結局、あれは何だったんだろう。分からない分からないじゃ前に進めないし、冷静になって考えてみよう。トレーナーさんお得意の奇行がなんだったかを。伊達、酔狂、アタシをからかってみせただけ?
　ううん、違う。そんなことをするトレーナーさんじゃないってアタシは知ってる。だったら、やっぱり、まさかまさか……
「あたしを……」
　好きって、こと?
　キスをしたってことはさ、やっぱりそういうこと、なのかな。
　いやいやいや、トレーナーさん未成年淫行で捕まっちゃうよ。まさかなんてありえない。やっぱりそういうことじゃないのかな、でも好きでもないのに、アタシの初めて、を……
「いぃうゃあああぁ……!」
　考えても考えても答えは見つからず、高まる熱さから逃れるように三角形を解いて机に突っ伏す。空調で程好く暖まった部屋の中にあっても、机はマイペースなままほんのりとした冷たさを保っていた。でも、それも束の間。身体はさっぱり冷めないくせに、机の温度はコンマの速度で急上昇。エアコンにも負けなかった机のくせにアタシにはすぐ負けるんだから情けない。

　熱っぽいような、ひどく疲れているような、素性の定かでない溜め息が漏れる。あたしのいくじなし。トレーナーのかいしょうなし。もっと強く引っ張ってくれたら、簡単に流されていけたのに。思っていれば思っているほど言葉にならないこともあるらしい。もごもごと口を動かして吐き出したつもりにしたら、ほんのりと正気が戻ってきた。
　あのレースの数週間前、出走を取り決めたときアタシはあるお願いをトレーナーにしたんだ。
『あのさ、トレーナー。あのもしも、もしもだよ？　次のレースでアタシが一着を取ったら……ひとつでいいから言うこと、聞いてくれないかな……？』
『ああ、いいぞ!　それで言うことってのは？』
『アタシをさ、トレーナーの一番、に』
『ん?　一番ならとっくに……』
『違うのっ!　違う、の……』
　しおしおと萎れていくアタシの耳に、トレーナーも思うところがあったらしい。ほんの少しだけ慌てたような素振りをして、それでもすぐにしゃんとしたいつものトレーナーに戻った。そして意を決したようにアタシの方をじっと見て、口を開こうとして……

『あー、なしなし!　なんでもありませんよー!　ネイチャはなんにも言ってませんから!　ごめん、トレーナーさん、本当に何でもないから!　忘れて、ね、お願い！――』
「あぅ〜〜〜……！！！」
　だめだ、思い出すだけで気が狂いそうになる。あのときのアタシはどうかしていた、もう後の祭りだけど今後は自分の言葉に責任を持ちたいと切に思う。
　冬なのにひどく暑い。リボンで縛ってないからか、うなじのあたりがすごく蒸れている。原因は多分それだけじゃないけれど、いいんだ適当で。考えすぎると爆発する、物理的に。
　なんであんなこっ恥ずかしいこと言えたんだろう。分かんない、本当に分かんない。スマホのバイブレーションみたいな悲鳴を上げながら、でも突っ伏したまま手と足をばたつかせる。ルームメイトが外出してくれていて本当に良かった。こんなところ見られたら当分は生きていられそうにない。

「はあ……」
　せめてトレーナーの中だけではアタシが一着でありたい。想うだけなら誰の損にもならないと信じた、ひどく子供染みたアタシの願い。叶って良いものなのか、分不相応なものなのか。都合よくも現れた、目の前にある幸せ。果たして手を伸ばして本当にいいものなのか。そんな埒もないことを考えていたとき、こんこんこん、遠慮がちで丁寧な三度のノックがドアを叩く。
「ネイチャ、大丈夫か？」
「ひ、ひゃいっ!」
　ドア越しで聞こえたのはトレーナーさんその人の声だった。ばたばたと慌てふためきながら居住まいを正す。なんでトレーナーが寮に入ってきてるのか、そもそも今日はやることがあるって言ってたような、一瞬のうちに色んな考えがよぎる。
「すまん。入ってもいいか？」
「あああ、ちょっと、まってくださいます？！」
　最速でファンデーションはたいて最低限の準備を整える。リボン縛る暇はないからボサボサの髪に軽く櫛を通して。
「は、はいっ、どうぞ！」
「お邪魔します。おっ、なんか新鮮だ。髪、括らないで下ろしてるのもなんというか様になってる。なんでも似合うってのもあるが、いい感じだな」

　アタシに与える恥ずかしさのダメージなんて一顧だにせず、トレーナーさんは歯の浮く台詞を連発する。
「もー何！　ネイチャさんをからかいに来たっての？！」
　いや、違うよと前置きしてトレーナーは微笑む。
「じゃあ、一体何しに来たの？」
「いやな、伝え忘れてたって気付いたんだ、大事なことを」
「今じゃないとダメなやつなの……？」
「ああ、そうだ。今じゃないと、伝わらない」
　昨日の勝利を祝う、綺麗な金色の折り紙トロフィーをアタシに差し出しながら。
「好き、だ。愛してるよ、ネイチャ」
　そう、嬉しそうに言った。
　ほっぺたをかりかりと掻きながら、トレーナーは照れ臭そうに笑う。トレーナーの顔はゆでダコよりも真っ赤。ばつが悪そうに小さく口を開けたり閉じたりを繰り返してもいて。そんなの……
「……はんそく、だって。そんなん……ずるいよ」
　アタシは勝てない、こんな真っ正直に気持ちをぶつけてくるなんて、たとえ身構えてたって太刀打ちできない。でも、このままじゃ負けっぱなしみたいでなんとなく気分が収まらない。何か逆襲出来そうな手はないか……ああ、そう言えば。

　マーベラスが話題に詰まったら聞いてみろって言ってた話題があったっけ。貰ったトロフィーの裏表をくるくると確認しつつ、咳払いひとつ置いてトレーナーの方を向く。
「ねえ、トレーナーさん。幸せのかたちってなんだと思う？」
　幸せの形か。トレーナーさんは夢見がちなオウムのように呟いてから顎に手を当てた。そして何度かうーんうーんと唸って、思い付いたとばかりに私を見る。
「俺は……今、ここにこうして居ることが、それそのものが幸せの形だよ」
「ふーん……」
「キミにも会えたしな」
「……っ！　ちょっ、あんまり歯の浮くようなこと言わないでよっ!　照れるじゃん……！」
「ははは、ごめんごめん」
「〜〜〜っ！　もうっ、からかわないでよっ！」
「あはは、かわいいなネイチャ」
「うぅ〜、うるさいうるさいっ！」
　その嬉しそうな微笑みに、なんでか無性にくやしくなって。アタシは抗議の視線とともにトレーナーさんの脇腹を突っついた。案外これが、アタシの求めた幸せのかたちなのかも知れない。

「さ、出掛けようかネイチャ。どこ行きたい？　特に指定がないんなら多分遊園地とかになるけど」
「いいですよ〜遊園地で。あっ！　良いこと思い付いちゃった。トレーナーさん、ネイチャさんから提案なんだけど……」
「提案？」
「へへ、そう提案。昨日のハコ、まだ持ってる？」
「そりゃもちろん。未練がましい男だからな」
「観覧車、乗ってさ！　そのとき貰ってあげる！」
「それじゃあ……！」
「うんっ！」
　ねえ、心の中の昔のアタシ、見てるかな。三着の申し子だったアタシは、昨日から紛れもない一等星に変わったよ。えへへ、すごいでしょう、想像できないんじゃないかな。でも、本当のことなんだよ。本当に、嬉しいな。
　薬指に嵌まるだろう銀の指輪に、幸せな想像を抱きながら、アタシはトレーナーさんの手に引かれ、夢のような最高の未来へと一歩踏み出した。
「これからもよろしくね、トレーナーさんっ！」

ワーオ！

マママ

マーベラス！

世界はマーベラス！！

💯
😇
🥰

ありがとう…

su4788555.pdf
前日譚
ベタ甘ネイチャはこれにておわり

その時、ふと閃いた！このアイディアはマーベラスサンデーとのトレーニングに活用できるかもしれない！

>その時、ふと閃いた！このアイディアはマーベラスサンデーとのトレーニングに活用できるかもしれない！
やる気が上がって体力回復してる…

甘すぎる…

>su4788555.pdf
pdf貼る「」初めて見た

マーーーーベラーーース！

>pdf貼る「」初めて見た
txt貼ったら文字化けして修正めんどくなったのでpdf貼っちゃったよね…反省ッ！

pdf！？
普通にtextで貼ってほしい

🎈
結
婚
お
め
で
と
う
🎈

気配りの達人かよ

PDF怪文書は長編になると割と多いよね

商店街95％セール中！

新シナリオはゴールインまでの過程を描く…

こいつらうまぴょい…するのに結構時間かかるタイプなんだ！

抱けーっ！ヤれーっ！

>PDF怪文書は長編になると割と多いよね
60ページ超の怪文書貼られた時は流石に驚いた記憶がある

>>PDF怪文書は長編になると割と多いよね
>60ページ超の怪文書貼られた時は流石に驚いた記憶がある
短編小説だこれ

>>>PDF怪文書は長編になると割と多いよね
>>60ページ超の怪文書貼られた時は流石に驚いた記憶がある
>短編小説だこれ
誰でそんな長編を…

>誰でそんな長編を…
別の作品の怪文書だから…まあ普段から怪文書大量に量産されてる作品なので

☆マーベラス☆

いいな…

ANSIで保存するといいよ

>ANSIで保存するといいよ
UTF-8でいけるかな〜でやってみたら駄目だったから参考にするよありがとう！
ついでに読んでくれてありがとうね皆さん！

PDF読みやすくていいよね…ありがたい…