掴まれた。 「オマエはアタシのモンだ」 「他の誰にも、渡さねえ」 夜が明けるまで、あと─── ──────────────────