視線の先には自身のキャラクターぬいぐるみがあった。以前二人で出かけた時にクレーンゲームで取ったものだ。店で売っていた時は彼女が落ち込む素振りを見せたので買うことをやめたがその後ゲームで取った時もなんだか浮かない顔をしていた。
「見える場所に置いておこうと思って。ほらやっぱり担当だし、応援してるって感じがあって良いだろう？後さ、冷蔵庫の横だとなんか本物みたいじゃないか？ハハハ……。」
「なんでだ……？ここは私とトレーナーの場所だ……。」
「え？」
「……トレーナー、少し聞きたいんだが。キミこのぬいぐるみを抱きかかえたりしていないか？」
明らかに彼女の雰囲気が変わった。
「そういう事はして無いけど……。」
「けど？」
「えっ……いやレースの作戦とか考える時に膝の上に乗せたりは。」
「どうしてそんな事を？」
食い気味に問い詰め迫って来る。
「な、何となく……手持ち無沙汰で……。お、怒ってる？」
「ああ、怒っている。もう一つ……ぬいぐるみをベッドに持ち込んでいないか？」
小学生でも無いしそんな事はしていない、していないのだが……。
「そこまではしてないが、何かそれに類する事はしたと言う顔をしているな。」

「ひ、ひ昼寝した時に腹の上に乗っけてうたた寝しただけだって！本当だ……。」
「何故だ？」
「ち、近くに置いてあったから、つい……。」
「ふうん……そうなんだな……。」
「でっでも……な、なんで分かるんだ？」
「匂いだ。背から足にかけてと後は腹部にキミの香りがべったりと付いている。」
ウマ娘の五感はヒトに比べて鋭敏であると言うことは知識として持っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。返す言葉が思い付かず呆然としていると彼女が切り出した。
「トレーナー、帰ろうと思ったが気が変わった。今から次のレースの作戦会議をしよう。」
「い、いや門限が……。俺だけなら良いけどオグリも怒られるから。」
「門限が一体なんなんだ？」
彼女は少し苛ついたような顔で携帯を取り出し慣れない手つきでゆっくりと番号をタップし、そっと受話口へ顔を近づけた。
「……もしもしフジ寮長か？……トレーナーと次走の事で意見が食い違っていてな……ああ、しっかり話をしておきたいんだ。直前で申し訳無いが外泊許可を貰えるだろうか？…………ありがとう。タマにも伝えてくれるのか？恩に着るよ。ああそれじゃお休み。」

「そんな……あっさりと……。」
「……実力が有れば信頼など後から付いて来る。私は強いそしてトレーナーであるキミは優秀。それだけの事だ。さて……早速作戦会議といこう。ほら膝の上に座らせてくれないか？」
「えっ！？」
「トレーナー。何となく、手持ち無沙汰。なんだろう？」
怒りの感情をあらわにするオグリに気圧され肯定するしか出来なかった。
「……右にヨレる癖があるから、このコーナーでは左に頭と体をむけて内ラチを意識して……」
「このぐらいか？」
彼女はこちらに向き直し体をこちらに寄せてくる。
「お、オグリ……あ、当たって……。」
「ああ気にしないでくれ。ぬいぐるみなんかと違って動いた方が分かりやすいだろう？」
鼓動や息遣いも感じる距離から更に距離を詰める彼女を制止する。
「い、一旦休憩でも取ろうか？……さっきのゼリーあるからさ。」
「そうだった……お腹が空いてるのをすっかり忘れていたな。」
怖かった……これで少しは怒りを収めてくれるだろう。それにしても『空腹を忘れる』なんて言葉を彼女から聞くとは……ぬいぐるみの件がそんなに気に入らなかったのだろうか……。

「じゃあ食べさせてくれないか？」
「俺が……？」
「他に誰かいるのか？」
……プラスチックスプーンでひと匙づつゼリーを食べていく姿は普段の彼女の食べ方から見ると異常そのものだった。
「ゆっくり食べると言うのも良い物なんだな……初めて知った。」
「その……味わうのもたまには良いんじゃないか？」
「ゆっくり過ぎても焦らされている様で性に合わない……我慢出来なくなってキミごと食べてしまうかも知れないな。」
「怖い事言うなぁ……ハハ……。」
掬ったゼリーを口に運ぶとスプーンを咥えたまま、柄を辿り、支えていた俺の指を口に含み吸いつくように指へキスをしてきた。
「な、何考えてんだ……？オグリ？」
「ああ……ぼうっとしていた。食べてしまう所だったよ。」
俺はようやく理解できた。彼女は完全に『掛かって』いたのだ。気付いたのが遅すぎた。
精神的に未熟な彼女らがレース以外で『掛かった』時の対処法もあるにはあるが、その前に気付き対処することが前提であり、一旦そうなってしまった場合はとにかく機嫌を損ねないよう注意を払い、体力切れを待って落ち着かせるしかないのだ。もし失敗して機嫌を損ねたら？……事故として記録に残るだけだ。

「眠いな……頭を使って随分と疲れたようだ……そろそろ眠るとしよう。」
「ベッド使っていいよ。俺は別の……」
「キミも一緒に寝るんだ。」
「いやぁ……狭くないかな？」
「構わないが？それともぬいぐるみとは寝れるのに私とはダメなのか？私もキミの近くに居るぞ？」
「ダメって訳じゃないけど……。」
「狭いのが嫌なら服を脱いでおくとしよう布の分だけ広くなる。」
「だ、ダメだオグリ、それだけは……。」
「どうしてだ？私が嫌いか？」
「嫌いとかじゃなくて……と、とにかく服は着てくれ……た、頼むよ。落ち着いて……。」
「トレーナー、キミの方こそ落ち着くべきだ。ただ私が疲れて近くにあったキミのベッドでついつい寝てしまうだけの事だ。安心してくれ。……二度とぬいぐるみなんかに盗られたりしない。この前本物が一番と言ってくれたキミの気持ちに応える。」
「わかった！わかったから今日は……ああ、ええっと……練習！練習だけにしておこうレースでも大一番に挑むのに何の準備も無くいきなりは出来ないだろう？だからさ……な？」
「別に練習無しでも出来ない事は無いが……まあいい。で、実戦はいつなんだ？逆算してスケジュールを組もう。」

「そ、そうだな……まだ考えてなかったなぁ。あ、明日考えるよ……。」
俺はここでも悪手を打ってしまった。ここで年単位でもなんでも引き伸ばしをかければ良かったのだ。「事故を起こさず済むならそれに越した事はない……。」それしか頭に浮かばなかったのだ。
「……そうか、わかった。では練習と行こう、ほら。私だって柔らかいんだ。」
彼女は腕を大きく広げて抱いてくれと言わんばかりのポーズで構える。
こうなったそもそもの原因はぬいぐるみに自分の立場を奪われたと言うオグリの勘違いからだ。誤解を解きかつ、安心させるにはもうこれしか……。
「……オグリ、聞いてくれ。」
「キミの言う事なら聞くぞ。」
「そうじゃないんだ。……君を愛している。こんな事しなくたって本物が一番に決まっているだろう。」
「トレーナー……！」
彼女の目に少し光が戻ったような気がした。
「トレーナー、もう一度抱きしめて言ってくれ。」
力いっぱい抱きしめて愛していると伝える。
「あぁ……もっと……。」
彼女が満足して眠りに着くまで繰り返し何度も愛していると伝えた。……嘘偽りの無いこのセリフはもっと先に取っておきたかったがそんな事は言っていられなかった。

……翌朝目覚めるといつの間にかベッドからオグリは抜け出していた。
「いない……落ち着いて元通りに……正気になってくれたかな。」
寝不足のボヤけた目で部屋をゆっくり見回すと彼女は下着のまま乱れた髪も直さず自分のぬいぐるみを持ち、向かい合って何かを言っていた。
「……ふふ、ぬいぐるみの私、キミは愛されるべきなんだろう。但しそれは私のトレーナーにでは無い。残念だろうが彼には私という本物がいるんだ。本物が一番と彼は言ったんだ……知らなかったのか？ならば教えてやろう。私は彼から愛していると言われたんだ。何度も何度も抱き締められながらな。彼から愛されるのは……彼の期待に応えれるのは私だけで良いんだ。彼に勝利を届ける役目は私の物だ……分かるか？……ふふっ……ふふふ……ふふふふ……なぁトレーナー、起きているんだろう？」
ゆらりとこちらに向きかける彼女を見て思わず目を閉じる。
「なんで寝たふりをするんだ？……トレーナー、昨日の件の答えをまだ聞いてなかったから私が代わりに考えておいた。福島に私がよく行く良い温泉があるんだ。夏合宿の前にしばらく期間が開くから二人で行こう。『練習』の成果が出るはずだ……ふふふ。」

ヤンデレオグリすき

正気どころか悪化させてしまった。震えを抑え、ゆっくりと目を開けて見た彼女の顔は笑顔であったが目の奥は一切笑っていなかった。
「今日は大事を取って休みにしよう……良いだろう？キミと一日一緒だ。いっぱいご飯を食べていっぱい『練習』しよう、楽しみだな……。」
……彼女のラスト1Fの差しから逃れる術などない。担当である俺が一番知っている。レース以外でもそれは一緒で捉えられた時点で俺の逃げなど彼女からすれば止まっているように見えたのだろう。願わくば彼女とは健全な関係を保っていたかったがもう後の祭りだ。彼女の事を理解し切れていなかった事、掛かる前に気付いてやれなかった事は悔やんでも悔やみきれない。

――事故事例より、事故に至るまでの経緯と担当トレーナーが書いたと思われる手記より抜粋し再構成。

オグリキャップ
体力最大値が上がった。
練習上手○を獲得した。
掛かり癖が付いてしまった。
食いしん坊のヒントLVが上がった。
束縛のヒントLVが上がった。

トレーナー
体力が0になった。
コンディション夜ふかし気味になった。
コンディション偏頭痛になった。
(出典:ウワーッ！ザップより)

何も悔やむことなんてなかったんだが？
◆

>(出典:ウワーッ！ザップより)
ひどいオチだ！

食いしん坊上がるならありがたいな…

掛かるって怖い事なんですねぇ

いい…

独占欲オグリ怪文書はお腹いっぱい寿司を食べた時くらい幸せになれる

キタハラ…

オグリが素直クールの良血なことを忘れている「」レーナーは多い

独占欲オグリは不思議と心が安らぐ

これぐらいオグリに愛されると幸せだろうな

オグリにもええ男が捕まったみたいでウチも鼻が高いわ…

ぬいぐるみの件だけやけに掛かってくるオグリ

少し掛かっているかもしれません！
どこかで心の整理ができればいいのですが！

私
性
合

オグリの怪文書は意外と少ないのでとても助かる

>オグリの怪文書は意外と少ないのでとても助かる
自分でやるしかないから困る…見落としもあるだろうけどクソボケ同郷シリーズは好き
もっとオグリの怪文書増えないかな…

なるほどこういうオグリもあるか…いいと思うとても

対話を放棄して全速力で逃げても余裕で捕まるから詰んでる

もっと日常的に細かなスキンシップをするべきでしたね

>対話を放棄して全速力で逃げても余裕で捕まるから詰んでる
シングレパイセンみたいに地面えぐれるようなダッシュで捕まりそう…

掛かるだけでこれなんですか‥‥？掛かりすぎってレベルじゃないでしょうか‥‥？

発情期だから仕方ない

膝の上でなでなでされて嬉しそうにしたりトレーナーの体に頭すりすりしてくるオグリはめちゃめちゃ可愛いと思う

トレーナーの弾道は上がらないんですか！

>「……実力が有れば信頼など後から付いて来る。私は強いそしてトレーナーであるキミは優秀。それだけの事だ。
かっこいいな…

そんなパワポケじゃないんだから

食いしん坊だからね
他のウマ娘よりたくさん食べるんだよね

私の性癖にはあっていますよ

ハイライトオフパイセンは強すぎる

ステが担当とのイベントで決まるトレーナー草野球編やるか…

バットスキル太り気味がつかない？大丈夫？

>バットスキル太り気味がつかない？大丈夫？
一緒にラーメン屋行けば治るから…

>>バットスキル太り気味がつかない？大丈夫？
>一緒にラーメン屋行けば治るから…
バットなスキルじゃないので消えません！されるんだ…

>バットスキル太り気味がつかない？大丈夫？
(お腹スリスリ)

20ターンは確定で練習もレースも出れないクソバステなはずなのにハッピーエンドに欠かせないらしいな

>>バットスキル太り気味がつかない？大丈夫？
>(お腹スリスリ)
オグリン！？

保健室…いや産婦人科か？