──ことの始まりは一ヶ月前。いつものようにテイオーのトレーニングを終えた時だった。
「今日も昨日もスピード！スピード！スピード！たまにパワー！目標は天皇賞なのにこのトレーニング違くないかなー！？」
うるさい、俺を信じろ。と、ぼやくテイオーをなだめながらトレーナー室に戻ってきたところ、机の上に見慣れない紙が置いてあった。
蹄鉄のイラストが入った封筒の上に、エピデンドラムのドライフラワーが添えてある。
これは……とうとう来たか！『ラブラブうまぴょいグランプリ』の招待状！！
「なんて？」
『ラブラブうまぴょいグランプリ』の招待状！！

ラブラブうまぴょいグランプリ……主催者の詳細は杳として知れないが、俺たちトレーナーの間で噂になっている謎の大会だ。
参加者の証言によると……というか封筒に入ってた詳細にも書いてあるが、
選ばれたトレーナーとウマ娘は指定の空き教室に入り、ペアとなるウマ娘の前で『うまぴょい伝説』を歌い踊る。トレーナーが、だ。
そのトレーナーの歌とダンスの芸術点とウマ娘のリアクション点を合計した『一心同体ポインツ』とやらの合計点を競うイベントらしい。
「一心同体ポインツってなんなんだよう……」知らんわからん。というかそんなことはどうでもいい。
この招待状が届くのはラブラブうまぴょいグランプリ実行委員会認定のなかよしコンビだけだそうだから、対外的に見て俺達の関係が悪くない証明でもある。
やったなテイオー！俺達は傍から見てもなかよしとわかるということだ！
「べ、別にボクとトレーナーはそういう関係じゃないし！？」そういうってどういう？
「ど……どういうってそりゃ……」もごもごと口よどむテイオー。なんだよ、トレセン女子にしかわからない隠語か？

「そ、それよりさ！そのグランプリに出てなにかボク達に得はあるの！？恥ずかしいところ見られるだけならイヤだよ！？」
もっともだ。俺とてあんな男がやるとクソ恥ずかしい歌と踊りを審査員はおろかお前にも見られたくはない。
えーとこの招待状によると……『優勝賞品：メジロ家専属シェフがあなたの目の前で焼き上げる至高のにんじんハンバーグ定食（おかわり自由）』だそうだ。
「トレーナー、うまぴょいの歌詞は知ってるよね？振り付けはボクが教えるから。期日までに完成度高めていこう」
あれあれー？有無を言わさずやる気がフルバーストだぞー？

──それからの日々は思い出すだけでもうつらい。あっ今すごくつらい。
「表情が硬い！！うまぴょいはみんながアガるアップチューンなの！歌う方も笑顔で楽しく歌わなきゃ！」
ハイ、センセイ！
「ステップが左右逆！今はソロだからいいけどウイニングライブは本来3人で踊るの、そういうミスはすごく浮くし審査にも響くよ！」
ハ……ハイ、センセイ！
「トレーナーはさぁ、このうまぴょい誰のために歌ってるの？聴いてくれる人でしょ？視線が泳いでるんだよね最初からずーっと」
「目線は常に前！カメラならカメラ、オーディエンスならオーディエンス！『応援してくれるあなたのために歌っています』って気持ちを込めるの！」
……おまえらみんなライブの時そういうこと考えてるわけ？
「とーぜん！ボク達はファンのみんなのために走って歌ってるんだもん！もちろん自分の目標のためにもね！」

今まで走りのことしか指導してこなかったが、思えばライブもレースを構成する大事な要素だ。
そこのところをほぼ全てテイオー任せにしていた不徳を恥じつつ、俺はうまぴょいレッスンを積んだ。とても積んだ。
あと春天前の大阪杯は危なげなく勝った。さすがテイオー。ライブも今の俺にとって実に参考になった。

──そして今、グランプリ実行委員会の指定してきた教室でテイオーと二人きりのうまぴょいライブに臨んでいる。
最初の手紙によると審査員は教室各所に仕掛けられた隠しカメラで審査しているそうだ。
場所や時間帯をズラしているため他の参加者ともカチ合うことはない。……らしい。
"ばきゅんぶきゅん　だいすーきーだーよー"
「…………」
目の前には感情を殺したような真顔で俺のライブを見続けるテイオー。眉一つ動きやしない。
それでも目線を切らさず、正面に鎮座ましますテイオー様に向けて歌う。『あなたに聞かせるために歌っています』という想いを込めて。
"うーぴうぴはにー　さーんにいち（うーー　ふぁぃっ！）"
……やりきった。俺に出せるものは出し切った。心地よい疲労と達成感がセンターのキメポーズを取る身体を包む。

「……3回。2回。1回。7回」
歌い終えた途端、おもむろに口を開くテイオー。第一声がそれかお前。あとなんだその数字？
「歌詞の入りトチって早口になったのが3回。重心崩してよろめいたのが2回。振り付けちょっと間違えたのが1回。音程外したのが7回」
「どれも致命的じゃないけど、見てる人は見てるよ？」
うぐ。
「あとやっぱりまだテレが入ってるよね。手足はもっとビッと伸ばしてスパッと振るのー、って言ったよね、ボク？」
じ、自分としては振り切ったつもりだったのですが……「言い訳禁止！！」はいすいません！覚悟が足りてませんでした！
「……でも、技術はともかくとして……ハートは合格点あげてもいいかな。ちゃんと視線合わせてくれたもんね」
はい！テイオー様のレッスンの中でもいちばん大事なことだと思ったので！
「ん♪それじゃあ頑張ったトレーナーにぃ……」人差し指を唇に付けながら近づいてくるテイオー。なんだどうする気だ。

ちょい。
「……はい！テイオー様からのごほうび！」頬を突付かれる感触。見ればそれは先程まで口元に当てられていた人差し指だった。
お前……テイオーお前……にんじんハンバーグが懸かってるとは言えあざとすぎるだろそれは……
「はー！？ｿﾝﾅﾝｼﾞｬﾅｲｼ!!ﾎﾝﾄﾆﾄﾚｰﾅｰｦﾈｷﾞﾗｯﾃｱｹﾞﾖｰﾄｵﾓｯﾀﾀﾞｹﾀﾞｼｰ!?」
あーはいはい。審査も終わっただろうしさっさと引き上げるぞ。
「敬意ー！テイオー様への敬意が足りてなーいー！ボクも恥ずかしいけど頑張ってごほうびあげたのにー！」はいはいはいはい。

「……トップバッターがかなりの特大アーチを描きましたわね」
「ほんとなー！アレ！テイオーちゃんああいうところがなー！ほんとアレでねアレなんだよねぇもうねぇ！！」
「正直友達がイチャコラしてるところ見るのすっごいカオ熱くなるんだけど。アタシ帰っていい？」
「却下です。前回優勝者は次回開催で特別審査員を務めるのがこのグランプリのルールですわ」
「うぇー……」

甘酸っぱい…

「審査委員長はどう見ますか、今のプレー？」
「そうですねまずダメ出しから入るテンプレート的ツンデレアクションですが
これは普段生意気なカオこそ見せますが『素直』『無邪気』と言った通常時の彼女から連想されるワードとは若干かけ離れたリアクションです。
それでは何故？何故常ならぬ反応を取ったのか？これはやはりウイニングライブという我々ウマ娘にとって決して軽からぬ要素が絡んでいたからでしょう。
天真爛漫なテイオーちゃんをして真顔の採点者にしてしまう……そして実はあれはツンデレではありません。プロフェッショナルが素に戻っただけと言いましょうか」
「ツンデレムーヴではない？」
「ないですね。言わばシンガー・トウカイテイオーがただのウマ娘・トウカイテイオーに戻った瞬間の振れ幅です。
それだけ彼女がライブにも本気で臨んでいるという証明であり実に尊いのですが最も見るべきはここ！VTR戻せる？……はいここ！『ん♪』と微笑んだここ！くぁーたまんねぇー！！」
「…………帰りたい……」

──数日後。スマホに見たこともないアドレスから審査結果が送られてきた……えっなにこれこわっ。
『今回は残念ながら選考外とさせて頂きましたが、またのご参加を審査員一同心よりお待ちしております』だと。
「もー！ぜったいトレーナーがダンストチったからだー！！」すまない……俺が悪いんだよ……
「あーぁ、メジロ家の必殺ハンバーグ……まぁいいや、切り替え切り替え！ボクも指導する側に回るのちょっと楽しかったしね！」
俺も指導される側、そして普段見守るだけのライブのレッスンを直に体験して……むっ！この経験はテイオーのトレーニングに活かせそうだ！
「おっ閃き来たね！？いいよいいよどんどんやっちゃおー！」
あぁ！春天までもうあまり時間がないからな、巻き巻きで行くぞ！「おー！マキマキーッ！！」

──そんなこんながあって、天皇賞・春の控室。ボクはトレーナーに電話をかけている。
人間がやるみたいにスマホを頬に添えて……ちょっと声が聞こえづらいけどしょゔがない。
「そろそろ発走だろ、悠長に電話なんかしてて大丈夫か？」あ、うん。じゃあ切るね。
「おう。……こんなこと今更言うまでもないけども」……うん？
「勝てよ、テイオー。スタンドから見てるぞ」……うん！！
スマホを頬から離して通話を切る瞬間、通話画面に設定してある画像が目に入る。
見たこともないアドレスから届いた『審査員特別賞』の賞品……うまぴょい中のトレーナーのキス顔。
そっけないけど優しくて、ボクのことを一番に考えてくれる……ボクの勝利の女神。いや男だから男神？おがみ？
まぁなんでもいいや！勝利の男神のちゅーをもらった今のボクは天上天下天地無双のスーパーテイオー様だ！！

優勝者が誰かはわかりません知りません。とにかくそういうおはなしだったのさ！おわり！

私
好
合

メジロ家は相変わらずおかしいことしてるな…

このやり取りでも優勝しないという事はめちゃくちゃ激戦だな…

そのうち惑星メジロができそうな支配具合

いやもうメジロ時空は出来てるんじゃねえかな…

>見たこともないアドレスから届いた『審査員特別賞』の賞品……うまぴょい中のトレーナーのキス顔。
ちゃっかり写真撮ってやがるのが実にメジロ

キス顔スクショは使命だからな

>人間がやるみたいにスマホを頬に添えて……ちょっと声が聞こえづらいけどしょゔがない。
>ゔ
軽くイッてませんか？

起承転結の完成度も高く
イチャイチャも爽やか
何よりテイオーが可愛い
5千億兆メジロポイント進呈したい
あぁ今日もよく眠れそうだ…

>スマホを頬から離して通話を切る瞬間、通話画面に設定してある画像が目に入る。
>見たこともないアドレスから届いた『審査員特別賞』の賞品……うまぴょい中のトレーナーのキス顔。
こいつ通話中キス画像頬に当ててますよ！！！

前回優勝者ネイチャ
委員長はデジタル？

こういうのをノリノリでやりそうなトレーナーか…
１枠スズトレ（真顔）スズカは淡白
２枠フクトレ（真顔）フクは恐怖しお祓いを始める
３枠ゴルトレ（熱演）ゴルシはヲタ芸する
４枠ネイチャ（ガチ）ネイチャは腹筋が死ぬ

su4791677.jpg

一心同体具合で考えるならオタ芸うって一緒に盛り上げようとしてくれるゴルシちゃんが一番なのでは？
いやわりとマジで観客無表情って演者側もつらくなるし

>su4791677.jpg
「担当ウマ娘に向けて歌ってませんわよね？一心同体ポインツマイナスですわ」
「URA告知イベの時はぎこちなくうまぴょいしてた桐生院トレーナーがノリノリで……よくないコレ？コレよくない？」
「あのトレーナーさん、いつものキリッとした顔よりああいうふにゃっとした顔のほうがカワイイよね」
「そうそこ！ネイちゃんいいトコ見てるよさすがだわ推せるわでゅふふふへへふひひひひ」
「うわ笑い声キモっ」

>こういうのをノリノリでやりそうなトレーナーか…
>１枠スズトレ（真顔）スズカは淡白
>２枠フクトレ（真顔）フクは恐怖しお祓いを始める
>３枠ゴルトレ（熱演）ゴルシはヲタ芸する
>４枠ネイチャ（ガチ）ネイチャは腹筋が死ぬ
グラスなら微笑んでくれそうだが後で静かに何か言ってきそう

キントレ（必死）
キング（ああもうそうじゃないと真面目に指導）

>「もー！ぜったいトレーナーがダンストチったからだー！！」すまない……俺が悪いんだよ……
やめろ！外観が固定されそうなことを言うな！
あと主催者バレバレじゃねえか！

>こういうのをノリノリでやりそうなトレーナーか…
>１枠スズトレ（真顔）スズカは淡白
>２枠フクトレ（真顔）フクは恐怖しお祓いを始める
>３枠ゴルトレ（熱演）ゴルシはヲタ芸する
>４枠ネイチャ（ガチ）ネイチャは腹筋が死ぬ
5枠ビワトレ（真面目）ブライアンが気ぶる

審査員の人はこんなに他の女に早口になって隣の人に殺されないんですか？

時間帯的にこれ以上伸びないけどいうね
オレこういうの大好き超絶好き