彼女の故郷は海外にある。そこから送られてきたのだろうか。
「感想を聞きたいのでここで飲んでみてもらえますか？」
促されるままにキャップを外し、口をつけるとなるほど確かにミルクだった。さらりとした舌触りで、牛乳よりもやや甘いだろうか。
「ああ、これおいしいな」
ありのままの感想を伝えると、彼女は安堵したような表情になった、
「それはよかったです。沢山あるのでまた持ってきますね。」

目が覚めて、まず気がついたのが胸の違和感。
しこりがあるような、なにかがつまっているような、そんな感覚があった。
同室のエルコンドルパサーを起こさないように洗面台へ行き、寝間着を捲る。
ナイトブラを外し、手を添えて違和感のある箇所をマッサージした。感覚が鋭敏になっているのか、快不快の混ざった奇妙な刺激に脳が軽くしびれる。
羞恥と未知の感覚に目をつむって耐えながらマッサージを続けていると、肌に生暖かいものが垂れた。

目を開ける。
手には乳白色の液体が、マッサージしていた胸は赤く充血して、その先端から母乳を滴らせていた。

素早く脳内を逡巡する。
性交の類の経験はない。寝込みを襲われた可能性は、おそらくないだろう。寮内に男性はおらず、侵入された形跡にも覚えはない。寮外ではそんな卑劣な真似を許す隙は作らない。
なにより妊娠初期症状よりも先に初乳が出るという事例を聞いたこともない。念のためスマホで調べたがそれらしき情報はない。
従って結論は、
「体の異常……ホルモンバランスが崩れた、などでしょうか。」
平静を取り戻し、現状が手に負えないことを認識する。助けを借りなければいけない。
とりあえず同級生や先輩には聞くだけ無駄だろう。心配はしてくれても解決の手立てを知っているとは思えない。
であれば教師、あるいは
「トレーナー、さん」
同級生たちよりは解決に役立つかもしれない。しかし、無様に胸を曝して助けを乞うのはあまりにも理念である大和撫子には遠い姿だ。
もちろん自分のこだわりで黙殺すべき問題ではないのは理解している。けれどもやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

……どうやらエルが起きたようだ。考えを中断し、浴室に鍵をかける。
ひとまず搾り切って、液漏れしにくそうな下着でしのぐことにしよう。
再び赤くはれた先端に手を掛けた。独特のしびれが癖になりそうで少し嫌だった。

そういう生活が何日か続いたとき、ふともったいなさを感じたことがあった。一舐めしたところ味に問題はなかったので可飲物であることは確かなのだが。
そんなことを考えていたらいつの間にか自身の母乳で満たされた水筒が一本出来上がっていた。
今更捨てる気にもなれず、かといってエルに見つかって追求されるのも御免こうむりたい。
しょうがないので鞄に隠して登校しようとすると、同じく校舎に向かうトレーナーさんと出会った。
世間話もそこそこに分かれた後、ふと思った。
あの人にこれを飲ませてみたい、と。

そうと決まれば準備は速い。トレーナー室にはドリンクを冷やすための冷蔵庫が備えてありクーラーボックスもある。
教室に向かう前にそっちへ回り、手近なもので軽く梱包する。マーカーで自分の名前を書いておけば、あの誠実な人なら触れることもないだろう。
十分冷えたものを飲ませるためにトレーニング後に適当な言い訳と共に渡すことにした。

そしてその目論見は上手くいった。彼は疑うそぶりもなく私の母乳を飲み干したのだ。
その瞬間、全身を甘美な電流が駆け抜けていったのを覚えている。口角を下げるのに必死になったくらいだ。
脳内では再び水筒を渡すための算段が組みあがり始めている。ゆくゆくは直接飲ませるのもいいかもしれない。
あり得るかもしれない未来を夢想しながらトレーナー室へ戻った。

トレーナー室で資料をまとめていると着替え終えたグラスが戻ってきた。
空のボトルを差し出すとなぜか驚いた顔をした。
「あら、もう飲み切ったんですか？」
「ああ、日持ちするものでもないだろ？」
おいしかったよ、感想を再度伝えるとはにかみながらボトルを受け取った。
「そうですか。ならまた持ってきますね。」
「いや、こんど病院に行った方がいい。」
先ほどよりも驚いた顔でこちらを振り向いた。そのまま黙っていると、いままで見たことないような勢いで顔が紅潮を始めた。
「き、きづいて……」
震える声に返答はしない。恥ずかしさで死にそうな中発された彼女なりのヘルプサインだ。指針を示す以上のことをして恥を重ねさせてはいけない。
「明日は休みだ。しっかり調子を整えること。いいな？」
「わかりました…」
これでいいだろう。自分にできることがない以上、専門家に頼るのが一番なのだ。
少し小さく見える彼女の背中を見送って資料整理に戻った。

後日グラスは病院で薬をもらい、それで母乳は収まったけれど、トレーナーへの悶々とした想いはますます高まったそうな。
よなよな自分を慰めるので隣のエルは恥ずかしくてあまり寝れませんでしたとさ。

【寝不足】になった。エルコンドルパサーのやる気が下がった。

母乳学会へ提出しようと思ったのですが授乳学会だったか忘れたのでここで供養させていただきます。

雌牛デース…

勘弁してほしいデース…

>【寝不足】になった。エルコンドルパサーのやる気が下がった。
やめて欲しいデース…

ｹ…

タンポポは茎を折ると乳液が出るからな

どうせならマンボに飲ませとけデース...

>タンポポは茎を折ると乳液が出るからな
いらない知識がまた増えた…

>「き、きづいて……」
このときのグラスの顔が見たい

なぜきづいた…？

さっきの武人からこっちのグラスで腰痛が治りそう

>なぜきづいた…？
母乳飲んだことあるだろ？

卑しい女デース…

>このときのグラスの顔が見たい
表情崩さずに頬まで真っ赤か冷静をたもてずに涙目でくずれるのか……
どっちも見たいぞ

>母乳飲んだことあるだろ？
あるけどさぁ！味なんて覚えてねぇよ！？

>なぜきづいた…？
アプリトレーナーなら牛乳ではないミルクと無意識のうちに胸を気遣って走る様子から連想してそれとない対応を考えるところまで行けるって近所の犬が言ってました

いぬはかしこいな…

よく考えたらトレーナーさん飲みきってるデース！！

>>タンポポは茎を折ると乳液が出るからな
>いらない知識がまた増えた…
待って？
タンポポの茎折ったことない？

>よく考えたらトレーナーさん飲みきってるデース！！
お残しはよくないですよね

なるほど「けど…」の段階でなにがしかおかしさには気づいてたのね
全部飲んだのは気遣い…気遣いになってるのかなぁ？

タンポポの茎折った時に出る液が乳液なの知らなかっただけじゃない？

差し出された母乳を飲まないのは無礼というもの
トレーナーならば当然のこと

>>なぜきづいた…？
>母乳飲んだことあるだろ？
ごめん
うちの母ちゃん母乳出なかったから…

飲んだかもしれないし、迷った末そっと流したかもしれない
どちらにしろいいトレーナーでよかった

野に咲く花を無闇に手折る趣味は無いから知らなかったんだ

自慰行為をするならベッドじゃなくて浴室かトイレで静かにやってくれデース…

わかってたならなんでのみきったんですか？とかそんな言葉が頭の中をぐるぐるしてそう

グイグイ行くグラスもいいけどそんなグラスを手玉に取ったりしちゃうトレーナーさんとの関係いいよね…

消化吸収体内マーキング…

その内エルも出るわ。

私の一部がトレーナーさんの血肉になったんですよね…

>わかってたならなんでのみきったんですか？
「由来はともかく君のくれた物を捨てるわけにもいかないだろう」ってこいつは言うよって犬が言ってました

かしこいぬすぎるな

近所の犬賢いな…

母乳の材料って血液なんだってね…

スズカさん、フクちゃん、グラスちゃんあたりの
母乳縁遠い感じの子は破壊力が凄い…

似たものすぎる…

怪文書書くのうまそうなドッグ…

これエルコンドルパサールートでバレたな？

これが真ん中の犬か……